第二話 初仕事は手を繋いで え?これ、本当に仕事なんですか?
気づけば、魔王とふたりで城下の通りを歩いていた。
今朝、王城に呼び出され、「魔王の視察に同行せよ」と言われ、仕方なく来たはいいが——
二人きりだなんて、聞いてませんけど!?
「良い天気だな! 絶好のデート日和だ!」
「はい? 視察ですよね?」
「細かいことは気にするな! おっ、あの店、串焼きを売ってるようだぞ。行ってみよう!」
手をぐいっと引っ張られ、気づけば露店の前。
……いや、ちょっと。腕、掴む力強すぎるんですけど!?
「はい、あ〜ん♡」
「いえ、自分で食べられますから」
「余が食べさせたいのに……」
肩を落としてしょんぼりする魔王。
「え、そんなガッカリしなくても……わ、分かりましたよ……」
「本当か? はい、あ〜ん♡(チョロいな……)」
今、何か聞こえたような……。
「どうだ? うまいか?」
「はい! 美味しいです!」
「ぐはっ……。笑顔が……笑顔が眩しすぎる……!」
鳩: クル〜(鳩2号:俺も後で買ってもらおう)
***
露店を抜け、一本脇道に入ると、魔王が足を止めてショーウィンドウを覗き込んだ。
「これはどういう店なんだ?」
「ここは宝飾品を扱っている店ですね。指輪やネックレスなど、着飾るためのものを売っています」
「着飾る? これに魔力などはあるのか?」
「ありませんよ? 自分のために買う人もいますけど、大切な人に贈ることも多いですね」
「大切な人……か。よし、入るぞ!」
「え? ちょっと待って!」
カランカラン♪
「ここにあるもの全部貰おうか!」
……出た。
そう、出たよ。こういうところ、ほんとに躊躇がない。
「そんなに贈る相手がいるんですか?」
「決まっている。お前だ。」
「え? 貰うの俺ですか!? しかも全部って!」
「お前以外の誰に贈るというんだ」
「は!? ちょっ……待って! せめて一つで!」
「余が選んでいいか?」
「それは……殿下が買うのですから」
そんな仔犬のような目で見られたら……
ますます断りづらいじゃないか……はぁ〜……。
「そうか!(本当にチョロいな、こいつは)」
鳩: クル〜(鳩2号:結局もらうんかい)
***
右手には、少し緑がかったブルーの紙袋に、光沢のある白色のリボンが上品に結ばれた紙袋。
結局、宝飾品を一つ選ぶのに三時間もかかるなんて……。
店の人に申し訳なかったな。
で、店を出てからはなぜか、魔王と手を繋いだままなんだが……。
なぜこうなった。
「おい、あの目の前のかわいい店はカフェか?」
「え? ……そう、みたいですね」
「入るぞ」
「また唐突に!?」
カランカラン──
ドアを開けた瞬間、店内に明るい音楽が流れていた。
どこか聞き覚えのあるような、賑やかで妙にテンションの高い曲だ。
(……いや、なんでこんな曲が流れてるんだ?)
店員「いらっしゃいませ! 本日のおすすめは、季節限定のふわふわパンケーキです!」
「本当なのか?」
「いや、俺に聞かれても……! 俺、召喚されてまだ二日ですよ!? そんなの分かるはずないじゃないですか!」
「なら、一番派手なやつにしよう」
「いや、なんでそうなるんですか!」
──そして数分後。
「美味しかったな」
魔王が満面の笑みを浮かべる。
「まぁ……そうですね」
思わず目を逸らしたその瞬間、
そっと指先が触れた。
絡められた手を振り払うこともできず、
ただ、胸の奥がくすぐったくて視線を落とした。
鳩: クル〜(鳩2号:記録・魔王、ふわふわに敗北。勇者、魔王の笑顔に敗北)
──それにしてもこのBGM……。
誰がどういう意図で流してるんだ。
いや、間違いなく狙ってるだろ。
♬ BGM:「バレンタイン・キッス」/Tomita Shiori × Ladybeard
【あとがき:王妃の執務室にて】
魔王がやってくる。
「勇者がまったくデートしてくれないんだ」
王妃は優雅に紅茶を飲みながら一言。
「そんなもの、仕事にしてしまえばいいのですわ」
王「は!?」
王妃「魔王が人間界を視察したいと仰るのでしょう? 護衛として勇者を同行させれば問題ありませんわ」
王「……まぁ理屈は通ってるが」
王妃「その代わり、貸し一つですからね」
鳩:クル〜(鳩2号:記録:魔王、デートのために大きすぎる代償)
王(小声で)「そもそも魔王も勇者も男……」
王妃「まぁ、陛下。ご存じありませんの? 魔王に性別はないのですよ」
王「……え?」
王妃「陛下は何もご存じないのですわね」
次回予告
王妃「さて、陛下。賭けの準備はよろしくて?」
王「はぁ!? また何を始める気だ!」
鳩:クル〜(鳩2号:王、すでに負けフラグ)
──次回、『王と王妃は賭け事がお好き?』




