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1-29 竜宮の景趣

「ふう。久し振りにいい汗をかいたわい」

 結局、成果は若干の運動不足解消に終わった村長さん。


 一方で圧倒的な釣果を上げて大満足なラオ。リール釣りはお遊びの範疇らしい。魚は〆て、俺の収納でしまってある。


「姉ちゃん、お弁当~」

「はいはい。さあ、村長さんもどうぞー」

 エニスが出してくれた、焼いた鹿肉と野菜を挟んだサンドイッチにラオが齧り付いた。


「うめえ~!」

「ラオはお肉が好きなの?」

「いや、いつも魚ばっかりだからさ。漁師さんから御裾分けでも貰わないと肉なんか食べられないよ。代わりにいつも魚は御裾分けするけどさ」


 漁師村だから、狩人さんは少ないのかな。エニスの村なら、海の幸と山の幸の両方が手に入るのにな。


「いや、エニスはいいお嫁さんになれるぞ」

 村長も目を細めてエニスを見る。まあ、ラオのお母さん代わりみたいなものだし。


「はい、お水」

 俺は得意の美味しい水を出してあげた。


「うお、美味い!」

「これは美味い水じゃな。どこで汲んでくるのじゃ?」

「えーとね。ここから、ずーっと遠くに行った島。行ってくるのに、俺でもかなりかかるんだよ」


「そ、そうか。それは遠そうじゃのう」

 ざっと3000kmほどの彼方にございます。まあ樽に入れて汲んでくるんだけれども。結構樽って浮いてたりするんだよね。見かけると、つい拾ってしまう。収納しておくと水や食べ物が腐らないんだよなあ。


 そう言えば在庫がだいぶ少なくなってきたから、そのうちに汲みに行ってこようかな。遠いから、つい面倒くさくなってさ。


「それにしても、なかなかいい島じゃな。魚もいっぱいだし」

「観光業がやれそうだね」

 ちょっとビジネスプランを提案してみた。


「はっはっは。こんな田舎の村にわざわざ来る酔狂な人もおらんよ」

 あ、軽く一蹴されちゃった。


 まあ、一般の人が釣りを楽しむような世界じゃないと無理かな。王子様の息抜きにはいいかもしれない。あの人、生真面目すぎるわ。おかげでいろいろ助かるんだけど。人生に息抜きは必要なんだと思うの。


「さて、お楽しみの海中旅行のお時間ですよ~」

 俺はみんなに並んでもらって、エアボールとウォーターボールの魔法をかけた。


「なんかすげえ~」

「これは面白いもんじゃのう」

 壁を突きながらラオも喜んでくれているし、村長さんも少し童心に帰ってくれたようだ。でっぷりしたおなかを揺すってはしゃいでいた。


「じゃあ出発しますよ~」

 俺はボールを抱えてぐいぐい海中へと潜っていった。そこはまさに竜宮城の世界。


「うお、綺麗だなあ」

「ラオは今まで見た事ないの」

「馬鹿にすんな。漁師の子だから泳ぎは得意さ。でも、こんな海の中ではっきり間近で見られるなんてなあ」

 ラオが喜んでくれているので、よかったなあ。



「こりゃあ……」

 村長さんも、目を見開いて見ている。


「はーい、これが海底牧場ですよー」

「うお、魚がいっぱいじゃ」

「すげえー」


「ねえブルー。こ、この前来た時より魚がすごく増えてない?」

 確かに、ちょっと見ないうちに、いっぱい増えているなあ。種類もかなり多いし。


「あの時は、出来立てだったからねー。これは、お魚を増やすための海底牧場なんだから、増えないと意味ないじゃない」


「そ、それはそうなんだけど」

 目を見張って、その有様に見惚れるエニス。


「海草もいっぱい取れるよー。昆布とかで出汁とらないの?」

「昆布?」


「これ」

 そのへんに無造作に生えている昆布を取って、ボールの中へ、そっと押し込んだ。こういう真似をしても、このウミウシボールは壊れないのだ。熟練の技だね。


「干すんだけれど、いい出汁取れるようにするには手間暇かかるんだよ~」

 どうやって加工するのかは忘れちゃったけどね。


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