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たまきの有意義な1日

この話も何年も書きたかった話ですが、納得いかず何度も書き直している話です。今回も納得はできてないので後々少しずつ訂正するかもしれません。

「ちょっとうんこ!!!!」


 小柄なその体の、どこからそんな声が出るのかと思わせる声量で、彼は“うんこ”と叫んだ。


 あろうことか、聖人達が来ているこの場で、全校生徒にしっかりと聞こえるほどはっきりと“うんこ”と叫んだのだ。


 聖人達の姿など見えない最後尾の俺達が聞こえたのだから、ほぼ全校生徒が聞こえていて間違いない。


 メンタルが強すぎる。


 俺の隣で、死ぬほど笑って転げ回っているまかみさん(サル)の笑い声以外の音が失われ、時が止まったかのように静まり返るグラウンドは、この人数でありえない連帯感だ。


「あーーーっ。笑った!!」


 転がり回っていたサル(マカミさん)は、身体中についた砂を払おうともせず立ち上がる。


 ちょうど、“うんこ”と叫んでいたライラ君が技術科の校舎へ入ったところがしっかり確認できていた。


 自称勇者の幼馴染達に無理矢理中央(晒し者のステージ)へ連れて行かれ、逃げ帰るための咄嗟に出た言い訳だった気もするが、一説で彼の父がこのサル(マカミ)に似ているとされているので、本当に“うんこしたかったから叫んだだけ説”も拭えない。


「たまさん!!ライラのこと追っかけてこよ!!」


「はぁ?」


 「ライラがうんこしとるとこからかいにいったろ!!!!!!」


「やめたれや!!」


 マカミさん(馬鹿)は、いつものように俺の制止など聞かず走っていく。止めるために走る俺の身にもなってほしい。


「くっそっ。なんで技科のお前がそんな速いんやサルがっ!!」


 面倒くさいし、マカミからサル、もしくは馬鹿に改名してほしいと切に願う。


 つくづくムカつくサルに、いつも以上に早く追いつく事が出来たのは、彼が珍しく技術科校舎の玄関で棒立ちしていたからだ。


 その目線の先には、今にも死にそうな顔でぐったりとうずくまるライラ君がいた。


「か、ちょさ?」


 ライラ君が、俺達を見て何かを喋る。だが、とてもじゃないけど意味を汲み取れないし、息を吸えているのか怪しいヒューヒューという音が、俺の中で緊急事態宣言を発令させた。


(これ、やばいやつや!)


 全身がゾッと冷える感覚がして、その感覚に飛び上がるみたいにライラ君のもとへ駆け寄った。


 俺とは真逆というか、驚いてはいるが不安も何も抱いていないマカミさんのスリッパの足音が近づく。


「どしたん、便秘?」


「あほっ、どう見てももっと重症やろ!!」


「いや、便秘を甘く見たらアカンって。」


「えぇからはよ一緒に運べや!!」


「どこに?」


「そんなんっ、」


 保健室にと言おうとした俺の袖をライラ君が掴む感覚がして、意識がそちらへむく。


「帰り、たい…。かちょさ、」


 ぐっと言葉に詰まる。


 自分と歳はあまり変わらないはずなのに、小さな子供が迷子になっているようなザワザワとした悲壮さだ。


 たきひこさん達が、彼をほっておけない気持ちがわかってしまう。


「たまさん、いつから課長になったん?わしもそこ雇ってほしいんやけども。」


 こんなライラ君を見ても、いつも通りなマカミさんに少しだけ安心を覚えてしまう。絶対に言ったりしないし、顔にも出してはやらないが…。


「何処にも就職なんかしてる暇あらへんやろ。はよ手伝えや。」


 もう一度しっかりとライラ君の様子を確認するが、その青白い顔はとてもじゃないが学校で休ませるだけでいい状態では無いように思える。


「でも、流石に家には運ぶ手段がな。」


「たまさん、弱っちいもんなぁ。わしが運んだる。」


 止めるまもなく、あろうことかマカミさんはライラ君を俵のように自身の肩へ担いだ。


「マカミさん、ライラ君の住所なんて知っとんの?」


「クラスのやつの住所なら、頭に入っとるよ。」


 なんでもないことのように言って、さっさと歩き出す。


 俺は本当に、こいつのたまに見せるかっこいいやつムーブが大嫌いだ。


「…せめて、もっとマシな運び方したれや。」


「えぇ?コレがいっちゃん楽なのにぃ?」


「アンタは、俺より強いんやろ?」


 俺のこの一言のせいで、ライラ君はお姫様抱っこされて家まで運ばれることになってしまった。


 聖人達を観戦する気が薄かった後ろの方の生徒たちは何人かに見られ、驚きのあまり目ン玉を転がり落としてもしょうがないほどの顔をして凝視されたので、この件に関してはホンマに申し訳ないことをしたと思う。


 



 本当にライラ君の家を覚えていたマカミさんが、玄関の前でドヤ顔を向けてくるが、もちろん見ていない事にして呼び鈴を鳴らす。


 他の民家とは離れた自然に囲まれる家に、明るい音が鳴る。


 昼間だし、誰も居ない場合はどうしようかと今更思ったりもしたが、すぐに中から「はぁい。」と男性の声が聞こえホッとした。


「ライラ君のクラスのものです。ライラ君が体調を崩されたので連れてきました。」


 ドアスコープで確認したのか怪しいほど早く、ガチャリと音を立てドアが開く。


 中から想像より若い男性がでてきた。


「そりゃ悪かったな。」


 俺達に謝りながらでてきた男性は、担がれているライラ君を見て驚き、彼の想像以上の事態だったことを表していた。


「ライラっち?」


 ライラ君を呼ぶ声は、その顔同様、心配と不安を隠すことのないものだ。


 すぐにでも引き取ろうとしていることが伸ばされた両腕からも伝わり、意外すぎるほど大人しいマカミさんがゆっくりと安全に引き渡そうとする。


「かちょうさ?」


 彼の声を聞いたからなのか、ぐったりと声も出すことなく運ばれていたライラ君が目を開け


「家長さんっ、ララさんっ、」


 さっきまで大人しかったのが嘘のように、急に彼に手を伸ばし落ちるように飛びつこうとした。


 あまりにも急だったので、思わずマカミさんでも落としそうになるが、男の人がすんでのところで受け取り、体制を崩し膝をついたがライラ君へのダメージはほとんど無いと思われる。その反射神経と筋力に素直に驚いてしまった。


 小柄だと言ったって、平均レベルの男を1人受け止めるのだ。急だったらなおさら、衝撃はあっただろう。


 ライラ君だってそんなこと理解しているはずだが、彼は本当に自分の身体のサイズもわからなくなっているのかもしれない。


 男の人に縋り付くように抱きついたライラ君は、見たこともないほど取り乱し始めた。


「あいっ、あいつがいたっ。せいじっ、んって呼ばれてっ、るっ、ニケがっ、ニケがっ、」


 ライラ君の呼吸は荒いままなのに、無理をして喋っているので苦しそうに噎せながら、それでも何かを訴え続けていた。


(聖人…?)


 男の人は、必死にライラ君の呼吸を落ち着けようと自分が落ち着いたふりをして、ライラ君の目を見て話しかける。


「ライラっち、落ち着いてくれ。な?全部俺が聞いたる。全部俺がどうにかするって約束する。俺はライラっちの味方や。」


 ライラ君は、泣いているわけではなかった。


 その目から、涙が出てはいなかった。


「母さんが庇ったっ、母さんのっ、母さんが僕よりっ、母さんが大事だったっあいつがっ、ニケもっ、」


 なのに、小さい子が泣きながら激情をぶつける時のような、感情と息継ぎがうまく噛み合っていない話し方だ。


 涙だけ奪われているのかと思えるほどの様子に、俺もマカミさんも何も言えなかった。


 そんな俺達が予想もしていなかった、パァンという高く大きな音が目の前から発せられる。


 男の人が、ライラ君の両頬を思い切り叩く勢いで捕まえた音だった。


 ライラ君は、驚いて呼吸も忘れているのでは無いかと思うほどの顔をしたまま固まっている。


 男の人は、そのまましっかりとライラ君の顔を自分の顔が見えるよう固定して、真剣に、ゆっくりと言い聞かせるように話し始めた。


「ライラっち、あいつが…、お前の母親が、お前より愛しとった子供なんかおらん。」


 ライラ君は、小さく「でも…」と言った。


 その「でも」が本当に悲しい響きで、こちらの胸を締め付ける。


 それでも、男の人は眉毛一つ動かさなかった。


 彼が、彼の言葉を覆す気がない表れだった。


「あの時は、確かにあっちを助けた。けど、それはライラっちがそばにおらんかったからや。ライラっちがその場におったら、あいつも、俺も、何を敵に回してでもライラっちを守ったに決まってる。」


 ゆっくりと両手をはなし、それでも固まったままのライラ君をゆっくりと撫でる彼の手の動きや声、向ける瞳全てに愛が満ちていた。


「今は、寝とき。大丈夫、俺は死ぬまでライラっちの味方や。」


「ララさん…ごめんなさい…。」


 ララさんと呼ばれた男の人は、ライラ君をしっかりと抱きしめる。瞳を閉じるライラ君の背中を赤子の寝かしつけのようにトントンと撫でる。


 ライラ君の閉じた瞳から、一粒だけポロッと涙が流れたのを、俺とマカミさんだけが見ていた。


「騒がしくして、すまんかったな。」


「い、いえ、別に。」


 急に話しかけられ、気まずいと思いながらもなんとか返事を返す。


「聖人とライラ、なんか関係あんの?」


「ちょっとマカミさん!?」


 俺と違い、飄々といつも通りのマカミさんが、気になるけど聞かないほうがいいと思っていた言葉を堂々と吐き出す。


(本気でやめてくれ。というか、流石に話してくれたりなんてせんやろ。)


 でもぶっちゃけ、俺も気にならないわけがなかった。そのせいか、サルを引っ張って帰るタイミングを逃す。


 ララさんは、眠ったライラ君を軽く抱き上げ、器用に玄関を足で開けようとする。俺は咄嗟に扉を開けるのを手伝うと、マカミさんまで同じタイミングで扉を支えるため手を伸ばしていたことが分かって少し驚いた。


 彼が、俺達の方を見る。


 その黒い眼差しは、俺やライラ君と同じものだ。


 なのに、奥底で何かが燃えているような熱を感じる気がした。


「ちょぉ、礼くらいさせてくれ。聞きたいこともあるやろうし、中入ってくつろいどってくれてえぇから。」


 まさか、彼から招き入れられると思っていなかった俺は、しっかり返事もできないまま、彼が家の中に入っていくのを見守る。


「わし、喉渇いたから冷コーでえぇよ。」


 俺と違い、ズカズカと実家以上に図々しく入っていくマカミさんと、そんな態度を起こりもしないで「おぅ。」と背中越しに軽く返事をする彼にため息が出た。


 もう、どうにでもなれという気がしてきている。


 きっと、俺も自身が思っている以上に疲れたのだ。


 なら、俺も一杯だけご馳走になろう。





 家の中に入ると、自宅と違う匂がする。


 俺は、他人の家の匂いが好きではないことが多いが、何故かこの家からは嫌悪感は無かった。


 ララさんは、人を1人抱えているとは思えない軽やかなスピードで2階へ上がっていく。


「あの人、わしらと同じ国出身やな。」


 初めてお邪魔している家だと思えないほどくつろぐマカミさんは、四人がけの大きめなテーブルの椅子に、全体重をかけてるレベルで脱力しもたれながら、ぼんやり階段を見ながら呟く。


 俺も、ララさんの方言だけでなく“冷コー”と言われて“冷えたコーヒー”だとすぐ伝わったことで、同じ事をほぼ確信していた。


 黒と茶と金は、国が47存在していた時の中心地出身を意味している。


 黒の俺、金の入っているマカミさん、茶色のたきひこさんは、たまたま“あの日”この国へ家族で旅行をしていて生き延びた。


 “たまたま”だと言わざるを終えないほど、一番多かった中心地の人々が生き残れなかった理由は、魔王が中心地から滅ぼして言ったからだ。


 特にあの日、魔王が戦争を開始すると宣言した日は中心地の中でも中央である国が一瞬で滅ぼされたらしい。


 らしいとしか言えないほど、状況が理解できる前に次々と国は沈んでいった。


 絶対に、人類は滅びると確信したほど圧倒的だった。


 人類に反撃どころか自衛の術すら残されていなかった。


 聖女のバリア以外。


 ララさん達も、この地へ運よく逃げのびた人達だとわかる。特に黒は色が不吉だと迫害一歩手前の扱いなので、苦労しただろう。


(ライラ君がここの国の方言しか話さへんのも、そこら辺のことが関係しとるんやろうな。)


 彼は、どうやら亡くなっているらしい両親のことをよく覚えている様子を学校で見せている。


 愛されているとより子供は親のクセや言い方を真似るのが自然で、きっと彼も両親の話し方を忘れていないはずだ。


 なのに彼は、ここの国の方言が無意識に出るほど体に染み付いている。


 俺も、日常では方言を出さないから気持ちはよく分かったが、それでも方言を変えることはしなかった。


 変えてしまったであろう彼は、息苦しくはないだろうか。たしか、一人称まで僕から俺に無理やりなおしたらしいし、彼の幼馴染はマカミさんとは真逆のタイプなので自分を見失ってしまうかもしれない。


 人は、目が前にしかついていない。


 自分を見つめ直すためには、他の目から情報が必要だ。


 その目が全て彼を否定するものであったら、彼が彼を否定するするのは自然なことである。


 育ての親であるらしいララさんは、本心からライラ君を愛しているから、彼は今まで立てていたのかもしれない。


 そんな彼が、あんなに取り乱すほどの理由があるはずだ。


 ララさんは思っていたより早く降りてきて、俺達によく冷えたコーヒーを出してくれた。


 牛乳は?と聞かれ二人とも断ると、砂糖の入った小さな小瓶とクッキーを持ってきてくれる。


 自分の分は用意することなく、彼は俺達の向かい側の席に座ると深々と頭を下げた。


 大人にこんな事をされたことなどなくて戸惑うが、やはり戸惑うのは俺だけだった。


「ライラっちをここまで連れてきてくれて、本当に感謝しとる。ありがとう。」


 彼の声は、あの時見た瞳と同じように熱を感じるものだった。


 ライラ君への確かな愛が灯っている声に、戸惑いを全て消すことはできなかったが、なんとか声を出せるだけの勇気のようなものをもらえた。


「いえっ、そんなこといいので頭を上げてください。」


「気になっとることがあんのやけど。」


 まずお前も頭を上げていいと言え!と心のなかで盛大に突っ込んだが、悲しきかなサルには聞こえるわけもない。


「課長なん?ララなん?家で役職で呼びあってんの?」


 そこでもない。そこでもないもおかしいが、本当にタイミングも何もかもこのサルは間違えている。


 だが、あまりにもサルがサルすぎて、驚いたようにララさんは顔を上げてくれた。


 その顔は、ぽかんと不思議そうな顔で、より若く見えてしまう。


「ライラは課長さん言うてたやろ?その後ララさんとも言うてたし、2人おるとかないもんな?」


 サルの主語も略略もない話をどうにか理解しようとしてくれたララさんは、俺が解説をいれる前に「あぁ、なるほどな。」と納得した顔になってから、眉毛を下げて笑った。


「俺の名前はララや。名乗るのも遅くなって悪かったな。」


 俺が何か言う前に、「謝ることやない。」とマカミさんが気遣うような言葉をかけるので、危うく目ん玉が飛び出るかと思ってしまう。だが、マカミさんは特に猫をかぶっているわけではなく自然体そのもので余計珍しいことだった。


 そんな事を彼が知るわけもなく、「おおきに」と素直に礼を言ってくれたあと、話を続けてくれた。


「課長やなくてな、家の長で家長って呼んでくれるように俺が頼んだんや。」


 それは、両親を愛するライラ君への愛だろう。


「俺が、この家の家長やからな。」


 俺と違い、自分から聞いといて興味なさそうにふーんとだけ言ったマカミさんは、いただいたクッキーを食べ始めた。


 それをボロボロこぼしながら、マカミさんは喋り始める。


「聖人とライラは、どんな関係なん?」


 タイミングはおいておいて、絶対ボロボロ食べながら聞くことではない。本当は机の下で蹴ってやりたかったが、ララさんの手前我慢した。


 俺が蹴らないから、マカミさんはサルのまま止まらない。


「魔物にも取り乱したことあらへんぞ?そんな奴が息もできへんほど拒絶する理由はあるやろ。」


 ララさんは、ぐっと苦しむような顔をしたあと一度下を向き、ゆっくりと吐き出すように、ため息と深呼吸を足したような呼吸をする。


 その時間は長くはなく、すぐに俺達に向き直ってくれるところに、彼の人としての性格がよくわかる気がした。


「状況を、詳しく教えてほしい。ホンマに聖人となんかあったんか?言い合いになったとか?」


 心配そうな彼に、わかりやすく説明しようとしたのも束の間、いつもはこういった説明を俺に丸投げするマカミさんが、まるで幼馴染にでも話すような気楽さで話し出した。


「言い合うもなんもなかったぞ?うんこ!!って全校生徒の前で叫んで走って行って倒れとったから、もしかしたら便秘かもしれへんし。」


「何があってん!?」


 余計に混乱を招いたことは確かであるし、やはり俺が状況をできるだけ正しく伝えた。さっきのツッコミの反射が完全に同郷のそれで、俺も気を抜いてしまったのか、初対面の大人にはありえないほど警戒心を解いていることを自覚していたから、自分のことなのに不思議な気分だった。


 だが、


「明日、絶対ライラのあだ名ウンコマンになってんで?」


 とクッキーをこぼしながら笑うマカミさんは、警戒心云々の前に礼儀がなっていないのでいつも通りしばく。


 警戒心も猫をかぶることもない俺のしばきは、ちゃんといつも通りサルを机にめり込ませることに成功した。この失礼なサルを心配するララさんに、ライラ君の人のよさの理由がわかってしまう。


 だが、そのあだ名《ウンコマン》は俺も危惧していた。


 もっと最悪なものだとすると、サルの姫とかになってしまっている。サルの愛人とかだったら、どんな手を使ってでもウンコマンに移行してあげたいほどだ。


 学生とは、バカの集まりである。


 バカはバカとぶつかり合うので、フラストレーションは日々たまり続け、それを発散させる方法をバカバカしいものしか思い浮かばない。


 どうせ矛先を変えることができないなら、できるだけ彼が傷つかないものがいい。


 マカミさんどころか俺を咎めることも無かったララさんは、「おかわりいるか?」と、いつの間にか俺の分も無くなっていたクッキーのおかわりをとりに席を立ってくれた。すぐ起き上がったマカミさんがいると返事をしてしまい、遠慮しそびれてしまう。


 どんだけクッキー食べんねん。


 クッキーどころか、コーヒーのおかわりを持ってきてくれたララさんが、自身の分もコーヒーを持ってきており、それを少し飲んでゆっくり語り始めた。


「ライラっちの母親は、聖人を守るために命を落としたようなもんなんや。」


 さっきの取り乱していたライラ君との会話で、なんとなくそのような可能性も考えていたが、やはり事実として話されると重いなと感じてしまう。


「父親も、母親のあとを追ってまってなぁ。」


 その言葉は、父親は殺されたわけではないということを示めしている気がして驚いた。


 間接的に、殺しているのと変わらわないが何故かモヤモヤとする。


「あいつは………、妻を愛しとったからなぁ。」


 そうどうしようもない奴を語るように呟いたララさんの言葉を聞いて、モヤモヤの正体がわかった。


 つまり、父親は幼いライラ君を育てる事を放棄したとも取れるからだ。


 ライラ君の話が正しければ、彼がまだ3歳の時の話である。


 母を殺されるだけでも、幼い子供にどれほどの恐怖だったか分かったものではないのに、それを守るべき父が妻恋しさにあとを追ったら………


 自身の存在価値を、見失わないわけがない。


 あの苦しそうにすがりつくライラ君が、3歳のライラ君の叫びである気がして、会ったこともない父親に怒りがこみ上げた。


「なんでオトンは死んだんや。息子を愛せへんかったん?」


 ララさんは、ゆるく首を横に振った。


 横だったことに、微かだがホッとした。まぁ、怒りが消えたわけではないし、愛していたならせめて息子が成人になるまできばれやと思うが。


 そんな俺の気持ちを理解してくれたのか………彼も同じ事を考えたことがあるのか、優しく笑って俺の分のクッキーを食べられないように俺の目の前に寄せてすすめてくれる。


「でもな、あいつは世界よりキョウ………妻を選ぶような奴やったんや。あいつがおらへん世界で生きてけへんと思うくらいが、逆にらしいまであるくらいで………………。」


 俺は、何も言えなかった。


 「なるほーなー。」と至極当たり前のように言うマカミさんの足を、とりあえず思い切り踏んでおく。


 ララさんが心配して声を掛ける前に、今度は俺が質問した。


「聖女の命を守るための騎士が、何人か存在していると聞いたことがあります。ライラ君のお母さんが、その一人だったと言うことですか?」


 俺はこれが答えだと思っていたが、予想外にも首は横に振られた。


「ライラっちの母親は………、聖女の実の姉なんや。」


「「えっ。」」

 

 流石に、信じられない話だった。


 そんな人物がいた事を、公表されないどころか全人類知らないなんておかしい。


 もし仮に神の愛し子でないとか、バリアと治癒の力がないなどあったとしても、それを隠して2人分聖女がいると公言したほうが国民の安心に繋がるし、聖女の姉が長男を出産しているのであれば、それも力の有無を隠すだけで神からの勝利の証として祀り上げたほうが人類サイドとして益しかない。


 でも、聖女は一人で息子は聖人ただ1人ということが全人類共通の常識になっているし、ここまでくるとそれを覆せないほどだ。


 なのに、立ち上がったララさんが俺達を手招きして招いたキッチンの奥の小さな隠し部屋には、何度もテレビや教科書で見た聖女と、親しげに写る女性のツーショットがあった。


 小さなテーブルのような物置のような空間の下にある引き出しに、その写真はとても状態よく保管されていた。


 その部屋自体も不思議な部屋で、部屋の中なのに植物が育ち色んな本やライラ君が幼い頃描いた絵なんかが無造作に貼ってある。


 まるで、ライラ君とララさん2人の秘密基地のような空間。


 そのテーブルの上に置かれている日記は、中身はレシピブックで、何度も何度も読んだあとがあった。


 手書きのそれは、普通のレシピブックと異なり、作った日付や、ライラ君と夫が食べた時の反応なども短く書いてあったり、使った野菜の種なんかがテープで貼ってあったりと、レシピブックと日記を混ぜたようなものだ。


 何度も何度も読み返した手の跡があるその本に、

 涙のあとはない。


 逆にそれが胸を締め付けた。


 ララさんが最後に見せてくれたのは、幼いライラ君と、そっくりな笑顔で笑う黒髪の男性に抱きしめられ、隣で困ったように歪だが確かに笑顔の母親と寄り添い3人で写る写真だ。


 その母親は、確実にライラ君の母だとわかる顔立ちと同じ場所のホクロをもっていたし、聖女と一緒に写っている人と同一人物で間違いなかった。


「この写真な、まだライラっちはこの引き出しから出せたことが無いんや。」


 その言葉に驚いたが、後からその気持ちもわかる気がした。


 幸せを知らぬままより、急に奪われる方がずっときつい。


 この写真からは、幸せしか伝わらないほどだった。


 ライラ君は、学校でも嘘一つつくことがないほどだと言われているが、本当に嘘なんかついていないのだ。


 彼の幸せは、この幼いライラが持っている。そのままこの引き出しの中で、何年も封印されたように眠っているのだ。


 聖女とお母さん…キョウさんも、タイプは全く違うし、一見共通点は色だけに思えるほどだが、並ぶと目元がよく似ていた。


 今思えば、聖人とライラ君の目元も似ている気がしてしまう。


「姉妹仲よかったよ。妹………妹の子供が死にそうになったら、自分の身を盾にして守るほど。」


 そういうララさんの声は震えている気がしたが、次話した時はその震えなど気のせいだと思わせるほどしっかりしたものに戻っていた。


「聖人は守られた時の記憶はあらへんし、守られた事実も知らんかもしれん。」


「なんでライラのオカンは消されてんの?」


「マカミさんっ。」

 

 “存在を”という意味だとわかったが、あまりにも言葉がひどく反射的に咎める。でも、ララさんは怒ることはなく、少し優しささえ感じる穏やかな顔で俺達を見た。


「ここは冷えるやろ。続きはコーヒーを飲みながらにしよ。」


「わしは、神なんてこの世におらへんと確信しとる。」


 マカミさんのいつもの言葉。


 初めて聞いたララさんは、目を大きく開けて彼を見た。


 だが、その顔は大多数の人類がそのセリフを聞いて見せるものではない。


「あのバリアも治癒も、魔石の力か、聖女と聖人が魔族、もしくは半分魔族やと思っとる。」


 真っ直ぐ見つめ合う2人に、俺は小さな不安を感じ、それが声となってマカミさんを呼ぶ。だが、いつものようにマカミさんの目が俺に向けられることはなかった。


「…どうして、神がおらへんなんて言い切るんや。魔王が国を沈め過ぎてか?」


 ララさんの問いに、マカミさんは首を横に振ることもしない。


「神なんてもんは、人類が作り出して縋っとる偶像や。それこそ、自分らに都合のえぇ魔族は神って名前で崇めとってもおかしない。」


 こんなこと言えば、非国民だと、魔族擁護だと袋叩きにあうのが当たり前の時代だ。


 だが、人類の歴史を正しく知っていれば全然あり得ない話ではない。


「人類は愚かで、傲慢で、強欲で、同仕様もないバカの集まりなんや。猿になられへんかった劣等種やったことを忘れてイキるほどの奴らやから、過ちも歴史も繰り返す。」


 マカミさんのぶっ飛び理論を、ララさんは否定も怒りも引くことすらなく聞いていた。


「わしらは、ライラや聖女達がもし魔族でもえぇんや。魔王を打ち倒すのが本心ならな。」


 マカミさんは、無防備に背を向けて部屋を出ようとした。「クッキー残っとったな。」と話しながら出ていこうとする彼の背に、視線を下へ落としながら呟かれるララさんの声が引き止める。


「お前らの故郷も魔王が沈めたもんな…。恨んで当然や。」


 驚いたように振り向いたマカミさんは、予想通り驚いていたし、すぐさまいつも通りのテンションで「ぜーんぜん?」と答え、逆にララさんをひどく驚かせた。


「わしは寿命ぜーーーんぶ使って、たまき達と幸せに生きとりたいだけやからな。」


「それを阻むなら、魔王でも神でも殺すだけや。」


 マカミさんの黄金の目が、キラリと光った気がした。


「ライラの魔王討伐への本気具合は、わしらはよーーくわかっとる。」


 いつも通りのゆるい話し方に戻ったマカミさんがそう言うと、ララさんはまた、ため息の様な呼吸をしてから、キョウさんとそっくりなヘタな笑い方で俺たちを見る。


「俺も、お前らの事ライラっちからよく聞いとったから、この部屋の事も、母親のことも話したんや。」


 少し、そんな気がしていた。


 それ以外、こんな大事な話を初対面の見知らぬ人に話す理由がないと思っていた。


 でも、話を聞いただけでここに入れることは、本来無いだろう。ここは二人だけの秘密基地だ。


 それこそ、“勇者”にも知らされていない可能性すらある。


 


 俺達はまたテーブルに戻り、約束通りと言うか、そこまで話して大丈夫か心配なほどしっかりと説明を受けた。


 まず、聖女もライラ君の母も人類であること。これを聞いて、あのバリアと治癒の力は魔石であることが俺達の中でほぼ確定したし、ララさんは肯定こそしなかったが、否定をしない形で同意見であることを示してくれた。


 あと、聖女は元々聖女として崇められていなかったこと、そのため全人類に聖女の力が広められた時に姉がいると大々的に情報が出回らなかったことを聞いて、これも自分達の幼い記憶を辿れば事実だと思ったし、なんなら、マカミさんはかなり歴史を調べているので“聖女”が急に力を持ち現れたことに疑念を持ち続けていたほどなので納得するものだった。


 神に愛されていると言ったほうが、“人類に都合が良かった”が真実だ。


 聖女は魔石を手に入れ、もしくは魔石を使わされて全人類を守り癒しているが事実で間違いない。


 聖女は自身の姉が自分の息子を守り命を落としたことどころか、姉がもうこの世にいないことすら知らされていないこと、それは全て『聖女が幸せを感じていると神の力を使える』と聖女や聖人にすら信じさせている“聖女達の本当の幸せを考えることのない奴ら”のせいであること、聖女も聖人も、姉の子供がいる事すら知らされなかったし、理由はライラ君の命を守るためだったということまで教えられた。


 これで、また一つ謎が解ける。


 ライラ君が両親と自分の写真を国へ提出していない理由だ。


 聖女の姉を“人類”が殺したなんて事実は、『神の愛し子』だと信じさせている奴らには不都合以外ない。


 事実を消すために、ライラ君を消そうとしていておかしくないのだ。


 理由なんて、方法なんてどんなものでも思いつくのが人類だ。


 魔力みたいな力を人類が持つことが無かったのは、それこそ人類が滅びないためだったかもしれない。


「そりゃ、ライラは聖人になんか会いたなかったやろなぁ。」


 マカミさんがそう言いながら、最後のクッキーを犬歯で噛んでボロボロとこぼす。


「聖人を憎める性格やったら、また違ったやろうになぁ…。」


 間延びした声色だが、犬歯で物を噛むのはこの人が怒っている時の癖だ。


 マカミさんの言う通り、ライラ君は今まで聖人にも聖女にも嫌悪や怒りを隠しているような素振りはなかった。


 今日初めて、聖人に嫌悪や憎しみに近い感情を抱いて、自分自身がパニックを起こしていたのだ。


 その理由はきっと…………あの幼馴染にあるが、それを深く考えると怒りで机を思い切り殴ってしまいそうだったので、矛先をキョウさんを殺し祀り上げている奴らや、それに疑問を持つことなく全ての責任をなすりつける奴らに向けることにした。


「そんでうんこやったんやなぁ。」


「は?」


 思わず素で「は?」と聞き返してしまったが、マカミさんは一人ウンウンと納得していて意味が分からない。


 意味を理解する前に、ずずーっと恥ずかしげもなく音を立てて珈琲を全て飲み干したマカミさんが話を再開した。


「いっぱい考えたんやなぁ。」


 その声は、怒りを宿していない。


「勇者達も悪ない。聖人達と仲良くしてくのが一番や言うのはライラ自身よう分かっとった。聖人も悪ない。ライラのことなんて知らへんし、オカンの事やって知ることを許されへん。」


 マカミさんは、頬杖をついてあの部屋があるキッチンの方を見た。たまに、この人には俺の見えない何かが見えているような気がしていた嫌だ。


「本当の事も言えへんし、でもそれ以外で会いたない理由なんて思いつかへんかったんやろな。元々自分は会う気無かったのに無理やり連れてかれたし、怪しまれず、誰も傷つけずにあそこから離れるには、うんこぐらいしか言えることないなぁ…。」


「トイレでも、よかったんとちゃう?」


 また色々考えそうになり、それを自分で阻止するために絞り出したばかみたいなセリフは、予想外にしっかりと首を横に振られ否定された。


「待つ言われたら困るやん。」


 小やったら、待つとか言われそうやない?とマカミさんが俺の方を向いて聞いてきたので、ムカついた。


 抑えようとしていた怒りが地団駄を踏むように暴れ始めてしまったのが自分でも分かってしまった。


「そんなもんっ、キショいんや言うて一発殴ってえぇやろ!!傷つけたってえぇはずやろ!!意図してへんとしてもライラ君を傷つけたのはあの場へ引きずり出した彼奴等や!!自分が全校生徒に変なやつと思われてまで庇わんでもえぇやろ!!」


 さっき話した通り、明日からライラ君は全校生徒にうんこの奴だと思われるのは免れない。


 馬鹿な奴らのほうが、フラストレーションを溜めている奴らのほうが、よく考えもしないで時に引くほど残酷な生き物になる。


 それを、何年も学生として普通に生きてきたライラ君が知らないわけないのだ。なんなら、彼は目立つ幼馴染のせいで人よりそういった理不尽な言動や暴力を受けていておかしくない。慣れているような態度に俺達も気がついていた。


 なのに、その原因と思ってしょうがない幼馴染達を傷つけ無いために?


 たきひこさん達に助けを求め、自分だけ目立ちたくないから呼び戻して欲しいと頼むことすら思いつかないほど、人に甘えることができないのに?


 (自分は、息も出来へんほど傷ついたのに?)


 きっと彼は、心の何処かで幼馴染だけは聖人より自分を見てくれていると安心していたのだ。


 それを裏切る何かが、あの場で起きたに違いない。


 家長さん、帰りたいと俺に縋ったライラ君の声と青白い顔を思い出し、自分の奥歯がぎりっと音を立てた。


 マカミさんの言う通り、勇者達も聖人達も悪くない。


 けれど、ライラ君だって何も悪くないやろ。


「魔石なんて、どこで存在を知ったんや?今回の魔物に入っとったから?」


 全然違う話題を、今まで黙っていたララさんに振られ、思わず俺の怒りが止まった。


 それを見て、ララさんはおおきにと礼を言ってから話を戻す。


「魔石なんて、ごく一部の……それこそ国の上層部の少数しか存在を知らへんはずやな?」


「神の力を魔族の力なんて言われへんからな。魔族のデータもなんもかもぜーーーんぶ綺麗に消え去っとる。わしですらほとんど見つけれてへん。」


「ほとんど………。」


 絶望するようなくらい声を出したララさんへ、マカミさんはそんな顔するなとヒラヒラ手を振った。


「事実として、この国には聖女と聖人以外魔石を所持してへん。むしろ、聖女は聖人へ渡しとるやろうから、その一つの可能性が高いくらいや。海にもあらへん。」


「他の魔石は全て、初代の魔王が吸収したからな。そやろ?記録は残ってへんくても、記憶を持っとる人は存在する。」


 まるで事実を見たかのように話すマカミさんは、事実をみる能力などない。


「魔石は、人類の国が何個か所持しとったんや。魔族の国と人類は国交を結んだった証やし、人類によって沈められた事実なんやろ?」


 だが、彼だから見えている景色と“真実”は確かに存在していると、俺は分かってしまっていた。


「どうせ、魔王がブチギレる何かを人類側がしでかして戦争になったんや。元々国交できとるだけで奇跡的くらいの種なのに、自分達が従えれとる気になって調子のったんやろ。それこそ、自分達は神に守られとるなんてドアホな妄想にかられた可能性すら捨てられん。」


 何も言えないララさんに、俺は申し訳ない気持ちと変わらないので今後慣れていってほしい気持ちを込めて話した。


「こいつは、国の最重要機密を無断で見てるんです。」


「なんでそんなっ」


 初めて怒りを見せたララさん。


 だが、その怒りは心配からきているものだと何故かすぐにわかった。


「バレたら自分ら何されるか分かったもんやないやろ!バリアも治癒もあらへんやんか!!」


 案の定、俺達を心配する言葉を口にした彼は、どこか怯えるような瞳を見せるので驚いた。


「バリアも治癒も、心の傷は癒せへんのやぞ?」


 彼はきっと、俺達とライラ君をどこか重ねているのだろう。ライラ君が大きな傷を負っているからこそ、同じ思いをしてほしくないのだ。


 しかし、俺達からしてみたら彼も傷ついているように見えた。


 彼が見て見ぬふりをしていないといけないほど大きな傷があり、それをつけた奴らがこの国で生きている。


 そいつらは、あとでサルが面を割るだろうから呪うのは我慢してやった。


「わしをこせる奴が、人類でまだ生まれてへん。」


 そう言い切るマカミさんを叱ることなく、いや、叱れない彼は目線を下へ下ろした。


「過信は、しんといてくれ。」


 声は、震えていなかった。


「キョウが、お前みたいな奴やった。」


 その言葉に俺は驚き、咄嗟に聞き返してしまう。


「キョウさんのほうがですか?」


「機械類はてんで駄目やったけどな…。」


 顔を上げた彼の目には、もしかしたら彼女が見えているのかもしれない。


「でも、見てへんのに見てきたかのように色々的中させる奴やった。過去も未来も見えると思わせるくらい…。」


 彼は、ないていなかった。


「アホやろ?そんなわけあらへんのにな?あいつは…」


 涙を奪われているのだと思った。


「あいつは……、人類やのに。出血多量で普通に死ぬ…普通の…。」


「普通より、強かったんやろ。」


 マカミさんは、出会ったことがないのに確信を持って言い切る。


 でも、今回は俺も同じ思いだった。


「ライラが学校でよー言うとる。」


「ライラっちが…、あいつの話を?」


 驚きながら聞き返すララさんは、やはり実年齢より若い気がする。


 美しい顔立ちで性格もいい彼の事だ、きっと多くの女性から好意を寄せられただろうが、ライラ君を育てることしか頭になかったのだろう。そんなところも彼らしいからこそ、平和になってから平穏に幸せをつかんでほしい。


「オトンの話もな。」


「……なんて?」


「わしに似てるって。」


「えっ。」


「相当、惚れ抜いた妻やったんやろな。」


 マカミさんは、残っていた氷を話しの最中なのにもかかわらず口に入れ、犬歯でがりんと派手に粉砕した。


「わしなら、たまきを傷つけられてただでおらへんけどな。この世を地獄に変えて」


 全て言わせるきはなかったので、思い切り弁慶の泣きドコロを蹴り上げてやる。「すね!!!!!!」と意味わからない声が聞こえだが無視だ。


「……そんな未来こんように、危ないことはやめてくれ。」


 俺達のやりとりに笑いもできないララさん達が、どれだけ深い傷を負わされたのだろうとまた腹が立ってくる。


「ライラっちやって、絶対傷つく。あの子にはこれ以上傷ついてほしないんや。」


 ライラ君が、当たり前のように『全人類誰一人として死なない』なんて目標を掲げているのか、やっと本当に分かった気がした。


 ライラ君にとって、当たり前でも何でもないことだからこそなのだ。


 もう誰も、自分のような悲しみと辛さを味わうことがないように。


 その誰達は、頭ごなしに無理だと決めつけ、神なんて不確かで無責任なものに縋っているのに


「まぁ、とりあえず魔王戦を勝利しなあかんとは思っとるからな。それからのことは相手が人類だけや、どうとでもなる。」


 マカミさんの言葉に「そやな…。」と返すのが精一杯だった。


 マカミさんは、ララさんを真剣に見つめる。


「わしらは目標一緒や言う事や。わかっとってあそこ入るんを許してくれたんやろ?」


「俺は、」


 言葉を止めたララさんに、不安になった。このサルがサルすぎて話したことを後悔していておかしくないし、されていたら挽回すべきは自分であるから

ララさんの言葉によってどう動くか即座に判断する気でいた。


 ララさんは、暗さも明るさもない不思議な温度の瞳で俺達を見る。


「死ぬまでライラっちの味方やからな。」


 その黒い目は、俺と同じ色なのにどこまでも深い気がした。


「ライラっちが気に入っとる二人が、ライラっちの味方になってくれたらなと……思ってまったんや。」


 そう言って、にやりと笑う彼の目は、また温かい温度を宿す。


 俺は武者震いに近い何かを感じたが、もちろん答えなど決まっていた。


「別にえぇですけど、明日からライラ君のこと構い倒しますよ?このサル含め。」


「…ライラっちは、俺以外からは甘やかされ慣れてへんぞ?」


「上等や。」


 俺達が真実にたどり着いたとしても、俺達が勝利を掴んだとしても、それはけして神の加護でもなんでもない。


 だが、そんな事を本気で信じる奴らが9割9部9厘なのだから、そいつらを人類と呼ぶほうが正しいくらいだし、だとしたら異端児はこちらだ。


 異端児上等である。


 魔王が攻めてきたあの時は、大を守るために小が苦汁を飲まされるのが、人類が生き延びるために正しい選択だったのかもしれない。人類らしい生きる術だったと言えるのかもしれない。


 でも、その時代が終わったら、俺達の時代が来たら、そいつらは逆にお役御免だ。


 そいつらがライラ君の母親を殺した事実は消えないのだから、報いは受けさせる。


 勇者ニケという人物は、ライラ君の幼馴染だ。


 彼の隣を、自分が息の吸い方を忘れるほどの相手に譲る日がきてしまうなんて、どれほどの痛みを伴うのだろう。


 きっと俺なら想像出来るのに、分かっていて想像もしない自分がいる。


 大人の10年と子供の10年は違い、長く、濃い。多くの同年代と出会いと別れを繰り返す事が日常である子供たちは、大人よりずっと自分本位に相手を選んでいる。


 本当に一緒にいたいやつを見つけたら、生涯そいつらとつるんでいくこともあるほどだ。


 情だけでは説明できない、確かな好意がそこにある。


 そんな相手が、10以上の年月を共に過ごしてきた幼馴染が、他の親しい仲間を作るだけでも嫉妬や嫌悪を覚えて当たり前なのに、隣を譲るのだろうか。


 譲るだろうと言う自分がいる。


 彼の魔王討伐と、幼馴染の幸せを願う気持ちは本物だと分かってしまっているから。


 俺と似ていて、俺と全く違うライラ君。


 目標が同じであること、俺たちを嫌悪せず好意すら向けていてくれることに、素直に喜んでいた。





 俺達は結局、それからも話し込んでしまった。


 ライラ君の父はララさんの親友兼上司であったこと。


 若く見えたが40近い事や、ライラ君の幼い頃の微笑ましかったエピソード……それに、どうしても登場してくる幼馴染との仲が良さそうな日常の思い出を語ってくれた。


 途中から、3人でトランプなんかもしながら会話は途切れることはなく、マカミさんの思いついたオープンババ抜きという意味のわからんルールで意味のない試合をして、二人してマカミさんをしばいたりと穏やかに過ごし、気がついたらあっという間に夕日が窓から差し込む時間となっていた。


 そろそろおひまするのがいいだろうと、名残惜しいが帰る事を伝えようとしたその時、呼び鈴も鳴らさずにバァンと玄関が開いた。


「こんにちはぁ、ライラいるぅ?」


 そう高いテンションで入ってきたのは、珍しい紫の髪を持つ勇者科の生徒で、勇者ニケ達と同じチームに所属しているソウという青年だ。


 もちろん、件の勇者ニケや弓を使う銀髪のコーラルと呼ばれている青年も迷うことなく入ってくる。


 俺達に気が付かないとかではなく、他の人いるの珍しいねぇ〜なんて言いながらテンション高くララさんに絡みに行く二人と、何も話さず一回だけ俺達を見てララさんに視線を戻した勇者は明らかにテンションが違う。


「ララさん、イーラそんな悪いの?」


「熱はあらへんよ。でも、今は寝とる。」


 わかったと言った勇者は、なぜかカレンダーの方を見る。別に特別印などが付いているわけでも無いのに、何かあるのか気になった。


「なんかあったなら、伝えとこか?」


「明日朝イチでルトさん達ともう一回模擬戦することになったから、起きたら言っといて。」


 その勇者のセリフに、マカミさんは爆笑|《壊れたサルの玩具みたいに騒ぎ》始める。


 あまりにもうるさいので、慣れていない俺以外の人達は驚いたままマカミさんを凝視して固まった。


 おかげで、俺の顔は見られてないだろう。


「あーひひっ〜wwwド鬼畜やんっいーひひwww」


「ライラ君が起きるやろ、ドアホが。」


 一発殴って黙らせる。けれど、異論があったわけではない。他の人達はサル語は分からなかっただろうが、俺は聞き取ることができていたので、笑うこいつの気持ちはわからないが想いは同じだ。


 でも、ポカンと何もわかっていない勇者含め、他の二人や聖人すら悪くないということもわかっている。


「ルトさんって言うのは、もしかして聖人のことか?」


 複雑だろうに、それを顔にも声色にも出さず温かく聞く彼に複雑な気分になる。大人とは本来のこういう人のこと言うのかもしれないが、この人やライラ君の味方があまりにも少ない気がしてしまうのは何故だろう。勇者達だって、敵対している気など皆無だと分かっているのに


 対立する交わらない何かのような気がしてしまうし、自分達はララさん達の側だと思ってしまう何かがあった。


勇者がララさんに応えるため何か言いかけたが、声が出る前に横から元気に邪魔される。


「そうそう!聖人のコルトキノスさん!!あと騎士のマッスーもめちゃくちゃ強かったしさぁ~。」


「マジで動きから判断力からやばかったわ。俺ら2人がかりでやっとのレベルだべ?」


 だべぇ〜?とまるで女子達のようにキャッキャと楽しげに話しながらララさんを取り囲む2人を、無視してるのかというレベルで勇者は視線すら外し、階段の上のライラ君が寝かされてるであろう部屋の方を見た。


 ララさんはがそんな三人に苦笑いするだけで、特に不安や不満を持つことがなさそうなことから、いつもの光景なのかもしれない。


 勇者はそんなララさん達に何か言うわけでもなく、そのまま当たり前のように2階へ向かおうとした。


「あ、ニケ。今はホンマにライラっち寝とると思うから」


 そう控えめだが止めようとしたララさんの言葉を最後まで聞かず、勇者は振り向くことすらないまま進み続けた。


「寝てたらすぐ降りてくる。そいつらは来たらうるせぇから、ララさんが見張ってて。」


 ララさんが彼を止めた理由は、もし起きていても今は刺激しないほうがいいと判断したからこそだった。ララさんも、ライラ君の取り乱した理由は勇者の彼であることはよく理解していたんだろう。俺も、今彼がライラ君に“ルトさん”なんて親しげに呼ぶほどになった聖人の話をしたら、最悪今日この場で2人の関係に決定的な亀裂が入ってもおかしくないと思った。


 うるさいからと置いていかれた2人は不満を言うこともなく、むしろ逆に止めようとするララさんをなだめるような感じで申し訳なさそうに笑う。


 勇者が階段を全て登りきってから、ソウという青年から話し始めた。


「ちょっとだけ、許してやって?ニケさ、今日ライラが戦闘訓練を間近で見られなかったからって、明日も戦ってもらえるように頼み込んでたんだよ。」


「あいつは、絶対俺が戦うところを自分の目で見たかったからってな。言い方アレだけど、俺達もライラ含めチームだとは思ってるから。」


 ライラ君が傷つけたくないと思うほど“いい子”である彼らは、本心からライラ君を仲間だと思い、一歩引きたいと思っている彼を自分達の隣に来ていい存在だと本人に認めてもらいたいのだろう。


 それもきっと、確かな優しさなのだろうなと思った。


 見方によっては、ライラ君のためであり、正しい友情なのだろう。ライラ君だって本心から嫌だと思えないからこそ、あのステージに足を運んでしまったほどだ。


 だが俺は、人類は正しいで生きていけない生物だとつくづく思う。


 彼らがきっと正しい。何も間違ってない。


 聖人が悪くないのなら、ライラ君が自分の感情と折り合いをつけ、プラス思考に変えて歩み寄っていくのが正しいのだ。


 でもその正しいは、彼らや聖人達、そして全人類と勇者のための正しいである。


 ライラ君の感情を殺せと、圧力をかけていることに気がついていないだけなのだ。


 もしその圧力に潰されそうであったり、殺してまで進もうとしたら、俺達がライラ君を引きずり込んであげればいいと“わざと”勇者が上に行くことを見届けた俺達が“いい子”無わけがない。


 ララさんは困ったような、それでも優しい顔で笑って2人に飲み物がいるか聞いた。


 いつの間にかトランプで得体のしれないタワーを作っていたマカミさんが、いい子に麦茶を待っている2人へ突然話しかける。


「なぁ、わしも今日なんも見れてへんから、ライラのドローン見せてほしいんやけど。」


 話かけられた2人は驚いた顔をしたあと、2人で顔を見合わせて何も話すことなく、まるで双子か夫婦のように意思疎通したかと思うと2人同時にこちらに向いて同じタイミングで首を縦に振った。仲良すぎるやろ。


「ドローンは持って帰ってきたんすけど、俺たちでは見る方法わかんないんすよね?」


 マカミさんならわかるとわかっていて、マカミさんへならライラ君も許すと結論づけてドローンを素直にドローンを渡した彼らは、やはりいい子であるし、ライラ君が言う“英雄”にふさわしいのだろう。


「ララさんも観る?」


 マカミさんに呼ばれ、ララさんはほんの少しだけ考えてから「そうやな。」と近づいてきてくれた。


 トランプタワーを崩さないように慎重に動く英雄の2人がいい子すぎて、逆に魔王を倒してから人類の食い物にされる気すらしてしまうが、きっとそんな心配を俺がする立場ではない。それこそ聖女の騎士たちがどうにかするだろう。


 あいつらが、俺達の粛清候補に入っていなければの話だが。


 俺にも見えるようにしようと、自分達は画面から遠いところに立ったままの2人に軽く礼を言うと、彼らはやはりなんの含みもなく気にするなと言った。


 いい子じゃない俺達とライラ君が、技科という本来閉鎖的な学科で集中して魔王戦に備える事ができる未来がくることに、本心からなんの懸念もない。


 でも、もしライラ君がこのいい子達と………唯一の幼馴染の隣で幸せを感じられる日々が続くのであれば、それが一番だとも本心から思えていた。


 とりあえず、聖人の面だけはしっかりと拝まないとマカミさんが自身の映像機に映し出すライラ君のドローンから見た世界に集中することにした。


 映し出されたのは、ライラ君が自分達の元から走り出した後の勇者の顔だ。


 こんな顔するくらいなら、なぜ追いかけなかったのかわからないくらいの顔に、思わずと言った感じで語りだすのは銀色の彼だった。


「ニケはさ、マジでライラが戻ってくるって信じて我慢しただけなんだよ。」


「ライラは、自分のせいで全員の時間を無駄にさせたと思っちまったほうがショックデカいってよくわかってたし…、ライラが帰ってきた時かっこよかったって思われるヒーローでいたかったんだと思う。」


「ライラが、家に運ばれるくらい体調悪かったって気がついてたら、あいつは誰が何言ったって駆けつけるやつだから…。」


「すげぇ…、悔しいんだよ。俺達もだけどさ。」


「2人には、めちゃくちゃ感謝してるけど。」


 そう言って、眉毛を下げて無理やり笑う英雄の顔は、ララさんの下手な笑顔とよく似ていた。


 俺は昔からヒーローが嫌いだった。


 いや、ヒーローを作り上げる周りや環境と、それを受け入れるヒーロー自身が嫌いだった。


 でも、ヒーローは必要とされているから存在している。


 マカミさんは、天地がひっくり返ってもヒーローなんかではないことに、今更ながら安堵している自分がいる。


 俺が特に何も返さなかったし、何か返して欲しかったわけではない英雄達は、自然と映像に再度目をやった。


 映像で何故か勇者達と聖人達が対峙して戦うことになり、バリアなんてチート力を駆使してくる相手に運も奇跡も実力も全て掴み離さないと言わんばかりの立ち回りで応戦した勇者達の戦いは、まるで特撮ヒーローもののような、現実離れしたものだった。


 それこそ、一瞬で決着がついておかしくないパワーバランスだと思えそうなものなのに、決着がつかないほどだった。


 聖女の騎士の判断で、マカミさんの作った超大型の人工魔物に今度は共闘することになっても、先程の戦いでの遺恨など残さない連携を見せる彼らは、間違いなく同じ目標に向ういいチームになるだろう。


 コレに殺される程度なら、魔王戦で結局死ぬと一切手を抜く気がなく殺しに向かってくるマカミさんの思考そのまま受け継いだ、超大型のゴリラの魔物は暴れに暴れ、腕を斬られようがバリアで動きを封じられようがあの手この手で勇者達の命を奪いに行く。


 だが、やはり勝ったのは勇者達だった。


 気のせいのはずだが、勇者がとどめを刺すその時、ライラ君が勇者を応援した声が聞こえた気がした。


 控えめな音で階段を降りてくる音が聞こえ、反射的にそちらを向くと、特にいつも通り読めない顔の勇者が降りてきた。


 ライラ君が起きていたのかすら判断できないが、とりあえず迷子の子供のような顔はしていないので亀裂が生じたわけではなさそうだ。


 ララさんが心配そうに彼を見つめていることに気がついたのか、元々ララさんに話しかけるつもりだったのか、彼は「寝てた。」とだけ短く伝える。


 その力の抜け具合が、完全に身内への態度だ。


「そぉか、辛そうやった?」


「熱無かったし、大丈夫じゃね?」


 俺達がこの家に居座っていても特に何か聞いたりしない理由も、ララさんが俺達を許している絶対的信頼のおける判断材料があったからなのだろう。


 本当に俺達にも、それこそ待たせていた英雄2人にも特に声をかけることなく、勇者は玄関へと向かって行く。


「俺帰るわ。」


 慌て始めたのは英雄達の方で、流石に可哀想だった。


「ちょっと待ってよ!!今見てんじゃん!!」


「見てればいいべや。」


 ララさんまたなと本当に帰ろうとする彼を、片付け方がわからず、だけど人に押し付ける選択肢を持ち合わせていないいい子達が追いかけられるように、自分に任せていいと助け舟を出してやる。


 こんな傍若無人の勇者ニケは、世間のヒーロー像とはかけ離れてるかもしれないし、それはそれでいい気もした。


 彼だからこそ英雄達も守れるのかもしれないし、そんな彼を支えられるのは、このくらい心の広い英雄達でなければ無理かもしれない。


「いやぁ、似とったなぁ?」


 「「は?」」


 いつの間にか勇者に近づき、肩まで抱きながら囁くサルに、勇者と俺の声が丸かぶりしてしまう。


 馴れ馴れしいどころの話ではないし、ニヤニヤと挑発するような目つきと笑い方のサルは、今すぐ殴り飛ばされてもしょうがないくらいだが、驚いているのかヒーローだからなのか、殴り飛ばさなかった。


「お前も、そう思うやろ?あの聖人を見て。」


「こんのアホ!!!!!!」


 思い切りサルを殴り飛ばすと、サルの「ストレート!!」と言う意味わからん叫びが耳について余計にイラついたが、追撃は我慢してやった。


「ルトさん?やっぱり聖女様と似てるよね。雰囲気はアレだけど顔立ちとか端正っていうか。」


「お、おう…、そだな。美形の家系だよな。」


 予想外にもあまりサルを気にしていないソウ君と、ドン引きを必死に心のなかに止めようとしている優しいコーラル君が、聖女達親子のことだと口に出してくれてホッとした。


 俺達は聖人に似ているのが“誰なのか”分かってしまっているので、また複雑な気持ちになってくる。


 そんなことお構い無しに、映像機すら置いたままマカミさんは玄関に向かい、「またくるなぁ?」と背中越しにと言う無礼極まりない挨拶とも言えない言葉を発し、ヒラヒラ手を降って出ていく。


 開けられた玄関からは、信じられなかったが夜空が見えた。


 俺はすぐさまララさんに頭を下げ謝り、気にせんでいいと言ってくれてる彼の言葉を最後まで聞けないくらい急いでサルの後を追う。


 そんな俺を、自分達と重ねているかのように見ている英雄達の視線に気がついたが見ないふりだ。


 似ているとマカミさんが言った時、気が付かない彼らにホッとしたのに、気が付かれてはライラ君とララさんの信頼関係にも悪影響だとよくわかっているのに、


 気が付かなかった彼らにイラつきもした俺は、やっぱりいい子ではない。



 追いついたマカミさんの背はいつも通りのものなのに、彼の目の前に世界中を照らしているほど白く輝く巨大な月があり、彼の背の影を濃くしていた気がした。


 マカミさんは、ヒーローじゃない。


 なら、なんなのだろう。


「マカミさん。」


 振り向いたマカミさんの顔は、殴り飛ばしたくなるほどいつも通りだった。


「なぁに?たまさん、ちゅーする?」


 思い切り顔面がめり込むほど、拳にキスさせてやったのは言うまでもない。








 次の日、ライラ君が学校のトイレで俺だと勘違いしたサルに孕まされて姫にされたと、最悪な噂を流されることになっており、流石に頭を抱えることになった。



読んでくださりありがとうございます!!マカミは雄です!!たまきも立派な男性ですが、この2人の幸せを作者は応援しております!!

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