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タブレットに書いたのを凛が読み、携帯電話はスピーカーにした。長電話も悪いから単刀直入に、退院したいんだと書いた。
「退院したいんだ」
『待てよ、今、俺、忙しいんだよ』
「関係あんの?」
『来週にしようや。な?』
「合コン? 庶務課? 経理課?」
『結の退院祝いをしてやるんだよ』
日付が決まっているからそこに合わせたいのか。
「飽きた、仕事したい」
『リハビリしてろ、大人しく』
「人工声帯、買ってくれよ、十万くらいするやつ」
『ちょっと待てって。もっといいのがあるから。まだ試験済んでないけど』
「わかった、それくれ。試験してやる」
スピーカーの向こうが騒がしくなった。
「どこにいんの? 何語?」
『アラビア語だ。頭ん中、こんがらかってるよ、通訳使えねえし。クビにしてやった。したら、大変だな、やっぱ』
「なんだ、央、結衣子よりバカなんだな」
『なんだそれ。結だって無理じゃねえの? ああ、貿易会社だったな、アラビア語出来んの?』
「英語、ドイツ語、ロシア語、中国語、アラビア語」
日本語いれたら六カ国じゃないか。
『マジで連れて歩きたい。マジで通訳使えねえし』
「バカじゃないの」
結衣子がラウンジからこちらを発見した。凛は何も言わないで電話を切り、タブレットのメモを削除した。
「今日は暖かいね」
頷いて椅子を勧める。
「ああ、お腹すいた。はい、凛くんもどうぞ」
三つの唐揚げ弁当とお茶、ロールケーキが並ぶ。
『ありがと』
「いただきます」
「はい、どうぞ」
懐かしい味に顔が綻ぶ。高校時代、夏休みなんかの長期休みには大変お世話になった店だ。
『今度、凛の陶芸、見学させてくれるって』
「わあ、行きたい」
凛は少しだけ照れた顔をした。小さい声で、いいよと言った。結衣子は目をキラキラさせて凛にいろいろ質問をしていく。タブレットにメールの着信。央からだ。
『今、お前の仕事を探している。本庁の知り合いが、いいのを探してくれた。あそこならお前、やっていけるんじゃないかな。今更、事務員とか嫌だろ? やっぱ刑事がいいだろ。内輪で話を固めてから動くから、それまで入院してろ。それから、結衣子ちゃんをマジで連れていきたい。本当に困っている』
入院費もリハビリ代も央が出している。それを言わない辺りも央らしい。返信する。
『刑事は無理だろ。別に何でもいいんだ。経理課でも庶務課でも。定時に帰れるしな。あと、結衣子のことだけど、環那が食いついてきた。具合悪いのかも』
『環那に聞いてみる』
「結くん、顔、怖くなってるよ」
何でもないと笑うと結衣子はふふふと笑った。
昨日のような雰囲気は感じられない。




