表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/50

二十一話

 特筆する事もなく昨日は終わり、今日は旅立ちの日。

 日の出前、空が瑠璃色に染まっている時間に目を覚まし、ベッドから抜け出す。


「ふぁあ……」


 あくびを一つ。まだ寝足りない気がする。まぁ、歩いてれば目も覚める。

 そう思いつつ、マントを羽織って、旅の必需品を収めた背嚢を背負う。中身はぎちぎちで、結構重い。


 そして、昨日手直しを済ませた二本の剣を担ぐ。

 最初は腰に差そうと思ったんだが……身長が身長なので、背負うしかなかった。

 ううむ、アダマンティンの剣の方がやたら重くて左腰に負担が……。


「まぁ、いずれ慣れるだろ」


 ぽんぽんと剣を叩く。よし、行くか。


 すでに別れは昨日済ませた。明朝と言う事もある、起こさないように、静かに出て行こう。




 幸い、誰も起こすことなく家の外に出れた。

 そして、リンとの合流地点まで向かうと、途中でボロ雑巾みたいな有様の三人の男とスレ違う。

 一体誰にあんなになるまで殴られたんだろうか。


「姐さん! おはようございやす!」


「おはようございやす!」


「お荷物お持ちします!」


「あ?」


 あー……そう言えば、昨日三人ほどボコって舎弟にしたっけ。

 誰にあんなになるまで殴られたかって、オレがさんざん殴って蹴ったんだったな。


「全員集まってるようだな。感心感心。持ってろ」


 そう言って、一番近くの奴に背嚢を投げつける。


「テメェら、名前は?」


「お、俺はペリートっす!」


「自分フレデリックです!」


「クロウです!」


「おう。ペリートにフレデリック、それからクロウか。覚えといてやる」


 忘れるまでは覚えとく。


「じゃあ行くぞ。ついて来い」


「へい!」


 リンとの合流地点に向かうと、リンはゴリラのようにウロウロとはしていなかった。

 普通にその場に突っ立ってそわそわと貧乏ゆすりしているだけだった。


「おはよう」


「ああ、おはよう。で、そちらの……形容しがたい有様の者たちは?」


「オレの舎弟だ」


「そうか。あまり殴ってやるな。酷い有様ではないか」


 なぜ何も言ってないのにオレが殴ったと分かるのだろう……。


「まぁいい。私はリン。お前たちは?」


「ペリートっす!」


「フレデリックです!」


「クロウっす!」


「うん、よろしく頼む」


 さあ行こう。この世界に未知を求めて。


「さて、あの先には何があるかな――――?」




 冒険者とは基本的に、煌びやかな部類に入る職業である。

 その手に携える剣や槍、あるいは修めた魔法の力で以ってさまざまな敵に立ち向かい、その身代を立てる。

 己が力を世に問うその生きざまは大多数の男の憧れであり、そこいらの少年に尋ねてみればなりたい職業の一位が冒険者であることは間違いない。

 そして、一般市民の大多数。それこそ、働き始めたばかりの青年から、そろそろ引退すべき年頃の老爺を見渡しても、冒険者と言う職業に対するあこがれは強い。

 年を取れば取るほどに実利――――つまりは、稼ぐ莫大な財貨に目が行く故に冒険者になりたい理由は違うが、やはり冒険者になりたがる者が多いのも確かだった。


 強さに対する憧れは老若男女あらゆる人間が有している。単純な強さである武力、そして金銭的な強さである財力の二つを兼ね備える冒険者はあらゆる人間の憧れなのだ。

 地位的な強さである権力に対する憧れを抱く者も多いが、冒険者であればそれを手にする事はさほど難しくない。

 地方領主になるくらいは冒険者なら容易い事だ。財貨や武力で以って立身出世するなど珍しくもない話である。

 まさに冒険者はあらゆる力の集大成であり、憧れなのだ。


 そんな冒険者だが、実際のところはそう大して煌びやかなものではない。

 想像してみれば分かりやすいのだが、そう滅多にモンスターに襲われている村などないし、モンスターをぶっ殺した所で金を払ってくれるところがあるわけでもない。

 つまり、仕事が無い。では、どうやって仕事を探すのかと言うと、足で見つけるのだ。


 モンスターに襲われてるような村や、普通は達成できない危険な事態に対応できる人材を求めている場所を探し歩く。つまり冒険である。

 要するに冒険者と言う名は、そう言った地道な活動を大っぴらに明言しているのだが、それに気づく者は少ない。

 あまりにも長く冒険者と言う職業がありすぎたため、冒険者と言うものがそもそもの名詞となってしまっているような状態だ。

 政治家=無能、みたいな固定観念のせいで、冒険者=金持ち、のような形になっているのだ。


 そして、オレたちはまさに駆け出しの冒険者であるため冒険しなくてはならず、同時にその生活も華やかなものとは大違いである。

 時たま追い剥ぎのような真似をしている連中が出てきてはそいつらを片っ端からぶっ殺して逆に剥ぎ取ったりするくらいが戦闘だ。

 ちなみに追い剥ぎをしてる連中は人間やらゴブリンやらオークやら……とても多種多様だ。まぁ、そんなのにかかずらっている意味もないので例外なく皆殺しだが。


 そして食生活も貧相そのもの。

 乾いたチーズやらドライソーセージを齧り、乾パンやら堅パンを齧る……水を潤沢に使える状況ならば、干し肉を水で戻して、食べられる野草を放り込んでシチューにしたり。

 そして夜は焚火をして、マントやら寝袋にくるまって眠り、起きたらまた仕事があるかもしれない村を捜し歩く毎日……。

 ただただ一日中歩き続ける生活は、いろんな意味で精神にクルものがあった。


 冒険者が煌びやかな職業だと思うのは、上っ面しか見ていない、と言う事だ。

 どちらかと言うと不毛な営業をしている気分になって、むしろ惨めな気がする。


 クロウ曰く「名前が売れれば向こうから仕事が来るんですけどね。あの町でも、駆け出しにゃ仕事は無いけど、ある程度の実力があればいくらでも仕事があったんすよ」とのことである。

 まぁ、そのクロウは冒険者と言うよりただのチンピラであって、仕事なんか一切無かったらしいが。


 とは言え、オレはただ歩いているわけではなく、色々と、炎の使い方を考えて居たりでそこまでヒマと言うわけではなかった。

 考えが煮詰まってくると、どうにもする事がなくてイライラしてくるが。


 そして、今まさに新しく考えた炎を実験するところだった。


「行くぜオラァ! 【ナパーム・デス】!」


 腕から放たれた炎は、地面に着弾すると凝縮されたものが弾けるように周囲に飛び散る。

 そして、その炎に巻かれた野盗の連中は悲鳴を上げて服を脱いで消そうとし、ある者は近場にあった川に飛び込んで消そうとするが、その火はなかなか消えない。

 結果として、全ての連中は悲鳴を上げて逃げ惑い、必死で火を消そうとして焼死していくばかり。

 炎が放たれて一分も経たないうちに、オレの炎の実験台にされた連中は黒焦げの死体になって骸を晒していた。


「非道な技だな」


「悲惨だ……」


「うるせぇ」


 評判は散々だが効果は高い。

 【ナパーム・デス】それが今回作った炎なわけだが、効果は見ての通り。

 水をかけても消火する事が出来ない強烈な炎。持続性と高温化に力を裂いているので、範囲は狭い。

 延焼するから範囲に関しては余り気にしなくていいのだが、延焼した炎は普通の炎なので鎮火は容易だ。

 そこらへんも強化しようとすると、かなりの力を使ってしまうので今後に期待と言ったところか。

 名前に関してはナパーム弾っぽいからそう言う名前にしただけだ。


「他にも色々作ったんだが、根性のねぇ奴らだな。【バーン・イン・ヘル】とか【オール・ガンズ・ブレイジング】とか」


 【オール・ガンズ・ブレイジング】に関してもそのまんま名前通りのもので普通の炎なのだが【バーン・イン・ヘル】は少々特殊だ。

 そのため、少々使うのは躊躇っていたのだが、使わなければ改良も出来ないのだ。

 だが、その使う場面がなくなってしまった。【ナパーム・デス】だけで全員死んでしまったからだ。


「と言うか、炎に巻かれたら普通はああなるだろうに」


「そんくらいねじ伏せて襲い掛かって来るくらいの根性見せてほしかったぜ」


「無茶を言いなさんな」


 やれやれとリンに肩を竦められたが、こいつなら火だるまになっても襲い掛かってきそうなものだが。

 そう言えば、こいつの事火だるまにしたんだよな、最初。今じゃそんな痕跡も見えないが。


「あーあ、まぁいい。どうせ次が居るだろ。そんで、野盗が居たんだ。近くに村くらいあるだろ」


「そうだな」


 経験則と言うほどではないが、野盗が居た場合、近くに村がある事はそう珍しくもなかった。

 まぁ、その村の男連中が出稼ぎをしてんだか、あるいはその村の連中をカモにしてんだかは、興味もねぇがな。


「さて、さっさと村を探そうぜ。ベッドで寝れるくらいはあるかもしれねぇ」


「うん、そうだな。何か上等な夕餉にもありつけるやもしれん」


 まぁ懐には余裕がないが、と少し残念そうにリンが呟く。

 オレも決して懐に余裕があるというわけではない。金貨は数百枚単位で残ってるので困窮しているわけでもないが。

 駆け出しの冒険者なんてそんなものだろう。


 と言うか、オレとリンはちゃんと武装があるだけ結構恵まれてる方だ。

 普通の冒険者は駆け出しなら武器を買う金もないので、戦う必要のない仕事で金を貯めてから武器を買うんだとか。

 オレは剣闘士やってたお蔭で金はあったからな……。


「そう言えば、リンはどこで武装調達したんだ」


「うん? なんだ藪から棒に」


 不思議そうに首を傾げられたが、よくよく見ればリンの武装はなかなか上等なものだ。

 服自体は普通のもの……と言っても頑丈な布地で出来ているが、身に着けている手甲は明らかに高価そうだ。

 魔法の力が込められている……って雰囲気じゃないが、上等な代物であることは間違いない。


「この手甲は父から送られたものだ。剣は母から」


「ふうん、いいものなのか?」


「そうでもない。凡剣もいいところだ。振ってみろ」


「うわっとお!」


 投げつけられた剣を慌てて受け取る。


「投げるなよ!」


「気にするな」


「気にするなってなぁ……自分の命預ける相棒おざなりに扱い過ぎだろ……」


「剣は丁寧に扱うようなものでもないからな」


「そういうもんか……?」


 まぁいいか、と思いつつ、刀を手にする。ふうん、見た目よりも重いんだな。鞘から引き抜いてみると、鈍い輝きを宿した刀身が露わとなる。

 軽く握って振り回してみると、意外と素直な重さで、思った通りに動く。


「ふうん。どれ」


 近くにあった木の枝に剣を叩きつけてみる。

 意外とすんなりと切り裂く事ができ、別に悪い剣と言う感じはしなかった。


「切れ味は神がかったものがあるわけではない。だが、武人の蛮用に耐える質実剛健なものだ。私は気に入っている」


「そうか」


 刃先を揃えてみてみる。厚みのある重厚な刃だ。蛤刃ってやつだろうか。

 オレが昔、テレビやらネットで見ていた日本刀とは違い、武骨で分厚く、流麗と言った雰囲気はあまりない。

 ただ、頑丈さはありそうだった。実戦向きの刀と言うのはこういうものなんだろうか。


「いい刀なんだな」


「ああ。刀の目利きに関しては途方もない人が選んだものだからな」


「誰だそりゃ」


「私の母だ」


「ああ」


 そう言えば剣を教えてもらったのも母親だっつってたから、目利きくらいは出来るのか。

 なるほど、それなりに恵まれた環境に居たんだな。

 そう思いつつ、鞘に剣を収めて返す。


「手甲に関してはどうなんだ?」


「よく分からん。いいものであるのは間違いないがな」


「柔術家なんだっけ?」


「ああ。と言っても、剣術一辺倒の母上と違って色々と出来る人だがな。元々武術は多数修めるものと口癖のように言っていた。剣術も一流だぞ」


「へぇー」


 いい両親なんだな。そう思う。

 その娘が今ここで武者修行の旅してるってのも……なんかアレだがな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ