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18 謎の大道芸人

お待たせしました。

新章開始です。

 エリザベートの希望により、次の目的地に決定したヴァルキニア帝国ガザリンド。キリクの街を出てからラングル連邦を北西方向へと移動していた一行は、ヴァルキニア帝国とラングル連邦との国境に程近い街トラージャに立ち寄っていた。

 街の外れにある冒険者向けの宿へ向かっていたエリザベートとシュテファンは、広場に人だかりができているところに出くわした。ちなみに、何かあった時のために残りの2人とは別行動である。

 時折わあっと大きな歓声が上がっているところをみるに、誰かが大道芸でもやっているのだろう。


「……リジー? どうしたの?」

「え? ……ううん、なんでもないわ」


 自然と立ち止まってしまっていたエリザベートは、数歩先で振り返ったシュテファンに偽名を呼ばれすぐに駆け寄った。


「何があるか気になる? 少しだけなら見て行ってもいいよ」

「気になるといえば気になるけど……やっぱりやめておくわ」

「いいの? 目立たないように後ろの方から眺めるだけなら別に構わないよ」

「大丈夫よ。ありがとう」


(正直言うとちょっと見てみたいような気もするけど、何処で誰に見られているか分からないもの。なるべく人の目に触れる機会は増やしたくないし)


 人々が背を向けている間に通り抜けてしまおうと、早足で広場の端を歩く。あと少しで広場を抜けられると思ったその時、人だかりの向こう側から陽気な男の声が響いた。


「よっ、そこのキレイなお姉さん! ひょっとして、誰も見ていないと思ってこっそり通り抜けようとしてる? ざーんねん! 俺の目は誤魔化せないよ!」


 男の声は、まるですぐ耳元で話しているのかと思われるほどに、はっきりとエリザベートの耳に届いた。男のいるであろう場所から考えて、よほどの風魔法の使い手でないとそんなことはできない。


 男の発言を受けて、それまで広場の真ん中しか見ていなかった人々が、いっせいにキョロキョロと周りを見回し始める。


「……っ」

「大丈夫だよ……僕はここにいるから」


 急に人の目に晒されたせいで立ち竦んでしまったエリザベートの肩を、シュテファンが力強く抱き寄せた。


「そう君だよ、君! かの聖女様と同じ、幸運の色を持つ君のことさ!」

「……え?」


(聖女と同じ、色…………っ!!?)


 咄嗟に自分の顔の横にある毛先を見たエリザベートが、大きく息を呑んだ。


「……っ、どうして………」


 呆然と呟いたシュテファンの声が僅かに震えている。信じられないような顔で見つめてくる様子から察するに、きっと瞳の色も黒くなっているのだろう。

 

(さっきまで茶色だったはずなのに、一体誰がこんなことを……?)


 心当たりなら、1人だけいる。

 ほぼ完璧とも言えるエリザベートの【変化(メタモルフォーゼ)】を上書きできるほどの、上級魔法の使い手。


(……あの人、ただの大道芸人なんかじゃない)


 前世では慣れ親しんでいたはずの黒い髪も、今の人生ではゾフィー・リンブレッドを体現しているように見えて、何だか居心地が悪い。

 理由も分からず勝手に外見を変えられたことに対する非難の意味も込めて、エリザベートは大道芸人の男をキッと強く睨んだ。そんなエリザベートを見て、男が愉しげに笑う。


「お集まりの皆さん! これからお目にかけますのは、人呼んで"世紀の大移動マジック"!! この空の箱の中に、離れた場所から一瞬で()()()()が移動して参ります! そしてこのマジックで移動してくるのは………なんと! そちらの黒髪の美女だ!!」

「おおーっ!」

「いいぞ!」


 エリザベートの方を見ながら、観衆がやんややんやと囃し立てる。


「美しい方、貴女のお名前を伺っても?」

「いえ、あの……」

「……なるほど。名乗りたくない事情がおありのようだ。それでは、私の一存で"ユリーカ"とお呼びしよう」

「ユリーカ……」


 国によってはエウレカとも呼ばれるその名前を、何処かで聞いたことがあるような気がするのだが、いつ何処で聞いたのか思い出せない。


「どうするの、リジー? もしかして本当にあの怪しげなマジックとやらに参加する気じゃないよね?」

「まさか。適当に理由をつけて逃げるわ」


 小声で尋ねてきたシュテファンに早口で答えると、エリザベートは大道芸人の男に向かって声を張り上げた。


「悪いけど、他の人に頼んでもらえません? 急いでいるので」

「おやおや、つれないなぁ。彼氏とのデートを邪魔されて怒っているのかな?」

「いえ、別にそういうわけでは……」

「心配しなくてもすぐに終わるから大丈夫! せっかくだし、これも何かの縁だと思ってぜひ参加していってよ」

「いいえ、結構です。……行きましょ、エヴァン」


(なんかやけにしつこいし、面倒ごとの予感しかない)


 何の目的があるのか知らないが、こんなところで上級魔法の使い手との絡みなんてノーサンキューだ。

 隣のシュテファンを促して早足で立ち去ろうと踵を返したエリザベートは、突如として自身の周りに現れた濃い魔力の気配にギョッとした。


「ちょっと、困ります! 急いでるって───」

「エリー!!」


 偽名を使うことも忘れて思わず本名を口走ったシュテファンの声が遠くなる。瞬きをするよりも短い間に、エリザベートは真っ暗い空間へと移動していた。


「………ユリーカ(見つけた)


 暗く狭い箱の中に、囁くような男の声が響いた。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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