↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/246

第4章「奇跡の勇者」④


「よっこいしょ……って言うほど重くないんだけどね」


 ミハエルの指示で軍服から古着に着替えて、わたしは大きな籠を背負う。


「で、わたしはこの先の森に入って、薬草をぷちぷちしてくればいいのね?」

「ええ。頼みましたよ」


 そう言ったミハエルの顔は、いつもとは違うように思えた。

 口元とは相反して、目が笑っていないのだ。


「……ねぇ、どうしてわたしなの?」

「僕の服が汚れるからですが、何か?」

「誤魔化さないでよ。どう言っていいのか分からないけど、それが嘘だってことぐらいは分かる。あんた、この村に入ってから妙にピリピリしてるでしょ?」

「かもしれませんね。ですが、あなたの気にすることではありませんよ」

「………………」


 どうやらミハエルには話す気が無いようで、わたしは諦(あきら)めて森に向かうことにする。



 二十分ぐらい進んだところで、目当ての薬草は簡単に見つかった。

 手が草臭くなるかなーなんて考えながら、群生している薬草達を摘んで、ポイポイ籠に放り込んでいく。


「勝手に生えてる草を毟(むし)ってるだけなのに、泥棒か何かをしてる気分ね……」


 この場所に人目は無い。別に隠れているつもりもないんだけど。

 それでもさすがに、薬草をこんなにたくさん取っていいものなのかと不安になるのだ。

 まぁそれでも仕事だし、ここまで来た以上は、採(と)らないわけにはいかないんだけどさ。


 籠の半分も行かないうちに飽きてきて、そこからはただの苦行だった。

 大きな籠がいっぱいになった頃にはもう夕陽が沈みかけていて、二時間以上もやっていたのかと溜息が漏れる。そりゃぁ腰も痛くなるわけだ。

「せめて暗くなるまでには村に帰りたいな……」

 そんなことを呟きながら、わたしが立ち上がったときだった。


「こんなところで何をしている!?」

「きゃっ!!」


 突然声を掛けられて、完全に油断していたわたしは声を上げてしまった。

 振り向くとそこには、緑色の髪と長い髭を生やした、厳(いか)つい男性が立っていた。

 耳が尖っていないので、どうやら魔族ではないらしい。


「ここいらじゃ見ねぇ顔だな……何者(なにもん)だおめぇ?」

「香澄です。井上香澄……」

「名前なんか聞いちゃいねぇよ。ここで何してんだって言ってんだ」

「あ、その……薬草を採(と)りに」

 『盗(と)り』にじゃないです、はい。

「ふぅん、なるほどなぁ……」


 男はわたしの腕を掴むと、そのままもう一方の手をわたしの顔の横に伸ばす。

 髪が掻き分けられるような感じがして……これってもしかして、わたしの耳を確認してる?


「悪ぃな、ちょっと疑(うたぐ)っちまった」

 男はばつの悪そうに言う。

「その薬草は、村かどっかに持って帰るのか?」

「まぁ、そんなところです」

「そっか。まだ若ぇってぇのに偉ぇじゃねぇか! もうじき暗くなるから、気をつけて帰るんだぞ!」


 そう言うと、男は去って行ってしまう。

 男が行った方向には、明るいうちは気付かなかったが、木々の奥に微かに灯りのようなものが見える。そこに集落でもあるのだろうか。


「……っと。早く帰らないと」

 そう呟き、歩き出して十分。

 あと半分ぐらいかな、なんて考えているときだった。


「あっ……」


 わたしは正面の木陰から走って出てきた女の子とぶつかってしまう。

 体格差からわたしは何とも無かったが、女の子は転んで倒れてしまった。

 背丈からして十歳ぐらい。方向からして、シシド村から来たのだろう。

 耳は尖っているから、どうやら魔族の子……というか、


「あれ、さっきの……」


 先ほど、わたしたちにクランベリーをくれた女の子だった。

 わたしと同じように、この子も薬草を取りに来たのだろうか。


「ごめんね、大丈夫?」

「痛いけど平気です。ちぃはよく転ぶから慣れてますから大丈夫ですから、平気です」

「そっか、強いね」

 わたしは女の子の手を引いて立たせてあげる。

「ちぃちゃんっていうの? わたしは香澄。井上香澄よ」

「ちぃは本当はチナです。さっきは急いでたからぶつかっちゃったから、ごめんなさいでした」


 チナちゃんは小さな籠を背負いなおすと、わたしにぺこりと頭を下げる。


「隣のおばちゃんが病気だからお薬が必要だから、ちぃは行きますね。内緒で来たから村の人たちが心配しちゃうから急がなきゃだから、走らなきゃいけないのです」


 そう言って、チナちゃんは走って行ってしまった。


「あっ、チナちゃん……チナちゃんっ!」


 名前を呼ぶが気付いた様子は無い。

 薬草なら、いっぱいあるから分けてあげるのに……


 わたしは走ってチナちゃんを追いかけるが、すばしっこくて追いつけない。

 荷物のせいで上手く走れず、途中からは籠を置いて走ったが、とうとう見失ってしまった。



草むしりです。香澄は二時間ぶっ通しで、延々ぷちぷちしてました。


※設定メモ※

魔族と人間を外見で最も簡単に見分ける方法は耳が尖っているかどうかです。

ただし髪を伸ばして隠せる程度なので、そこまで露骨に長く尖ってはいません。

厳密には体の構造からして違うという設定なのですが、そちらは本編の中でいずれ紹介できるかと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風変わりな恋愛小説はじめました。
「悪「役」令嬢なんて生ぬるい! ~婚約破棄を宣言された辺境伯令嬢は、ナメた婚約者に落とし前を付けにいくことにしました~ 」

王道の婚約破棄から始まるのに、少し変わった悪役令嬢ものです。
良かったらこちらもお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろうアンテナ&ランキング
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。