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4年目の春の日

8歳の魔王(見た目4歳)と、勇者(まじで4歳)の出会い。

 僕は、“人類”が好きなわけじゃない。


 たとえ、僕自身が人類に殺される選択を選んでいても、やっぱり嫌悪感はある。


 眼の前で、黒い子猫をいたぶっている人類の子供たちを見て、その嫌悪感は強くなっていった。


 今、目の前に広がっているこの光景こそが、人類の本質のように思えてしまって、蓋をしないといけない憎しみが、じわじわと魔力と一緒に体の中で主張し始める。


(“人類だから”と、思ってはいけない。)


 魔族だって、少なかったけど犯罪は起きてた。そう言い聞かせたかったけど、一度抱いてしまった気持ちはすぐには消えない。


 せめて、魔力は外に出すまいと必死にコントロールした。


「なんだお前!」


 そう怒鳴られて、いつの間にかボロボロにされた子猫の前に来ていたことに気がついた。


 子猫は、浅い息を吐くだけで鳴きもしない。


 片目から出血しているし、楽にしてあげたほうがいい気がした。


(死は、この世からの救済になりうる。)


 そう、本心で思っているのに、子猫に触れた瞬間殺せなくなって、抱き上げてしまった。


 僕は、腕力的な力も強いから、抱きしめると潰さないか怖いとまで思ってしまった。


「おいチビ!そいつをかばうってことは、お前も不幸になるぞ!」


 僕は、父さんが死んだ日からほとんど体が成長しなかった。


 だから、たしかに“チビ”だ。


 でも、歳は多分こいつらより上だし、僕を自分より下の存在だと決めつけ、“オモチャ”をとられたことに苛立ってるこのクソガキどもに、一生残る心の傷を負わせる手段は山ほどある。


 でも、“出来る”と“してもいい”は違うから


 魔力も、物理的な力も、クソガキ共に向けないように、気を紛らわせるためなんとか会話を試みた。


「不幸って?」


 一番偉ぶっているクソガキが、得意気に話し始める。


「やっぱ、チビは知らねーんだな。黒猫は不幸を呼ぶんだぞ。横切られただけでも死ぬ!!」


 “黒猫” “不幸”


 この2つの単語がでてきていた時点で嫌な予感はしていたけれど、改めて口に出されると、怒りではなく悲しくなってきた。


 こんなバカ達に殺された母さんも、父さんも報われない。


 この子猫だって、救われない。


「ばかじゃねーの。」


 もっと色々言いたいことはあったけど、すべて詰め込んで短く吐き出した。


 魔力が少し漏れ出して、風が強くなってしまったけど、クソガキを八つ裂いたりしないからと、心のなかで言い訳をした。


 その風で枝がざわつき、桜の花びらがチラチラ降ってくる。初めて、僕は自分の直ぐ側に桜の木があったことを知った。


 言い訳は、桜の木にしたことにする。


 クソガキ共が一斉に罵ってきた。


 本当にうるさい。


 僕は、勇者なんか見つけられるんだろうか。


 こんな奴らに、殺されるのだろうか。


 そう思うと悔しくて、諦めそうな自分にもムカついて、クソガキ共を思い切り睨みつけた。


 すると、クソガキ共の後ろから、もう一人こちらにやってくるのが見えた。


 僕をまっすぐ見ながら歩いてくる黄金のそいつが、この中だったら一番強いんじゃないかなと思った。


(面倒だな…。どぉすっか。)


 色々帰る方法を考えていると、クソガキ共もそいつに気がついた。


「誰だよ、お前。」


「こいつのダチ?」


 こいつらがそういった事により、いま来たこの子はこいつらの仲間じゃないんだと知った。


 この国特有の青い目と、逆にこの国では珍しい黄金の髪の男の子は、僕の前まで来るとくるりと背を向け、クソガキ共と対峙した。


 もしかしたら、チビがいじめられてると思って助けに来てしまったのかもしれない。


 そのヒーロー思考は嫌いじゃないけれど、こいつらと歳も変わらないみたいだし、人数的にもあっちが多いから、怪我をする前に僕がなんとかしないと、と思った。


 思ったんだけど。


「お前らこそ何やってんの?ヒーローに倒されるザコごっこ?」


 と、その黄金の彼がはっきり言い放った。


 本当にはっきり言い切るその声に、恐怖も興奮も含まれていなかった。


 ヒーローにしては、あまりにも口が悪い。


 でも、言っていることが的を得すぎていて、ブフォッと吹き出して笑ってしまった。


 クソガキ共にも、彼にすらも驚かれ、全員の視線が集まったけと、我慢できんかった。


 すぐ、ザコ君達が怒りだす。


 石まで投げてきて、本格的に敵になったやつらを、彼はまるでなんでもないように返り討ちにしてしまった。


 何なら、石を避けているときにニヤリと笑っていた気さえする。


 少し悪いその笑い方は、かっこよかった。


 石も、パンチも、キックもすべて避けられ、自分たちだけ地面に倒されるザコ君達の苛立ちと声がデカくなっていった。


 それにイラついたのか、彼は初めて怒りを見せた。


「うるっせぇんだよっ!ザコどもがよぉ!!!」


 やっぱり、ヒーローのセリフではない。


 声もとても大きくて、僕の体がビリビリとしびれるみたいだった。


 静電気は好きじゃないのに、このビリビリは嫌じゃなかった。


 声に怯んだザコ君達は、叫んで余計に強くなった彼に、一瞬で全員膝をつかされる。


 圧倒的なスピードと強さで四人を蹴散らすその姿は、まさにヒーローのようだったし、ザコ君達が本当に“ザコ”になった。


「お前らなんか呪われて死ね!」


 そう言って半べそで走り去っていく姿は、絵に描いたようなザコぶりで、少し感動すらしてしまった。


 けど、腕の中で子猫が音も出さず鳴いて、その気持ちはすぐ消え去っていく。


 少しの間、逃げていくやつらのことを見ていた彼は、ゆっくり振り返って僕の方を見た。


 目があって、自然とお礼の言葉がでた。


「ありがとう。」


 本心からの言葉だった。


 人類にお礼を言ったのは、この地に来てから初めてだった。


「おう。ヒーローっぽかったか?」


 そう言って笑う彼に、ヒーローというよりヤンキーみたいだったとは言わず、笑ってごまかした。


 変な間ができたけど、彼が僕の腕の中にいる子猫を見た。


 助けてもらったし、理由くらい話すべきかと少し悩む。


 この、腕の中のぬくもりが冷たくなるまで、彼と話していてもいいかなと思った。


 「あの子達は、この猫を殺したかったんだ。」


腕の中の体温は、ゆっくり低くなっている気がする。


 何もできないくせに、僕は子猫をゆっくり撫でた。


 子猫を見ながら話すのは、心配だからか、彼に僕の顔を見られたくないからか。


「黒猫は不幸を呼ぶんだって。君は、こんな話聞いたことある?」


「あー。まぁ、ある気もする。」


「でもね。これって、解釈違いで間違って広がっているんだよ。」


 言葉の意味を、自分の感想によって捻じ曲げ起こる勘違い。


 本来の意味と全く異なったって、“よくある勘違い”ですんでしまうもの。


「黒猫は、あんこ猫って言われる“福を象徴する猫”だったんだ。」


 もしかしたら、興味ない話をしてしまったかなと彼の顔を見たけど、彼はちゃんと聞いてくれていた。


 目があって、聞いてるとでも言うように頷いてくれる。続きを促されてる様にも思えた。


 「そんな“福”に、見向きもされず横切られるなんて、縁起が良くないねってことだったんだよ。」


 彼は、純粋に驚いていた。


 その後、ニカッと笑う。


 笑うと、年相応というか、幼く感じた。


「なら、やっぱりあいつらをやっつけて良かったな。」


「そうかな。」


 えっ、と声を出した彼は、きっと助けたやつから否定されると思わなかっただろう。


 特に、本当に彼は“間違ったこと”をしていない。


 でも、どうしても、


 彼には、“正義”の危険性を知っていてほしかった。


 僕は、人と目を見て話すのが苦手だけど、頑張って目をそらさず話した。


「怖いから攻撃するって、生物の基本だから、あの子達が“悪”とは言えないんだ。」


 生意気だと怒ってもしょうがないのに、彼は怒らずじっと僕が続きを話すのを待ってくれていた。


 そんな彼を見て、人類に希望が持てる気がした。


「呪いとか、魔法とか、目に見えなかったり自分にない力が怖いのは当たり前で、その恐怖は根強いし、団結力も生む。恐怖の原因を自分たちで消して、初めてその恐怖から開放される人達はいるんだ。」


 ピンときてない彼に申し訳なかった。


 口下手だし、コミュ障だし、ほぼ引きこもりみたいな生活を送っていた僕は、伝えたい事があってもうまく言葉にできない。


 ララさんに甘えてないつもりでいたのに、かなり甘えて過ごしてきたんだと実感した。


 情けなくて笑えてしまう。


 それでも、なんとか伝えられるよう頭をフル回転させ言葉を探した。


 彼が、僕を理解しようとしてくれていることが、強く濃い群青色の瞳から伝わってきていたおかげでもあった。


「怖いものは、無い方がいいでしょ?だから、怖いものを殺して平和に暮らしたかった彼らにとっては、自分たちこそ“悪を倒す正義”のヒーローであって、それを防いでしまった僕と君は、敵対する“悪”なんだよ。」


 今度は、少し伝わったようでホッとした。


 でも、


「なら、お前にとっては?」


 そう問われて、言葉を失う。


 意味がわからなかったわけじゃない。


 まるで、自分は“僕の正義”でありたいと思っているような


 そんなことをないと思いたかったのに、彼は続ける。


「難しいことはわかんねぇけど、お前はそいつが傷つくのも、死ぬのも嫌だったんだろ。」


(違う。)


 何故か、口からでなかった。


 僕は、優しさでこの猫を助けたわけじゃない。


 助けようとすらしていない。


 違う…はずだ。


 違わないといけない。


 なのに、言葉がでてこない。


 焦って、戸惑って、息苦しくて、絞り出すように、こぼすように、言葉を吐いた。


「……この猫に、助けを求められたわけじゃない。」


「猫なんだから喋れないべや。」


 この国の方言で話す彼の瞳の色は、この国ではメジャーな寒色である青だ。


 なのに、今まで見たこともないと思えるほど新鮮で、でもどこか懐かしい真夏の空のようで


 目を、逸らすことができなくなった。


 少し、恐怖に似た何かを感じがして、ちゃんと考えもしないで喋り始める。


「今ここで助けても、結局またいじめられるかもしれない。黒猫なのは変えられないし、事故に合うかもしれないし、もっとひどい目にあって……」


 自分のごちゃごちゃしたものを彼にぶつけてしまっている気がして、うつむいた。


 心の隅っこで、彼から目を逸らせた事に驚いていた。


 なんだかもう色々ぐちゃぐちゃのまま、彼にぶつけるでもないのに吐き捨てるように言葉を吐いた。


「この猫にとって、僕は“悪”になる日が来るかもしれない。」


 急に、右腕をガシッと捕まれビクッと体が反応してしまった。


 そのまま優しく、でもしっかりとした力で引っ張られる。


 驚く僕を無視して、彼は歩き出した。


「えっちょっ」


 猫を落とさないようにしないといけないし、突然すぎだしで頭が働かない“ポンコツ”の僕に、彼は少し怒ったような声色で言った。


「俺んちで、そいつ飼うから。」


「え!?」


 そこまで言うとは思わなかった。


 お前も来いと、僕ごと引っ張っていく彼は、もしかしたら僕ごと拾ったつもりだろうか。


「あのっ」


 僕の声に足を止めない彼は、それでも僕の方を見てニヤリと笑った。


「俺が、その猫のこと幸せにしてやる。これで文句ね―だろ。」


 その言葉に、雷に打たれたような強い衝撃を受けた。


 周りの花びらが、僕の魔力でブワリと小さな嵐のように舞い上がり、僕達を包む。


 彼の足は止まる。


 僕は、自然と彼に問いかけていた。


「君の家族が、許さないかもしれない。」


「俺が、説得する。」


 やっとでた悪あがきのような言葉も、すぐ否定された。


(いいのかな。)


「この子一匹を救ったって、同じことを同じ境遇の子にしてあげれない。きりがないし、無理だよ。」


「とりあえず、そいつは助かるしょ。」


 気がついたら、僕は涙を流していた。


 もしかしたら、もっと前から泣いていたかもしれない。


 なのに、彼はこんな僕の手を引いて歩いてくれていたのだろうか。


「死は………僕は、死は、救済だと思ってる。」


 僕の本心だ。わかってもらえないことは知っている。


 わからないことは、否定していい。


 彼は、否定していいのに、変わらない態度だった。


 本当に、目が離せなくなった。


「なら、助かったらお前が嬉しいし、死んでもそいつは救われるってことだろ?どっちになったっていいってことだべや。」


 ヒュッと、自分の息を吸う音が聞こえた。


(嬉しいと、思ってもいいの?)


 このかわいそうな子猫が生きていることを、嬉しいと思ってもいいの?


 助けてくれるの?


 君はただ、今日会っただけのはずのこの子を。


 彼に、すがるように問いかけた。


「僕が、この子にとって悪になる日が来るかもしれないのに?」


 今日、死んでおければよかったと思うくらいなら……。


(だって、僕は魔王なんだ。)


 彼は、今度は笑わなかった。


 その代わり、腕を握る力が強くなる。


「俺は、お前を助けたことを後悔しない。絶対。この先ずっと。」


 何も言葉がでなかった。涙と魔力だけ漏れていく。


 止めなければいけないのに、必死になっても全然うまくいかなくて、最悪なことに、これが“嬉し泣き”であることに気がついてしまった。


「なぁ、お前にとっては、俺ってヒーローじゃねぇの?」


 もうほとんどギリギリの僕に、彼はまだ追撃してきた。


 「俺は、お前が悪でもなんでもいいけど、お前にとって俺って悪?」


 もう無理だった。


 もう見つけてしまった。


「俺は、できればお前のヒーローがいい…ん、だけど。」


 嬉しさで暴走する前に、逆に一回魔力を上げることにした。


 どうせ人類には風にしか見えていない。


 桜を思い切り舞い散らせ、そのまま僕達がいた、あの木の場所まで花びらが戻るようにする。


 彼を、しっかり見て聞きたかった。


 花びらが消え去って、彼の綺麗な青空の瞳がはっきりと見えた。


「僕を、救ってくれるの?」


 もう一度、彼は僕の腕を引いて歩き出した。


「しゃーねーなぁ!」


 前を向いたまま、それでもわかるほど自身に満ちた顔をしていた。


「俺が、そいつも、お前も、幸せにしてやる。」


(やっと会えた。)


 僕はその日、勇者を見つけた。


 その後、本当に彼の家で子猫を飼ってもらえることになった。


 子猫は、彼の6つ上の兄に汚れを落としてもらい、手当もしてもらった。


 その間に、彼と二人で段ボールの寝床を作り、ゆっくりと猫を休ませる。


 猫はすぐ寝てしまったけれど、呼吸も安定していて、あったかくて、安心した。


 隣から視線を感じ、横を見ると彼がじっと僕を見ていた。


 名前を聞いても、いいだろうか。


「ねぇ。名前…なんて言うの?」


「…ニケだけど。」


「ニケ。」


 自分に刻みつけるように、噛みしめるように、名前を繰り返す。


 嬉しかった。


 ニカに出会えたことが、とても嬉しかった。


「お前は?」


「ライラだよ。」


「…ライラ。」


(うん。ライラだよ。)


 僕は、初めて出会った君に、ひどいことを言おうとしている。



「ねぇ、ニケ。」


「何?」


「僕を、救ってくれる?」


 いいよと、嬉しそうに笑ってくれる君を、人類全てから感謝される、最高の勇者にする。


「僕は、魔王をこの世からの消して、完全な人類の勝利と平和をもたらす勇者を探してた。」


 驚くニカの手を、両手で握った。


「ニケに、手伝ってほしい。ニカが、勇者がいい。」


(ニカがいい。殺されるなら、最後に見つめることが出来る人は、ニカがいい。)


 どうか断らないでと、手に少しだけ力を込め、ニカの瞳を見つめた。


 誰に、どんなことをされても、人類誰一人殺さないし、君の大切なものも絶対傷つけないと誓うから。


 ニケの幸せのために、出来ることはなんだってするから。


 どうか、断らないで。


 僕の熱意を感じてくれたニケが、瞳をそらさず答えてくれる。


「お前も、一緒に頑張るなら、いいよ。」


「うん!!!」


 うっかり、大声を出してしまい、子猫を起こしてしまった。


 慌ててなでてあげると、またスヤスヤと寝てくれる。      


(ごめん。嬉しかったんだ。)


 もう一度、ニケを見る。


 やっぱり、ニケは僕から目をそらすことがなくて嬉しかった。


 僕の勇者、君に誓うよ。


「僕が、ニケを勇者にするよ。」


 神を信じていない。


 だから、ニケに誓った。


 僕の全てを捧げて、魔王のいない勇者のハッピーエンドへの道を作り上げてみせる。


「だから、絶対勝ってね。」


 ニケは、ニヤリと笑った。


「当たり前だろ。」


 その笑い方がかっこよくて、僕は胸が苦しくなるほど幸せになった。


 すごい。


 本当に僕のことを幸せにしてくれるなんて、有言実行記録が世界一なんじゃないだろうか。


 ニケに出会えた僕が、きっと世界で一番幸せだ。








キョウ (享年22) 職業 ケイさんの妻


好きなモノ (家族 海 食べること 歌)


嫌いなモノ (好きなもの以外)


ほぼ人類最強の女性。幼少期に愛する妹が権力を持ってるクソきもジジイに誘拐され、ブチギレて乗り込んだところ、捕まっているケイをたまたま発見し、ついでに逃がした。


そこから10年口説かれ続け、19の時に妊娠したのをきっかけに降参し結婚。


ライラが生まれてから吹っ切れ、夫であるケイの事をダーリンと呼ぶほど妻と母を堪能していた。

身長162cm、体重60kg、握力198の筋肉ムキムキ系女子。

人類の魔王と呼ばれるほど恐れられていたが、身内には優しく、気に入った人にあだ名をつける可愛さもある。


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