第5章「天使と勇者」23
「急がなくちゃ……」
わたしが聖都に戻るとほぼ同時、聖都に張られていたはずの結界は消滅した。
見上げると、そこには天使が飛んでいる。
つまりは、ジョンの身に何かがあったということだと思った。
身体を光の粒子が通っている感覚。
わたしはそれを、今度は傷口ではなく右足に集中させてみる。
ドンッ――――――
跳躍。
それは裕に数メートルの距離を越えていて、本気を出したら更に高く跳べそうだった。
「わっ! ……でも、これなら!」
わたしはクリスと別れると、屋根伝いに天使へと近づく。天使と今まで戦っていたのなら、ジョンもその近くにいるはずだと思ったからだ。
天使の周りに無数の光の弾が現れる。少しずつ膨れ上がっていくそれは、準備が整ったが最後、街に降り注ぐのだろう。
『わたしはこれから、聖都に住む人間全てを殺します』
天使の言葉。
リナの願い。
だけどそれを叶えさせるわけにはいかないのだ。
「間に合えぇぇぇぇぇっ!」
全力での跳躍。
わたしが天使の前に辿り着くのと、光の弾が発射されるのはほぼ同時だった。
わたしは意識を左手に集中する。
左手のミサンガを巡回して加速し、光の粒子が盾の形に放出される。
もっと……もっと大きくっ!
できる限り大きく! 天使からこんなに近くにいるんだから、この位置なら街全体を守ることができるはずだと思っていた。しかし光の弾は予想以上に広範囲に広がっていて、全てを止めるにはあと一歩分、足りなかったようだった。
「少しだけ」「お力添えです」
背後から声と、そして背中を押される感触がした。
「えっ、プチ達!?」
「あと一歩分前へ出るだけで」「きっと全部守れるのです」「わたしたちが」「背中は支えます」「香澄ちゃんもがんばって!」
「ありがとっ!」
放たれた光の粒が、盾に弾かれて霧散していく。全ての弾を防ぎきったと思った、そのときだった。新たに右端から一発、左端から二発、光の弾が盾のさらに外側に作られる。
「しまった! 間に合わないっ!」
少ない数だからか、光の弾の大きくなる速度が速い。わたしは空中で体勢を立て直すのもままならず、三つの光の弾は盾から漏れて街に降り注いでいく。
「えいっ!」「それっ!」「ちゅどーんっ!」
「……えっ?」
そして三つの弾は、プチ達の口から放たれたビームのようなもので撃墜されていった。
「……あんたたち、ホントに何でもできるのね」
「お腹の中のものを」「口のところまで迫り上げて」「狙いを定めて」「吐き出すのです」
「「名づけて、香澄ビームです」」
「うん、そのネーミングは別のにしましょうね」
「「えぇ~~~~っ!」」
プチわたし達が珍しく反感の意を表しているが、今はそれどころではない。
天使の攻撃手段はひとつではないのだから。
わたしはプチ達に手伝ってもらって屋根の上に着地すると、再び跳ぶ。
それは天使が右手の剣を振り上げるのとほぼ同時だった。
「香澄さん、あなたも邪魔をするんですか?」
「違うわよ。わたしがあんたを止めるのよっ!」
左手の盾の形状を鋭く尖った剣のような形へ変形すると、天使が振り下ろしてくる大剣を受け止める。
盾を変形させた剣だからか、わたし自身に衝撃は無い。けれども圧倒的な質量差で、わたしは弾き飛ばされる。
天使の攻撃は単調だ。ガルムの訓練を受けているわたしには、その行動を読むのは不可能ではなかった。しかしそれでも、聖波動の塊である天使に地に足をつけずに真っ向から力比べをするのでは、あまりにも分が悪かった。
「地道に削り取っていくしかなさそうね……」
足に意識を集中して、屋根の上に着地。屋根が靴の形に砕けて沈む。わたしは着地の反動を利用して再び跳躍し、再び天使の前まで戻る。
天使の左手がわたしの方へと伸ばされ、掴んでこようとするのだが、
「遅いっ!」
わたし手の甲から伸びる刃をさらに大きくして、天使の左手の手首から先を斬りおとす。再び天使の剣が横薙ぎに振り払われたが、それも刃の角度を垂直にあわせて、刀身の真ん中から先を斬りおとした。
天使の周囲に光の弾が現れる。
けれどそれも、すぐに発射されるわけではないのは知っているのだ。
「プチ達! 大きくなる前に、片っ端からあれを潰して!」
「「了解です!」」
プチ達の口から放たれるビームで、瞬く間に光の弾は掻き消されていく。
「何をやったって無駄よ! わたしが全部、止めてやるんだからっ!」
「いいえ、香澄さん。これは防ぐしかないでしょう?」
「えっ、そんな……」
見ると、斬りおとしたはずの左手と右手の剣が、もう再生していた。
そうだ。この天使は人の形をしているだけで、あくまで聖波動の集合体なのだ。
そして左手には、右手と同様の大剣。左右の剣が同時に振り下ろされ、わたしは盾での防御を余儀なくされる。
横薙ぎに振り抜かれる二本の剣。
わたしは盾ごと弾き飛ばされ、大聖堂の屋根へと叩きつけられる。
「――っ、ぁ……」
衝撃で意識が飛びそうになる。咄嗟に頭を庇ったものの、思い切り壁に打ちつけた、身体の右側の感覚が無くなっていた。激痛に耐えながらわたしは左手で屋根にしがみ付き、しかしそうするのが精一杯だった。
再び右手の大剣が振り下ろされる。
「駄目、この場所だけは……」
わたしは左手を屋根から放すと、盾で大剣を受け止める。
しかしそれも時間の問題だ。下へと滑り落ちていく身体を支える術は無いのだから。
そして数秒後、ふわりと足場が無くなる。
わたしは三十メートルの高さに投げ出されていた。
香澄ちゃんが新たな力で頑張ります!
って展開になると思ったんだけど……
プチ達、強っ!!
さすがはデタラメ生物3号!!
というかビーム撃っちゃってます!! ネタキャラのくせに!!






