盾と剣より先に来た猛獣 後半
また主人公ライラの視点に戻ってきました!
ライラはギブルと違い、聞いていない人のセリフや話は聞いていないので、短いです。
プシューという音がする。
昼間、ツンデレ気味の技科の人にもらった素材で作った鞘が出来上がる音だ。
黒いだけのシンプルな箱を開けると、中に出来上がった鞘が鎮座している。
手にとって、箱の蓋も閉めずに喜びの声が出た。
軽さ、固さ、どれをとっても今までの中で一番いいものだった。
壊してみろと挑発的に投げつけられたときは、まさか自分に素材を提供してくれてると思いもしなかったけど、割った瞬間衝撃的だったから気づく事ができた。
割れない物を渡してくるのかとか、割って怪我をするものだと思いこんでいたのに、外側だけ固く感じて、なおかつ割れたら怪我をしにくいなんて、まさに俺が探していた素材だった。
後から聞いたら、この素材の配合は彼が独自で思いついたものだったらしい。
そんな大切な物を提供してくれた嬉しさに、テンションが上がった俺はお礼を言いながらべらべら喋り続け、肝心の彼に真っ赤になりながら叱られてしまった。
もしかしたから、ホモに嫌悪感がある人かもしれないから、今後は近づくとかしないで心で感謝していくことにする。
この出来事もとっても嬉しかったけど、なにより今日はギブルさんと友達になることができた。
ギブルさんは、この国では珍しいピンクの髪だ。
ニケの好きな子より濃いビビットピンクの髪を、後ろは短く、前髪は長めにしてあって、右半分はオールバックのように後ろに、左は長いまま斜めに流れているのがとてもカッコイイ。
マスクと服は、黒と白を貴重としているのに暗さを感じないオシャレなもので、細身のギブルさんにとても似合っていた。
ビジュアル系のバンドが好きなようで、気分で今日のようなビジュアル系の服にする日と、ポップで明るく、カラフルな可愛い系の服にする日があるらしい。
服は全て家長さんに任せている俺とは大違いだ。しかも、俺は任せているから大丈夫まである。俺が選ぶなら変T一択だ。オシャレの欠片もない。
ギブルさんとたきひこさんとのランチは、有意義を超えるものだった。
本当に時間が足りないほど質問して、質問を返してもらえたからこそ知れること、知りたくなることが見つかっていくし、やることは絶対増えたのに、やるべきことは絞られていく最高の結果になった。
まかみさんの制作した人工の魔物とニケの戦闘データもとれたし、今日は前半から大収穫だ。
俺が作った魔物と違い、クオリティの高い生物的にリアルな人工の魔物は、ニケの経験値になるだけでなく、俺にもすごい刺激になった。
俺では、ヘビの中から美女の出現は思いつかない。まず、美女をリアルに作れる気もしない。
人工的に作られた血のりもかなりリアルなもので、まかみさんの、どんな魔物が来ても仕留めるという本気度が詰まっていた。
アレを使って訓練している人達なら、俺がどんな魔物を作ってきても怖いとか、体が竦んでしまうことは無いと思う。
(血のりがニケとニケの服についちゃったから、落ちるか心配だけど。)
血のりを浴びても、全く輝きを損ねなかったニケを思い出し、服の心配とは真逆の気持ちが湧いてくる。
血のりを心配した、あの“ピンクの美少女”が登場し、ニケに触れそうになった瞬間を、今でもはっきりと思い出すことができるほどだった。
(すごい。本当にラブコメが始まる。)
何度思い出しても、完全にお似合いだった。
ニケは触れられる前に隠れてしまったけど、そのくらい本気なんだと実感した。
真っ赤になって恥ずかしがるニケなんて、今まで見たことも無かった。
正確には、恋をして恥ずかしがっている姿は、始めてだった。
小学校入りたての頃は、ニケは赤面症気味だったし、少し腹痛持ちだったけど、ある日急に全然大丈夫な健康優良児になって、勉強もスポーツも人よりできる、モテモテな人気者になっていった。
小さい頃を思い出した出来事でもあったのに、あの頃と違う新しいニケでもあるし、不思議な感覚だ。
俺はニケと違い恋愛ドラマを見てこなかったけど、ニケと彼女の掛け合いは、本当にドラマのワンシーンのようだった。
最推しが主演のドラマ(現実)なんて、もう全力応援、支援以外のコマンドは無い。
二人のハッピーエンドへの舞台を、手抜きになんかできない。
俺は天才じゃないから、本番100%の準備で挑んでも、絶対に100%になったりしないとわかっている。
だからこそ、150%の準備と力で本番に挑む気だったし、新たにその考えを強くした。
技術科として、ニケの戦闘スキルをより高められる物を作りながら、人類の生存率をあげる避難誘導に必要な物を作り上げ、避難施設や設備を作っている人達を支援、もしくは協力していく。
絶対に、今のままでは避難や戦闘時に誰か死んでしまう。
それを、この国に自覚してもらい、ギブルさんやたきひこさん達の案を案で留めている現状を打破しなくては。
とりあえず、この一ヶ月で5倍は全土の避難ルートや施設を増やしたい。
この国の中心の人たちだけ無事でも、意味がない。
今のままじゃ、“魔王戦後”必ず地域の格差が出てきてしまうし、それが争いの種になることは、今までの人類の歴史から見て明らかだ。
ニケ達の幸せな時代に、人類同士の醜い争いなんかいらない。
やらなければいけないことは山積みだ。
ギリ、3年のうちにどうにかしたい。
「3年くらいあれば、きっとニケは最強のパーティと、最高の戦闘ができるようになってるだろうし。」
ハッピーエンドを分かち合い、その先もずっと苦楽を共にするような、最高の友が見つかるはずだ。
「ニケの心を守る、剣と、盾がほしい。」
(バリアでは、心は守れないから。)
鞘をさっとタオルで拭いて、タオルはそのままぽいっとそこら辺へほってしまった。
ニケが見ていたら、そういうとこだぞと叱られるけど、今はいないから気にしないで足早にグラウンドへ向かう。
さっきは靴を履かずにグラウンドに出てしまって、ランチの時怒られたし、今度はちゃんと靴を履いてグラウンドへ走った。
グラウンドに出ると、何十人もの勇者科の人達が鍛錬している。
朝、まかみさんが人工魔物達を外で戦わせた事をなかったかのように平常運転な人達は、さすが肝が座っているなと思った。
技科の人達は、校舎の一部を破壊されたことを含め、まだまだざわついている。
俺は逆に、1人で壊した校舎を直しているまかみさんの凄さにざわついたし、本当は手伝いたかったけど、彼の後ろにはちゃんとたまきさんも居るので邪魔にしかならないと近づくこともしなかった。
思考をグラウンドの人達へ戻し、勇者科の人達を少しだけ観察する。
この中から、ニケの“剣”と“盾”が見つかるといいなと思いながら、ドローンを2体空へ投げた。
しっかり観察してもらうのはドローンに頼むことにして、俺はニケを探す。
上でウィーンと浮いているドローンは、どれだけ男の人を見ていてもホモだと思われなくて、少し羨ましい。
俺達魔族は、ホモがわからない。
誰か、ホモとはどんな定義で、どんな条件なのかの本を出してほしいかった。
「イーラ?」
「はい!今行きます!」
ニケに呼ばれた俺を、怪訝そうに見る人、明らかに睨んでくる人、様々だ。
でも、この人達はホモじゃない。
ニケに憧れや好意を持っているのは、俺と一緒のはずなのに。俺も、この人達も、恋では無いのに。
俺と何が違うのか、俺には本気でわからなかった。
「何その色、ダサ。」
「えぇ!?」
ニケから、まさかの鞘の色に対してダメ出しをくらい、明日までに、色やデザイン含め、練り直して作ることになった。
「おいニケ!俺と一戦しろ!」
前から後ろから、ニケは本当にすごい数の人から声をかけられていた。
1人に勝てば、2人から申し込みがあるくらいの勢いだ。
そして、当たり前のように全勝である。
すこぶるかっこいい。
そう思う人は、勇者科にも次々と出てきているし、外で演習している救護科の女子生徒、極稀に男子も顔を赤らめて見惚れている。
その中に、あのピンクの美少女はいない。
真剣に演習をしてるからこそのその姿は、ニケと同じモノを感じて、やっぱり運命的だなと感動した。
ニケも今、あの子のことは頭にない。
強くなること、そして、魔王戦のことだけを考えていてくれてる。
挑戦者達の戦闘パターンを体で理解して、いい所は吸収し、自分のものにしてより強くなっていく。
戦えば戦うほど強くなっていくニケを見て、開いた口が塞がらない人達も少なくなかった。
俺だって感心しっぱなしだし、俺が16の時より強いかもしれないと思わせるほどだ。
ニケのデータは、今打ち込み続けているPCの中でも、俺の中でも、どんどん更新されていく。
ニケの新しい靴や、本番着てもらう予定のマント等の案を、より細かいところまで計算している利き手は、もう、俺の思考を置いてきぼりにしてるみたいだった。
右手では、ニケの対戦相手のデータを軽くメモっていく。PCなのに全く整理されていない言葉の列は、俺じゃない人が見たら誰がどれのことかわからないほどのものだ。
観察していくと、何人かニケの実力に嫉妬しているのがわかる。
(明日、魔物にココを襲わせるか。)
戦争が一時的に終わってから15年。
まだまだ根強い恐怖を持っている人と、そうでない人の差が出始めていた。
魔王戦を見据えているはずのこの学校ですら、何人かは目標を軽視と言うか、危機感を持てていない。
もしくは、想像力が乏しすぎる。
じゃなかったら、嫉妬して悪態をついている暇など無いとわかるはずだ。
でも、こういう事は誰かに言われるより、身を持って体験する方が心に残る。
百聞は、一見にしかず。
魔物や魔王とだって、一見、一戦してこそ、やっと緊張感を持てる人もいるだろう。
しかも、共通の敵が現れることによって、人類は団結力も上がる。
暇を持て余しているヒマが無いと、自身を高めることにするか、心をポッキリ折って避難に徹するか、決断するきっかけにもなるだろう。
どんな魔物を最初に出陣させるかは、あらかじめ考えていた。
何時に、どの程度の強さで出現させるかは、明日全校生徒の様子を見て決めようと思ってる。
「イーラ、水。」
ある程度の人を倒したニケが、こちらへ歩いてきた。
すぐにクーラーボックスをドローンに持って来るよう指示すると、一体だけ教室へ向かった。
俺は、暑さにも寒さにも割と強いし、日焼けもしにくいから炎天下でも平気だけど、ニケが脱水になるのは絶対に嫌だから、木下の木陰で待っていた。
この学校のグラウンドは、普通の学校のグラウンドと違い、ぱらぱらと木がある。
植えたというよりは、切り倒さずにグラウンドを作った感じの無造作感が割と好きだ。
木は、勇者科の人達の休憩所にもなっているし、熱中症で倒れたら避難させられるし、とてもいいよなと思っているとドローンが返ってくる。
すぐ、クーラーボックスの中からペットボトルを取り出して、ニケに渡した。
「ニケ、お疲れさま。」
「別に。疲れてはねぇ。」
水を飲みながらも他の生徒たちを見渡すニケを見て、本当に強くなったなぁと感動した。
よく見ると、首あたりが少し赤い気がする。汗は見えなかったけど、暑いかもしれないとクーラーボックスの横についているポシェットからタオルを出してそっと渡す。
この学校は、なんと本校舎の東側にシャワーを浴びる事のできる設備がある。
昼間、まかみさんの魔物を倒して汚れたニケは早速使っていた。
キレイ好きのニケには、とてもありがたい設備だ。
今はタオルだけでいいみたいだから、本当に疲れるまでは動いてないんだと感心する。
朝の時と違い、今は黒のTシャツだ。朝のほうが白だったから、赤色が目立つんじゃないかと心配だけど、ぶっちゃけ赤のTシャツでもかっこよかった。
逆に、このニケをどうダサくできるんだろう。
鞘がダサいと言われたけど、ニケの付属品でしか無いコレが、ニケのカッコ良さを損ねられると思えなかった。
でも、自他ともに認めるセンス皆無な俺は、言われた通り鞘の色やデザインを家長さん助言してもらうしか無い。
(今日はあと…、このデータを元に靴の試作も作るから、そのデザインも、それにマントの色とかも相談したほうがいいのかな。マントとか普通に白しか思い浮かばないけど駄目なのか?)
「何考えてんの。」
「ニケの靴とマントのことだよ。」
「マントはやだ。ダサいから。」
「なんだって!?」
まさか、マント自体を却下されると思っていなかった俺の脳内は大慌てだ。
「でもっ、防御面でもっ、もちろん通気性や機能性に優れたものにするし、デザインは家長さんに頼むよ!?色もニケの好きな色でいいし!」
「いらねぇ。靴は早くしろ。あと、ダサくすんな。」
これは、マジで着てくれる気がしない。
勇者といえばマントじゃないの!?と大慌てな俺の気持ち達はもう捨てておいて、マントを無くすとしたら、どう防御力に優れた服にするかと、マント分の飛距離を出せる靴を考えることにした。
PCでもう一度ニケの戦闘を見返しながら、そこに映るデータを見て、自分の中にあったマントを消し、新たに考えなくてはいけなくなった課題を殴るように打ち込んでいく。
「イーラ。」
ニケに呼ばれる。この声は、腹減ったの声だ。
「はい。」
画面から目を離せなくてニケの方は見れなかったけど、塩分補給兼オヤツのジャーキーを手渡すと、ちゃんとニケが受け取った感触が伝わった。
空いたその手を、またすぐに打ち込む作業に戻すことができる。
本体がないからできることなので、このPCを作った甲斐があった。
(でも、え?マントダサいの?魔王の時俺もマントつけてるけど、え?ダサいの?)
心の中で問いかけても、答えなんて帰っては来ない。
わかっているけど、考えることはやめられなかった。
「イーラ。」
お腹空いたではない呼びかけに、自分では止められなかった思考は止められる。
そのままニケの方を向いた。
「なしたの?」
ジャーキーを食べ終えたニケは、思っていたよりずっと近かった。
家に居る時のような距離に少しびっくりしたのは、学校ではこんな事なかったからだ。
まぁ、今までは教室で机とか人に阻まれていたから当たり前だけど。
「さっきの技科のメガネ達、幼馴染らしい。」
メガネ達とは、まかみさんとたまきさんのことだ。
まかみさんは、身長176cm、18歳。
細身に見えるけど、脱いだらシックスパックの身体能力高い系男子だ。
そのま身体能力は、勇者科でも十分通用するほどだけど、彼は身体能力を遥かに凌ぐ頭脳を持つ、技術科になくてはならない存在だ。
いやもう、技術科に限らず、人類の宝と言っていい。
白に近い銀髪で、明るい金に近い黄色がメッシュの様に一箇所束になっているから、地毛なのにオシャレに見える。髪質はニケより少し硬めで、パーマというより無重力感がある。
俺は、クシで梳くのを諦めたようなその髪が、元気な彼を表しているようでいいと思うし、瞳も明るい太陽の様なオレンジでキレイだと思う。
メガネも、その瞳が映える暗めのオレンジフレームでオシャレなものだ。
彼の目は細められていることが多い分、開かれ鋭くなる時は猛獣のような強さを見せつけられるし、たまきさんと居る時は糸のようにニコニコと細められていることが多く、可愛い事が多い。でも、たまに本気で狙っているように見開かれているので、ギャップがすごい。
しかも、八重歯がチャームポイントの“属性てんこ盛り”天才猛獣だ。
素晴らしいと思う。
そして、その猛獣を理解し支える秀才たまきさんも素晴らしい人だ。
身長183cm、18歳。
バランスの良い筋肉と、傾国の美貌を持つ生きる芸術品。
黒髪黒目で白い陶器のような肌の彼は、美しい夜を擬人化させたと言われても信じる人がいるレベルだと思う。
黒髪はサラサラで、なんとかウルフ的な名前のカットに近いと思う。とにかくかっこいい。
烏の濡羽色といえばいいのか、サラサラだけでなくツヤツヤだ。
瞳の色なんて俺と同じなはずなのに、彼のほうがこう……うまくは言えないけどすごい。
目力が違う。
もちろん、彼のほうが強いと言う意味でだ。
服もセンスの良いシンプルなもので、眼鏡含め、質がいいとひと目でわかるシックなものだ。
ちなみに、まかみさんはTシャツ短パンか、スウェットが多いらしく、今日はこの時期なのにTシャツ短パンだった。元気すぎる。
そんな対象的に見える2人は、揃って能力もセンスもある、技術科のトップを譲らないすごい人たちだ。
「二人共タイプが違うのにバランスがとれてて、ホントにすごいよね。」
言ってから、ニケはホモが苦手だったと思い出し、恐る恐る様子をうかがった。
今日の昼前は、2人が仲の良いところを見ていても嫌悪感的なものは感じていないようだったと思う。
でも、まかみさんがニケに興味を持った時、ニケが明らかに警戒したのも気がついていた。
やっぱりニケは、同性から自分へ好意を向けられるのが嫌なのかもしれない。
「あいつ等を、サルと飼育員って言ってる奴らと………ホモって言ってる奴らがいる。」
ニケの顔が真剣だったから、俺はニケの言葉を聞く以外の思考が停止されたし、ニケからまかみさん達への嫌悪感は見当たらなかった。
「あの黒い眼鏡の方は、セクハラされてんの?」
ニケの、こういうところが好きだ。
人の恐怖や嫌悪の度合いは違うから、まかみさんが本気で嫌がっていても伝わってないのか心配だったんだろう。
なのに、すぐまかみさんを否定するわけじゃなく、彼らを見てる第三者から意見を聞いてみたり、まかみさんがたまきさんへ悪意がないことも考慮して、自分はどうすべきか考えてる。
ニケは、直情径行に思われがちだけど、本当は誰より思慮深い。
人を助ける時等は、体が先に動くことがあるけど、その時すら思考を捨てようなんて思っていないほどだ。
自分が理解できない“同性愛”の人達を、嫌悪したり蔑まないだけでもすごいのに、配慮して自分のできることを考えるその優しさと、それを貫ける強さを持っている。
真剣なニケに、俺もできるだけしっかり応えようと思考を巡らせ、言葉を探した。
「俺はね、あの2人は、あの2人でしかたどり着けない答えがあると思うよ。」
“セクハラされているのか”という問いに、この返事は違うなと反省する。
いつも、何故か思考と言葉がうまく結びつかなくて、必死にバラバラの糸を掴むみたいな気持ちで伝えたいことを手繰り寄せた。
「セクハラされてないか、は、たまきさん次第だと思う。されたと思う日も…あるかもしれない。」
人種が違う俺では、ニケに“正しい答え”を言えている自身は無かった。
でも、ニケは俺に聞いてくれたから、俺が思ったことをニケに伝えられるようにと思ったのと、
まかみさんとたまきさんの選ぶ道を、ニケにはこれからも嫌悪しないでもらいたくて、頑張って言葉を探し続けた。
「ニケも気づいたと思う、けど、まかみさんは本当に、人としてたまきさんを愛してるし……ちゃんと恋なんだ。」
うまく言えている気はしなかったけど、ニケは黙って聞いてくれていた。
「まかみさんを、たまきさんが受け入れるか、拒むかを決めれる日まで…他の人が、何か、すべきじゃない、気がするんだ。」
「イーラは、あのサルに惚れるとかねぇだろ?」
「ないよ。まかみさんはきっと父さんと同じタイプっていうか、好きになった人に、一生恋してるタイプの人だと思う。」
ニケは何か少し考えて、技科舎の方を見た。
ほとんど直っている技科舎は、まかみさんとたまきさんの強い結び付きを表している様に感じる。
それが恋になるかは、俺にはわからないけれど。
「ならあのサルは、失恋したら幼馴染も恋も失うことになるんじゃねぇの?どうしても恋じゃなきゃ駄目な理由はねぇだろ?幼馴染として一生仲良くいればいいんじゃねぇの?」
「両方、失う気がないんだよ。やる前から諦める人ではないんだ。」
ニケの言う通り、彼らの関係を断ち切る物になりうる“恋”。でも、父さんも10年かけて母さんを降参に追い込んだし、俺はなんとかなる気もしていた。
「……あの黒い眼鏡の方は、地に足ついてるからな。」
ニケが二人のことを肯定的に見てくれているのがわかって、やっぱり優しいなと嬉しくなった。
「俺、やっぱりニケを勇者に選んで良かった。」
本当に、俺の勇者だと思う人ランキング不動の1位はニケだ。
予想とか遥かに超えてくる。かっこよくて、優しくて、最強に強い、無敵の勇者。
振り向いたニケに、こいつ何言ってんだって顔されたけど、俺の嬉しいは減ったりしてくれなかった。
でも、アホ面と怒られるのは嫌だから、空を見ることにする。
「早く、皆が幸せな世界にしたいなぁ。」
空は、ニケの瞳より少し薄いきれいな青が広がって綺麗だ。
魔王戦の時は、演出のために曇天にしようかと思っていたけど、本当はこんな風に青空の下で戦うニケのほうがカッコイイ気もしていた。
「いや、逆にニケが勝った瞬間空が晴れ渡ったほうがいい気もするな。」
「お前…いつも頭の中どーなってんの?話飛ぶとかのレベルじゃねぇべや。」
「ご、ごめん。」
「あとジャーキー5枚よこせ。」
「5枚は多いしょ……。」
一枚取り出してニケに渡す。
俺も、母さんが初めてジャーキーを作ってくれた時は、あまりの美味しさに1日中ジャーキーのことを考えていた気がする。
今、同じレシピで作ったコレを、全然あの時と同じ味だと思えない。
でも、ニケが食べてくれるときだけ、一緒に食べると美味しい気がした。
「イーラ、コレ食い終わったら一戦するぞ。」
「は!?」
この“は!?”は俺の声じゃない。
近くでニケの声が聞こえたらしい勇者科の人の驚きの声だった。
隣りにいる人には聞こえてなかったようで、急にどうしたのと聞かれている。
彼は、悪くない。
魔王だと思われないどころか、普通より弱く見える体つきだからだ。
圧倒的にヒョロい。
ニケみたいに、細身で筋肉のついた体なわけではなく、本気で筋肉がついてないように見える。
見えると言った理由は、力はあるからだ。
魔力じゃない物理的な力。純粋なパワー。
完璧に母さんのDNAを受け継げたはずのこの力は、何故か母さんの様に全面に出てくれなかった。
ぷよぷよでもないから、うすいとしか言いようがない。
こんな俺が、コンクリートはラスクのレベルで壊せるよ!と言ったって、誰が信じてくれるのか。
ニケしか信じてくれない。
魔王として迫力も何も無いし、人類にしては不気味な俺は、この学校で戦うわけにはいかなかった。
ニケほど心も勇者だと、俺を異質だと思えないだけで、他の人達からは異質だと思われてしょうがない。
マンガやアニメじゃないんだから、本来筋肉の量とパワーは比例する。俺だって理由をわかっていないくらいだ。
人類は特別は好きなのに、異質は嫌う。
異質だと思われすぎるのはめんどくさかった。きっとニケにもめんどくさいことを言ってくるやつが増えてしまう。
「勇者科以外が訓練すんなって決まりはねぇだろ。」
そう言い返したニケに、声を上げてしまった彼は怒りを露わにしていく。
「ここをどこだと思ってんだよ。中坊みてぇな仲良しごっこは他所でしてこい。」
そんな彼とニケの間に、スッと人が入る。
本当に自然に、スッと入る動きには無駄が一切なかった。
「ごめんね?その子技科の子でしょ?ずっとグラウンドに居て心配しててさ。日差し割とあるし。」
「心配とかしてねぇし!技科には技科舎あるって言ってただけで心配とかしてねぇ!!」
実はこの2人、俺が目をつけているニケのメンバー候補だ。
戦闘データがもっとほしいし、本心では俺がこの人達と直接戦って色々確かめたかった。
でも、大声につられ多くの人がニケの周りに集まってくる。
「おいニケ!そいつらのあと俺とまた一戦しろ!」
「ニケ、やっぱりお前は俺とバディを組むべきだと思う。」
「ニケは俺達のチームに入るんだよ!」
こんな感じで、すぐニケの取り合いだ。
戦闘はいいけど、ベタベタするのは絶対にやめてあげてほしい。
あのピンクの美少女以外は嬉しくないと思う。
「うるせぇザコども!!ならチームでかかってこい!!」
「だから!!技科のチビは数に入れんなって言ってるべや!」
「俺1人で勝つけど?」
言い切ったニケに、誰一人として何も言い返せなかった。
そんななにかを、ニケは持っている。
「俺が、勇者なんだよ。」
本当の本気でかっこいいので、今この瞬間、あの美少女に見てほしかった。
しかも、ニケは有言実行なのでちゃんと全勝する。
もう早くファンクラブできてほしい。
俺は、マントの代わりまで補わなくてはいけなくなったニケの靴を考え直すため、ニケ達の戦闘訓練から目を話すことなくPCと一緒に思考し続けた。
あっという間に時間が過ぎていく。
勇者達の幸せな世界に向けて。
メリア 14歳 性別(男性) 所属チーム(麦の絆)
最年少で勇者科に受かった天才。
プライドと技術力が高く、スピードもトップクラス。
性格が生意気なガキンチョ様なので、それが戦い方にも出てしまい、コウデンやニケのような戦いで冷静な相手には勝率が低い。
まだまだ伸びしろがある少年。
見た目は中性的で、女の子にもかわいいと大人気。
本人は女の子よりコウデン達に構われたい末っ子タイプで、コウデンがニケを気に入ったことに腹を立てるほどだが、ニケを一番気に入っているのはメリア。
いつかニケを倒したいと思っていて、魔王を倒すのはおまけくらいに思っている、少年らしい無鉄砲さと俺死なねえ状態。
コウデン達に甘やかされている自覚も勿論あり、それに優越感を持っている。
ニケもライラではなく俺達といればいいのにと思っているが、ニケからそう思ってほしいので、自分からはあまり積極的に勧誘はしない。
野生の勘は、実はニケの次に鋭く、心のどこかでライラが強いこともわかっており、それ故警戒もしているが、技術科にビビっていると思いたくないのでその勘を潰してしまうほど精神的に年相応。




