1-46 余分なお仕事
「エニス、ここのところまた網の繕いが忙しくなってない?」
最近はエニス島にもまったく行けていないのだ。ラウも相変わらず忙しいし。
「ほら、この間アンデに網を上げたじゃない? あんな感じで村に来てくれる人がいるかもしれないし。油断すると小さな村なんて、すぐに廃村になるのよ。それに網も倉庫に入れっぱなしだと痛むからさ。少し手の空いたあたしに仕事が回ってきたの」
相変わらず、達観した様子で手は休めないエニス。俺は遊んで欲しそうな感じで指を咥えて待っているだけだ。
「それってエニスがやらないといけない事なの?」
「他の人はみんな忙しいからねえ。うちは王子様にもらった網のお陰で、まだ恵まれている方なのよ」
王子様の嘘吐き~。あの網のせいでエニスが余計に忙しくなったじゃないか~。
「予備の網は50個あるから、当分終わらないわよ。もうボロボロになって捨てるしかなくて泣く泣く買い換えた、ハッキリ言ってゴミだもの。ブルーの糸だけが頼りよ」
あらあ、俺も一枚噛んでいたのね。でも文句を言わずに仕事しているエニスは偉いな。
でも出来れば一緒に遊んで欲しいんだけどな。
「また、お姫様と遊んでいらっしゃいよ。あのタコ坊主は壷に籠もりきりなんでしょ」
「うん、また壷を盗まれるといけないからって。獲物がよくいる辺りで待ち構えているよ。あれって実は狩りとしては効率悪いんだけどね」
「あははは。まあそれでやっていけるのならいいじゃないの」
エニスは楽しそうにしながらも、手は止めない。遊びに行っちゃうと、お手伝いが出来ないな。
「じゃあ、少し網を出してくれる? ほぐしておいたほうがいいよね」
「そうね。重いからアンデに手伝ってもらおうかな」
「倉庫って、あそこに見える奴だよね。ちょっと浜に上がれば鰭が届くから、倉庫の外に出してくれれば、そこでほぐすよ」
「エニスー、網の補修進んでるかあ。手伝いに来たぞー」
「あ、アンデ。丁度よかった~。今ブルーが倉庫の網をほぐしてくれるって。今呼びに行こうと思ってたの」
「へえ、そうか。じゃあ、兄貴達を助っ人に呼んでくるわ」
それからほどなくして、あの馬鹿者3人衆も一緒に連れてアンデが戻ってきた。
「お、ウミウシ。お手伝いか、感心感心」
「兄貴、ちゃんとドラゴンって呼んでやれよ」
あ、下のお兄ちゃんは気が利くなあ。出世するタイプだと思うの。
「じゃあさ、網をどんどん倉庫から出して並べていってよ。順番にほぐしていくから、それを綺麗に畳んでまた仕舞っておけば、補修が凄く楽になるから」
「おし、わかった。おめえら、気合入れていくぞ」
「おー!」
「頑張りますよ、お兄さん」
「任せてください、お兄さん」
相変わらず、媚び媚びの三人衆だった。お兄さん達も、すっかり村に馴染んでいるな。
俺は浜辺に上がりこんで、出てくる端から網をスイスイとほぐしていき、ふわっとした感じで綺麗に折りたたんでいく。
「本当に器用な奴だな。いや助かるんだけれど」
アンデも感心したように見ていた。
「それに、こうして浜辺に完全に上がりこんでいるのを見ると、改めてでかいと思うな。確かにドラゴンとか言われる訳だわ」
次兄のロニーが思わず唸る。やだ。そんなに褒めても何も出ませんわよ。
三人組はよく働いたので、俺も効率よく仕事が終わった。
「いや、仕事早いな。これがブルードラゴンの力なのか!」
そういう評価は如何なもんだろう。
「うん、漁師としてもいい腕をしているらしいしな」
まあ、確かにそうなんだけれど。
「もう立派な村の漁師の仲間だな」
えー、受け入れていただけているのは、大変ありがたいのですが。もしかすると、これが村からの評価の一般的なご意見なのだろうか!?
「おい三人組。ボケたこと言っていないで、さっさと網を運び込むぞ。形を崩さないように気をつけろ!」
ですよねー。長兄のミハエルは、結構現実的だ。案外としっかり者なんで、あちこちで婿候補に挙がっているらしい。
屈強な漁師の若者達の手によって、網はたちまち倉庫に全部納まった。彼らは、元からの仕事があるので、さっさと戻っていった。三人組は、アンデに一生懸命アピールしていたけど。
俺は上手に魔法で、浜に上がりこんだ後を消していった。
「ブルーったら、本当に器用ねえ」
「もっぱら、能力はその方面に集約しております」
「無駄な力ばっかり使ってるなあ」
アンデは呆れたように言ったが、さっそくエニスに突っ込まれる。
「もう、ブルーにそんな事を言ったって無駄だってば。それより、ブルー。さっきから網の傷み具合を観察してたんだけど、番手13番と15番、あと3ミリ糸と1ミリ糸を出しておいてくれない? そのあたりが結構要りそうな感じだったわ」
エニスはやることに無駄が無い。時間は限られているのだ。でも、貴重な子供時代の時間も限られていると思うの。
とりあえず御要望の糸を出してから、俺はハインリヒ王国まで遊びに行く事にした。




