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入学前、魔王なりきり甲冑セット完成!

『ボイスチェンジャーを使っているときのセリフです。』『』


「「「大勢のセリフが重なったているときのカッコです。」」」「「「」」」


3月くらいのお話です!



 15年目の3月。この国の3月はまだまだ寒い。


「おぉ、強そうでえぇやん。」


 ララさんはそう言って笑ってくれたけど……


 俺は、複雑だった。



 今俺は、ララさんデザインの元作った


 “魔王なりきり甲冑セット”を身に着けている。


 俺が魔力を込めた粘土で作ったから、大きさは自由自在だ。


 ストラップくらいのサイズにしておけば、いつでもカバンやポケットに忍ばせて持ち運べるし、魔力を込めるだけで、好きな時に大きくしてから装着できる。


 かなりいい出来だ。


 ……………………けど。


 魔王の甲冑なので、2メートルに見える様に作った。


 見える様に…………


 つまり、中はかなりの厚底だ。


 あの、缶詰に紐を通して子どもたちが遊ぶ、カポカポした低い竹馬のように思ってくれていい。


 紐もないし、音も鳴らないけど、気分はそれだ。


『デザインは……………かっこいいよ。さすがララさん…。』


 声も、低くガサついた怖い感じのものに変換されるボイスチェンジャーを搭載させておいた。


 外見も、声も、絶対にライラだとは気づかれない。


 漆黒の、シンプルだけどかっこよさを詰め込んでくれた甲冑は、俺の一張羅だ。


 着てみて、ついにここまで来たんだなと感じる。


 身長の低さも、ひしひしと感じる。


 もう、ひしひしと。


「ちゃんと、ライラっち自身もかっこえぇよ。ほら、胸張って。」


『うん……。ありがとうララさん。』


 ここは、家の裏側にある小屋の前だ。


 ニケ以外にこの小屋すら知られてないから、人類の誰かが来ることはない。


 だからといって、青空の下しょげている魔王なんて、カッコ悪いから良くないとわかっていた。


 わかっていたのに、なかなか気持ちが切り替えられなかった。


「ライラっち。」


 優しく、しっかりとしたララさんの声に、下を向いていた顔が自然と上がっていく。


 ララさんは、笑っていた。


「ライラっち、魔王がわからんくなったら、魔王を演じればえぇんや。」


『………演じる?』


「おぉ。それ着とるときは、“ライラ”やない。ライラっちのなりたい理想の魔王になれる。」


(理想の、魔王。)


「言う事、やる事、全部セリフや演技や。嘘ですらない。」


『セリフ、演技…。』


 ララさんは、笑って頷いてくれる。


「ニケと、“勇者と魔王ごっこ”、本気でやればえぇよ。」


 甲冑を着ているのに、体が軽くなったような気がした。


 僕の中だけでなら、“ごっこ”でいい。


 考えたこともなかったから、目からウロコだった。


(ニケと、勇者と魔王ごっこ。)


 なんだか、俺でもちゃんとできる気がして、その場でそれっぽいポーズをとる。


『ふっふっふっ。勇者よ、俺を倒せるかな?』


「ええやん!それ魔王っぽいぞ!」


 ノリの良いララさんにおだてられ、俺は魔力で剣を作り出し、“それっぽく”光らせて振りかぶる。


 光ってるだけで、熱いとか強いとかない。


 ここには俺達しかいないのをいいことに、少し大きめの声を出して魔王になりきった。


『くらえ!勇者ぁーーー!』


 ニケはいないので、家長さんヘ攻撃するフリだ。


 かなりスローモーションで動いて斬りかかる。


 本気でやったって、ララさんならよけれるけど、なんだかこうしたほうがごっこっぽい気がした。


「うわぁ〜〜〜。」


 ララさんは、ちゃんと斬られる演技をしてくれる。


 知らなかったけど、すごいスローモーションが上手だった。


 我慢できずに吹き出して笑ってしまう。


『んっふふふふふ。』


「その野太い声で可愛らしく笑わんといてくれwww俺の腹筋が死ぬwwwwww。」


 それは大変だ。ぜひ、追い打ちをかけなければ。


 だって、俺は魔王なのだから。


『ララさぁん、今日はオヤツ、チーズケーキにするねぇ?』


「やめぇってぇwwwwww。」


 ララさんの笑いがおさまってから、動きを確認するために、このまま通常モーションで戦ってもらったり、甲冑になれるため、甲冑のままチーズケーキを作って焼いた。


 脱いでからも、大きくしたり、小さくしたりを完璧にできるよう何十回と繰り返し、一人で10秒以内に着れるかタイムアタックもしたりして、最終チェックを終える頃には3時になっていた。


 そろそろ、さっき焼いたチーズケーキがいい感じに冷えている頃だ。


 上着のポケットに、キーホルダーサイズにした甲冑を突っ込んで家へと向かう。


 すると、さっきまで誰もいなかったはずの玄関前に人がいる。


 ニケだ。


 連絡がなく来るのは珍しいなと思い、携帯通話機を見ると、10分前に“今から行く”というメッセージが来ていて慌てた。


「ごめんニケ!メッセージ今気がついてっ今日はそっちの小屋の方で作業しててっ。」


「コレ、貰い物だけど。」


 そう言って、ニケから渡された袋の中には、たくさんの野菜が入っていた。


 ニケは、たまにここでご飯を食べていってくれるから、後日食材を持ってきてくれる。


 気も使えるし、礼儀正しいし、中からかっこよさがにじみ出ている。


「ありがとニケ。さっそく今日は和え物を作るよ。新鮮だから、半分はサラダにしようかな。」


 ニケは野菜が得意ではないから、ちょっとしかめっ面になる。


 でも、生野菜でなければ頑張って食べれるし、残さないように努力するのでとってもえらいと思う。


 あ、今の“えらい”はもちろんすごいの意味だ。


「お礼にチーズケーキはどう?きっと食べごろだと思うんだ。」


「食う。」


 返事が0.1秒以内だった。むしろ、俺のセリフは最後まで言えてないくらいだったと思う。


 反射神経もすこぶるいい。さすがすぎる。


「小屋の前に家長さんもおるから、今日そっちで食べよ。まっとって。」


「イーラ、エセ方言出てる。」


「マジか!?」


 元々、母さんの方言と、ララさん達の方言が混ざっていた僕は訛まくっていた。


 魔族は方言というもの自体無いので、余計に憧れていたのかもしれない。


 この国へ来てから、ここの方言を話せるように頑張っているのだけど、なかなか難しい。


 どうしても、一緒にいるララさんの方言がでてしまうときがあるのだ。


 その都度、ニケは呆れないで教えてくれた。


「ありがとうニケ。気をつけるよ。」


 ニケがすぐ教え続けてくれたおかげで、今はだいぶララさんの方言は封印されているはずだ。


 方言の魔王…………身バレする。


 そんなバレ方いけない。


 気をつけなくては。


「イーラ。」


「なした?」


「ケーキ。」


「ごめん!すぐ持ってくる!」


 急いで家の中に入り、ケーキを切ってお皿に乗せた。


 ふと、あと何回ニケにケーキを食べてもらえるだろうという想いがよぎった。


(もし、学校でラブコメが始まるなら、これが最後かもしれない。)


 幼馴染“男”の手料理なんかお役御免だ。


 美少女の手料理に勝てるわけがない。


 最後なら、少しでも美味しいと思ってほしい。


 台所の奥にある扉を開ける。


 その扉の先の部屋には、この土地では珍しい果物や木の実が、保存されていたり、生えていたりしている。

 

 部屋の中に一つだけある机の上には、僕が、唯一母さんの形見として持ってきた“母さんのレシピブック”が置かれている。


 そのレシピブックには、レシピだけでなく、その料理に使った果物の種などがセロテープで貼ってあった。


 この部屋の壁にそのまま打ち付けてある、小さな簡易の机(ほぼ突き出た板)に置いてあるレシピブックは、もちろん世界が沈む事を予測していたわけではなく、母さんが少し変わった人だったから普通のレシピブックと違っただけだった。


 その、たまたま残った種達。それを、僕が育てた。


 レシピブックには、かなり若い頃の父さんとララさん達の写真が一枚と、デートか何かで行ったのだろう水族館のチケットも貼ってあったので、母さんにも可愛いところがあったんだなと読み返すたびに微笑ましかった。


 机のそばの、ルビーのように綺麗な小さくて赤い実を、食べる分だけ収穫して、その部屋を出る。


 実を軽く洗いながら、魔力を使って素早くホイップクリームを作り、ケーキのお皿に乗せた。


 ホイップクリームをうさぎに見立てて、目のように実を2つずつ乗せていく。


 ちょっとでも、ニケの美味しいが増えるといいなと思った。


 持って行く最中、生クリームは重力に負けて、全くうさぎに見えなくなってしまったけど、流石にニカの眼の前で魔力でなおすわけにはいかない。


 何も言わずに、配置のセンスゼロのお皿をニケたちが待っててくれたテーブルの上へおいた。


「おまたせ。」


「おー、今日も豪華やな。」


 ニケの前に置かれたケーキは、僕とララさんの倍以上。


 それこそ半ホール丸々おいてある。


 ララさんと僕は一切れで十分だ。


 それこそ、ララさんは甘い物をそこまで好まない。でも、いつも残さす食べてくれる。


 美味しいとも言ってくれるのは、母さんのレシピだからかもしれない。


 母さんは、甘さが控えめな物を好んでいた。


 ニケは、甘いものが大好きだ。


 今も、ケーキしか見てない。


 何歳になっても変わらない、ニケの可愛いところだ。


「「「いただきます。」」」


 3人でいただきますと言った直後、ニケが口いっぱいにケーキを頬張る。


 ほっぺがパンパンだ。


 顔がめちゃくちゃ小っさいのに、世界一かっこいいのに、こんなにも可愛くもなれる。


 これはもう無敵だ。


「いつも大喰い選手の食い方なんやって。誰も取らんから、ゆっくり食え。ゆっくり。」


「…。」


 毎回のこの二人のやり取りが愛おしくて、今日も我慢できずに笑ってしまう。


 いつもニケは、僕に幸せをくれる。


「いっぱい食べてね。」


 ニケは、何も言わずにちらりと僕を見て、またすぐケーキに集中した。


 ニケは、食べている時話したりしない。


 ニケの中に、ちゃんとやっちゃいけないことがある。


 それは、けが人やお年寄りを気遣ってあげるとか、人に向かって指を刺さないとか、困ってる人は助けるとか、“人として大切なこと”だ。


 ニケのご両親、それにお兄さんが、ニケに伝えてきた、ニケへの愛。


 まさに、ニケの身を美しくするものだ。


 15歳でこれを貫けるのは、本当にすごいことだと思う。


 恥ずかしいと思ってしまっておかしくない年頃だ。


 でも、自分が納得しているから、自分で貫いているニケは、やっぱりかっこいい。


 きっと、歳を重ねる毎に多くの人を虜にするほど立派な人になるだろう。


 きっと、恋なんてすぐ成就する。


 僕がその瞬間を見れないかもしれないのは、残念だけど


 妄想は得意なので、頭の中でその時を思い描いて祝福した。


 ケーキの味なんかさっぱりわかってない。


(どんな仲間に囲まれて、どんな綺麗な人と幸せになるんだろう。)


 その綺麗な人は、このクリームのような白いドレスで結婚式を挙げるのだろうか。


 絶対に綺麗だ。


 ニケのタキシードなんか、絶対にかっこいい事は確定している。かっこよすぎて、僕の乏しい想像力では妄想すらできなかった。


 幸せになってほしい。


 神などいないので、この願いはニケの食べているケーキにでも入ってくれないだろうか。


「イーラ。」


 ニケに呼ばれ、パッと幸せな妄想は消えた。


 本物のニケを見ても幸せな気分になる。


 どうなってんだ。なんで僕ばっかり幸せになるんだ。


「なぁに、ニケ。」


「何考えてんの?」


「え?ニケのことだけど。」


「ゴッフォッ!」


 思い切りララさんがむせ返る。


「ララさん!?」


 変な方に、コーヒーが入ってしまったようだ。


 ララさんがコーヒーを用意していたことにも気が付かなかったほど呑気な僕だけど、流石にむせまくってるララさんへの対応は迅速にできた。


 背中を叩いただけだけど。


 ニケも、テーブルを拭いたり、コーヒーを入れ直してあげたりしてくれた。


 あの、水分が気管支へ入ってしまう苦しみは僕だって嫌いだ。


 ララさんは、心配しなくていいとでも言うように、俺の方へ振り返り、頭をポンポンと撫でた。


 こんな時まで、僕のことはいいのにとも思うけど、ララさんはもうずっと前から優しさの塊なのでしょうがないのかもしれない。


「ゆっくり飲んでね。」


「ぉ゙ぅ゙…。」


「無理して喋んな。」


 ニケがそう言いながら、自分のハンカチを差し出す。


 汚したくなかったララさんがサンキュウと言いながらそっと拒んだので、ニケが無理やりララさんの口周りを拭いた。


 ワタワタとされるがままに拭かれているララさんも、ニケも、本当に優しい。


 ララさんが落ち着いてから、ニケのケーキがもう無くなっていることに気がついた。


 何も残ってないお皿を下げようとすると、手首を掴まれる。


「イーラ。」


 この顔は、“まだお腹空いてる。”の顔だ。


 “ライラ”は、ニケに何もいい思い出を残せないのだから、せめてお腹だけでも満たしてあげたい。


 ……けど、糖分的に大丈夫かな。


 人類って病気になりやすいし。


「…………イーラ。」


(最後かもしんねぇしなぁーーーーーっ。)


 そんなショボンみたいな顔と声をされて、断れる魔王ではない。でも、ニケの体も大事だろと戦ってくるライラもいる。


「一切れ………一切れね?」


 結局、ライラとしてなんとかコレで手をうってほしかった。


 でも、指でピースサインを作られる。


 ありがとうとかのじゃない。


 二切れご所望だ。


 流石に二切れだと、ほとんどワンホールだしなぁと思ってニケを見る。


 ニケのほうがずっっっと背が高いのに、ニケは座ってるし、僕が立ってるから、ニケのほうが小さくて…


 なんだかここでだめだと言うやつは、鬼畜以外ない気がしてきてしまう。


「……わかった。二切れで最後。これで最後ね?」


「やだ。」


「え!?」


 流石に3切れは駄目だと言おうとしたけど、言わせてもらえなかった。



「また、今度も作れ。」


(心、読めてないよね?)


 そんなの流石につむ。


 今日で、最後のつもりだったケーキ。


 まだ、運命のヒロインが現れてないからだろうか。


 それまでは、せめて、これくらい。


 催促するように、ニケが僕の手をプラプラと動かす。

 

「……どうせ俺は勇者に勝てないよ。」


「当たり前だろ。」


 やっと手は離され、片付けるためでなく、二切れ持ってくるためにニケのお皿を手に取る。


「いや、ライラっち…。勝つ気無いにしても程がある。」


 呆れているララさんの方は、あえて見なかった。


 もうしょうがないんだよララさん。


 だって、俺は魔王なんだ。


 どんなゲームだって、勇者は魔王に負けない。


 つまり、魔王は勇者に勝てないのだ。


 でも、今日のところは引き分けと言っていい………と言うことにしておいてくれ。


 “そのケーキ、また作るよ。”を、ギリギリ言わなかった僕を褒めて。


 守れないかもしれない約束は、できるだけしたくない。


 ニケは、ケーキ二切れもぺろっと食べてしまった。


 ちゃんと、手を合わせてごちそうさまを言ってくれたニケが、まっすぐ僕を見てきた。


「イーラ。」


 今度は、お腹空いてるではなさそうで、ひとまずホッとした。


「俺が、勇者だ。」


 その言葉に、僕がどれだけ幸福を感じるか、きっとニケには伝わらない。


「うん。ニケが勇者だ。」


 ニケの、そして世界の平和のため、やりきらないといけないことはいっぱいだ。


 でも、勇者がニケだから、俺はどんなことでもできる気がしてる。


 顔を見るだけでパワーをもらえる勇者。最強だ。


「ニケが、最強だ。できないことなんて、なにもないよ。」


「お前も頑張れよ。」


「うん! 頑張るよ、ニケ!」


 痛いのは嫌いだけど、きっとニケなら大丈夫。


「僕が、世界で一番、ニケを信じてる。」


 世界一の勇者が魔王を倒した平和な世界で、誰よりも幸せになってね。


 

ララ 37歳 性別(男性) 職業 魔王補佐官


好きなモノ (ライラ 仲間たちとの思い出 酒“禁酒中” 音楽 つまみ キョウの手料理)

嫌いなモノ (人類 力のない自分 運命 甘すぎる食べ物 グイグイ言い寄ってくる女性)


ライラの保護者であり、初代魔王の補佐官の唯一の生き残り。

母が人類で関西の方言がうつっている。

ツンデレ気味だったが、キョウが殺されたあとはいつ死んでも悔いが残らぬよう、ライラへの愛情表現を惜しまない性格に変わった。

勇者であるニケも憎むことができないほど、心根が優しく情に厚い人だが、ライラが魔王として殺されなければならない運命は本気で呪っている。

だが、死ぬまでライラの味方で居続けると誓っているので、ライラの作戦を否定する気も変更させる気もなく、ライラの満足のいくサポートをし続ける気でいる。

昔はビールを水のように飲むほど酒好きだったが、キョウが死んでからは一滴も飲んでいない。

涙もろい性格だが、悔し涙等はライラには絶対に見せないといった男気のある性格。

ケイ達を生涯の友だと思っているので、それ以降友を作っていない。

かなり美形なので男女問わずモテる。



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