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第3章『魔族の王国で爵位を得て魔王軍准将に任命されたからにはその立場に相応しくあろうとする勇者』④


「ただいま、お父さん。全部売れたよ!」

「またこの()はっ! あたいのことは『お母さん』と……いや、今日から『お姉ちゃん』とお呼びっ!」

「えっと……お姉ちゃん、ただいまぁ」


「………………」


 ルアンちゃんの『お姉ちゃん』は、カウンター席の奥で料理の途中のようだった。

 『お姉ちゃん』はさらさらの髪を後ろでポニーテールに縛り、真っ赤な口紅をつけていた。中華鍋でご飯を豪快な火力で(いた)めているその腕には、特盛りの筋肉に血管の筋が浮かび、胸筋はエプロンがはち切れんばかりだった。その体躯は間違いなく百八十センチを越えている。


 どうやらこの世界では、こういうのも『お姉ちゃん』と呼ぶらしい。


「ところで、そっちの騎士様は何? 良い男を捕まえて案内してきなさいって言ったのに、どう見ても女の子じゃない」

「ソース売るのを手伝ってくれたの。それで、お礼をって思って」

「そうなのね。騎士様、娘をありがとうございます。それと、こんな場所からでごめんなさい、今ちょっと手が離せなくて」

「いえいえ」

「それにしても、女の騎士様なんて珍しいわね」


 あなたにだけは言われたくないです。


 こんなに男らしい『お姉ちゃん』も珍しいですね。

 他にも言いたい言葉を三十個ぐらい吞み込んで、わたしは(ほお)の筋肉を引っ張って無理矢理力任せに微笑(ほほえ)んだ。


「あたいはレスト。ここの店長よ。騎士様はよかったら空いている席にお掛けになってて。大したものは出せないけど、ご馳走するわ」


 ルアンちゃんに案内されて、わたしはカウンター席に座る。

 お店の手伝いがあるからと、ルアンちゃんは店の奥に行ってしまい、わたしはすることもなかったのでレストの仕事ぶりを眺め……


 そして、目を奪われた。


 手際の良さ。中華鍋の上で踊る具材。漂ってくる香ばしい匂い。

 家庭料理をちょっと作れるだけのようなわたしにも分かる。

 これは間違いなく、職人技だった。


 見回すと、店内は満席になっていて、表にも少しずつ行列ができ始めている。

 料理の味にわくわくする気持ちが抑えられなくなってきそうだった。

 ああもう、なおさら、


「おネエにしておくのがもったいない……」

「あら、騎士様まで。嫌だわもぉ♪」

 そっちじゃねぇよ!

「はい、お待ちどう様。最近作った調味料を使った新作よ」

「これは……」


 出てきた料理は、ご飯の上に薄く炒めた卵が被さり、醤油ベースのあんが掛けられている。

 俗に言う、天津飯(てんしんはん)だった。


「すごい……美味しい!」

「よかったわ。これをお出ししたの、騎士様が最初なのよ。あたいの初めてを食べてくれて……」

「ストップ、それは言わなくていいから」

「あら、どうして?」

「もともと地の底の女子力が、一気に奈落まで落ちるからよ……」

「まぁ、地獄級の女子力だなんて、騎士様ったらもう♪」

 そっか。その言い方だと魔族には褒め言葉になっちゃうのね……


 それにしても、本当に美味しい。

 天津飯は中華街で一度食べたことがあるけど、それ以上かも。

 そしてわたしが、二口目を口に運ぼうとしていたときだった。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

「逃げろ、逃げろぉぉっ!」

「魔獣だ! アホロートルが出たぞぉぉっ!」


 あー。ホントに出やがった。

 ってか、アホロートルってウーパールーパーのことじゃなかったっけ?


 店の客も一斉に席を立って、血相を変えて走り出している。

 とりあえず魔獣が出たみたいだし、わたしも逃げた方がいいのかなぁと、そんなことを暢気に考えていたときだった。


「騎士様、逃げるわよ!」


 レストが血相を変えて、わたしとルアンちゃんの手を引いて走り出す。

 どうやら事態はわたしが思っているよりも大変なことのようだった。



※設定裏話※


レスト+ルアンちゃん→レストラン です。


たぶん気づいた人もいらっしゃること。

キャラの名付けの雑さが酷いです。

でも気に入っているのでこのまま行きます。


この国にもきちんとした料理人はいます。

軍上層部は魔王も含めて軍人なので、食にそこまでこだわってませんでした。

イチゴとミルクは、この国の軍人にしては料理ができる方と言うだけ。

ただし、そのままでは食べられない食材を食べれるように加工したり、可食部を見分けたりという技術は持っていて、重宝されていたりします。

パシり隊共々、香澄から料理の指導を受け、香澄はイチゴ達からこっちの世界の食材について教わったりの日々です。


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