29 兄からの手紙
「エスト様……ゾフィーが手に持っているものは、何でしょう?」
「……? もしや、あれは──」
そのうちの一つを摘まんでパクリと口に入れたゾフィーを見て、エルンストがガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
「──やっぱりそうか! これはまずいぞ」
「ええ、どうしたの急に?」
珍しく動揺した様子のエルンストにクラウスが目を丸くする。
「あれは、魔力の塊だ」
「魔力の塊?」
「ああ」
自身の言葉をオウム返ししたクラウスに、エルンストが小さく頷いた。
「魔女は自分自身の体内に魔力を持っていないため、他の生命体から魔力、すなわち生命力を吸い取ることによって魔法を行使することができると言われている。……少し前から、大陸のあちこちで似たような事件が頻発しているだろう? 昨日まで健康そのものだった人間が、翌日に変わり果てた姿で発見されるという事件だ」
「ああ、あったね! 謎の変死事件。……もしかして、それが魔女の仕業だっていうわけ?」
「そのとおりだ。しかもここしばらくは、事件が起きていない」
「ということは、つい最近あの光の玉の元になる生命力を吸い取られた人物がいるということで…………、っ!」
事の重大さを認識したクラウスが、さっきのエルンストと同じように派手な音を立てて椅子から立ち上がった。
「え? え?」
アンジェラは慌ただしく使用人を呼びに行ったクラウスを目で追ったあと、立ったまま難しい顔で水晶玉を見ているエルンストに視線を移した。
「あの、私はどうすれば……?」
「君はここで私達が戻るまで水晶玉を見ていてくれないか? 遅くならないうちに家に帰れるよう、私達もできるだけ早く戻るつもりだ」
「はい、わかりました。ちゃんと見張って、何があったか書き留めておきます!」
「うん、頼んだよ」
にっこりと微笑んだエルンストの笑顔に、心臓が撃ち抜かれる。
(いつも笑わない人の笑顔って、破壊力半端ないわ……)
クラウスといいエルンストといい、魔導爵家の人ってどうして揃いも揃って心臓に悪い人ばかりなんだろう?
この場にそぐわないとは思いつつも、ついそんなことを考えてしまう。
水晶玉に映る部屋の中では、“魔女”ゾフィーが何個めかの光の玉を口の中に入れようとしていた。
*****
エリザベート達一行は、いくつかの自治国から成るラングル連邦の国境近くを北へ移動していた。あと数時間もすれば、ヴァルキニア帝国へ入る予定だ。
大陸で一番古く強大な国家、ヴァルキニア帝国。南から入国して最初にたどり着く街が、タシャソワだ。
夕方までにはタシャソワに着く目星がついたため、途中で馬車を止めて休憩に入ることになった。宿屋で持たせてもらったサンドイッチを食べていると、銀色の小さな鳥が飛んできてエリザベートの目の前でボウッと燃え上がった。
今ではすっかり慣れてしまって誰も驚かなくなったが、これはエルンストが手紙を魔力で鳥に変えて飛ばしているもの。どんなに離れていても受取人の元へ確実に届くような魔法がかけられていて、誰の魔力かによって鳥の色は異なる。
幌を上げた馬車の荷台に腰かけて手紙を読んでいたエリザベートが、読み始めてすぐに大きな声を上げた。
「ええっ、嘘でしょ……!?」
「……どうしたの、エリー?」
困惑したように自分を見るエリザベートが、可愛くて仕方ない。
(他の2人がいなければ、すぐにでもあの可愛い唇にキスできるのに……)
こんな時に不謹慎だとは思いつつそんなことをシュテファンが考えていると、エリザベートの口から衝撃の発言が飛び出した。
「ゾフィーが……実は、魔女だったんですって」
「…………は?」
たっぷり数拍の間をおいて、シュテファンはそう返すことしかできなかった。その後ろからハンスとゲオルグが顔を出してくる。
「あの女が魔女……なるほど、そういうことですか」
納得したように頷くゲオルグに、ハンスが嚙みついた。
「そういうことって、どういうことだよ?」
「ここ最近、謎の変死事件が相次いで起きていたことを覚えていますか?」
「ああ、この間話してたやつだろ? それがどうかしたのか?」
「教会の言っていた通り、魔女の仕業だったということですよ」
「……?」
首を傾げるハンスを置き去りに、ほかの三人で話が進んでいく。
「魔女って確か自分では魔力を持っていないのよね?」
「そうか。衰弱死した人達は、魔女に生命力を奪われたというわけか」
「そうですね。あの事件の話を聞いてから、なんとなく嫌な予感はしていたのですが……」
「でもどうやってゾフィーが魔女だと分かったんだい?」
「それはね──」
シュテファンの疑問に答えるべく、エリザベートがエルンストからの手紙の内容を説明する。ゾフィーが使う“癒しの力”のカラクリも解明され、すべてを聞き終えたシュテファンは大きく溜息をついた。
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