第24話『熱男はBBQがしたい』
第24話『熱男はBBQがしたい』
ある日の夕方、信吾のスマホがビビッと震えた。
画面を見ると、熱男からのメッセージだった。
【熱男】
「信吾、今度さ、ゴンちゃん連れてBBQやろうぜ! 最高に楽しいから、絶対来いよ!!」
信吾はため息交じりに返信を打つ。
「またかよ……でも、これ以上は断れないよなぁ」
ちょうどその時、リビングから美沙が声をかけてきた。
「何の話?」
「熱男がまたBBQやりたいってさ。ゴンちゃんも連れて来いって」
美沙は少し微笑みながら、
「じゃあ私も行くわよ。お姉ちゃんとして同行しないとね」
信吾は頷いた。
「助かるよ。ゴンちゃんの面倒、頼む」
美沙は腕を組み、口元に薄く笑みを浮かべて言った。
「任せて。あんた一人だと絶対ドタバタするでしょ」
信吾は肩をすくめ、小さく笑って返す。
「……否定できない」
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翌日、熱男が町の公共BBQ場の予約を取ってきた。
「俺に任せろ」と豪語していただけあって、人気の日曜にも関わらず見事に枠を確保。
ただ、熱男は「せっかくだからBBQ仲間も何人か呼びたい」と言い出したが、信吾は即座に却下した。
――ゴンちゃんの存在を知っている人は極力少ない方がいい。うっかり見られでもしたら騒ぎになる。
そのため、今回はごく少人数で行くことにした。
そんな中、熱男はメールで参加メンバーの名前を送りつけてきた。
「のん(野中香代)も誘ったぜ! 女子がいると場が明るくなるからな!」
「……本当に来るのか?」
「来るに決まってるだろ! 俺の顔にかけて!」
信吾は苦笑しつつも、熱男の自信満々な様子に少し安心した。
美沙も「のんちゃんなら大丈夫そうね」と頷いた。
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当日。
晴天の空の下、車で公共BBQ場へ向かう信吾、美沙、熱男、そして後部座席には赤荻さんが作ってくれた特製キャリーケースに入ったゴンちゃんがいた。
ケースには特別に開発された光を遮断するカバーがかけられ、中のゴンちゃんは外から全く見えない。
「これならバレないよな」と信吾が言うと、熱男がニヤリと笑った。
「大丈夫! このケース、特殊素材で熱もこもらないし、空気もちゃんと入る。ゴンちゃんにとっても快適だぜ!」
「別にお前が作ったわけじゃないだろ」
さも自分が開発者かのように言う熱男に、信吾が即突っ込み。
美沙は慎重にキャリーを抱き上げ、
「もし何かあったら、すぐに対応できるように私が近くにいるわ」
その表情は頼もしかった。
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BBQ場に着くと、すでにのんが到着していた。
彼女は明るい笑顔で挨拶をした。
「今日はよく来てくれたね、野中さん」信吾が声をかける。
「俺が誘ったんだから当たり前だろ」熱男が胸を張る。
のんは肩をすくめ、笑みを浮かべながら軽く手を振った。
「別に私は熱男のことはどうでもいいんだけど、ゴンちゃんに会いたかったから」
「どうでもいいってなんだよ!」
熱男が大げさに目を見開き、芝居がかった驚きの声を上げた。
そんな軽妙なやり取りに場が和み、空気が一気に柔らかくなった。
5人は指定された区画にテーブルや椅子をセットし、火おこしを始めた。
熱男は炭に火をつけながら、
「いやあ、BBQっていいよな。火を囲んで食べると何でも美味しくなる!」
その後も熱男はBBQ知識をグダグダ話し続けた。
「相変わらずBBQ知識ひけらかしてうるさいな」
信吾が半ば呆れつつ突っ込む。
信吾は火の扱いに気をつけながら、美沙に声をかけた。
「ゴンちゃんの食べ物は持ってきた?」
「もちろん!」美沙がバッグから特製のドラゴン用肉と野菜を取り出す。
「ゴンちゃんって雑食だろ? 別に俺たちと同じ食べ物でいいんじゃね?」熱男が口を挟む。
信吾は肉を網に置きながら、少し真面目な声色で言った。
「同じでも食べられるけど、塩分とかカロリーとかあるから、今回な別に用意してきたんだ」
熱男は手を止め、意外そうに眉を上げた。
「お前らもよく考えるんだな」
「ありがとう」
自然と会話は流れた。
「人目につかないように、こっそりあげましょうね」美沙がそう言い、全員うなずいた。
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ゴンちゃんは時折キャリーの中から顔を出し、周囲の匂いを興味深そうに嗅いでいた。
火が十分に燃え上がると、熱男が焼き網に肉や野菜を置き始める。
「ほら、ゴンちゃんにも匂いを嗅がせてあげてよ」
信吾はカバーを少しだけめくり、香りが届くようにする。
ゴンちゃんは鼻をヒクヒクさせ、口元からほんのり煙を漏らした。
「くしゃみしないでよ!」美沙が慌てて制止。
「この子、火が怖くないのかな? さすがドラゴンだな!」と熱男。
「かわいい〜」のんが目を細めた。
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近くのテーブルに人が来そうになった瞬間、美沙が機転を利かせた。
「みんな、静かに。ゴンちゃんを隠して」
熱男は慌ててカバーを閉じ、のんは笑いながら「ドラゴンって言ったらびっくりされちゃうもんね」。
「ここは田舎だから、ちょっとした怪異は許容してもらえると思うなぁ」と熱男が言う。
「そんなわけあるか」信吾が即座に突っ込んだ。
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日が沈みかけ、空がオレンジ色に染まる。
四人は網の上で焼ける肉を見ながら談笑し、ゴンちゃんもケースの中で丸くなっていた。
「やっぱ外で食べると一味違うな!」熱男が満足げに言い、
「また来たいね」とのん、美沙も笑顔で頷く。
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夜になり、持参した花火で遊ぶことに。
信吾が火をつけると、熱男が子どものように目を輝かせる。
「これがBBQの最後の楽しみだな!」
のんと美沙も歓声を上げた。
周囲に人の気配がなくなったのを確認し、信吾は「少しだけなら」とゴンちゃんをキャリーから出してやる。
小さな体が外気に触れ、尻尾がふわりと揺れた。
花火の光がゴンちゃんの瞳に映り込み、その表情はまるで「また来たい」と言っているようだった。
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のんと別れ、帰りの車内。
後部座席の熱男は満腹と満足でうとうとしている。
信吾は助手席から後ろのキャリーを見やり、
「ゴンちゃん、今日は疲れたよな。よく頑張ったよ」
美沙は運転しながら、
「また近いうちに、こういう時間を作ろうね」
と柔らかく微笑んだ。
ゴンちゃんは静かに寝息を立て、安心しきった様子だった。
信吾はそんな姿を見て、胸が少し熱くなった。
「これが、ぼくたちの家族なんだな」
車は夜の街を静かに走り続けた。




