癒やしと守りの力
この話を書きたかった!!という話の一つです!!
短いし、聖人は出てこないし、話が進んでいないと思われそうですが、この話は主人公ライラの心の変化が加速した日の話なので、どうしても書きたかったものでした。
今日は、朝から学校全体がソワソワしている。
ニケ達が、国から“勇者とその仲間達”だと認められ、聖女の力を受け継いだ神の愛子“聖人”と会うことが通達されていたからだ。
TV局などの報道はないが、記録は残されるようだし、全校生徒も今日は彼らの対面を観ていいようにと、どんな作業もしないでグラウンドに集まることが許されている。
とは言ったものの、聖人の力を多くの生徒に見せることも目的の一つなので、グラウンドでの見学はほぼ強制的だ。
小学生の時のような、全校集会みたいな集まり方ではなく、トラックの中央を開ける感じで、皆が空白の楕円形を作り囲う感じだ。
“聖人達の登場と勇者ニケ達の初対面”は、堅苦しいあいさつだけでなく、訓練と言う名のバリアお披露目会も開催され、技術科の天才マカミさんの発明した“人工魔物との疑似戦”が観戦できる事から、ほとんど全人類が興味をそそられる内容で、強制的だと思っている人などほとんどいない。
特に、勇者科の人達とニケ達のファンである救護科の女子生徒たちが、朝早く場所取りをしていて、最前列は隙間などない。真上に飛んでいるドローンから撮影された映像を確認しても、しっかりと楕円形になっているほどだ。
空から見てる鳥たちは、その楕円形を見て首を傾げるだろう。
俺は、楕円形が見えないほど最後尾にいるから、直接彼らを見ることは無い可能性まである。
ドローンの映像で十分だからだ。
聖人とその騎士の能力、彼らの戦闘スタイルがニケ達と合っているかを確認できればいい。
まだ誰もいない楕円を眺めるのも飽きたので、空を見る。
(雲が…すごい量だな。)
いつの間にか秋になってきた空には、羊の群れのような雲が広がっている。
羊はかわいいし、肉もこの国では特に好まれるし、毛も人々を豊かにするし、すごいなぁなんて思っていると、背中からドサッと何かが落ちてくるような、覆いかぶさる重みと衝撃がきて、思わず「うぇっ!?」と変な声がでた。
「ライラみーっけ!」
「ソウ…。」
俺の背中に飛びついて来るように覆いかぶさってきたのはソウだった。
ソウはすぐにニケに剥がされ、いつもの喧嘩茶番が始まる。
コーラルが、まぁまぁといつものようになだめているので、仲良し茶番については少しも心配していなかったが、本日の主役たちがこんな隅っこにいていいのだろうかと時間的なものが心配になった。確認すると、いつ聖人達が来てもおかしくない時間だ。
「ぃ゙っだぁ!!」
茶番の最後を告げるように、ニケから思いっきり蹴られたソウがよろける。
蹴られた音も、ソウの声もとても痛そうで、思わず近づいて手を伸ばすがニケにしっかり止められる。
「甘やかすな。」
「ご、ごめん。」
ここは、笑うところだっただろうか。
本当に、人間関係は俺には不向きだ。
だからこそ、こうやってはっきり教えてくれるニケにいつも助かっている。
よく考えると、男の俺に撫でられても気持ち悪いだけだったかもしれない。
その後も、キャンキャン吠えて抗議するソウと、めんどくさそうだけどしっかり目を見て対応しているニケ達のじゃれ合いを見て、コミュニケーション能力の高い人達は会話のテンポがいいなぁと出会ってから何度目かわからない感心をした。
「お前ら、そろそろ真ん中に行かねぇとハリーさん達が来るべや。」
そして、そんな二人をまとめることの出来るコーラルの統率力もすごい。お兄ちゃん力が高い。
まだ出会って間もないはずのこの3人は、まるでずっと前からの友人達のように自然体で、安心感があった。
この3人の空気感が、俺はとても好きだと改めて思う。
今日この3人の戦闘を、自分の目で見られないことだけが少しだけ残念だ。
「うわ、本当に時間ギリギリじゃん。この人だかりを掻い潜って中央まで行くのは骨が折れそうだよ?」
ソウと同じ心配を、俺もコーラルもしていた。でもニケだけは、なんてことのないような顔をしている。
「どかせばいいだけだろ?」
いやいや、どうやって?
そう思う俺達に背を向けたニケは、大きく息を吸う。
(あ、鼓膜がやばい事になる。)
俺はとっさに耳を両手で覆って、「耳塞いで!」とソウたちへ言った。
2人は素早く反応してくれたけど、それより若干ニケの方が早く叫ぶ。
「お前らぁ!!道開けろぉー!!!!!!!」
耳を塞いでいたってしっかりと聞こえるその声に、空気どころか地面すら動いた気がした。
思わず片目を閉じてしまったほどの声だったけど、もっとすごい光景が広がり、両目は自然と開くし、手も下へ下ろされる。
昔母さんから聞いたことのある神話みたいに、海を割るかのように人だかりが割れ、1本の道が出来上がっていく。
ニケ達のために、ステージまでの道が切り開かれたのだ。ここまで来ると、すごいより面白いが勝ってしまって困った。
ニケがすごくて、面白くて、かっこいい。
俺の語彙力が溶けてどこかへ消えていくけど、しょうがないと思うほどだった。
思い浮かばない言葉の代わりに、笑いが込み上げてきて必死に我慢する。
ここで笑っては目立つから絶対駄目だとわかっていたけれど、困ったことに、この手の面白さで俺が我慢できた試しは無かったし、今回も駄目だった。
「「ニケ!!鼓膜破れるわ!!!!!!」」
「ぶっふぉふぉっwww」
むりむりむり。
ソウとコーラルの完全にセリフまでハモったツッコミの追撃で撃沈した。面白すぎる。
半端に我慢してしまったせいで吹き出した笑いが、呼吸機能を邪魔して盛大にむせる。
ゴッホゴッホと年寄りみたいな咳き込み方をする俺に、優しい三人はすぐ集まって心配してくれるし、ニケなんていつものように背中を優しく撫でてくれた。
「ごめっ、ニケ…………耐えれんかった。」
「別にいい。」
ニケに背を撫でられたことで、ものすごい数の敵意が俺へ集中してきたのが感じられる。
ニケだけでなく、3人全員が人気者だからしょうがないことでもあるけど。
俺はできるだけ素早く息を整え、ニケ達が少しでも心配しないでいいように笑顔を作って見上げた。
「ごめん。もう大丈夫だから、皆は早く行っておいで?」
「は?なんで他人事なんだよ。」
「えっ。」
ニケは“訳わかんねぇなこいつ”と思っているのを隠しもしないし、困った子供のを見るように苦笑いのコーラルと、少しムッとしてますよとわざと拗ねている顔を作っているソウに見つめられ、俺は固まった。
「ライラも行くに決まってるべや!」
ソウが言いながら俺の右手首を掴んで、優しく引っ張る。
「本当に、時間ねぇから走るべ!!走るべ!!」
コーラルが、急かすように俺の背中を押す。
俺は、本気で困惑した。
「まって、俺は行かないんだよ。俺はサポーターなだけだから、ドローンで見てるだけで情報は取れるし十分だから。」
本気で訴えたけど、ソウもコーラルも手をどかしたりしなかったし、いつもは引き離すニケすら何も言わなかった。
それどころか、2人が逆に説得する声色を出して俺に語りかけてくる。
「俺ら4人で、最北の七光星だろ。」
「サポーターも立派なメンバーなの!ライラの功績だってかなりのもんだかんね!」
「功績なんて一つも残せてないよ。」
俺は、あくまで技術科の生徒として過ごしているから、戦闘もしないし功績なんて本当に残していない。10年以上戦いに備えてきたのに、まかみさんやたきちゃん達の足元にも及ばないのが現実で事実だ。
魔王は俺だけだけど、
ライラの代わりは、いくらでもいる。
コーラル達の気持ちは嬉しかったけど、同じステージに立ってはいけない。
そう伝えようとしたのに、ニケに左手を握られて言葉が消える。
初めて、ニケに手を引かれて歩いた“あの日”がフラッシュバックした。
あんなに幼かったニケ。
でも、目の前のニケは比べられないほど大きくて、なのにあの頃と全く変わらない真っ直ぐな群青の瞳だ。
「イーラ、行くぞ。」
大きなニケに言われ、幼い俺の足が前に出る幻覚と共に、俺自身も自然と足を動かしてしまった。
あとはもう、走り出すニケと、引っ張るソウと、押してくれるコーラル達にキャリーされ、勝手に足がスピードを上げていく。
人だかりの海を4人で走っていくこの感覚が、不思議で、変に楽しくて、結局俺は中央まで来てしまった。
中央の真ん中まで走って、広くなった視界の中で3人に囲まれている。
最近では、この光景は俺にとって日常になってしまっていた。
だから、どこか他人事だったのかもしれない。
それとも、目を背けていたんだろうか。
聖人と対峙することから。
ザワザワ、木々たちとは違う人類独特のざわめきが肌を撫でるように大きくなっていく。
気がついたニケが、本校舎側の人だかりを見ると、俺達の来た道は塞がれ、新しい道が開かれていく。
ニケの方から開く道と、反対から開いていた道がゆっくりと、でも確かに一つになり、1本になったとき、淡い光でその道はトンネル状の強固な道になった。
父さんの力でできているそのバリアの道は、昔父さんが母さんのためだけに海底に作ったトンネルとよく似ていた。
先頭に、にこやかなハリアモンド先生が手を降って歩いてくる。
そして、その後ろを2人の青年がついてきているのが見えた。
「ハリーさん、おせぇじゃん。」
先生達がこちらに着く前に、ニケがそうフランクに声を掛ける。
「いや、俺らも今来たとこだろ。」
「うわぁ~、俺緊張してきたぁ〜。」
続けて話すコーラルの声や力の抜き具合、ソウのテンションや眼差しどれをとっても、皆がハリアモンド先生を認め、信頼していることが伺えた。
にこやかなままの先生も、ニケ達を認めてくれているんだろう。
いよいよ、俺の場違い感がすごい。
先生達が来る前に、せめて周りの生徒達がいる場所に混ざりたい。
(まず、この繋いだままのニケの手を離してもらわないと。)
トイレを理由にするのが一番自然か?とある程度いいわけのセリフを決めてニケを見上げる。
でも、声をかけることができなかった。
ニケの視線が、先生の後ろにいる聖人を見ていること、その視線が警戒心どころか好意的な眼差しであることに、なぜか気がついてしまった。
ニケは、人見知りだ。
今まで、それこそジャスミーナさんにくらいしか初見で好意を抱くことなんてなかった。
自分の中でその思考に至った時、今まで感じたことのない感情が噴き出すように生まれるのを、腹の奥そこで感じる。
赤黒い炎に焼かれるような、目の前が真っ暗になってしまうような強い痛みと、怒りよりずっと酷い冷たさに、絶望にもにたおぞましい何かが生まれた瞬間から僕の身体中を暴れ始めた。
「イーラ?」
振り返り、こっちを見つめるニケの目に映る僕は、酷く醜い顔だった。
一層激しさを増す、身体中の魔力とは違うエネルギー。
そのあまりの痛みに、ニケの手を叩くように払い除け、ここから離れるために走り出した。
「イーラ!?」
ニケに呼ばれた気がしたけど、振り返ることもできなかった。
「ちょっとうんこ!!!!!!」
ニケ達に背を向け、全力で人混みを抜けて技科の校舎を目指す。
ニケの時ほどではないけど、僕が通りたい道も少しだけ空いている気がした。
早く、早く1人にならなければ。
ニケから逃げたいと思ったのは、初めてだった。
やっとの思いで入った校舎の入り口で、僕はうまく息ができなくてしゃがみ込む。
酸素が脳へ送られないから、何も考えられないし、視界も狭くなっていった。
心臓の鼓動だけが爆音で聞こえる世界の中で、魔力だけは漏らさないようにと必死に自身へ言い聞かせる。
ほとんど目が見えなくなってしまってから、心臓の音以外の足音が聞こえる。
「か、ちょ……さ?」
(家長さん?ニケ?)
馬鹿な僕は、そんなことを考えていた。
ニケが、僕を追いかけてくることなんて無いと知っていたのに。
そこからの、その日の記憶はない。
次に目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。
このあと、勇者達はちゃんと聖人とその騎士との戦闘を終え、お互い認めあったあとにまかみの用意した人工魔物と対戦し、連携を通して




