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ハリアモンドのザワつく日 後編

ハリアモンドの視点です!


幼馴染と一緒に0歳から愛して育てた妹兼娘(血の繋がりはない)であるスズが、ある日急にバリアと治癒の力を授かったことになり、しかも16歳になる前なのに妊娠までしていて、そのタイミングで魔王が攻めきてと大パニックどころではなかったハリアモンドは、唯一の心の支えである幼馴染すらそばにいてくれないので、ボロボロになりながらも家族を守り抜くために戦い続けた強い男です。

メンタルもダイヤと言われるほど強いですが、ダイヤは割れる時は割れます。

 俺とニケとの一戦は、長い時間を要しなかった。


 ニケの背が地面につく鈍い音が周りに響く。


 今この瞬間、俺が急所に刀を突き立てれば絶命することが明らかであるニケの状況は、完全な敗北で間違いなかった。


「「ニケ!!」」


 ぐっと小さく呻くニケに、ソウとコーラルが駆け寄ってくる。


 ニケは、むすりとした顔で起き上がった。


 敗北を知らないわけではない、驕りのないゆえの純粋な悔しさを滲ませた顔つきに、俺は自分の見立てが間違っていない確信と安堵を得る。


「ニケ。」


 呼びかけると、何?とぶっきらぼうに返すニケは、まるで俺が次に何を言うかわかっているようだった。


「ニケは、俺より弱い。」


 ニケは、若者らしくキレることも、絶望することもなく、真っ直ぐに俺を見つめ返して


「でも、俺が勇者だ。」


 と言い切った。


 続けてすぐ、「アンタもすぐに超すし」と付け加えられる。


 俺は、自然と微笑んでいた。


 ニケが勇者だという核心をつくことは出来ない。


 でも、ニケは今後何倍も強くなるという確信なら持てた。


 ニケの、魔王戦への本気も。


 今は、それだけでいい。


 見ている未来が同じなら、共に歩んでいける。


「俺の刀は、魔王に届かなかった。」


 俺より弱いニケが、魔王ヘ剣を届かせることができた事実が、俺の言葉を聞いていた周りの生徒たちにも現実として受け止められ始める。


「その剣を、調べさせて?その剣が特別じゃなければ、ニケが特別何だ。」


 ザワつく周りをあえて無視して、俺はニケに手を伸ばす。


「もちろん、ニケを疑ってるわけじゃないよ。上に報告するためだ。」


 ニケは、軽めに別にいいけどと言ってくれた。


 そこまでは予想していたけれど、目の前で剣を2つに折ってしまったのは予想外だった。


バキンと大きな音がして、「「はぁ!?」」とコーラルとソウの叫び声がシンクロする。


 何してんだニケ!とコーラルが怒ったけど、ニケは無視に近いくらいの態度だった。


 けして怒りや苛立ちからの行為ではなく、それが余計に周りに衝撃を与えた。


「魔王を傷つけたら、色々調べられる事は予想してたし、俺が勇者だって信じれねぇ奴らが出てくることもわかってた。調べられんのは、俺にとっても都合がいいんだよ。」


「だからって折らなくても。」


 ニケは俺の言葉に反応しないで、ちらりと俺の後ろを見る。


 まかみが、近づいて来ていることに気がついたらからだ。


 もしかして、ニケは半分まかみに渡してあげる気なのかもしれないと気が付いた。


 ニケはまかみに気がついていても、声を掛けることなく、すぐ俺に目線を戻した。


「元々、武器にこだわってねぇ。剣が一本折れただけで、勝利を絶望的だと思うようなやつは勇者じゃねぇだろ。」


 ニケと、剣を作ったであろうライラの覚悟に感心して、その通りだねと言ったけど、やっぱりなぜかザワつきのような違和感が出てくる。


 勇者の剣を、国が折ってでも調べると思っていたことになるニケの行動は、おそらくライラからの提案や話し合いで決まっていたことだ。


 ザワつきのように感じるコレは、そこまで国を信じられないほどなのかと、らしくもなくライラを哀れんでいだろうか。


 普通に、2人は人よりずっとたくさん考えてきたんだねと関心するだけで済むはずなのに、俺はそれができないでいたし、できない理由を見つけられていないもどかしさがあった。


「なんで折ったんや。わしならそのまんまでも十分調べたったのに。」


 そう言いながら、俺より先に剣を受け取ろうとしたまかみは、本来警戒心が強く排他的なのに、最初からニケと打ち解けていて安心すると同時に寂しさを覚える。


 まかみも、“国”というものに大き過ぎる不信感を持ってしまっているからだ。


 それをわかっていても、俺はまかみが剣を受け取るのをそっと阻んだ。


 思いっきり睨まれるその瞳を、俺が嫌える日は来ないだろう。


「せめて、半分にしよ?」


「ぁ゙ぁ?お前らなんかに渡したところで」


 怒るだろうなとわかっていたけど、ニケがまかみをなだめに俺たちの間へ入ってくれたことによってまかみの怒りは少し収まった。


「ケンカすんな。国に全部とか言ってねぇし、ちゃんと半分にしただろ。」


「え?わしのためやったん?わしに惚れとる?」


 そう言って自分を見上げる形になったまかみに、ニケは毛を逆立てる猫みたいな顔をして


「んなわけあるか!お前の腕はイーラが認めてるし、ハリーさんは国のトップだから、両方から調べられることで、俺が純粋に最強な人類の勇者だって証明されるから都合いいんだよ!」


 と怒鳴った。


 まかみは、そんなニケの話を聞いていたのかいないのか、「すまんな。タイプやないんや。妻にしたれん。」とだけ言ってニケから少し距離を取る。


 ニケは、そんなまかみに怒ったり呆れたりしないで、「一生そのままでいろ。」と言って俺とまかみの両方に剣を渡してくれようとしたけど、まかみは気に入らないようでニケの手を止めた。


 そこまでは予想できていたけど、その後の言葉は思ってもみなかった言葉だった。


「国として、わしに依頼しろ。」


 今まで一度だって、“国”の要請を受けたこのと無いまかみからの申し出に、俺は本当に驚いた。


 まかみは、ヤケクソやあきらめとは真逆の、しっかりと意思を持った瞳を俺に向ける。


 その瞳が俺に向けてもらえていることに、本心から喜びが生まれる。


 まかみが幼少期の頃から接してきたけど、初めて信頼を得られている気がした。


「わし以上の奴がおるなら、今すぐこの場に引きずり出せ。」


 そんなやついないよと言う前に、


「いやお前、俺の話生きてた?」


 とニケが確認していて、その確認はしょうがないなと黙っていることにする。


 でもまかみはどっちともとれる曖昧な返事をしてニケの方すら見ないから、ニケは少しため息をついた。


「両方調べればいいだろ。俺がキセキなのはしょうがねぇけど、キセキを信じられ無い全土の人達がいるのもしょうがねぇ。魔王がつけた傷も悲しみも、15年では癒やされたりしねぇほどでかくて深い。その分疑心暗鬼になるべや。」


「人類やゆうのを証明するのなんか、5分あれば余裕や。もし、魔王が死んでから疑心暗鬼や言うて手のひら返す奴らがおったとしたら、刺激に酔いたい加虐欲に溺れた性癖イカレ野郎共でしかあらへん。“魔族”ゆう体の良いオナホを作り上げて、最低で低俗極まりないオナニーにふけりたいケモノ以下の奴らが、意気揚々はびこる世界を平和って名前に書き換えるだけや。」


 まかみの包み隠すことのない発言にコーラル達はショックを受けていたけど、以外にもニケは怒りや呆れを宿さず、しっかりとまかみを見つめ返していた。


「そういう歴史を繰り返さないために、俺が最強の人類として魔王戦に完全勝利を掴むんだよ。俺たち目指す平和ってのは、俺たちの幸せが絶対条件だ。」


 まかみの発言は、第一次魔王戦の歴史ではなく、人類が繰り返し人類と争ってきた歴史からきている事がわかる。


 どうしても規模が大き過ぎる第一次魔王戦の歴史ばかりで、魔王の所業が残虐極まりないと教育されてきたけれど、魔王が来る前は人類同士で争い、差別し、人の所業とは思えない事件がいくつもあったし、魔力なんかない人類同士で、魔女狩りや悪魔狩り、魔族狩りなんてものまであった。


 でもニケも、まかみの言っていることの真意を理解していて、なおかつその負の歴史を払拭しようという強い意志を感じられた。


「意味あらへん言うことや。難癖なんかでっち上げれるで難癖やろ。」


「積み上げてきた事実と証拠を、俺達なら残せる。お前も、こいつ等も、ハリーさんを通して国民に見せつければ、全人類に文句を言わせねぇ立場ってのを手に入れられる。」


 ニケは、剣の柄の部分を床に置き、唯一の装飾であった美しい宝石のようなモノを取り外して、剣身を使い真っ二つにした。


「大切な人がいる奴ほど、“もしも”の怖さを消せねぇ。その気持ちは、俺もよくわかる。」


 そう言いながら、割った宝石を一つづつ俺とまかみに渡してくれる。


 ニケの意志がこもった瞳の強さは、まかみとよく似ていた。


 きっと、俺とも。


「魔王は、強い。俺たが敵対なんかしてて勝てる相手じゃねぇ。」


「うん。そうだね。」


 まかみの代わりに俺が返事をする。


 その後すぐ携帯通話機を使い、今日の出来事の軽い報告と、俺が勇者だと思える子がいること、 今日戻ったら詳しく説明することを話して通話を終えた。


 まかみに、国として正式に勇者の剣を調べてもらう要請を出すことも。


 

「まかみ、君に国…いや、聖女の騎士から正式に鑑定依頼を出すよ。」


 俺は、ニケにライラの分析器を今使えないか聞いた。


 ニケが呼んだら、まるでライラ自身のようにシャコシャコと急いで小さい箱がこちらへやってくる。


「技術科と、国の両方で調べたってことにできるね。」


 俺がそう言うと、ニケは頷いてくれる。


 ニケがコレ調べて言うと、箱からニョキッと小さい手が伸びてきて剣身を受け取った。


 手際よく分析されるのを見守っていると、本当にすぐピーッと音がなって検査結果が出てきた。


 俺はその紙をしっかりと右胸のポケットにしまう。


「これだけ、持ち帰って専門家に見せてみよっかな。キレイな宝石だ。」


 半分になっても美しさを損なわない黄金色の宝石は、何だかベッコウ飴に似ている気がするなと思っていると


「終わったら、返してください。」


 と後ろから来たたまきから声をかけられた。


「せめて、元通りに戻します。」


 たまきがそんなことを言い出すなんて、珍しいなと思った。


 そして、それについて全く不満を持たないまかみにも。


「たまさぁん、こんなおっさんと喋らんでえぇからぁ。わしにかまってぇ。ちゅ~してぇ。」


 まかみの顔がたまきに近づけることはなく、いつもより強めのラリアットをくらって地面に突っ伏した。


 仲がいいのにドライなニケ達は、突っ伏したまかみを助け落としたりしないで、たまきのほうへ視線を送る。


「剣はイーラが新しく作ると思う。その石もスピーカーかなんかだと思うし。」


「スピーカー?これがぁ?」


 ラリアットで突っ伏していても、ニケの発言に一番に反応したのはまかみだった。


 俺も、スピーカーだとは思いもしなかったけど、ニケが根拠なく言っているとは思えない。


「なぜ、剣にスピーカーが?」


「あいつが、俺を応援したいのはしょうがねぇ。」


 たまきの質問に淀み無く答えるニケは、石からライラの声を聞いていたんだろう。確認をとるため、俺からも「ニケを応援したり、指示をくれるの?」と聞いた。


「普通に、頑張れニケって聞こえてくるだけだけど。」


「「普通に?」」


 ニケはこの剣をいつも使っていたから当たり前だったかもしれないけど、剣にスピーカーは斬新だから、たまきとソウ達がおんなじセリフを言って不思議がる。


 まかみは、持っているスピーカーと言われた宝石をじーっと見た後、ベロっと舐めた。


 何してんだ!と怒るニケをまかみは片手でなだめる。


「いや、コレ石やって。鉄の味まったくせん。コレがスピーカーやって、チビが言うたん?」


「…言ってはねぇけど。」


 まかみは、なら声はこっちから聞こえとるはずやと剣の柄の部分を観察し始め、剣を見たまま


「マージで、魔王の鎧って何で出来てると思う?」


 とニケに聞いた。ニケは少しだけ考える素振りを見せ、


「特別な素材とかではねぇと思う。魔物と一緒で力が入ってるから硬い感じ。プラではないと思う。」


 ニケの返答を聞いたまかみは、ちらっと俺の方を見た。俺もその可能性が高いと思っていたから頷くと、すぐに視線を戻し、指でつーっと剣をなぞり始める。


「初代の時とデザインがな……。」


 まかみの言いたいことがわかって、俺も頷いた。


「作風というか、違うよね。父親と性格が違うのか、正確には息子というものじゃないのか……。」


 俺は、もう一度キレイな石を日光に当てるようにして見つめた。


 まかみの言った通り、機械類が一つも見当たらない純粋に透き通った石は、日光を浴びてキラリと光った。


 その色と輝きは、ベッコウ飴以外でも見覚えのある気がする。


「もしかしてライラって、俺のことめちゃくちゃ好きだったりする?尊敬してくれてるとは思ってたけど。」


 ニケに「は?」と言われたけど、俺はニケにもわかってほしくてニケの方をみながら、俺の目元に石を持ってきた。


「だってほら、この石俺の目の色そっくりじゃない?わざわざ俺の目とそっくりの石を探し出すってことはさ、」


「髪の色だけど?俺の。」


 ニケに言われ、それもあるなと思った。


 やっぱり、ニケには他人事でないものを感じる。


「これで……まかみさんとちゃうんか。」


「たまさんどぉした?あのチビわしに気があんの?」


「ねぇって話なんだよ!あいつはホモじゃねぇからサルもハリアモンドも好きとかねぇ!」


 怒るニケをソウがなだめて、コーラルがまかみたちのほうにフォローを入れる。


「ライラは、恋とかじゃなくて、二人の恋……いや、二人が仲いいのが嬉しいんすよ。」


「両親の面影重ねてるとこはあるべや。ニケも気づいてんでしょ?」


 ソウに言われたことが図星だったようで、ニケはすぐ大人しくなったし、たまきも不快ではないようで、でも複雑なのか何も言わずまかみの方をじっと見つめた。


「え?たまさん誘っとる?今からベットで子作りしにいく?」


 ガスっといい音のする肘打ちをくらわせたたまきが、まかみを冷たく見下ろした。


 その瞳に、冷たい気持ちだけなんて単純じゃない想いが詰まっているからこそ、純粋にたまきを想い続けるまかみへの怒りや、やるせない想いが膨れ上がってしまうんだろう。


 どうしたって、人類には性別の壁はある。


「ホンマに、あの子のオトンはこんなんやったんか。」


「サルと違って、泣いて結婚してって頼んだらしいけど。」


「泣けばえぇならどんだけでも泣くわ!!」


「…俺には、意味あらへん。」


 いけずぅ。すきぃ。と言いながらたまきの足元にすり寄っているまかみは、サルというあだ名だけど、かわいい犬のようだ。


「ライラの父が犬系の人なのかな?もしかしてライラって父似?かわいい系だもんね。」


 ニケは返事の代わりに手を差し出してきた。


 握手のタイミングじゃなくて困惑する俺に、ホモ疑惑が無くなるまで駄目と言ってライラの石を取り戻そうとする。


 慌ててすぐ弁明して、妻一筋30年なことを伝えたけど、どうやらライラをかわいいと言ってしまったのが、ニケの中でアウトだったようで納得してくれない。


「一般的な話だって。一般的にライラってかわいい系じゃない?」


「そんなわけねぇだろ。」


「おっさんふざけんなよ。わしらの子猿に近づいたら八つ裂く。」


 俺はまかみの言葉に、魔王の襲撃以上の衝撃を受ける。


 まかみが遂に全ての技術を駆使して、たまきとの子供を生み出していたのかと一瞬思ってしまったからだ。


 でも、たまきの顔から事実ではないと伝わったし、よく考えるとニケもライラも別に両親がいることを伝えてくれていた。


 でも、一瞬本気にしてしまうほど、一瞬どころじゃなくまかみが本気だ。


 こんなまかみを、今まで見たことがなかったし、見る日が来るなんて思ったこともなかった。


「あいつの両親はいるけど……、あいつはあんた達が子猿って言っても素直に喜ぶと思う。」


 ニケが強い言葉を使いしっかり否定しない理由は、男同士であるまかみたちに子供が授からないとよく理解していて配慮した証だった。


 それが正解だったのは、複雑そうだけど侮辱的だとは思っていないたまきが、まかみの怒りを上手に鎮めたのを見ても明らかだ。


 なのに、俺の中のザワつきが大きくなってしまう。


 排他的なまかみが、ライラの目の色だけでこの世で一番愛しているたまきの子だと錯覚するなんてことがあるのだろうか。


 まかみを長年恋愛対象として見れないと突っぱね続けているたまきが、まかみと自分の子なんてありえないことを言われ、少しの嫌悪もうっとおしさも感じないなんてことがあり得るのか。


 俺が、こんなにもライラの両親をはっきりさせたいと焦りに似た気持ちを持つのはなぜなのか。全て本当に偶然や考えすぎからくるものなのか。


 どこかボタンをかけ違っているような、正したほうがいい“ナニカ”がある気がしてならないし、いつもならすぐ見つけ出せるその“ナニカ”がわからなくて自分自身に苛つきを感じる。


「お前は、幼馴染をホモに巻き込まれるのが嫌なんやなかったんか。」


 そう言うたまきに、ニケは本当になんの含みも無い顔を向ける。


 その顔は15歳の少年らしいもので、この場にいる子たちは全員10代だという当たり前なことを再認識させてくれた。


 大人である自分がしっかりしなければいけないと気を取り直す。


「ホモに巻き込む気なら止める。でも、家族みたいに愛すのを止める理由なんかねぇだろ。あいつは喜んじまうし。」


 言葉を失うたまきも、それでこそニケ!と言いながら背中を叩き、倍返しにされるソウも、そんな皆んなを見て幸せそうなコーラルも本当にいい子たちだ。


 俺はザワつきを一回しまって、フラットな気持ちになるために小さく深呼吸をした。


 見えるものも見えなくなっては、騎士失格だ。


 俺は状況を整理し、自分の中で今最善の行動を導き出してから、ニケ達の名前を一人一人呼んで、俺の方を見てもらった。


 まかみ以外が俺を見てくれている確認をしてから、俺は聖女の騎士ハリアモンドとして、皆に告げる。


「今日の出来事を、国へ報告する。勇者候補として、ニケが正式に国から認知されることになる。」


 勇者育成所は、けして一人の勇者を探し出すために設立したわけじゃない。


 今だって、ニケにだけ魔王の討伐を任せる気なんてない。


 全人類の未来を、たった一人の15歳の少年に押し付けるような奴は、例え神であっても用水路のドブ以下だ。


 それでも、ニケが勇者だと言うのなら


 ニケにしか魔王を討伐できる力が無いなんてことになってしまっているのなら


 ニケが魔王だけ見て走っていける道を、俺達が切り開いていく。


 コーラルやソウの顔からも、ニケにもたれかかるなんて気が一切ないことが伺えて、人類の未来は捨てたもんじゃないなと自然と笑顔になれた。


 この子達なら、会わせてもいい。


 いや、会わせるべきだと思えた。


「勇者と、その仲間たちであると正式に国が認めたら、聖人とその騎士にあってほしい。」


 3人、正確にはソウとコーラルがニケを挟んで顔を見合わせ笑ってから俺の方を見た。


「どうせ、その2人は俺達のチーム入るから。」


 笑わなかったニケは、当然のように言った。


 コルトキノスは人見知りで警戒心も強いし、人の好き嫌いが激しい上にツンデレだから、ニケと上手くいくかは正直不安だったけど、何だかその不安も杞憂に終わる気がするほどだ。


 きっとあいつと似ているニケを、コルトも気にいるだろうなと思えているのも大きい。


「ニケ、疑ってるとかじゃなくて一回ニケのお母さんと話せないかな?本当にニケがあいつの息子でもおかしくないんだよ。」


「携帯で写真撮ってあるけど、まじでハリーさんの言ってる感じじゃねぇぞ。」


 そう言って見せてくれた写真には、キレイに微笑んでいる美しい女の人が、夫らしきイケメンと仲睦まじく寄り添っている。


 確認していたからわかっていたけど、改めて見ても、骨格からしてもうあいつではなかった。


「本当だね、すごい美人。これは100%違うって言っちゃうのもしょうがないよ。」


「なぁ、ハリーさんが失礼すぎて避けられてんじゃねぇの?」


 優しいコーラルに少し睨まれながら言われてしまったけど、コーラルだって会えばわかってくれると思うから、俺は軽くそんなことないよと言うだけに留めて、ニケに写真を見せてくれたこへのお礼を言った。


「聖女の騎士がどこの女探しとんねん。魔王がメスやゆぅウワサはホンマなんか。」


「「え!?」」


 コーラル達が驚くのも無理はない。


 そんなウワサ流させた覚えはないのに、耳に入っているまかみに驚きと頼もしさを感じざるを得なかった。


「どこでそんな“ウワサ”を耳にしたの?この話って最近ボケ始めてる大神官が、俺達数人しかいないところで騒いだ内容なのに。」


「ボケ始めちゃってんの!?そんな人が国のほぼトップにいたら混乱を招いちゃうべや!!」


 元気に正しい事を言ってくれるコーラルに、だよねぇと俺も大きく頷きながら肯定して、もう一度まかみを見た。


 まかみが下手すれば、俺以上に大神官への不信感を持っていることは、態度や顔から十分わかっていたから、深く追求をしないでおく。


「ハリーさんが探してんのって、幼馴染のことだべ?」


 ニケが心配そうに聞いてくるから、俺は安心してもらえるよう笑って頷いた。


 まかみが、遂に嫁に逃げられたかと言うから、そこはしっかりと違うことを伝えておくけど、舌打ちをしてそっぽを向かれてしまったのでヤキモチを焼かせてしまったのかもしれない。


「その幼馴染ゆー奴を、次の人類の裏切り者として国の罪を背負わせて消すんか。」


 本当に、まかみはどこまで知ってしまっているんだろうと心配になるけれど、あいつを心配してくれていることに嬉しさを感じてしまった俺は、どこまでとか詳しく聞くのを今度にまわして、不安をなくしてもらうためにあいつを消せる人類なんかいないよと事実を言った。


「あいつ、俺以外に負けないから。」


 急に、こーちゃん!!と言いながら俺を指さしたソウに、コーラルが悟ったような顔をして


「女の人ってつえーから。うん。俺も8歳の妹に口で勝てねぇから。」


 と微笑ましいことを言っている。


 コーラル達があいつに会ったら、想像の150倍は強いやつで驚くだろう。


 そんな姿を早く見たかった。


 魔王が出現したし、もしかしたら今日帰ってくるかもしれないと古い方の携帯を見たけど、あいつからもスズからも連絡はない。


「時間もいい頃だし、この石だけ調べるために持って帰っていいよね?ドローンの映像もあると会議が楽に進んだけど、ドローンって呼び寄せたりできるかな。」


 今まで静かだったライラの分析器がウィンと音を立ててまた小さな手を伸ばしてきた。


「え、ライラいいよ。俺が調べるし。」


「イーラが動かしてねぇよ。石を調べるって言葉に反応して動いてる。逆に今あいつに話しかけてもちゃんとした返事返ってこねぇから、ドローンの映像は学校のPCに共有されたやつ持ってけよ。」


 ニケの言葉が真実かはわからないけど、ニケは嘘をついているつもりがないから頷いて、石は渡さず小さな手とさよならまたねの握手をした。


 この小さな手が、幼かったスズやコルトを思い出させる。


「あの子、心の声全部喋りながら作業するって技科では評判やけど、ずっとそうなんか。」


 たまきがそうなことを言うから、半信半疑でニケを見たけど、ニケだけでなくコーラル達まで覚えがある顔をする。


 その顔は何だか、心配をかける末っ子をかばう兄のような顔だ。


「今までは、一人で作業してたから………。これからは気をつけさせる。」


 元々、嘘がつけなさそうだなぁとは思っていたけど、そこまで警戒心が薄いのかと心配していると、足をがっとまかみに蹴られる。まかみの方を見ると、入れろと言われて宝石のことだと気が付いた。


「国の5年は先にきとる。わざわざ原人のなりそこないに渡す意味なんてあらへん。」


「5年かぁ、すごいなライラも。」


 本当にそう思った。


 あのまかみが言う程なのかと、純粋に嬉しくなる。


 俺は小さな手に石を落とさないよう握らせた。


「ライラ、すごいじゃん。よろしくね。」


「いやだから、イーラは今聞こえてねぇって。今ドローンもあっちだし。」


 本当はドローンも借りたかったなと技術科の校舎を見ると、そのタイミングでもうピーッと音が鳴り、分析が終了した合図と分析結果の紙が出てきた。


 俺が紙を取る前に、まかみがビッとやや乱暴気味に取って、見ながらん゙~〜?と眉間にシワを寄せる。


「まかみ、どうしたの?」


 まかみの持っている紙をちらりと見て、琥珀であると検査結果が出ていたことに俺も少し驚いた。


 手で持っていた感覚的に、琥珀だとは思わなかったからだ。


 コーラル達も検査結果を見て、石じゃ無かったのかと軽く驚いたりしていたけど、そこまで深く疑問に思っていなかった。


 俺の感覚だって、100%なんて言えない。


 むしろ、成分を分析する機械のほうが正確なはずだ。


 でも、まかみが同じ引っ掛かりを感じていることが気になった。


 ニケは、まかみの持っている石をお前は食う可能性があるから返せと取り返そうとしていて、それにまかみは不信感を持ったりしていないから、また違和感みたいなものを感じる。


 検査結果に不満や疑問があるなら、それを自分で調べる機会を無くそうとするニケに何か思っておかしくない。


 でも、本当にまかみからはそういった感情を感じなかった。


 それでも、ニケに石を渡すわけでもないから、ニケは本当にまかみを心配しているとまかみ本人にも伝わっていて、ニケが不安になったり疑心暗鬼にならないよういなしてるともとれる。


 そして、ライラはこの石だけ調べたとき検査結果を違わせる細工を元々分析器にしていたことになるし、それをまかみは見抜いていて、俺にバレないようにしているともとれた。


 嘘がつけないと仲間たちに思わせるのも、分析器が優秀だとまかみが思うほどの実績を作っておいたことも、この石のことを隠すためだと言われたって、辻褄はあってしまう。


 俺は、あれこれ悩んでも確かめるより意味をなさないと、まかみが石を調べられるようにするか、やっぱり俺が独自で調べられるように話を持っていこうと決めたけど、それを言う前にまかみがニケに


「お前、コレ食ぅたことある?」


 とふしぎなことを聞いたから、その真意を探ることにした。


 普通、琥珀を食べるかという質問は浮かばない。思いつく人もいないだろう。


 さっき舐めていたまかみだから気がつけたことがあるかもしれないけれど、舐めてわかる鉱物をここまで綿密に計画して琥珀だと思わせる意味を思いつかない。


 毒のある鉱物や、毒が塗ってある場合を除いて。


 でも、毒があればまかみがつばすら吐かないとは思えないから、やっぱり思いつかなかった。


 なんなら、ニケが口にする可能性が高いものは、どう考えてもこの剣の装飾品じゃない。


 持つだけで体に染み込む毒もあるにはあるけど、だとしたら剣のグリップに塗る。


 やっぱり、状況的なことを含め考えても、ライラの人柄を俺が見抜けていないとは思えなかった。


 じゃあ、もう後はスピーカーをバレたくないがために隠してるくらいだし、その理由は恥ずかしいとかそんなものだ。


 そっちのほうが可能性として十分高いけど、スッキリさせるために俺が調べる方向へ話を持っていきたかった。


 まかみの食ったことある?という問いに対して、ニケの返答は当然「ねぇけど?」だったけど、そのニケの顔は、我慢して食べてませんけど?みたいな顔だった。


 まかみはそれを聞いて


「なんで食わんのや。」


 と聞くから、俺だけじゃなくたまき達も「「えぇ?」」と困惑の声をあげる。


「イーラが心配するからだべや!!あいつは人一倍俺が口にするものに気を使ってんだよ!!石食ったって言ったら俺が大丈夫って言ったって、最悪信じねぇ!!」


 と怒鳴る。


 ニケのセリフを頭の中で反芻させてみたけど、やっぱり食べたいけど我慢してるになっていて、俺の違和感が不思議なものに変わってしまった。


 スピーカーどころか本当にベッコウ飴をレジン液か何かで固めてあったかもしれない。


 でも、逆にライラならあり得そうな気がする。


 宝石は高くて買えなかっただろうし、自分でベッコウ飴を作って固めて装飾として飾っていても、何だかしっくりくる気もした。


 それでも、俺の中で違和感が消えなかったのは、食べ物を装飾に使う子ではないと思う気持ちが強かったからだ。


 じゃあ、本当にベッコウ飴(仮)はなんなのか。


 俺はもう、素直にまかみに聞くことにした。


「まかみ、検査結果と思ってた成分が違ったってこと?」


「お前の目が節穴何やろうな。」


 冷たい目を向けられ、慌てて弁明する。


「いやいや、ライラの作った機械を疑うとかないよ。まかみが食べたほうがいいと思う何かあるのかなって。」


 なぜかニケが悲しそうな顔をした気がしたけど、理由を聞く前にまかみが吐き捨てるように


「ホンマに何言っとるかわからん。宇宙語かなんかか。」


 と言って俺から距離を取ろうとするから、俺のほうが意味がわからなくて困惑しかなかった。


「先生すいません。こいつは五感で調べるクセがあるんですが、全員がそうじゃないという常識はないんです。」


 たまきがそうフォローしてくれたし、その通りかもしれなかったけど、なんだかまたまかみから俺の信頼がなくなった気がして、理由を必死になって探した。


 ニケの悲しげな顔しか思い当たるフシがなくて、ニケに向き直ろうとしたけど、たまきにこんなおっさんと喋らんでぇと引っ付いていたまかみが蹴り飛ばされ、ニケの視線も意識もまかみに移ってしまった。


「ライラ君のオカンはよー結婚したな?」


 ニケはさっき見せた悲しみなんか見間違いだったと思わせるほどいつも通りで、まかみを起こしたりするわけでなく、たまきに


「ラブラブだったらしい。ダーリンって呼んでたって。」


 と言った。


「ダーリン!?お母さんも相当かわいい人だね!?」


 思わずそういった俺に、ニケは目を合わせた。


 その時、直感のようにさっきニケは俺が“嘘をついた”と気がついて傷ついたんだと気が付いた。


 ライラの機械を疑ってないと言った俺に失望したのだ。


 俺の嘘を、あいつ以外見抜けなくなったほど、俺は嘘と共に生きてきた。


 あいつもそうだ。


 嘘も、俺達の大切なものを守るための武器の一つだった。


 でも、俺を信用しようとしてくれていたニケには、ショックだったんだろう。


 俺は弁明…いや、謝罪しようと瞬時に思えたけど、その前にまかみに


「お前がかわいいとか抜かすな!!わしのや目ん玉ぶち抜くぞ!!」


 とキレて飛びかかってきてしまった。


 まかみを片腕で止めたニケは、小さくため息に近い深呼吸をしてまかみに落ち着けと言った。


「そいつのことじゃねぇよ。そいつ美人系だし。」


 暴れるのをやめたまかみは、じっとニケを見て、少し複雑そうな顔をした。


「ホンマにやめて?え?わしに抱いてほしいの?」


「俺は男だって言ってんだろ。」


 そう言ってニケはまかみを下ろす。


 ようやくニケに謝れるなと思ったら、まかみが


 「え?お前セックス知らへんの?」


 と聞き始めて、さすがに謝れる空気ではなくなってしまった。


 しかも、慌てるとか恥ずかしがるとかしないニケは、


「それくらい知ってるわ。普通に中学で保健の授業あったろ。」


 と逆に年相応じゃない事を言って、ソウが「ニケお前マジかよ!!」と叫ぶ。


「え?お前らのとこの中学保健の授業ねぇの?」


「あるけど!あったけど!えぇ!?本気⁉授業の知識のみ!?」


「…普通に皆そうだろ。エロ本とか18歳からだし、アレは男の欲望を叶えてるやつだから、9割事実と異なるフィクションなんだぞ。」


「誰っ、ニケにそんな正しすぎる事を教えちゃった奴は!!ライラ!?ライラでしょ!!」


 テンションが上がりすぎちゃった、逆に年相応なソウは、ニケに思いっきり回し蹴りをくらって、その後コーラルにも軽くはたかれた。


「正しいなら正しいだろ。イーラはこんなことで嘘つかねぇ。」


 ニケが嘘に敏感なのは、ライラが正直だからなのか、ライラが正直なのは、ニケが嘘に敏感だからなのか………。


 とにかく、こんないい子たちの心を今後傷つけないように、傷つけてしまったらしっかりとケアできるようにしないといけないなと思い、久しぶりに大人でいることの難しさを実感した。


「あの救護科の子に手を出したいとかあらへんのか。」


 たまきがそんな事聞くことあるんだ!と思った俺は、また謝るタイミングを逃してしまったし、


「握手とかは…付き合ってから、するし…。」


 と、いつものニケどこ!?くらい可愛くもじもじし始めるピュアさに危うく浄化されそうだった。


 同年代であるソウ達は俺と違い、


「「ニケ、お前……。」」


 と心配と引いてるを半々な感じのリアクションだし、まかみは思いっきりニケを指さしながら


「あいつチンコついてへんのやない?心にチンコあらへんくない?」


 と子供が珍しい虫でも見つけたみたいになっている。たまきがやめたれと言って軽くはたいたけど、たまきも信じられないものを見ているみたいな反応だった。


 ニケなんて、まかみの心に〜というセリフにピンとこなかったらしく、心に?とか聞き返していて、ちょっとどうにかしたほうがいいと思ったソウが、いつもはハリーさんと言ってくるのに、わざわざ


「先生…。」


 と言ってニケの方に視線を送る。


「いや、ニケはこれで良いよ。お嫁に行くのなんか俺を倒せる奴が現れたときでいいと思う。」


「先生?ニケがもらう側ですけど?」


「チビのことは食うてへんの?」


 ソウとまかみのセリフがピッタリ同じタイミングで重なる。


 まかみのセリフだけ聞いたのか、大切な幼馴染との仲を邪推されたのが嫌だったのか、ニケは今までで一番真剣に怒って食うわけねぇだろ。と言った。


 そりゃそうだよねと俺達皆が思ったけど、


「お前もまじで一回でも噛んだりしたら、全ての歯を抜くからな。」


 とドスのきいた声を出したニケが、まかみと会話を成立させてない事実に驚愕し、全員が


「「「歯……。」」」


 としか言えなかった。


 歯ということは、食事の食べるであると理解したからだ。


「歯にどんだけバイキンいると思ってんだ。歯磨きしたからしていいとかでもねぇけど。まじで一回でも全部抜くからな。」


「えぇ?神とかいう意味わからんもんに、性欲消されてんの?勇者やから?」


「なんで歯磨きの話が性欲になったんだよ。」


 まかみとたまきが本格的に引いているのを察知したのはコーラル達の方で、「魔王倒した後告白予定なんで!!」とフォローしている。


 まかみ達は引いてたけど、俺はニケの気持ちもわかってしまっていた。


 俺も、幼馴染に性欲を向けるという発想自体がないからだ。


 もう、俺の中であいつの性別は“キョウ”だ。


「誰に告白するって?」


 とたまきに問われたニケは、それはと短く言って救護科のある方を見る。


 そのニケを見るたまきがどんな気持ちなのかは、きっと俺には理解できても共感してあげられる日が来ないだろう。


「たまさん?なんでそんなかわいー顔でそいつのこと見とんの?え?わしそいつと決闘?」


「その石の検査結果に、疑問あるんか。」


「あらへん。たまきが欲しいしかない。」


 たまきは、まかみの手から琥珀をとり、自分で分析器を開けて中に入れ、ビーッと鳴りながら紙を吐き出すその箱に、紙を受け取らず


「主のもとへ帰ってあげろ。」


 と優しく命令した。


 ライラが作ったからか、箱は素直にシャコシャコと帰っていく。


「たまさん色っぽくない?わし誘われとんのやない?」


「今日はこのサル、使いもんにならんので失礼します。」


「えぇ⁉今日⁉初夜⁉マジで⁉」


 喜ぶまかみをおいて、たまきは振り返らずにスタスタと寮の方へ帰っていく。


「マジなわけあるか。」


「嘘やん!!上げて落とす!!」


「上げてへん。1mmも。」


 うえーんとギャグチックに、でも本当に涙を流しながら帰っていくまかみを見ながら、コーラルはなんだか気まずそうに、ソウは同情と心配を混ぜた視線を送り、ニケは


「もしかしてあのサル、男同士でも子供できるって思ってんのかな。授業聞いてなさそうだし。」


 と本気で言っていた。


「「そだねぇ。」」と息ぴったりで返してあげるコーラル達は、やっぱりいい仲間だ。


「ニケ、さっきはごめん。」


 俺が謝ると、ニケは理由をすぐ思いついたのに、なんのごめんと聞いてきて、そんなところが本当にあいつに似ていたけど、あいつより全然可愛げがある。


 俺はニケとして、この子を気に入っているなと実感した。


 だからこそ、素直に誠実に謝った。


「さっき、ライラの機械を疑ってないってまかみに言ったこと、嘘つきだと思われてもしょうがなかった。ごめん。」


「俺は、聖女の騎士だから、愛する家族を守りたい。だから、絶対魔王に勝ちたくて、どうしてもこうなったら嫌だって未来も考えるし、それを見ないふりして後悔なんかしたくないから、これからも疑うことも、探ることもやめられない。」


 ニケは、またため息みたいに小さく深呼吸して


「うん。わかった。」


 と言った。


 それは、今後は俺も疑うぞだと怖いなと思ったけど、ニケの顔に嫌悪感も不信感も見当たらなくてホッとする。


 大切な人がいる人ほど、もしもの怖さを消せない気持ちはわかると言っていたから、わかってくれたのかもしれない。


「ライラにも、わかってもらえるように努力するよ。わかってくれるくらい信頼してもらえるように誠実でいる。」


 コーラルとソウも、ホッとした顔を見せてくれて、聡いこの子達を安心させて上げたいなと本心から思えた。


「あ、でもあの琥珀をなんで食べたかったの?」


「………。」


「もちろん、ライラに内緒なら言わないよ?」

 


 ニケは、すごく複雑な顔をした後、ボソッとベッコウ飴に似てるからと言った。


「やっぱり、ニケはこのままで良いよ。悪い虫とかつかないように俺も長生きしなきゃね。」


「先生、ニケが虫側です。」


 こんなに可愛い子が虫なわけないと思う。


 ライラまでこんな感じで育ってたら、魔王戦後二人共俺の養子にしようと決めた。


 急に俺に息子が2人も出来てたら、あいつはどんな顔するだろうか。


 あいつの珍しくびっくりする顔が見れるんじゃないかと、俺は久しぶりにワクワクした。



鳥の魔物 分類(魔物) モチーフ(ハゲワシ)


砂でできた鳥の魔物。

始めてライラが魔物として勇者育成所を襲わせた個体。

砂はめちゃくちゃ深い地層のものをわざわざ乾燥させて作ったもので、どこの土地の砂で作っているか特定できないようになっている。

見た目は真っ黒で、ボロボロの傘のようなギリギリ鳥に見える化け物だが、ライラは割と真剣に鳥を作ったつもりである。

怖がらせる目的はたしかにあったので、強いモチーフにしようとハゲワシを作ったが、ニケ以外にはハゲワシだと思われもしない出来になった。

ハゲワシなのにハゲだと可哀想だからと、ライラなりの優しさでトゲを生やしたり、首と足が長いほうがかっこいいとグネグネに伸ばしたり、鋭い爪を気分でデコレーションしたので、一見どころか何見してもハゲワシには見えない出来になったが、ライラは作った本人なのでハゲワシ以外に見えていない。

鳴き声は、喉の部分をガサガサのハーモニカをイメージして、割とこだわって製作したのでライラは気に入っている。

こだわった分、かなりの不快感と恐怖を与える出来となったが、ライラ的には怪獣的な強さを演出できたと思っている。

実際はホラーゲームのラスボスのような見た目。

コレが最初の魔物では、今後どんな恐怖をもたらす魔物が出現してしまうのか全人類気が気ではないが、作っているライラ本人は怖すぎないレベルを作れていると思っているし、それは一切怖がらないニケのせいでもある。


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