第4章「奇跡の勇者」⑭
「ミハエル、落としてっ!」
わたしはわたしが叫ぶと同時、笛のような音が響く。
直後、轟音と共に落雷が朱雀の背中に直撃した。
「ギギャァァァァァァァァァァッ――!」
朱雀の身体が傾く。そのまま朱雀は落下し、
「次は俺の番だな。――月の女神ルナマリアの加護のもと、災厄を囲わんと請う!」
変形した水の壁が、落ちてくる朱雀を受け止めようと、朱雀を包む。
しかし、想像以上に朱雀の落ちた衝撃波強く、水の壁を突き破りそうになる。
それでも途中で朱雀の落下が止まったのは、地面から生えてきた無数の黒い槍が、朱雀の翼を貫いていたからだ。
「えっ、ノノ?」
いや、違う。
黒い槍を使うのは、ノノではなくて……
「ワタシよ。気まぐれだけど助けてあげたんだから、感謝ぐらいしなさいよね?」
「助かったわ、ありがとう!」
「な、何よ。そんなに素直だと気味が悪いじゃない!」
そういえばわたしは、もう一人のノノの名前を聞いていないことに気付く。
「ねぇ、あんた名前は?」
「カタリナよ。もう戻るわ。人間を助けるのに加担するなんて、本当に最悪な気分よ!」
「あはは……」
朱雀の下にいた人たちが避けると、槍の長さがゆっくりと短くなる。
朱雀が地面の近くまで降りてくると、カタリナはもう元のノノに戻っていた。
わたしは朱雀の顔を見る。
「ねぇミハエル。死んでないわよね?」
「相手は不死鳥ですよ? 水を司る玄武ならともかく、僕では一撃で仕留めるなんて無理ですよ」
「あ、ホントだ。今ちょっと目が動いた」
けれどそれはつまり、チナちゃんが生きているということだ。
ミハエルがシシド村の人たちに状況を説明する。
簡単に言えば、朱雀の正体がチナちゃんであり、能力に精神が吞み込まれた状態だといった内容だ。
わたしたちが言うより早く、村の人たちは朱雀に駆け寄ると、チナちゃんの名前を呼んだ。
何度も何度も声を掛け、朱雀の頬に触れ、思い出話を語った。
「チナちゃん、大丈夫かな……」
「きっと大丈夫ですよー」
わたしが呟くと、ノノがそう言ってくれた。
「のほほんには、あの中にチナちゃんが見えてますから。今はちょっとだけ、時間が必要なだけだと思います」
「そっか。ノノがそう言うなら、きっとそうなのよね」
ノノが笑って、わたしもそれに釣られて笑った。
そして、夜が明ける頃。
朱雀が涙を流したかと思うと、チナちゃんは元の姿に戻っていった。
「あなたが救ったんですよ」
ふと、ミハエルから声が掛けられる。
「えっ、何が?」
「チナさんのことです。チナさんは元から朱雀だったわけではありません。僕達青龍や白虎、玄武、そして朱雀も、本来ならばパンタグリュエル王国に住む魔族の中で最も優れた者が、『世界の始祖』によって選ばれると言われています」
「じゃぁチナちゃんが優れた魔族ってこと?」
「いいえ、違いますね」
「ん? どういうこと?」
「あの光景は、僕にしてみれば奇跡です。あなたの行いに、それだけ価値があったということですよ」
ミハエルが指差した先を見ると、集落の人間達がシシド村の魔族に頭を下げて謝っていた。
緑の髪の男が全て事情を話し、集落の人間全員で、魔族に対して土下座をしていたのだ。
それには魔族たちも驚いているようで、互いに顔を見合わせていた。
チナちゃんが無事に、しかも無傷で戻ってきたこともあり、険悪な雰囲気でもなさそうだった。
「ところで、あなたも疲れたのではないですか? よかったらこれを」
ミハエルから渡されたのは小さな果物だった。
わたしは「ありがと」と言うと、その果物を口に運んだ。
「す……すっぱぁっ!!!!!!」
それはチナちゃんに渡されたクランベリーの実だった。
「ちょっ、あんた! これ分かっててやったでしょっ!」
「酸味のあるものは、疲労回復に良いそうですよ?」
「こンの馬鹿ぁぁぁぁっ!」
わたしの悶え苦しむ姿を見て、ミハエルが笑った。
ムカつく奴だけど。少し癪だけど。
前より少しだけ、こいつのことを嫌いになれないわたしがいた。
チナちゃん生きてました。
というか生き返りました。良かったです^_^
※設定メモ※
この世界には神と呼ばれる存在が4柱存在します。
太陽の神、大地の神(名前はまだ秘密です)
月の女神ルナマリア、世界の始祖(初代魔王)です。
「あの光景は、僕にしてみれば奇跡です。あなたの行いに、それだけ価値があったということですよ」
ミハエルからの、最大級の賛辞です。
香澄の行動が、崇拝する「世界の始祖」に認められ、神が後押しをするだけの価値があると判断されたということを言っています。
自分にはできない選択だったと認めると同時、それを悔しがるでなく、純粋に香澄を褒めています。
そんな彼の心は梅雨知らず、香澄は「ミハエルがわたしを褒めた!? やったぁ!」ぐらいの温度差があります。






