1-45 盗人の末路
俺達とヤドカリはにらみ合っていた。いや正確には、俺はポケーっとしていただけなので、睨んでいたのはタコ魔人君だけなのだが。
「おいブルー。ボケっとしてんじゃねえ。俺が奴を抑えるから、お前の鰭であいつを仕留めてくれ」
「でも、気をつけないと、あいつは力が強いから暴れちゃうよ。狙いがそれたら壷が」
「そ、そこはうまい事頼むよ」
「なるべくやってみるけど。自信ないなあ」
何しろこのヤドカリの力と来たら、この前のパワーフィッシュの比じゃあないのだ。自分の体の何倍もの相手を引き摺ってしまえるのだ。
俺達はジリジリとお互いに間合いを計りながら海底をにじり寄った。
「あれ、今何をしていたっけ?」
俺はついうっかり記憶を手放してしまった。
「おいコラ、ブルー!」
「ふっ。馬鹿め、隙あり! これでも食らいやがれ」
奴は俺達に向かって両の鋏を打ち鳴らした!
「こ、これは~!」
ある種の海老のように、水中に衝撃波を生むスキルだ。ヤベエ。
「いけねえ、避けろブルー!」
だが、ちょっとボーっとしていた俺は避け損なって、水魔法で弾いた。タコ魔人君は触手を1本、3分の1くらい持っていかれたようだ。
「ぐう~」
他の触手で傷口を押さえるタコ魔人君。俺は泳ぎ寄って、ポーションを提供した。魔力の強いタコ魔人君の触手はあっという間に再生する。
「ふん、小癪な真似を」
憎々しげに嘯くヤドカリ。
「ふー、あぶねえ。助かったぜ~」
「どうするー? もう諦めたほうがいいんじゃない」
タコ魔人君は呆れた顔をして、ヤドカリは高笑いを決めた。
「ウミウシ~、お前は見所があるぜ。子分にしてやってもいいぜ」
「ウミウシじゃなくてドラゴンですよー」
更に奴の高笑いが響いた。
「ブルー、お前諦めが良すぎるぞ。あの壷を諦めるなんて出来るものか~」
タコ魔人君は水中でもわかるほど涙を溜めて悔しがっている。
俺はちょっと考えてみた。小声でタコ魔人君に囁いた。
「いつもの貝殻じゃなくって壷を背負っているからさ。あいつって逆さまに転がったら動けなくなるような気がしない?」
「う、ううむ。そうかもしれないが、転がったら壷がどうにかなってしまわないか?」
タコ魔人君は壷の心配をし始めた。
「砂地のところまでおびき寄せてやろうよ。それなら大丈夫じゃないかな」
「まあなあ~。やってみるかあ」
というわけで、俺達は2人いや2体の素晴らしいコンビネーションを見せて奴を誘った。奴は優越感に浸り、あえて誘いに乗ってきている。俺達をまとめて締めて、このあたりの王者になりたいのだろう。
舞台は整った。ここは一面に広がる砂の海底。奴には移動しやすい地形だ。泥の地形も悪くないが、奴には有利でないから乗ってこないかもしれない。それに泥だと不安定だから、奴の姿勢が戻ってしまうかもしれない。これでいいんだ。
「はっ、さっきから何やらこそこそしているようだが、お前らなんかに何ができる。この海の王者は俺だけで充分だ。お前らには消えてもらう。はじめからそのつもりよ」
なんてこった。こいつは喧嘩を売ってきていたのだ。絶対に勝たなくてはならない。生存競争に負ければ消えていくのみ。でもそうなったらエニスやラウと遊べなくなっちゃうじゃないか。負けるわけにはいかないぜ。
奴が動いた。詰めるタコ魔人君。だが、あたりからは何かがバサっと飛び出してきた。
「こ、これは!」
「わはははは。罠に嵌ったな、クラーケン。そしてブルードラゴンか。ここは我らヤドカリ魔物の巣窟よ。知らぬが地獄。大人しく我らの餌になるがいい!」
あ、そう。じゃあ、これ。
俺は海底に張り巡らされた、ウミウシ糸を引き揚げた。
「うおおおおー」
ヤドカリどもは見事に引っくり返った。そして、あいつ以外のヤドカリは網に捕まってもがいている。王子様に貰ったあの最新式の網を真似て自作しておいたものだ。
「あっはっは。このあたりの海底にいる毒カレイを捕らえるために張っておいた、仕掛け底引き網よ。風下に立ったが、うぬらの不運!」
「ブルー、最後の辺が意味不明だぜ」
そして、壷底が安定してしまい、足が届かずもがいている奴を尻目に、一族郎党を硬化鰭で突き刺し回って全滅させた。
「ち、ちっくしょう~。殺せ、殺しやがれ!」
血走った眼のヤドカリ野郎。
「はい」
プスっ。
遠慮なくいかせていただきました。いや、逝かせてやったのか。
「やったぜ、ブルー」
感激したタコ魔人君が、興奮して俺に触手を絡めてきた。
「この間は助けてもらったからね~」
俺は空間魔法でヤドカリどもを回収しておいた。こいつらは案外と美味いはずだ。タラバガニなんかも、こいつらの仲間だしね。ヤシガニなんかも珍味だ。
「今度からは、出かける時は空間魔法で壷は持ち歩く事にするわ~」
それって、なんかヤドカリになったようなもんじゃね?
後、テント暮らしとか車上生活者みたいな。でも俺は出来たウミウシなんで、喜ぶタコ魔人君を見ながら、それはそっと胸のうちに秘めておくのだった。




