5話
最初は、ただのからかいだと思っていた⋯
「お前、足遅くね?」
そんな一言から始まった。
自分に向けられる笑い声。
それが、日に日に増えていった。
どこにいても、笑い声が聞こえてくる。
それでも、笑われるだけならまだ良かったのに⋯
「ウザい」「キモい」
日々向けられる笑い声と言葉。
まだ耐えられる⋯
落書きされた机や教科書。
破られたノートや体操着。
靴に入れられた画鋲。
大丈夫、まだ耐えられる⋯
「早く死ねよ」「まだ生きてんの?」
笑い声と心無い言葉。
自分の中で何かが壊れた⋯
もう、限界だった⋯
翌日から、学校に行けなくなった。
外にも出られなくなった。
一日中布団に潜り込む。
笑うことも、声を出すこともない。
僕の心は、殺された⋯
「おはよう。今夜、時間ある?」
「おう、おはよう!お前から誘うなんて珍しいな?」
「お前だけに聞かせたい話があって⋯」
「俺だけに?何だよ、気になるじゃん!」
「ここじゃ話しにくいから⋯詳しい時間と場所は、後でメールする。」
「わかった!じゃあ、また後でな!」
仕事終わり、僕は同僚を路地裏に呼び出した。
「お待たせ!で、話って何だよ?」
「⋯お前、恨まれるような事してないって⋯言ってたよね?」
「ああ、言ったけど⋯それがどうした?」
「⋯本当か?」
「何が言いたいんだよ?」
「⋯わからないんだな⋯」
「わからないって、何が⋯」
「お前が俺にしたことだよ⋯」
「は!?俺がお前に何したって?っていうか⋯お前、いつもと雰囲気違わねぇ?」
「⋯お前のせいだろ⋯」
「俺のせい?⋯お前、さっきから何言って⋯」
「学生時代、同じクラスに不登校になったやつ⋯いなかったか?」
「⋯それが何だよ?不登校なんて、珍しくないだろ?」
「不登校の原因は?」
「⋯そんなの、知らねぇよ⋯」
「お前が⋯イジメたからだろ?」
「は!?イジメ!?俺が!?」
「⋯足が遅いって、笑っただろ?」
「そんなの⋯イジメじゃねぇだろ?単なる軽口じゃん」
「お前にとっては、軽口だったんだろうな⋯でも、それで周りが笑い出した⋯」
「⋯そんなの、周りのやつらが悪いんだろ!?」
「本当に、そうか?悪くないと?」
「悪くないだろ!?」
「じゃあ、何で止めなかった?自分の軽口がキッカケで、イジメが激しくなったのに⋯」
「っ⋯!⋯それは⋯」
「理由なんて、どうでもいい⋯お前の軽口がキッカケだった⋯それが事実だ」
「っ⋯お前、まさか⋯?」
「⋯やっと気付いたのか?」
「でも、あいつは⋯人付き合いが下手で⋯」
「あの時、俺は死んだんだよ⋯お前に、殺された。」
「は!?殺した!?イジメただけだろ!?」
「⋯そうだ、お前にとっては⋯それだけだ⋯でも、俺にとっては⋯」
静かに、隠していた鎌を手に取る。
「っ⋯!?な、何だよ⋯それ⋯」
「⋯お前で最後だ⋯」
「⋯最後?まさか⋯!」
何も言わず、鎌を振り上げた。
静まり返った路地裏⋯
「⋯終わった」
俺は、その場に崩れ落ちる。
ただ、普通に暮らしたいだけだった⋯
なのに⋯どうして⋯
普通じゃなくなったんだろう⋯
今では、どうでもいいことだ。
次は、普通に生きられたらいい⋯




