3日目、最強の聖女の騎士 前半
3日目の前半視点です!
3日目、いつもの様にニケと登校した俺は服のチョイスを間違えたなと後悔していた。
暑い。
まだ4月の初めなのに、この国では予想されないほどの暑さだ。
桜は瞬く間に葉をつけ、もうほとんどピンク色など無いし、一気にたんぽぽやテントウムシが顔を出し始めていた。
(上着要らなかったぁ。まだ登校前なのに汗まで出てきてる気がする…。)
「おいこら、暑いなら上脱いでちゃんと拭け。ハンカチ無くても除菌シートとか持ってんだろ。」
心の声を聞こえていないはずのニケにそう言われ、そうだねと返事してから上着を脱ぐ。涼しくなったけど、腕に使わない上着を持つのが少し嫌だった。
その後も、俺のカバンから除菌シートまで探し出したニケは、わざわざ出して俺の顔めがけてべシャリと投げつけた。
「つめてっ。」
ニケの笑い声が聞こえてくる。俺はお礼を言ってからそのシートで顔を拭いた。
「首とかも拭けよ。」
「ぇ゙?もしかして汗臭い?」
「赤い。」
「マジか…。このすぐ赤くなるのやだな。」
首を拭くと、涼しさがニケの言葉を肯定する。
俺は日焼けをあまりしないけど、暑いとすぐ赤くなる。お風呂から出たりすると真っ赤だけど、高温に入っているわけじゃないから逆に恥ずかしいと言うか…、この体質は好きではなかった。
「イーラ。」
ニケのこの声は、お腹すいた時のものだとわかってびっくりする。
「もしかして朝ご飯食べれなかった?」
「違うのに……最近なんか、すげぇ急に腹減る。」
すごく辛そうに言うニケに、さっきの何倍もびっくりした俺は、すぐシートをしまってオヤツを取り出した。
「成長期だから大丈夫!!健康なら食べていいよ!!」
昨日の夜、ニケの靴の事を悩みながら作ったパイは、ニケの(多分)好きなアンズジャムのパイだ。
ニケはなんでも残さず食べてくれるけど、これは本当にあればあるだけ食べてしまう。
今日は、ニケの分(大)と、たきちゃんととギブさんの分(小)を持ってきていた。
取り出したのがこれだったからか、よほどお腹が減っていたのか、ニケは本当にあっという間に食べてしまった。
ニケの顔より大きかったのに…。
「ん。」
しかも、この「ん。」は次を催促している。嬉しいけど、もうニケの分は無かったし、体が心配だった。
「ニケ、もうやめとこ?ニケ用に大きかったやつだし、これ以上はお腹痛くならないか心配だから。」
「ならない。」
ニケの顔が、譲る気のないときのソレだ。
もうこうなれば、ニケの分はもう無いよと言うべきなので言おうと意気込む………
意気込んだ……けど。
「なら後で食べる。訓練頑張ってから。」
何故、まだあることがバレているんだろう。
確信を持って、出すまで離さないとでも言うかのように袖をつままれる。
そう、つままれている。
振りほどけば簡単に取れるだろうそれが、逆に幼い時を思い出させるかのようで、逆に振りほどけたためしなどなかった。
「小さいのでもいいから。腹減りすぎて痛くなるかもしれないし。」
そう言われてしまえば、クソザコの俺では太刀打ちできるわけがなかった。
たきちゃん達に約束していたわけではなかったこともあり、俺はたきちゃん達の分をニケに渡す。
「少しでも、もういいやってなったら食べるのをやめてよ?急に満腹になるかもしれないから。」
「わかった。」
いそいそとカバンへしまう姿を見て、このパイは逆に封印したほうが良かったかとも考えたけど、
最後かもしれないしなと思っている俺は、やっぱりできるだけ好き(だと思う)物を食べさせてあげたかった。
「これで全部だな?もうコレ隠してない?」
「も、もうないよ…。」
「次作ったら全部俺のだから。」
俺の成長期は終わったのに、もしかしたらまだ大きくなってしまうのだろうか。
教室へつくと、たきちゃんが優しくおはようと迎えてくれる。感動を覚えながら返事を返すと、隣の部屋が作業場にしている教室で、ギブさんも居るから来ないかと誘ってもらえた。
二つ返事で頷きまくり、朝は校舎で作業するとニケの携帯へメッセージを送る。
俺がいなくても、ニケの訓練データを撮れるようにドローンを外へ放り投げ、一体には水分とジャーキーの入ったクーラーボックスを持たせ運ばせる。
昼からは魔物を出す気でいるから、その前にできることをやっておきたかった。
「ニケの靴を試作でいいから作ることと、救護テントの数や配置場所を把握して、救護を補助できるロボや避難所への誘導をできるやつも作りたいし、やっぱりバリアを作り上げて…」
「ライラ君、また全部口に出しとるよ。」
たきちゃんの声は優しいのに、大げさなほどビクリと体が動いてしまった。
本当に、喋ってしまっている気がしていなかった。
「あの…何か、変なこと、怪しい的なこと、言ってましたか?」
「怪しいこと何一つ無いけど、マスクとかするとライラ君自身が安心かもしれんなぁ。」
優しく言ってくれるたきちゃんも、あげると言って使い捨てマスクをくれたギブさんも優しすぎて、危うく浄化されかけた。
マスクをもらえたのに、結局大事にポケットへ入れたまま作業をする。
しかも、ギブさん達との作業はびっくりするほど進みが早かった。
2人が頼もしすぎる。
俺が15年近くかけて考えてきた案を、どれを話してもすぐに理解してくれて、アイデアや意見、質問をしてくれるから、自分の中でどんどん今後の見通しがたっていく。
アイデアと意見が違うかって?俺の中で違うから違う。
プシューと音がして、黒い箱の大と中が同時に開かれた。
大の方には新しい鞘が、中の方には靴が鎮座している。
これで、きっとダサいは回避できているはずだ。
いつもなら自分だけでかなり不安になるけれど、今日はギブさんのお墨付きというなにより心強い物があったので、デザインには安心していた。
靴の色は、ニケの好きな赤をベースに、白の線が入ったシンプルな物。
手にとって、重さや質感、その他50項目をクリアできているかをチェックしていく。
まだまだ完全とは言えないけど、コレを履いてもらってデータを取り、よりニケに合う靴に仕立て上げていく気だ。
「まだ、チップは入れられないな。」
ニケの靴は、最終的に人類の限界飛躍力に到達できる機能をと思っている。
靴の踵部分にチップを入れ、ニケの動きと連動させ、ジャンプ力やキック力を高めるだけでなく、着地の際の衝撃を半減どころか、ほぼ無くすところまで到達させる気だ。
今後はバンバン魔物を出す予定だし、バンバン倒してもらって、戦闘データを取っていき、そのデータを元に向上させていく。
ちなみに、“魔物”はファンタジーの物語に出てくる生物のことではない。
むしろ、そんなものはこの世界に存在していない。
魔族の国にも生物はいたけど、普通の猫とか、名前だけ魔狼と付いていたちょっと大きめの狼とかで、もちろん魔力とか持ってなかった。
“魔物”と呼ばれた物は、父さんが作り出した。
皮肉を込めて言うのなら、人類が妄想で作り上げていた空想の恐怖を、父さんが現実に作り上げたモノたちだ。
1人で人類を滅亡まで追い込む気だった父さんの、忠実で心無い人形。
それが、“魔物達”だ。
まるで生きているかの様だったそれらには、命はない。
でも、そう思えないほど父さんの作った人形達は完璧だった。
父さんの憎悪と怒りの力を注がれた砂を固めた人形達は、その一体を壊しきる事すら、どんな兵器を使っても一日かかるほどだった。
それくらい、父さんは本気だった。
父さんは、計画的に、無慈悲に、殺戮をこなしていった。
殺戮だと思っていたかも怪しい。
こんな事を言うと将棋が好きな人達に怒られるかもしれないけど、まるで将棋でもしているかのようだった。
父さんは、将棋が得意だったし、好きだったからそう思ったのかもしれない。
「母さんが、将棋を指す父さんのことをかっこいいって言ったからってとこが、父さんらしいよ。」
50項目見終わって一息つく。
次は鞘を手に取り、27項目確認していった。
(この2つをニケに渡して、魔物を出現させてデータを取って、)
確認しながら、今日の予定をたてていく。
心の声を口に出さないようにと片隅にあったのに、たまに片隅からすら消える時があった。
「あと、バリアも考えてるだけじゃなくて試作でいいから作っておきたいし、まかみさんの人工魔物も参考にしたいし、まずあの人の魔物襲来シュミレートは絶対にやっておかなきゃな。でもまず、」
やりたいことが多いからこそ、先にやらなければならない事を絞っていく。
そんな俺の口の中に、甘くて丸いものが入ってきた。
「マスクしとらんかったから、アメちゃん入ってきたな?」
「たきひゃん。」
声を出してから、ちゃんと喋れないことに気がついて口を縫う勢いで閉じた。
恥ずかしさで耳から顔全体まで赤くなっていくのがわかってしまう。
でも、たきちゃんはそんな俺をいじったりしなくて、アメちゃん大きかったなごめんと謝ってくれた。
断じてたきちゃんは悪くないので、全力で首を横に振ると、次は詰まるとたしなめてくれた。
ギブさんは、震えながら後ろを向いている。笑ってもいいのにガマンしてくれているなんて優しいなと思った。
「それ、勇者君の靴?」
たきちゃんがニケのことを“勇者君”とよんでくれているのが嬉しかった。
嬉しくて、アメを一瞬忘れそうだよと言ったらしょうだよになったから、思いっきりガリガリ噛んで食べてしまった。
本当は味わいたかったけど、そんな贅沢言ってられない。
「そうだよ。まだ、100%には程遠いけど。」
言い直しても、やっぱりたきちゃんはいじったりしてこなかった。
「えぇんやない?自分の納得いくものを作るのも。」
「うん。」
ニケに持っていく前に、ドローンの様子を見るためPCを立ち上げる。
PC用の小型ドローンは昨日の夜改良し、もっと小型にしたのでどこからでも出すことができるし、起動も早くなってとりあえず今のところは良いなと1人で納得していた。
PCに映るグラウンドは、昨日と明らかに雰囲気が違っていた。
「あ、今日は騎士の人が来てるんだね。」
ギブさんが言った通り、グラウンドには一際オーラを放つ男性がいた。
ニケを含む勇者科の人達は、全員囲むように彼を見ていた。
『はじめましての人は、はじめまして。』
画面越しでも、強いなと思うほどだった。
声が厳ついとかじゃない。
態度が大きいとかじゃない。
ただ、事実として、この人は強いとわかってしまうものを持った人だった。
『聖女の騎士、ハリアモンドです。』
(この人が、母さんの宝を守ってくれている人。)
“人類最強の騎士”と呼ばれる人。
『皆、気軽にハリーさんって呼んでね。』
そう微笑んだ彼の目が、キラリと光った気がした。
「あの人って、勇者科の教師の枠にはいるけど、本業のこともあるし…先生って感じではないよね。」
「聖女様の騎士やからなぁ。でも、この人に自分の力を認めてほしい人達で溢れかえっとるほどの実力者なのはたしかやしな?」
ギブさん達の言う通りだと思った。
銀ではなく真っ白が正しい髪は短く切ってあるので、清潔感があり、優しげな笑顔と相まっていかにも人から好かれそうだ。
細身に見える引き締まった体は、戦いに慣れている事がよく分かるし、生徒たちを見定める時の鋭い瞳は、たくやとよく似た黄金だけど、まるで空を支配するワシのようだと思う。
あと………マジでイケメンだ。
高身長、高知能、高スペックのイケメンがまたこの学校に現れてるんだけど、現実でこんな事ある?何で魔王のほうが平凡なの?
ラフな黒を基調とした服も、シンプルすぎる銀フレームの少し曲がった眼鏡も、全然マイナスポイントにならない。
むしろ、全てをものにしている感があった。
絶対に彼もセンスがいい。
見れば見るほど強そうで、かっこよくて、母さんのタイプそのまんま出てきたような人だなと思ったのは、 ある意味現実逃避だったかもしれない。
実物が近いとこんなに色々わかるのかと驚いていた。俺達は聖女の騎士ハリアモンドを、一番調べてきたからだ。
彼の戦闘訓練は、テレビで何度か放送され、戦い方を参考にしたのももちろんだけど、彼をよく調べたのはもう一つ大きな理由があった。
彼が、母さんの幼馴染であり、本当の意味でスズさんの騎士である“ナッツ”という人物に関係しているのではないかと思って調べた。
願ったが、正しいかもしれない。
でも、いくら彼の周りや人間関係を調べても、母さんから聞いていた“ナッツ”に該当する人は見つけられなかった。
国が聖女を守るため、最強の男を騎士にするのは正しいことだし、俺からしても本当にありがたいことだ。
バリアでは、心は守れない。
でも、母さんが妹の騎士と認めた人は、1人だけ。
母さんと二人三脚で妹を守り、育ててきた幼馴染で家族の“ナッツ”その人だけだ。
あったこともないその人を、俺も、ララさんも、探すことを諦められなかった。
心の中で、絶望的だと言う自分だっていた。父さんは、“ナッツ”の安全を確保なんかしないで、怒りに任せ母さんとナッツの故郷である国を一瞬で丸焼きにしたのを、俺もララさんもこの目で見ていたから。
でも父さんは、母さんに嫌われることを絶対にしなかった。
奇跡的にと言えること含め、母さんから嫌われることを避ける能力的なものがあると思っていた俺は、ナッツも生きていてくれてる可能性を捨てきることが出来ないでいる。
「この人は、男だし…違うだろうしな。」
画面のハリアモンド先生がドローンを見たのか、目があったと錯覚するほどしっかり視線を感じた。
母さんいわく、ナッツは泣き虫で、神経質な負けず嫌いの、サラサラヘアー美人。あとチョコが好きで、母さんが直々に鍛えたから強い事くらいしかわかっていない。
しかわかってないけど、とりあえずほとんど当てはまらないだろうことだけはわかってしまう。
(本当に、ナッツは…。)
「ライラ君!!」
「はい!!ライラです!」
ギブさんから強めに名前を呼ばれ、脊髄反射的に返事をして、画面からも目を離した。
「私っ、ライラ君の恋は自由だと思うよ!!」
俺の肩を掴みそうな勢いで、真剣なギブさんが詰め寄ってくる。言葉は聞き取れたのに、意味を理解できなかった。
「ライラクンノコイハジユウ?」
「そう!!」
(ライラ君の鯉?自由?)
必死に、いつから魚類の話になったのかを考える。いつ、俺が鯉を飼っていると誤解させてしまったのかわからなかった。
とりあえず誤解は解かなければと、まだ混乱している脳を放っておいて謝った。
「ご、ごめんねギブさん。俺が鯉を飼ってる話ししてた?とりあえず先生の事は魚類には見えてないけど…。」
「先生が魚類に見えてる!!?」
「見えてないよ!!どっちかって言うと猛禽類的な鋭さのある人だなと思ってた!!」
「猛禽類的な!?」
「んっふっふ。」
たきちゃんが優しく笑うから、俺もギブさんも自然とたきちゃんの方を向いて黙る。
「ライラ君、ギブさんは池の主の話はしてへんのよ。ライラ君があの先生の事タイプなんやないかって話。」
「え?先生の事タイプなのは母さんの方だと思う。」
2人のポカンとした顔を見てから、しまったと思った。
俺の母さんのタイプなんて、知るかだ。
「それもだけど待って!!?俺が!!?」
俺が男性である先生をタイプだと思われているのは非常にまずかった。必死に首も手もふって否定する。
「ホモじゃないって言うかあのつ、僕ホモ違います!!恋もしません!」
「恋しないって決めつけなくていいってこと!!自由ってそういう意味なの!!池とか主とかじゃなくてライラ君のことだよ!!」
また、たきちゃんはくふくふと上品に笑っている。
このままでは駄目なことだけわかったので、一回深く深呼吸をした。
「先生へは、恋じゃないよ。でも、正直体つきとかめちゃくちゃうらやましいと思って見てた。特に身長。」
「ライラ君そんな事気にしてんの!?」
何故ギブさんが驚くのか不思議なくらいだった。
(そうか、まずギブさんは俺が魔王って知らないしな。)
魔王のビジュアルとして不正解以外ない、ガリガリ一歩手前の腕を無意識にさする。
やっぱり、画面の先生とはかけ離れていた。
「諦めてる部分もあるけど、憧れはあるよ。どうしても、弱く見られるし。」
父さんも、自分の容姿では恐怖を与えられないとわかっていたから甲冑を着ていたのもあった。
父さんは、怒りと憎しみで人類の恐怖を求めていたけど、俺は全人類の勝利がヌルゲーだなんて思わせないために、恐怖を最大限感じてもらわないといけない。
怖くない魔王なんていらない。
わかっていたから筋トレも頑張ったし、ちゃんと目標の力はついたのに…。
「数値的にも、ちゃんと目標のレベルにきてるのに。握力も腕力も脚力も母さんと同等まできたのに…、筋肉がつかないんだ。理由もわかってなくて。」
本当にわかってなかった。だって、魔族だからってわけじゃないからだ。
同じ魔族でも、家長さん達は強さと筋肉が比例しているし、父さんはちゃんと物理的な力はクソザコだったからあの体型だった。
俺だって知りたいこの謎を、解明しているだけの時間はないとわかってもいた。
「よっぽど強いオカンやったんやなぁ。」
たきちゃんのセリフに、自然と頷いた。
「母さんはね、父さんにとってヒーローだったんだ。」
ヒーローを失ったから、誰も父さんを止められなかった。
なんで俺達は、“人類の母さん”を、無敵だと思っていたんだろう。
「先生って、何だか母さんと似てるんだ。腕とか。」
「腕が!?お母さんの方が!?」
「父さんは物理的な力は3歳児くらいだよ。よくパンチ力マッサージ機って言われてた。」
俺は、嘘を一つもついていない。
この“嘘じゃない”が、真実を隠してくれる。
だからこそ、俺は今後も嘘は極力つかない。
でも、嘘だと疑ってもいいはずの2人は、疑うどころかバカにすることも無くて、少しだけ心配になった。
「強い女性に惚れ込む男ってのは、幸せ者かもしれへんからなぁ。」
「まぁ、女性って基本強いしね。」
「2人共、ありがとね。」
俺は、2人を見ないまま告げた。本当に不躾な態度だと思う。
「鞘も靴もこんなに早くできたのは、2人からたくさん刺激をもらえたからだよ。」
本当は、もっと多くの“ありがとう”だったけど、それを口に出してはいけないことだということくらいわかっていた。
俺が、両親を嫌えないのはしょうがない。
でも、この人達人類にとっては、災いを超える存在だから。
(俺は、君達に殺されることができないけど、絶対にハッピーエンドが来るから。)
「お互い様やない?」
「うん。ライラ君の作るものも、考え方も、私達にとって十分刺激的だよ。」
不躾な俺に怒りもしない2人に、なんとか笑いかけけど、ちゃんとできてる気はしなかった。
ニケ以外と関わってこなかったから、本当に対人能力が無いなと反省する。
「これ持って、ニケのところへ行ってくるよ。したらね?」
2人に軽く手をふって、ニケがいるグラウンドへ向かった。
すぐニケに靴と鞘を渡す。
今まで使っていた鞘と靴を渡したニケは、すぐに靴のは着心地をチェックしてくれた。
つま先を地面にコンコンしているニケの隣で、俺はドローンに前の鞘だけ教室へ持っていくよう指示を出す。
その後はあぐらで座り込み、ニケの脱いだ靴を調べた。
靴底の減り具合、履き潰し方などのデータを細かく取っていく。
ドローンを1台手に取り、カメラモードにして何枚も写真を撮る。
その写真がPCへしっかり保存されていること、ニケの“ダサい”が無いことに一先ず安心して、また動画モードにしたドローンを放った。
「イーラ。」
「水そのボックス。ニケの好きなお茶は隣。ジャーキーは右端の袋の中、一枚ずつ食べてね。」
ニケの顔を見ないままだった俺に、クーラーボックスの中にあった冷たいウエットティッシュが一枚投げつけられる。
見事に顔面に当たり、ゥ゙ェ゙っとヒキガエルみたいな声を出してしまった。
何も見えなかったけど、ニケが笑っているのだけ伝わってくる。
靴を触っていたから、手を拭けよという意味だと思うので、お礼を言ってからありがたく拭かせてもらう。
拭き終わって、クーラーボックスのゴミ入れへシートを入れる時、視界に映った光景に、少しだけ体が止まった。
いつの間にか、俺のドローンが1台ニケに捕まって、ウェットティッシュの刑を受けている。
少し潔癖気味のニケの優しさであることを理解した脳が、ゆっくり体を動かせと命令すから、少しずつ体は動きを再開した。
俺が靴を触った手でドローンを持ったのが、気になってしまったんだろう。
それでも、作業している俺の邪魔にならないように何も言わず自分で拭いてくれているのは、ニケの優しさ以外ない。
ニケらしい、押しつけない優しさだなと見ないふりをした。
でも後で、あのドローンはバラして水分を飛ばし、今後こんな事が起きても大丈夫なように完全防水へ進化させる事を、やることリストにそっと増やす。
こんなにきれい好きなニケは、戦う時は汚れを気にしたりしない。
戦う時に動揺しては怪我の原因になってしまうから、何が起きても動じない訓練を小さい頃からしてきた成果でもあるけど、
ニケの“勝つ”という本気の表れでもあるから、俺はとても嬉しかった。
どんなに汚れだって、ニケのかっこよさが曇ることはないし、魔王戦後、全人類はニケのカッコ良さと凄さに大喝采間違いない。
きっと、あの救護科の子もメロメロだ。
嬉しくなって、無意識に救護科の人達が演習している本校舎の前を見ていた。
でも、当たり前だけど勇者科の人達が目の前で訓練しているから、奥の方はよく見えない。
しかも今日は、例のハリアモンド先生が居るから空気が違う。
いつも通りなのは、隣でモグモグジャーキーを食べているニケだけだ。
本当に、ニケは大物だと思う。
今ハリアモンド先生が力量を見るため戦っている人は、俺がニケの“剣”になってほしいと思っている候補の1人だ。
昨日、ニケと言い合いになってしまった勇者科の人との間にスッと入ってきたあの彼である。
とても濃い紫が、下に向かうにつれて明るくなっていく美しいグラデーションの長髪は、今日はひとつ結びにしてあった。
紫は、人類の国の中心として栄えていた“京の都”という国の色で、全ての国がある時代から特別視された色だった。
その国は、人類の国が平和な時期でも自国以外へ紫を出さない思想が強い国だったのもあり、紫の人自体少ないからなのもある。
そんな紫を濃く受け継いでいる彼の戦い方は、剣などを使わない純粋な体術。
まるで研ぎ澄まされた踊りのような動きは髪色も相まって優美に見えるのに、威力はかなりのもので、彼の努力とセンスがうかがえる。
瞳はこの国の銀。
この瞳もとてもキレイだけど、どうしても薄い色の人は日光のダメージを受けやすいから、戦う時にサングラスとかあったらいいんじゃないかなと思った。
背はニケより2cmくらい高く、戦い方から負けず嫌いがにじみ出ていた。
自分に妥協しない、ストイックな所はニケとよく似ている。
ニケは、天才だ。
彼は、秀才だと思う。
秀才だからこそのプライドが、彼をここまで強くしたのが伝わる戦い方だった。
天才を理解できるのは、秀才だと思う。
秀才のすごい所は、凡人も理解できるところだ。
彼のような人がメンバーになってくれたら、きっとニケはさらに強くなる。
きっと、心が成長する。そんな確信があった。
「イーラ。」
お腹空いたじゃないニケの声に、俺の思考と視線はニケへと切り替えられる。
「なした?」
「何考えてんの。」
「ニケのメンバーの事だよ。ニケの心の剣と盾になってくれる人がいいんだ。」
「候補は?」
「この6人かな。」
PCの画面に名前だけ映す。
あくまでも俺の中での候補だから、ニケが気に入るか正直わからない。
ニケは、無理な人は絶対に無理なタイプだ。
でも、画面を一回見ただけで俺の方へ視線を戻したニケの顔には、マイナスな感情は無いように見えた。
もう見たということだろうから、画面はまた戻す。
「もっと絞ってんじゃねぇの?」
その言葉に、作業を再開し始めようとした指が止まるのをしっかりと感じた。
実は、その通りだ。
でも、そんな話してないし、態度にも出したつもりはなかった。
「ニケ………、本当に俺の心の声とか、聞こえたり、見えたりしてない?大丈夫?」
「読めてたら何考えてるか聞かねぇだろ。」
セーフと思っていいのか悩みどころだけど、心のなかで俺が魔王だよー!!と叫んでみても、ニケの反応はなく、大丈夫だろうという事に落ち着かせた。
「何?読まれると困ること考えてんの?」
(そりゃそうだべや。俺魔王だぞ。)
やっぱり、ニケは変わらないから安心して少し笑えてきた。
「俺の考えてることなんて、ほとんどニケのことじゃん。」
「ふーん。」
ニケがハリアモンド先生の方を見たので、俺もつられて視線を向けた。
あの人にはぜひ、魔王戦中も聖女第一で守ってほしいので、メンバー候補には入らない。
「魔王の事より考えてんの?」
「え?」
ニケの方を見たけど、ニケは先生を見たままだった。
「お前、たまに魔王のことだけ考えてるときあるべや。」
本当に、ニケの洞察力には驚かされる。
「でも、魔王戦の事って結局ニケ無しでは考えられないし、結果ニケの事考えてるって言っていい気がするんだよね。」
最終戦、ニケだけに負担をかけたいなんて思っていない。
絶対に、ニケの心の支えになる人達が片手以上はほしい。
視線を先生たちへ戻すと、紫の彼が先生に負けていた。
心が負けていないと、彼の中のプライドが瞳から顔を出している。
きっと、もっと強くなるだろう彼がうちに秘めている“獣”を、今のように真っ直ぐ育ててくれるか、正直俺にはわからない。
人は、変わる。
良くも、悪くも。
俺を殺せる勇者は、ニケただ1人。
勇者を目指して集まってきた人達が、その事実を現実だと受け止めたとき、変わらず立っていられる人は何人居るだろう。
「絞ってるっていうか、6人の内2人は残ってくれたらなと思ってるんだ。」
「まぁ、お前より強いやつとか、結局ココにも居なかったしな。」
「最強はニケだよ。」
「当たり前だろ。」
このニケの、“当たり前だろ。”が、声が、顔が好きだ。
俺は自分に自身を持ててない部分が多いから、この自信に満ち溢れたニケを見ると勇気をもらえる。
早くファンクラブできないかな。匿名顔出しNGの場で、ニケの凄さについて語らいたい。
「次は何考えてんだよ。」
「ニケのファンクラブが早くできないかなって、あ」
言いながらあっと思ったし、声でもあっと、出てしまった気がする。
すぐさまごめんと謝った。
「なんのごめん。」
「ホモに、聞こえる発言を、したことです。」
「ファンはファンだから、ホモじゃねぇだろ。」
そのニケの言葉はめちゃくちゃ嬉しかった。俺の長年のホモ疑惑を払拭できたに等しいと思えたからだ。
でも、だったら俺は今までずっとファンだったし、死ぬその時までファンなのに、何度ホモだと怒られていたかわからない。
逆にホモがどんどんわからなくなっていく。もうお手上げに近かった。
とりあえず、これ以上余計なことを言わないように、ギブさんがくれたマスクを付けた。
真っ白で不織布のマスクが、俺っぽくて合ってる気がする。
「なんで急にマスクした?お前今までしたことないべや。」
「俺、思ったことをすぐ口から出るしょ?コレつけてる時は喋らないってクセつけてこっかなって。」
「今は取れ。俺の前で付ける意味わかんねぇわ。意味ねぇだろ。」
でもと渋る俺に、ニケは予想と違い怒りや苛立ちを持っていなかった。
マスクを取る仕草も、言い聞かせる声も、優しいものだ。
「ホモだと思った時は、ちゃんと教えてやる。他のやつの前でつけたいならつけててもいい。だから、俺と居る時はつけるな。」
「うん。ごめん迷惑かけて。」
誰が、ホモについての本を書いてくれ。どんな分厚くてもしっかり読むからと思っていると、後ろからおいと声をかけられる。
「ヒマしてんなら、俺と戦えよ。」
勇者科の、コーラルという人だ。
身長は176cm。体格が良く、腕の筋肉が特に発達していて、全体的にうらやましい体型の人だ。
持っている剣も150cmはある大剣で、まるで大きなナタのようだ。
俺達を睨みつけるように見つめる瞳は、この国特有の寒色である青。
ニケより薄いアイスブルーの瞳は、その色の名前も、色自体も冷たいものなのに、冷たさなど感じさせない。
むしろ、熱く燃えるような力のある瞳だ。
銀髪は男らしい短さで、声も、お腹に響くような太くてしっかりしているいい声だ。実に男らしい。
彼も、俺の候補に上げている人の1人だった。
ニケが、一瞬俺を見る。
ニケは、彼が候補だと気がついて戦おうとしているのが伝わった。
ニケも、この戦いで彼を見定めようとしている。
「気を使わせんなよ。技科は技科舎に帰ってろ。」
コーラル君にそう言われ、反射的にえ?ここで見てるよ。と返してしまった。
案の定と言ってしまっていいかわからないけど、彼の怒りが大きくなるのを感じる。
見た目がザコすぎる俺のせいで、心配させて申し訳ない。
俺は魔族なのもあって、風邪どころかウイルスは効かないし、水中は6時間息継ぎ無しで余裕で、マグマとかもバリアがあるから入ってけるほど丈夫だ。
本当なら見せて信じてほしいけど、それができないので俺も困っていた。
「俺邪魔しないし、石とか飛んできても避けれるから心配しないでいいよ?」
「だからっ、心配はしてねぇ!!てゆうかそんな肌白くて何言ってんだよ!まともに外出たことねぇだろバレバレだわ!」
よく言われるけど、俺は外にいることのほうが多いくらいだ。
「実は、この肌が白いのは日光に当たらないではなく、父方の遺伝で、俺も誠に遺憾に思ってます。」
心の中だけで、肌の色が白すぎてあだ名がアイボリーだった父さんヘ文句を言った。
誰にも聞こえてないはずだし、母さんはいないのに、ぱちんとデコピンされる。
「いてぇ。」
「別に、似ててもいいだろ。健康だし文句言ってんな。」
あぁ、ニケだなしか感想が思いつかない。
あぁ、僕の勇者だなしか、言葉が思いつかなかった。
ぐしゃぐしゃなような、あったかいような気持ちに、悲しいとさみしいを塩水でぐるぐるかき混ぜたような意味のわからないモノを全部飲み込んで、一回だけ頷いた。
「もしかして、男装?」
えっと聞き返す前に、ニケが俺とコーラル君の前に立ちふさがる。
「ちげぇわ!ホモしてくんじゃねぇ!」
「俺はしてねぇべや!」
コーラル君が“俺は”と言っていたということは、俺はホモしていた事になる。
本気でどこのことを言われているのかわからなくて、考えすぎて血の気が引いた気がした。
「ごめん、今の、何処がホモっぽかった?」
「お前じゃねぇ。こっちがホモしようとした。」
「ちげぇって!男装とか言ったことは謝るけど!!」
結局ホモは余計わからなかったけど、やっぱり彼はニケの心を守る人になりうる可能性を秘めているなと思った。
自分の過ちを認めて、素直に謝れる人は、実は本当に少ない。
特に、10代という多感な時期だし、相手が自分より弱いと思える同性に対して、マウントを取りたがる人類が圧倒的に多いのが事実だ。
しかも、今回は俺の肌の色のせいで誤解させたところがあるようで、彼だけが悪いとも言えない状況だ。
それでも悪かったと素直に謝る彼の中の正義は、とてもニケに近いものがあると思う。
「心配かけてごめんね。女の子じゃないからここで2人の一戦を見てても/」
「心配とかしてねぇんだよ!!」
人の心は、一つじゃない時も多い。
俺が弱そうだし邪魔なのも、グラウンドにいる事自体がムカつくのも、彼の本心だと思う。
でも、心配なのも本当なようだった。
彼の顔はどんどん赤くなっていくし、声も大きくなっていく。
優しさがにじみ出てしまう人というのは、彼みたいな人だろう。
そんな彼だから、あの紫の秀才がいつもピッタリとくっついているんだろうなとほっこりした気分と同時に、2日しか見てないけれど、2日ともピッタリとくっついている印象の2人がホモだと言われない理由が気になった。コツがあるなら聞きたい。
「こいつは、俺のサポートをするためにこの学校に来てるんだよ。」
ニケが喋ると、彼は体ごとニケの方へ向く。本当に根が真面目なんだろうなと思った。
「体の良いパシリってことか?」
「パシれるわけねぇだろ。こいつマジで意味わかんねぇとき意味わかんねぇぞ。」
ニケのセリフが予想外だったのだろう。コーラル君の顔が、いや目が、わかりやすく驚き丸くなった。
俺も、パシリ的な心配までされていたのかと軽くショックを受ける。
「あそこの木のところで見てろ。」
ニケの言うあそこは、一番近くにある木だ。
コーラル君が何かを言う前に、行くぞナタ野郎と言って、ニケはスタスタ歩いていく。
そんなニケに、ナタじゃねぇよ!剣だろ!!と元気にツッコミを入れながら追いかけていくコーラル君は、やっぱりニケと気が合うのではと思えて嬉しかった。
上着のポケットから、さらに3台小型のドローンを空へほおる。
ニケを見ていたはずのコーラル君が、驚いて振り返ったので、やっぱり視野も広いなと感心した。
「頑張ってね。」
ニケに言われた木のもと歩き、そこでPCの画面を一枚増やす。
いつもより小さな画面に映っているのは、ハリアモンド先生だ。
彼が全く俺を見ていないことを確認し、カバンに手を当て魔力を注ぐ。
カバンの中から出てきた小鳥を模している砂の人形は、誰が見ても違和感のない野生の小鳥だ。
ピピッと鳴いてサッと木に移った小鳥が、しっかりと“魔物”になっていることを確認して、もう一度先生がこちらを意識してない確信を得てから、小さな画面は消してニケの方にだけ集中した。
「さぁ、君の“中”を見せてね。コーラル君。」
魔王甲冑なりきりセット 分類(甲冑)
ララがデザインし、ライラが魔力を込めた粘土で作った甲冑。
ライラだとバレないためにと、人類の想像する魔王に近づけるため、2mを超える大柄な男が着ている想定で作られている。
もちろんライラの身長は足りていないので、足の部分は20cm厚底。
ララのデザインなので、いい感じにかっこよく作られている。
ライラの実質の一張羅であり、最後の日まで兜を脱ぐことはない。
兜だけ脱いでしまうと肩もかなり違和感を感じ、どちらかと言うとギャグみたいになってしまうが、誰もその状態を見れないし指摘できないので、ライラも知らないまま最後の日を迎えてしまう。
声も自動的に変えてくれるボイスチェンジャーがついていたりと、かなりハイテク。
動いてガチャガチャ音を鳴らさないためにかなり工夫も凝らされていて、甲冑の出来はライラの中で満点。




