ハリアモンドのザワつく日 前編
聖女の騎士、ハリアモンドの視点です。
明るく社交的で、メンタルが鋼超えてダイヤの男ですが、ダイヤなので割れる時は割れる繊細さも持ち合わせています。
5月18日、午後15時48分。
勇者育成所の上空に、異常を観測。
不自然で気味の悪い色彩のオーロラ。
この北国に似つかわしくない、肌にまとわりつくような不快感のある風。
それらに守られている繭か卵のような、約3mの黒雲の渦が突如姿を現した。
「おー。おー。」
それを見て、どこか“あいつ”に似ている自称勇者の少年ニケは、恐怖など微塵も感じていない、いつも通りの様子だ。
「やけに今日は派手じゃねぇか。」
初代の魔王が出現した際、こんな演出のようなものはなかったし、魔王ではなく、魔物が出現する可能性も十分高いはずだった。
それにもかかわらず、俺含め数名は、“この渦の中に魔王がいる。”そんな勘に近い何かを持っていた。
1分12秒後、黒雲を薙ぎ払うように現れたのは、予想通り魔物とは一線を画している漆黒の甲冑に身を包んだ存在。
2mはある巨体を覆うアーマーは、黒曜石で作られているような鋭い光沢を放っている。
今の人類の技術では、30kgはあるはずのあの装備をつけて、なんの仕掛けもなく宙に浮くことは不可能だ。
その不可能をもろともしない存在を目の前にして、誰一人声を出せなかった。
「ようやく会えたな。」
そう言って、いつも通り剣を構えるニケ以外。
彼は、勇者を自称している。
待ち望んでいた様に取れるセリフは、上空からこちらを見下ろす存在が魔王本人であるなら、彼の宿敵と言えるからだろう。
魔王が出現して10秒も経たないうちに、技術科であるニケの幼馴染達が開発した避難誘導アンドロイド達が、グラウンドで訓練していた救護科の生徒たちを校舎へと避難させる。
まるで、その様子を見届けるため待っていたかのように、漆黒の存在は出現してから静寂を守ったまま宙に浮いていた。
その静寂すら、計算だった可能性が浮上したのは、俺の携帯通信機が鳴り響いた後だ。
通信機から聞こえる“魔王が人類の塔に出現した。”という知らせは、俺だけではなく、聞こえていた周りの勇者科の生徒たちにも衝撃を与える。
直ぐ画面を切り替え確認すると、スズ達のいる人類の塔の上空に、俺達の目の前にいる存在と全く同じ漆黒の甲冑が映し出された。
この映像を見た生徒たちの不安と困惑が一気に広がり、士気が下がったのを感じる。
でも、そんな生徒たちを鼓舞する必要は無かった。
「多分、こっちが本物だけどな。」
そのニケのセリフは、ただの勘と言えるものでしかなかった。
それでも、そんないつも通りを貫くニケに、コーラルやソウがいち早く士気を取り戻し、勝機を探る目を向け始める。
そんな姿を見た生徒達も、自然と己を取り戻し、前を向き始めた。
ニケの言う通り、“こっちが本物”だとしたら、危険なのはココであることは間違いないのに、逃げる子が一人もいないのは、流石勇者を目指し集まったと言うべきだろう。
“多分本物”とされる存在が何かをつぶやき、ゆっくりと煽るように右手を空へ掲げると、その手に黒い光が集まり剣が生成されていく。
「最初から作っとけよ。何?中2病なの?」
いつも通り過ぎるニケの声は、本物に聞こえていたのかは定かではないけど、その剣の矛先をこちらへ向け光らせることで、グラウンドに観測史上最大数の10体の魔物を出現させた事を踏まえると、少し怒らせるくらいには響いたのかもしれない。
兜の下を見ることはできていないけれど、初代の魔王ではないと確信した。
初代の素顔だって見たことはない。
けれど、戦い方は忘れたことなどなかった。
怒りなんて一瞬でも湧かせられる感情を持ち合わせていないほど、全てにおいて計算し尽くされたような虐殺方法とスピードは、冷酷ではなまぬるいほど冷たく、心ないものだった。
怒りなら、欲望なら、興奮なら、人類の理解が及ぶ感情だ。
理解ができない恐怖という、それこそ人類の想像の魔王を遥かに超えてきた初代の魔王は、全人類が一番恐怖した存在で間違いないだろう。
逆に、目の前にいる“多分本物”の魔王は、わざとらしいほど人類の考えた魔王像に寄せていると思えるほど、人間味のある、とでも言うのが正しい存在だった。
作る魔物は、初代のものよりずっと常軌を逸したモノたちだけど、さっきニケが言った言葉通りでもおかしくない印象を持ってしまうほどだ。
だから“あいつ”は、いつまでも討伐せず帰ってこないんだろうか。
俺以外には止められないほど暴君で、ヤマンバなのに、本当は子供相手だと手を抜いてしまう困ったあいつ…。
「行けよ。騎士だろ。」
俺をスズの騎士にしたのは自分のくせに、15年と281日連絡も寄越さず隠れているあいつと、言うだけ言って前を向くニケは、本当によく似ていた。
元々人類の塔へ向かうつもりだったけど、ニケに背を押されることとなった俺は、頼もしいなとだけ返して目の前の魔王へ飛びかかった。
それが合図になったかのように、グラウンドの魔物たちが一斉に生徒たちへ襲いかかる気配がしたけど、俺は振り返ることなく魔王に斬りかかる。
黒曜石に思えたアーマーは、一度も斬りつけたことのない素材だと思わせる感触だった。
そのこととは別に、ニケでいう勘的なものがザワつく。
きっと、今対峙している存在が“二代目魔王”で間違いない。
俺だからこそ、ハリボテでない本物の強さを実感していた。
刀と交えているこの瞬間も、相手の強さ以外の、嫌悪感でも、恐怖でもないザワつきがましていく。
このザワつく“何か”を無視することだけは悪手であると、長年の経験でわかっていた。
俺はそれを探るため、あえて魔王へ声を掛ける。
「手加減してんの?」
『自問か?』
一瞬、まるであいつに言われたかのような錯覚にあってしまい、あろうことか隙を作ってしまう。
それを見逃す相手ではなかったようで、今までの時間はお遊びだと言わんばかりの立ち回りと力をみせた。
魔力すら一切使わず、純粋な力だけで俺を押し負かそうとする相手は、やはり初代の魔王とは根本的なものが違う。
目の前の魔王が本物だとしたら、今の状態では完全な勝利のためにの準備が足りてなさすぎる。
本物でなければ、スズたちが危ない。
俺は身を翻し、人類の塔へ向かった。
元々この魔王の実力を把握してから向かう気でいたけど、想定より時間をかけてしまったなと、またタイムを気にしそうだった俺に、心のなかであいつが「細か。」と文句を言って引いた目で見てくる。
お前がいれば、スズをお前に任せたんだよ。
こんなタイムを気にしてんのは誰のせいだと思ってんだ。と、今日すら現れないあいつに心のなかで悪態をつく。
グラウンドにいた魔物を1体、俺の追跡のために寄越すだけで、トドメも刺さずニケ達に向き直ろうとする二代目は、ニケ達が目的だったからなのか、俺にトドメを刺す価値もない存在だと認識したのかわからない。
その詰めの甘さは、初代にも、あいつにも似ていなかった。
ニケの勘通りというべきか、人類の塔にいた魔王は、傀儡と言うに相応しいモノだった。
けして弱いわけではないけど、どこか機械じみた熱のない立ち回りは、逆に初代を彷彿とさせる。
初代と決定的に違ったのは、勝つためでも、虐殺するためでもなく、恐怖を煽るために暴れている印象を持たせたところだ。
とてもじゃないが、魔族の王とは言えない暴れ方に、さっき刀を交えた相手は、それ相応のモノを背負って思考し戦っていた事を実感する。
人類の特殊部隊の武器でも、俺が育て上げた聖人騎士のラマッスや、聖人であるコルトキノスすらも、傀儡とわかっている相手でありながら、倒すどころか傷一つ付けることができないでいた。
“弱点”の見当たらない傀儡は、戦いを始めてから7分2秒後、突如右腕の上部をなんの攻撃も受けず破損させ、そこから全てに亀裂が入り、砂となって周りに降り注いだ。
明らかに俺達の攻撃から生じたものではない破損は、本体が破損させた可能性を示唆している。
直ぐにニケ達に連絡を入れ、確認を取ろうとしだが応答がない。
俺はスズやコルト達が傷一つついていないことを確認し、ハグをしてから、直ぐ勇者育成所へと向かい飛び立った。
ようやく育成所の映像を見ることができたときには、魔王の姿はなく、大きさを増した魔物たちがニケ達を含めた勇者科の生徒と交戦しているのを確認できるだけだった。
この様子からみて、魔王を倒したわけではないことがわかる。
ニケの実力が俺より劣っていることも、俺達は理解していた。
それでも、俺が砕くことすらできなかった漆黒を貫いたのがニケだったのなら…。
いや、ニケだという確信に近いものを感じていた。
ニケが、神なんて不確かなものの使いでなかったとしても関係ないと思えるほど、希望に近い光を感じ、俺の新たな決意が固くなった。
ニケも、ニケの仲間たちも、俺が強くする。
その先に、きっと俺達の幸せが待っているはずだ。
俺は、映像から目を離し空を見る。
空の色は、オーロラがなくなったことによって綺麗な青に戻っていた。
「やっぱり、ニケが俺の息子でもおかしくないよね。」
あいつなら、キセキの一つや二つ実らせていてもおかしくない。
あいつが隠れてちょうど15年だし、柚子の木にキセキの勇者を実らせて育ててたって言われても、俺ならそこまで驚かないし、きっとスズも大喜びだ。
勇者育成所の上空に戻ってくると、ちょうどグラウンドにいたニケが剣を投げ飛ばし、技術科の校舎の屋上にいた魔物を仕留めたところだった。
まるで神話の槍にこめかみを射抜かれた様に一撃で崩れていく魔物は、そこに“弱点”を持っていたのか、周りの魔物とともに砂となって崩れ去った。
魔物に襲われたのか、例の技術科の幼馴染であるライラが、魔王の傀儡が破損した箇所と同じところを出血させ、痛みと一緒に握りつぶすほど力いっぱい左手で掴んでいるのが見える。
それを見て、さっき感じたザワつきと似たものが湧き上がってくる気がした。
傷口は、幸いなことに傀儡よりもだいぶ小さいようだけれど、その出血量を見るに、深くまでたっしているか、最悪神経を傷つけてしまっている。
なぜそんな危険を冒してまで、彼は屋上という奇妙な場所にいたのか。
早く降りてライラの傷を処置してあげたいと思ったのに、騎士の俺がこの焦りに似たザワつきの理由を突き止めるまで2人に近づかない判断をとらせ、ニケが心配そうにライラに近づくのを見守った。
ニケの、なんで外に出たという問いに、ライラは呆然とまだ声を強張らせたまま、水蒸気の成分を調べるためと答える。
確かに、グラウンドが不自然に濡れている箇所があり、その近くには成分を調べる銀の箱型成分分析器と、その上に一台の小型ドローンが確認できた。
ライラのそばにも、撮影用のドローンが飛んでいる。
映像を確認させてもらうことで、このザワつきも消えるだろうと、俺はようやく二人のもとに降り立った。
ニケから怪我の手当を申し出されても、その傷口を見せられないほど痛がっているライラの顔は、青白いに近いものだった。
それを踏まえ、俺はいつも以上に優しく声をかける。
「俺がしよっか?」
俺に気がついたライラは、からだ全部を動かすほどビクついてしまい、まるで小動物のようだ。
(似てないなぁ。)
そこまで怖がられた事にも、直後ニケから俺がいるから手当させないんだと理不尽に怒られたことにも、シンプルに少しショックだった。
それほど、“国”への不信感を募らせてしまっているのかと悲しく思うけど、ライラの両親に関するデータが国に無いことに違和感を拭えなかった。
どんなデータを消したって、消した人物や痕跡は少なからず残るものだ。
でも、俺が一ヶ月本気で探しても、ライラの両親に関する事件含めた手がかりは一つも見つからなかった。
ライラを疑いたい訳じゃない。
実績的にも、能力的にも、人柄や交友関係を含めても、ライラは人類の宝といっていい存在だ。
だからこそ、寝返ってもらうわけにはいかないだけだった。
目の前でまだ青白い顔のままのライラに、敵対する気がないこと、救護系の資格も、手当をできる道具も持ち合わせている事も伝えると、予想よりずっと警戒されなかった。
いや、警戒心よりも、救護セットへの興味が勝ったという方が正しい気がする。
彼とニケの目標は、誰一人この戦いで命を落とすことのない、完全な人類の勝利だ。
不可能だと一蹴されてしまうほどの目標を、蹴らせることを許さないと行動で示すライラ達は、救護や避難という守りに関することに文字通り持てる全ての技術と時間を費やしているのを、ここ一ヶ月だけでも十分すぎるほどの功績とともに国にも知らしめていた。
余計に、その純粋な熱を翻してしまう可能性を危惧してしまう。
ライラの様な、優しくて誠実な頑張り屋の方が、何かに絶望すると全てを翻すほど悲しみや怒りに溺れてしまうことは、予想したいわけではないけどよくある話しだ。
逆に、警戒心むき出しで、下で待っているコーラル達を名前だけで呼び出すくらいの暴君的な振る舞いができるニケの方が、何度絶望を味わったとしても、最後まで自分の信念を貫ける。
そのニケの暴君ぶりと、名前を呼ばれただけで求められることを理解してしまい、意のままに使われるコーラル達が、あいつと俺の昔を見ているようで、やっぱり他人とは思えないものを感じた。
「初陣のデータ!!!!!!!!」
急に叫んだライラに、全員の意識が向く。
けど、ライラは俺達のことを気にもしないで撮影していたドローンの映像を見返し始めた。
怪我をしている右腕を、まだ左手は離すことが無いけれど、離さない理由が痛めているからとは思えないほど、右手だけで器用にパソコンとドローンを操作して、映像を確認しながら作業を始める。
左手を外さない理由は、傷口を見せたくないからなのか、風に当てると痛むと思って離せないでいるのか、他の理由かは分からなかったけれど、元気に動く右手は神経を傷つけていない証拠でもあったので、ひとまずホッとする。
映像が無事残っている事に喜ぶライラに、コーラルとソウは怒ったり心配していたけど、ニケは黙っていた。
それが嵐の前の静けさだと気が付かないほど前しか見ていないライラは、左手分の仕事も補うように必死に右手を動かし続け、コーラル達に作業を止められまいと早口で懇願していた。
「マジで時間ロスしまくってる!!5cmの傷くらい記念ってことにするから!!」
(なんの記念なの?)
まさか、初めて魔物に傷つけられた記念とか言わないと思うけど、それ以外だと思いつけない。
もし、ライラが魔王本人だったとしたら、さっきの初陣という発言も正しい使い方だし、宿敵である勇者につけられた傷を、称賛し記念として残す………事も考えられるだろう。
でも、どうしてもその考えを正しいと思えなかった。
もし仮に、本当に今の考えが正しかったとしたら、ちょっと隠す気がないとかの話ではなくなる。
中2病とかでなく、ただのうっかりさんだ。
「それをハリアモンドにやらせろ!!」
嵐のように怒ったニケに、ビクリと体を揺らして、様子をうかがうように恐る恐る振り返るライラは、うっかりさんというより、いけないことをして怒られた子供のようで、何だか幼かった頃のスズとよく似ている気がしてきてしまう。
茶色で、サラサラな髪質が同じなところも大きいんだろうけど、正直で、嘘が下手なところや、優しくて、少し頑固なところが余計に似ているような気がした。
スズの実子であるコルトとライラは似ていないのに不思議だ。
愛のある怒りを爆破させたニケは、もう一度ライラの傷の手当を買って出た俺に、ドローンのデータ以外触らせるわけもなかった。
俺だけでなく、まかみが作った人工の魔物に乗って、わざわざ救急箱を持って来てくれたギブルとたきひこすら、コーラル達と一緒に全員屋上から降ろす徹底ぶりをみせる。
降ろされたたきひこ達は、同じく降ろされたコーラル達にすいませんあいつ過保護なとこあってとフォローされ、しょうがないと笑いながら、快くライラの作業を引き継いだ俺を手伝ってくれた。
いつも魔物と戦ったあと、ライラが技科の教室で作業しているところを見ているのだろう。ギブルもたきひこも、ライラからしっかり指示を仰いだわけでなくともしっかりと作業を進めていった。
この2人も、本当に能力の高い子達だ。
作業をしながら、屋上での出来事を頭の中で整理する。
ライラを怪しむわけでは無いのに、やっぱり引っかかることはあった。
今ドローンの映像を確認しても、ライラと魔王が別々に映っているし、魔物が一回だけ完全にドローンの視界を遮っている場面があるけど、その前に魔王が傷を負ったことも、ライラがその時無傷な事もしっかりと記録されていて不自然なところはない。
でもライラは屋上で、俺が2回目の傷の手当を申し出たとき、血液を提出すると発言した。
同じ場所を負傷した自分と魔王の繋がりが無いことを証明するための発言だと思われるけど、さっきも確認した通り、魔王とライラが同時に映っている場面も、魔王とライラがずれた時間に傷ついたことも、しっかりとドローンが撮影していることは、ライラは誰よりわかっているはずだ。
証明するためなら、血液ではなくドローンを見てくれで完結する。
俺が善意で傷の手当なんてするわけもない国の犬(鬼畜野郎)だと思われているとしたら、ドローンの映像だけでは後々屁理屈を言われる可能性を考えて、より多くの証拠を提出する気だった……とかなら、辻褄も合うし、気持ちもわからなくはない。
でもむしろ、ライラは俺のことを尊敬してくれてるまであると思う。
ニケの言う通り、両親が殺されるというショックの大きな出来事に心が傷つき、俺を信頼しようとわざと過激な発言をして、俺がそれを拒否してくれるか試しているのかもしれないなと考えると、ザワつきが小さくなった気がした。
国ではなく、スズ達の幸せを守る騎士だと信じてもらえれば、すぐ心をオープンにしてくれるはずだ。
そんなライラを見て、ニケも自然と俺を心から信頼してくれるだろう。
ライラが一見慎重派に見えて猪突猛進タイプだからこそ、ニケが過保護に敵意から守っていると察しが付く。
(やっぱり、今後もライラの言動には注意を払わないとな。)
ライラのドローンはとても優秀で、味方でいてくれるなら心強いことこの上ない。
俺達が聞き取れなかった魔王のセリフも、簡単に聞き取りやすくできた。
『この程度か。やはり、勇者なんて存在しなかったな。』
この台詞のあと、魔王はニケと交戦し、あのアーマーを右腕ごと斬り裂かれ、20cmも負傷することになる。
『貴様が勇者かぁ!!』
叫ぶ魔王と溢れ出す魔力は、やはり傀儡とは比べ物にならない。
ニケ達が誰一人負傷しなかったのは、幸運か、魔王の驕りゆえの誤算か、神の加護と呼ばれるものなのか、俺が判断するには材料が足らないと感じた俺は、たきひこ達の方を見る。
「たきひこ達は、ニケが勇者だと思う?」
「センセと同じで、言い続ければ真になる人もおんのやない?」
映像の共有や処理だけでなく、全土の救護、避難施設の情報を確認していくたきひこ達は、俺を見ることのないほど真剣そのものだけど、魔王という脅威が出現した後にしては穏やかなものだ。
今日も、死者は出ていないだろう。
ニケ達の掲げる目標
誰もが諦めている完全な勝利。
(誰もがとは、違うな。)
きっと、スズやコルトキノス達の願いと同じだ。
だったら、俺もすべてを掛けて叶えてみせる。
ライラのことが心配すぎて、技術科の校舎の壁に懸垂状態で張り付いて様子を見ていたコーラルとソウが、ニケに何してるんだと言われ、実質屋上に上がることを許される。
ライラの手当が終わった事も意味してるだろうから、俺はギブル達にお礼を言ってからコーラル達を追うかたちで屋上へ上がった。
屋上にいた2人は、思っていた何倍も近い。
俺でも、あいつとここまで近かったのは8歳くらいまでだ。
「本当に、2人は仲がいいんだね。」
「アンタはまだこいつと仲良くなってねぇから。」
そう言ってはいるけど、“まだ”とつけてくれているところからもわかるほど、ニケから俺への嫌悪は見当たらない。
ニケが、俺を信じるための確認であるとわかっていた。
でもライラは、やっぱり俺が国の人間だと思ってしまう気持ちが強いのか、立ち上がりニケを守るように俺と対峙した。
ニケのほうが驚いている。
「ニケの潔白を証明するためにも、国に血でも両腕でも渡します。」
「サイコ発言やめろ?」
ニケが思わず突っ込んでしまうほどの発言は、ニケが国から勇者だと認められない可能性を減らすため……だろう。
例えば、あの魔王がライラの作った偽物で、ニケを勇者に仕立て上げるため八百長試合をみせたと国から言われてしまうとする。
理由は、本物の勇者を国が見つけられないようにすることや、国を混乱させるためだと言われ、ニケは国の監視下で生活することになってしまうだろう。
本物の魔王を捕まえる事が誰にも出来ないのだから、魔王が偽物かどうかを証明するものも無いのが現状だとわかっているからこそ、考えすぎなほど“最悪なもしも”を消せなくて、警戒しすぎた結果、ライラの発言はどんどん過激になってる気がしてきた。
俺は魔王と戦ったし、まかみですら作ることなんて不可能だということは証言できる。
でも、それを今のライラに伝えても届かないほどだから、ニケは俺にライラの信頼を得るよう言っているのかもしれない。
俺側の最悪のもしもは、ライラが偽物の魔王を作ることなんかではない。
(ニケに、俺達への不信感を植え付けようとしていたら、厄介だなぁ。)
そしてそれが無意識であったなら、なおさら厄介だ。
俺はすぐ敵意はないと態度で示し、もちろんライラの腕どころか血も提出させないことを明らかにして
ニケに、一戦を申し込む。
ニケが、勇者である可能性を確かめるためだ。
俺の意図を汲んでくれたニケは、あっさりと了承してくれる。
ライラに6時まで作業をしてもいいと、勝手にタイムリミットを決めた過保護を隠せないニケと、6時!!?と本気で驚いて、タイムリミットを確認し、焦りながら転がるように屋上から降りるライラを見て、“最悪なもしも”はない気がするなぁと漠然とした自信が出てきてしまう。
ハシゴも何も無い屋上から、焦っているとはいえ軽やかに降りたライラに、思っていた以上に身体能力が高いなと感心した。
心配になるくらい細いけど。
「おい。何見てんだハリアモンド。」
「本当に変な目で見てないって。本当に俺は妻一筋30年なの。」
「きっと、ニケ達もすぐ信じてくれるよ。本気で戦うことでしかわからないことってあるからね。」
ハリアモンド 37歳 性別(男) 職業 聖女の騎士 勇者育成所特別教師
好きなモノ (スズ達の幸せ チョコレート 妻の幸せ 幼馴染の手料理 写真撮影)
嫌いなモノ (スズ達の幸せを妨げる障害 幼馴染が作るニシンのパイ 仕事ができない奴ら 家族に心を閉ざされること)
身長180 体重65kg 誕生日8月13日
幼馴染の妹であるスズの騎士。
スズと息子であるコルトキノスを溺愛しているが、いつの間にか子供を作ったコルトキノスの父である真には多大に思うところがあり、厳しい。
妻は幼馴染とにているところが一つもない美女で、彼的には運命以外ない。8歳の時に出会い、そのまま妻だけを伴侶として大切にしている。
元々は神を信じておらず、急に大切なスズが神の力を持っていて、魔王と戦わなくてはいけなくなったと言われて一番衝撃を受けた人。
キョウが撃ち殺されたとき、キョウを脅す道具として別の場所に捕縛されていたのでキョウの死を知らない。
むしろ子供がいたことも知らない。
結婚したとは言われたことが一度だけあったが、信じなかったせいでケイの存在も知らない。
気がついたらまだ16になる前のスズが妊娠していて、発狂寸前だったが、魔王という強大すぎる敵がいることと、キョウがスズを夫である真に託したと聞いたので、色々我慢した。
真からは、スズの神の力であるバリアと治癒を奪うために襲ってきた人類の奴らをキョウが返り討ちにしたが、スズが重傷を負ったのでそれを好機とみなし魔王が襲ってきた。キョウは魔王を倒すすべを見つけるため、別行動をとるしかなくなり、自分にスズを命に変えても守ることと、どこかに捕まっているハリアモンドを見つけ出すことを命じ、魔王を呼び出した人類の汚名を全て自分が背負って一人戦い続けていると説明を受けている。
ぶっちゃけふざけんなよと思っているが、捕まった自分の不甲斐なさも呪いたいほどなので、とりあえずスズとその子供達の幸せをを守り続け、帰ってきたらキョウに小言を言ってやろうと思っている。
元々はスラム街で孤児として死にかけていたところを、たまたま見つけたキョウが連れ帰り、スズの騎士として育て上げたので、姉妹への想いが重いという言葉では足りないほどやばい。
初めてライラを見たとき、一瞬キョウの面影のようなものをみた気がしたが、あまりにもライラの性格がキョウと違うことと、両親が他界しているという事実から、キョウとの関係を考えないほど、キョウの死を想像もしていない。




