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第4章のちょっと後 「天地開闢を司る聖獣とそれを従える勇者」②


 とりあえずわたしは当初の予定通り、厨房に向かうことにする。

 そうすると今度は、シモンとジョンが前から歩いてくるのが見えたのだ。


「あ、香澄さん。お疲れ様です」

「香澄さん、ご苦労だね。これから夕食の支度かい?」

「ええ。いま厨房に向かっているところ。いい食材が手に入ったのよ。わたしがいた国ではタコって言うの。ミハエルとガルムにはあんまり気に入ってもらえなかったみたいだけど」


 わたしはそう言うと、右手のタコを二人に見せる。


「……って、あれ? ジョン?」


 見ると、ジョンはシモンの背中の陰に隠れて、小動物のようにガタガタと震えていた。

 あー。やっぱり魔族ってみんな、タコが苦手なのかな……


 そう思ってシモンの顔を見るが、表情は至って平然。

 特に取り乱す様子もなかった。


「それは……エンゼルフィッシュだね。人間の国ではデビルフィッシュと呼ばれているそうだが」

「あ、人間の国ではちゃんとデビルフィッシュなのね」


 それにしても、出合った魔族の四人中三人が、タコが苦手だった。

 本当はシモンも強がってるだけなのではないかと、どうしても疑ってしまう。


 わたしは『えいっ!』べにょっ!とやってしまいたい衝動を必死で堪えながら(だって怒ると怖いもん)、わたしの手から離れようとするタコを元の位置に戻したりする。


「ちなみに八本足が八方位を示すとされ、この国では『人間の国を創った神の司徒』、人間の国では『魔族を大地に放った悪魔の使者』とも言われている。双方の国で忌み嫌われているから、可哀そうな生物ではあるけれどね。まぁでも人前に無闇矢鱈と見せるものでもないよ」

 そう言うシモンは、次第に顔色が悪くなっているように見えた。

「ふーん、そっかぁ。ちなみに魔王様としては、このエンゼルフィッシュちゃんは平気なの?」

「………………」


 沈黙。

 あー。やっぱり苦手なんですね。


「まぁ、その……私にはどうしても許せないものが三つある。君の世界で言う『タコ』も、そのうちのひとつだ」


 つまり、三つのうち二つは『ピクルス』と『タコ』ってことよね?

 パンタグリュエル王国はこんなことで本当に大丈夫なのだろうか?


「あーもう、わかった。タコはわたし一人で食べるわよ。せっかく釣れたと思ったのになぁ……」


 そして、わたしがタコちゃんの方へ目線を向けたそのときだった。


 視界の端で、何か黒いものが飛んでいくのを見た。


「えっ、まさか……」

 嫌な予感がして、わたしは振り返る。


 シモンの顔は、タコの墨でべっとりと真っ黒になっていた。


「グアァァァァァァァァァッ――――――」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 咄嗟に逃げる!

 シモンが魔王モードになって追いかけてきて、わたしは必死で床を蹴って走った。


「タコォォォォシネェェェェェェ――――――」


「駄目ぇぇぇっ! わたしのおやつぅぅぅっ!」


「ユウシャァァッシネェェェェッ――――――」


「何で標的がわたしに変わってってるのよぉぉっ!」


 走る。

 走る。

 めっちゃ走った!


 廊下を駆ける途中、厨房の扉が見えてくる。

 そして、あそこに逃げ込めれば!と思った矢先、扉が開いて、そこから伸びてきた手によって厨房に引っ張り込まれた。


「はぁ、はぁ……あ、ありがとっ! 助かったわ」


 息を整えて、顔を上げる。

 そこには白衣を着た金髪の少女がいた。


「ノノ……」

「はい、のほほんです」



3章のサブタイには意味がありましたが、こちらはネタです。深い意味はありません。


※設定無駄話※

タコを連れて城門~廊下を歩いている間、一般兵士達も香澄の姿を目撃しています。

嬉しさのあまり、香澄が周囲の目線に気づいていないだけです。

兵士達の心の声は、「……あの女ヤバイ」です。

周囲からは本当に「天地開闢を司る聖獣を従える、頭のいかれた女」に見えています。

人間が魔王軍幹部入りという異例の事態に不満を持っていた魔族は少なからずいましたが、兵士達のほとんどが「あいつには逆らわないほうがいい」と思うようになりました。

そんな魔族達の心情はいざ知らず、香澄はタコを片手にはしゃいでいます♪


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