第4章「奇跡の勇者」⑤
「ミハエル様。綺麗な場所ではありませんが、よろしければ泊っていかれてください」
「感謝します、村長。僕は軍人です。有事の際には寝場所は選びませんので、屋根があるだけでも助かります。それは他の二人も同様です。一人はどこでも眠れてしまう性格ですし、もう一人は……そうですね、ゴミ溜めにでも捨て置いて構いません」
「はぁ……ゴミ溜めですか?」
わたしが村に戻ると、村長とミハエルがそんな話をしていた。
というか、重い籠を背負って戻った矢先、不快な言葉が聞こえてきたのだ。
「ミハエル、てんめぇぇぇぇっ!」
「おや、自覚があるようで何よりです。身の程を知ることはとても大切ですから、その程度の知性はお持ちなのだと正直、関心いたしました」
「うっさいわよ、この人でなし! 馬鹿馬鹿ばーか!」
「随分な言われ様ですね」
「どっちがよっ! ってかそもそもあんた、わたしに気付いてて、わざと聞こえるように言ったでしょ……ん?」
「よかったら使ってください」
ふと、ミハエルから手ぬぐいが渡される。
改めて見てみると、確かに体中が泥だらけになっていたのだ。
「お疲れ様です。助かりましたよ、香澄さん」
「ただいま……なによ、そいういうことも言えるんじゃない」
「これでも上司ですから。村長さんの家の部屋をお借りできることになりました。ノノさんを呼んで、ひとまずそちらで休みます」
「そうね。地味に疲れたし、落ち着いてゆっくりしたいわ」
「いえ。だからあなたはゴミ溜め……」
「寝場所は選ばないんでしょ? あんたがゴミに塗れてなさいよ馬鹿っ!」
「………………チッ!」
ミハエルが舌打ちする。
初めてミハエルに勝った気がした。
「そうそうこの草ですよー。香澄ちゃん正解~♪」
村長宅の一室で腰を下ろすと、籠の中身をノノに確認してもらった。
ノノが拍手してくれて、わたしはようやく胸を撫で下ろす。
「よかったぁ……これだけ苦労したのに『ただの雑草です』なんて言われたら、ガチで立ち直れないところだったからさぁ」
「のほほんは助かっちゃったのです。香澄ちゃん、いいこいいこ~」
「ははは、ありがと」
ノノが頭を撫でてくれる。
どことなく恥ずかしいのもあって、自然と笑ってしまった。
それから村長さん夫婦に夕飯をご馳走になり、再び部屋に戻ってくつろぐ。
あくびが出て、そろそろ寝ようかなぁなんて、そんなことを考えていた時だった。
「……消えた」
ぽつりと、ノノがそう呟く。
「ノノ、どうしたの? ……って、ノノっ!?」
ノノの目から、涙の粒がこぼれる。
ノノはそれを拭うでも堪えるでもなく、ただ東の窓の外を見つめていた。
「……表が騒がしいですね」
ミハエルがそう言い、わたしも耳を澄ませる。
村の大人達が、誰かを探し回っているようだった。
「お休みのところ済みません!」
部屋の扉が開くと、村長が血相を変えて入ってきた。
「チナをご存知ありませんですかっ? 赤い髪の女の子なのですが……」
「……えっ?」
どうやらチナちゃんは、まだ村には帰っていないようだった。
ミハエル様は陰口を叩きません。
本人の前で必要以上に嫌味っぽく言うのみ!
お気に入りのキャラなのです。良い性格してると思いません?
チナちゃん失踪です。
チナは孤児ですが、シシド村は孤児の多い村。
大人達が協力して面倒を見ていたこともあり、村人達が総出で探しています。
チナちゃんは恵まれない境遇にも負けず、明るく笑える女の子。
自分のことを大切にしてくれる大人達に感謝の気持ちが持つことができています。
けれど歳の割にしっかりとした考え方をもっていることも、そうならざるを得なかった境遇ゆえのものです。






