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19 世紀の大マジック

「本当に消えたぞ!」

「すげぇ!!」


 人々の歓声を聞きながら、エリザベートは体中の血の気が引いていくのを感じていた。


 とうとうフランツの追手に見つかってしまった。

 この箱は"魔女"であるエリザベートを捕獲するためのもの。おそらく魔力が無効になる加工が施されているのだろう。

 

(せっかくここまで逃げてきたのに、こんなところで捕まるなんて……)


 大道芸人に扮した魔術師を送り込んでくるなんて、フランツにしてはよく考えたものだ。単純で分かりやすい性格だとばかり思っていたが、向こうも少しは成長しているということか。


 それにしても、さっきの魔法はどのような魔術式を組んであるのだろう?

 基本的に空間移動魔法は、入口と出口となる場所に対になる魔術式を組み込んでおかないと正しく発動しない。

 エリザベートの立っていた場所に、移動陣は存在しなかった。ということは、エリザベートが身につけている物に反応して移動魔法が発動したことになる。


(まさか……このネックレス……!?)


 王城で投獄されそうになった日、フランツの護衛騎士であるリヒャルトはエリザベートにこう告げた。エルンストからもらったネックレスを身につけておくように、と。


 いくら兄の友人だと言っても、やはり所詮は王太子側の人間だったということか。

 あの日わざわざ会いに来てまで危険を知らせてくれたのだと思っていたのに、実際はその反対だったのだ。あの時の感謝の気持ちを返してほしい。


 まんまとフランツの術中にはまったことが悔しくて、エリザベートは狭い箱の中でグッと唇を噛んだ。


 しかしその一方で、箱に移動する前に男が髪と目の色を変えたことにエリザベートは引っかかりを覚えていた。筆頭魔導爵家の者として、アーベル王国の魔術師界ではそれなりに顔が効く身だ。フランツ側の手勢を考えてみても、それほどの手練れとなると思い浮かばない。


(私の【変化(メタモルフォーゼ)】を上書きできるような魔術師なんていたかしら?)


 五大魔導爵家の主だった面々を一人ずつ思い浮かべてみる。自分の知る限りそんな人物はいなかったはずだが、国外から誰かを連れてきた可能性もある。


(そういえば、可能性のある人をもう一人忘れていたわ)


 自称"聖女"の魔力が常人レベルを超えていることは、この目で確認済みである。この大道芸人はどう見ても男にしか見えないが、あの女なら性別ぐらい変えることもできるのでは……?


 とめどなく思考が回り始めたところで、エリザベートはハッと我に返った。そんなことより、先ずはこの場をどうやって切り抜けるか考えなければ。

 このままでは、自分達を逃がすために時間稼ぎをしてくれている父や兄に顔向けできない。


 それに何より、ずっと追いかけてきたジュール・ポワティエにまだ会えていない。


(このままジュール様にも会えず、ガザリンドの地を踏むこともなく、アーベル国へ送り返されるなんて……)


 エリザベートが捕まっている以上、シュテファンは下手に動くことはないだろう。もし最悪このまま自分がアーベル国に連行されたとしても、助け出すなどと考えずに逃げ延びてくれると信じたい。他の2人もいるし、なんといってもシュテファンは王子だ。

 彼が言うように国王が2人の王子を試しているのだとしたら、この状況もそのうちの一つなのかもしれない。


 父の手紙では、エリザベート自身が陛下の前で魔女でないことを証明できなければ、そのまま魔女認定されてしまうのだという。

 自ら参上するのではなくフランツの手勢によって連行されるというパターンはできれば避けたかったが、全員が一度に捕まるよりはマシだろう。


(シュテファン……どうか、私を置いて二人と合流して……!)


 祈るような気持ちで目を閉じたエリザベートの耳に、ガチャリという扉を開ける音が聞こえた。さらに一拍おいて、割れんばかりの拍手と大歓声が飛び込んできた。


(……え? 明るい……?)


 閉じた瞼越しに光を感じて恐る恐る目を開けると、広場に集まった人々がこちらを見て大声を上げながら拍手をしたり拳を突き上げたりしている。


(……なに? どういうこと……?フランツの罠とかじゃなくて、本当にただのマジックだったの?)


「……お手をどうぞ」

「…………」


 箱の外から差し出された手。事態が飲み込めず箱の中で呆然と佇むエリザベートを見て、大道芸人の男がにっこり笑いながら肩をすくめた。


「僕のマジックに驚いて声も出ないみたいだね。……それでは皆さん! 世紀の大マジックに協力してくれた美女に、もう一度盛大な拍手を!!」


 再び大きく沸く観衆を見て、ようやくエリザベートは目の前の光景が現実のものなのだと理解した。


「皆さん、ご観覧ありがとうございました! お代はこちらによろしくねー!」


 大道芸用なのかやたらと大きい帽子を逆さに持って男が人々の間を練り歩くと、あっという間に帽子がお金で埋まった。中にはお札を入れていく人もいて、かなりの大盛況と言える。


「リジー!!」


 帰り始めた人々の間を縫ってこちらへと駆け寄ってきたシュテファンが見えたので、エリザベートは箱から出ることにした。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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