ゴードンの新たな実験 大ザリガニをやっつけろ
ゴードンが、空気中から電気取り出す実験は、行き詰まっていた。空気中から電力を回収するためには、巨大なアンテナがケーブルが必要になり、その巨大なアンテナやケーブルを維持管理することは実現不可能と思われた。現実的には、太陽電池や風力発電のほうが、よいように思われた。
いつものように早起きをして、湖に潜った。夏を過ぎたフィンランドの湖を潜るのは、そろそろ限界に近づいていた。ところが、ノンキアの社員にそれを話すと、会社のプールで泳いでもいいんだぞと教えてくれた。温水機能で、冬もそんなに冷たくないとのことだった。驚いたことに、フィンランドの人たちは、真冬でも、湖で水泳をすると言い出した。ゴードンには、信じがたいことだが、ノンキアの社員は、冬になったら、フィンランド人が湖で泳ぐのをみせてくれるという。健康にいいとのことだ。
ただただ、ゴードンの理解を超えていた。
ノンキアの社員は、エバのために、ノンノをつくって、エバにあげた。どうみても、ムーミンの頭に小さな赤いリボンをつけただけにしか、みえなかった。もしかすると、ノンキアの社員は、その赤いリボンをマジックで書いたのかもしれなかった。ゴードンには、それ以外の違いを見つけられなかった。
エバは、とても喜んで、いつも持ち歩くといった。ゴードンが、ムーミン人形をだして、エバのノンノ人形の前並べると、ムーミンとノンノはまるで、マンガのように、もしくは、生き物のように、会話をしだしたのだ。その様子は、どうみても、自立的に生きて、会話しているとしか思えなかった。
しかし、ゴードンやエバは気づくことはできなかったが、ムーミンとノンノは、見かけの会話以上に、小電力無線通信機能を介して、膨大な情報のやりとりをしていたのだった。
この機能は、まだ、公開されておらず、その実態は不明だが、ノンキアの新製品の世界戦略の一つとして、研究をし続けていた。
ゴードンは、1mほどの大きさの魚ロボットをつくっていた。エバが面白がって、なにに使うのかと聞くと、ゴードンは、これで、湖の底にいる大ザリガニをやっつけるのさと、すごくまじめにいった。
エバが、そのことばに、吹き出して、大笑いをすると、ゴードンも、笑い転げていた。
どうも、ゴードンは、海洋汚染対策を考えているようだった。魚やウミガメが、海に浮かぶビニールやプラスチックを食べてしまうのなら、同じように動く魚やウミガメのロボットをつくって、そのビニールやプラスチックをたべてもらうのがいいというのが、ゴードンの主張だ。
このロボットが食べたビニールやプラスチックは、ロボット内の仕込まれたビニール袋の中に蓄えられ、一定の大きななると、体外に排出される。そのとき、その袋は、ローブで繋がっており、あとで、そのロープを引き上げれば、たくさんのビニールやプラスチックが回収できるという構想だ。
エバは、それを聞いて、イスラエルのTEI社に報告すべきか、迷っていた。問題が多すぎると思う。
だいたい、効率が悪い。たくさんの魚ロボットを海に放していいのか?もし、魚と間違えられて、網にかかってしまったら、どうするのか。1mとかなり大きいので、他の魚がたべることはないと思うが、どうなのだろうか?
自立航行しても、このロボット自体がゴミになる可能性も大きい。長いローブに繋がったビニール袋も、舟のスクリューに絡まってしまうかもしれないし、いろいろ問題だらけだな。
それより、100m、500mという巨大な船をつくって、海のゴミを一挙に回収するほうがよいかもしれない。
まあ、ゴードンのアイデアも、今度も実現しそうもなかった。アランにいうと面白いアイデアをくれるかもしれないが。
エバが、「このアイデアは、実現むずかしそうだね」というと、ゴードンも、「難しいかもしれないな」と、いった。
「ところで」と、ゴードンは、「この魚ロボットには、秘密兵器があるんだ」といって、魚ロボットを持ち上げて、なにか、操作すると、魚ロボットの口から、鉛筆ほどのものが飛び出して、エバの胸の膨らみの中心にぶつかった。
ゴードンが、これが、大ザリガニをやっつけるために秘密兵器さと、言おうとする口を開く前に、エバの右手が、ゴードンの頰をひっぱたいていた。
ゴードンの手から、魚ロボットは、空中に跳ね上がり、床の上に落ちて、壊れてしまった。
エバは、すでに、ドアの向こうに消えていた。
落ちた魚ロボットは、力なくピク、ピクと尾びれを動かしていた。
大ザリガニをやっつける作戦は、難しそうだ。
ゴードンの頰には、エバの手形のあとが、しばらく残っていた。
机の上の置かれたムーミン人形とノンノ人形は、首が動いて、互いの顔を見つけて、無言で、ニッと笑った。