第6章のちょっと前「千客万来で嬉しいけど、今はちょっとそっとしておいてほしい勇者」③
医務室のベッドでわたしは目を覚ます。
けれどもう駄目だ。視界が歪んで見えたり、頭の中がぼぉっとしていて、感じているはずの頭痛さえぼんやりとしている。全身の節々が痛いのはきっと、筋肉痛のせいだけではないはずだった。
「駄目だ……本格的に死にそうかも、わたし」
「そんなときは、これを飲めばいいのですよ~」
身体を起こす気力も無いまま辺りを見回すと、そこには金髪に白衣姿をした少女が立っていた。
わたしは「あ、ノノ……」と言うのが精一杯で、ノノはそれに「はい。のほほんですよぉ~」と笑って返してくれた。
「はい、これどうぞです~」
「……これは?」
「元気になるお茶なのですよぉ~」
そう言ってノノが差し出したのは、麦茶のような色をした液体だった。
わたしは身体を起こして「ありがと」と、そのグラスを受け取る。
しかし、そこでふとノノの机の上に虫籠と壷のようなものが見えた。
その虫籠の中にはムカデやら芋虫やらコウロギやら蜘蛛やらがひしめき合うように入っていて、もぞもぞと蠢いている。
「……ノノ、この飲み物って、どうやって作ったの?」
「ちょっと特別な方法なのですよ」
ノノがにぱっと笑う。
「虫さんたちをいっぱい壷に入れておくと、不思議なことに、いつの間にか一匹だけになっているのです」
いや、それ共食いしてるだけだから。
ってか、ノノの行動と言動がいつになく黒いんだけど……
「で、その一匹はとっても強い魔力を持ってるので、それをひょいっと取って、ちゃぽん♪ってすると、水に特別な魔力が染み出してくるのです」
ってか、えっ? それって……
「蟲毒っ! それ、蟲毒っていう、古来から伝わる呪いの方法だからっ!」
「そういうお名前なんですね。それにしても、昔から親しまれていたお茶だとは知らなかったのですよぉ~」
「そんなわけないでしょっ! 蟲から出た毒を食べ物とかに混ぜたりすると死ぬって、そういう類のお茶なのよ、あんたが今笑顔で渡そうとしてるそれはっ!」
「香澄ちゃん、物知りなのですぅ~」
「小野不由美先生の『悪霊シリーズ』は大好きで何回も読み返したからね! ……じゃなくて、感心してないでよ! 危険なのよ、それはっ!」
「よかったら優勝した芋虫さんもあげるのですよぉ~。これで、いつでも飲みたくなったときに蟲毒茶を飲むことが……」
「いらないっ! よりにもよって本体を押し付けないでよっ!! 呪者の家に取り憑いて莫大な財産をもたらすけど、定期的に人の命を差し出さないと主人が喰い殺されるって、そういう蟲なのよ、そいつはっ!! その蟲の所有権を押し付けるのを嫁金蚕って言って、昔は使ったら死刑にされるほど恐れられた呪いなのよ、それ!」
「そうなんです? でも食わず嫌いはだめなのですよぉ? というわけでどうぞです」
「いや、だから勧めないでよ! そんなゲテモノを、子供に野菜を食べさせるみたいにさ!」
「大丈夫ですよ。のほほんもさっき飲みましたから」
「え゛!? あんたそれ飲んじゃったの!?」
「だから香澄ちゃんも、さぁ、まず一杯♪」
「ありえない! ありえないからぁぁぁぁぁぁっ!」
火事場の馬鹿力というのだろうか。
わたしはずっしり重いはずの身体で飛び起きると、そのまま廊下を全力疾走して逃げた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
わたしは自室に籠ると、内側から鍵をかける。
風邪を引いてるのに、走り回ってばっかりだ。ってかもう無理。無理ぃぃっ!
けれど、わたしは気付いてしまう。
この部屋は一階で、この国の窓にはガラスが嵌められていないと言うことに。
「ま、まさか……」
見ると、窓の枠には『げんきになってねですぅ~』のメッセージカードと共に、芋虫の入った瓶が置かれていたのだ。
そして、まるで狙ったのはないかというタイミングで吹く突風。
飛んできた木の枝が、瓶に当たり、
ぱりん!
床に落ちた瓶が割れると同時、黒く大きな芋虫はわたしの足にへばりついた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
【来客その3:呪いの芋虫】
小野不由美先生の『悪霊シリーズ』、おススメです!!






