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1-44 盗まれたタコツボ

「はああ、極楽極楽」

 その直径30mくらいはあろうかというタコつぼの中で、そんな声が聞こえてくる。


 普通は外敵から身を守るために、そういうところに入るもんだけど。クラーケンたるタコ魔人君ことアルフレッド君は圧倒的な強者なので、そんな必要は全く無いのだが習性というものは捨てられないものだ。


 俺だって、もうクラゲなんて食べないけど、海面を泳ぐのをやめられない。お日様の光が気持ちいいのさ。


「いやブルー、俺はかつて人間だった頃、お風呂が好きだったのよ。中でも温泉の露天風呂に置かれた壷風呂がな。あれに1時間も2時間も籠もっていたりしたものさ。ああ、懐かしいぜ。王子様の話からすると、お前も地球からきたんだろう。どこの国だ? 日本かい?」


「日本……」

 懐かしいような、そうではないような。なんともいえない気持ちだな。


「まあいいさ。過去はどうあれ、俺達は魔物なんだ。楽しく生きられればそれでいい」

「それには激しく同意するよ~」

「いやあ、この壷は本当に最高だなー。ブルー、お前のお陰だぜー」

 タコ魔人君じゃない、アルフレッド君がご機嫌なので、俺もちょっとハッピーな気持ちでいっぱいだった。


 翌日、かつて自分の家の網だった、アンデの網の修繕を手伝っているエニスのところに行きお話をしていた。


「もうタコ魔人君ってば、新しいタコ壷にそれはもうメロメロなのさあ」

「ブルーもいいお家があるといいのにね」

「んー、俺は海面に浮かんでいられたら、それで充分だけどなあ」


「まったくウミウシって奴はなあ」

「ウミウシじゃなくてドラゴンですよ~」


 そんないつものような会話をしているところに、タコ魔人君―もうこれでいいや―が現れた。

「ブルー~」

 いつもと違って、なんだか少し涙目だ。


「うわ、クラーケン。相変わらず、でかいよな」

 まだタコ魔人君を見慣れないアンデが思わず呟く。


「おいブルー、さっきから念話で呼んでいるんだから返事くらいしてくれよな」

「あれー、そうだったっけー」

 たまに会話に夢中になっていると呼び出しに気付かない事もある。


「聞いてくれよ。壷が、壷が、壷がなくなっているんだ!」

「壷、ってあの王子様から貰った奴?」

 エニスは可愛らしく小首を傾げた。


「そうそう、その壷なのよー。さっき、ちょっと狩りに行っていた隙によ~。くそー、どこのどいつだ。俺のタコ壷を返せー」

 もう、タコ魔人君は真っ赤な茹で蛸のような感じになっている。


「おい、タコ。それって、もしかしたらあいつらの仕業じゃないのか?」

「あ、あいつらって?」


「ほら、あれだよ。なんていうんだ、貝殻かぶって歩いていくあれだ。あれも確かお前らみたいに、でかいのがいるんじゃなかったっけか?」


 俺とタコ魔人君は顔を見合わせた。

「「それだー!!」」


 そう。ヤドカリである。宿借りなのか宿蟹なのか、論議があったような気もするが、そんな事は問題ではない。


 さっそくタコ魔人君は、大型魔物の気配を探った。

「む、今日に限っていっぱいいやがるな。ブルー、お前も見てくれよ」

「じゃあ、ちょいとね」


 俺は水中用に、蝶々羽じゃないや、超長波を放ってみた。硬い物に当たったような感触が伝わってきた。


「あっち、沖合い60kmにそれっぽい気配があるみたい」

「よっしゃ。行くぜ、ブルー!」

「あ。待って~」


 俺は、突進していくタコ魔人君の後を慌てて追っていく。彼は本気になると俺よりも若干早いくらいで水中を進むのだ。


 あっというまに追いついた。奴は暢気に捕まえた魚をその大きなはさみで切り刻み、食事を楽しんでいた。背中にタコ壷を背負ったまま。


「やい、てめえ。俺の壷を返せ!」

「なんだ、お前。クラーケンか? 何がお前の壷だ。これは俺様が拾ったんだからよ。あっちへ行け。食事の邪魔だ」


 タコ魔人君はブシューっと頭から蒸気を拭いた。まるで蒸気エンジンのようだ。

「てめえ。死にたくなかったら、三つ数える間にそこから出ろ」


「は? チンピラが何言ってんだ。出るわけがねえだろ、こんないい物からよ」

 そう言って奴は、その如何にもなヤドカリ顔に下卑た笑いを浮かべた。


「こ、こんの、どぐされ蟹があ~。もう、てめえは生かしちゃおけねえ。海の掟の厳しさを教えてやるぜ。おい、ブルー。やるぜ」

 もうタコ魔人君は目を血走らせていたが、相手は歯牙にもかけていない。


「いいけど、気をつけないと、あいつに勝っても家が壊れちゃうよ」

「だけどこのままだと、その家があいつに取られちまうんだー!」

 やれやれ。なんとかしたいところなんだけどね。


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