1話
「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯」
薄暗い路地。
急くような足音が止まる。
そして、壁に背中を預け⋯
弱々しく、首を振る。
「⋯お願い⋯助けて⋯」
震える声が小さく響く。
ゆっくりと近付く足音が止まり、次の瞬間⋯
路地裏が、一瞬で血の海と化した。
そして、ゆっくりと去ってゆく足音。
何事もなかったかのように、静かに闇へと消えた。
その場には、動かない影だけが残った⋯
会社に向かっていると、同僚が声を掛けてきた。
「おはよう!今朝のニュース見た?」
「おはよう。ニュースって何の?」
僕はにこやかに挨拶を返した。
「何のって、この辺りで起きてる連続殺人だよ。昨夜も被害者が出たって⋯怖いよな〜」
「⋯そうなんだ⋯怖いね⋯」
一瞬反応に困ったが、すぐに平静を装う。
同僚はそんな僕を気にしていないように、話を続けた。
「これで3件目だろ?目撃者も証拠も見当たらないって⋯おかしいと思わないか?」
「⋯まぁ、目撃者は居ないにしても⋯何か証拠くらい見つかりそうだよね⋯」
僕の返事に、同僚は大きく頷いた。
だけど、それ以上事件の話をするつもりはないらしい。
僕は、内心で小さく息を吐いた。
正直、あまり気分のいい話ではない。
朝くらいは、もう少し穏やかに過ごしたい。
同僚と何気ない会話をしながら、空を見上げる。
いつもと変わらない朝だった。




