第二話
その頃、王国では、国王と軍司令部との会合が開かれていた。
「聖女が魔王城に入って一か月が経ったが、あれから本当に動きはないのか?」
王国の質問に、司令部の面々は下を向き気まずげな顔をしている。
「それが……何故か聖女が倒したはずの魔物が息を吹き返し、全員魔王城へと退却しています」
第一党司令官のソラシドが答えると、国王は手元にあったグラスを投げつけた。
「お前らは、何をしていたんだ!」
何もしていませんでしたとは言えない。
今まで、聖子を働かせるだけで、自分達は高みの見物を決め込んでいたのだ。
彼女の強さは尋常ではなく、そして、魔物相手に普通の人間が直接攻撃で戦えるわけないのだ。
せいぜい、遠くから呪いを送り付けるくらいがやっと。
近づくだけでも魔素にやられ、息をすることすら出来ない。
だからこそ、異世界から聖女を召喚し、命を削って魔力を抽出する腕輪を付け、元の世界に帰して欲しくば戦えと脅すのだ。
このやり方で何世代もやってきた彼らにとって、聖女抜きの戦いなどありえないのだ。
「しかたない、次の聖女を召喚するか」
国王が渋々なのは、一人呼ぶ毎に、大量の金を消費するからだ。
魔法陣の中に山積みにされた金が消えると、そこに聖女が現れる。
金をけちると、質の悪いのが届くため、毎回国庫を大きく圧迫する。
聖子を呼んだのが二年前。
本当なら、あと三年は働いて欲しかったが、元々聖子の年齢が三十を超えていた為、それは叶わなかった。
「次は、十代の若い聖女が来てくれると良いんだがな」
勝手な思惑を話す国王の耳に、
ドカ~ン
突然大きな爆音が聞こえた。
「な、なんだ?」
驚く国王と司令官達の元に、一人の兵士が走り込んできた。
「緊急事態でございます。召喚の儀に使われる教会が爆破されました」
「はぁ?あれが壊れたら、もう、二度と聖女が呼べなくなるではないか!」
国王がいくら怒鳴り散らそうが、結果が変わるわけではない。
更に空を埋め尽くすほどの怪鳥が現れ、次々にフンを落としていく。
白くてドロリとした粘着質な物質は、異様なほど臭く、窓を閉めていても中まで臭いがしてきた。
二人目の兵隊が走り込んでくると、
「魔物の襲来です!」
と見ればわかることを叫んだ。
「反撃に出よ!」
「矢を打ち込みましたが、全て跳ね返されました」
絶望というものは、突如として訪れるものらしい。
国王達は顔面蒼白となっているが、それを助けられる聖女はここにはいない。
「聖女を連れ戻すんだ!」
魔王城に入ったきり出て来ない人物を連れ戻すには、危険を冒して魔物の巣窟に入らなければならない。
さんざん聖子を使い倒した彼らに、そんな勇気があるとは思えない。
役に立たない国王達が無駄な会議を続けている間、国の住人達は荷物を纏めて他国へ逃げる準備を始めていた。
「こんな所に居たら、病気になっちまう」
フンが降り注ぐ中、雨合羽を着込み、家財を荷馬車に載せて人々は関所に向かう。
しかし、無事に通り抜けられる者と、そうでない者が現れた。
「ど、どういうことだ!」
見えない壁に阻まれて、降り注ぐフンに塗れながら怒鳴り散らすのは、悪徳商人といった罪を犯した者ばかり。
日々の貧しい暮らしを耐えた平民は、子供を抱えてドンドン外へと飛び出していく。
しかも、王都を出た瞬間、怪我や持病と言ったものが全て治っていたのだ。
「なんと!これは、神の御業」
喜ぶ人々と出られない人間の対比がエグイ。
そんな中、悪ガキの集団が周りの人間を蹴飛ばしながら走って来た。
「どけどけ!」
彼らは高を括っていた。
女子供は、こう言った時には無条件で優先されるものなのだと。
しかし、全速力で走って来た彼らは、
ゴン
悪人達と同じように見えない壁にぶち当たった。
「どうしてだよ!俺達、大した悪さはしてないぞ!」
確かに、悪徳商人ほどの罪は犯していない。
ただ、彼らは魔王討伐へ向かう聖子に馬糞を投げつけたのだ。
恨みを絶対に忘れない女が、そんな奴らを素通りさせるわけがない。
そう、この壁は聖子が張った結界だ。
彼女に悪意を持たず、誠実に生活を続けていた人々は、正直王国の恩恵もあまり受けていない。
逆に馬車馬のように働かされて、税金を取れるだけ搾取され続けた被害者でもある。
自分と同じ弱者は治癒魔法で癒し、今まで威張り腐っていた人間は、決して王都の外には出さない。
そこに怪鳥を使役する魔王メディが糞爆弾を投下すれば、精神的にも肉体的にも命を取らずに大打撃を与えることが出来る。
こうして、王都は一夜にして壊滅的な被害を受けた。
その話は国中に広がり、今まで悪さをしてきた者達を震え上がらせた。
「王都、未だに滅茶苦茶だって~。ちょっと、気分が晴れたわ」
王都を監視する魔物からの報告書を呼んで、聖子は万歳をしたい気分になった。
それを見ていたメディは、玉座の上でワインを飲みながら、
「そうか、良かったな」
と笑った。。
聖子の加齢を一気に引き受けたメディは、今、丁度三十歳くらいの見た目をしている。
彼女が結界と治癒魔法を連発したせいで、一旦白寿まで加速度的に年を取った彼だが、魔物を王都で暴れさせたお陰で、今の状態まで持ってくることが出来た。
ただ、気を付けなければいけないのは、聖子が魔力を解放すればするほど、一気にメディが年を取ると言う事。
それを相殺する為には、彼もまた、魔力を使い続けなければならない。
そして、彼が出来るのは破壊行為のみ。
聖子のように人を癒したりは出来ない為、力を使うとなると誰かを攻撃するしかなくなる。
罪なき者に暴力を振るえば、それは、聖子を自分達の思惑で利用し続けた王国となんら変わりはない。
そして、『弱きを助け強きを屈する』を信条としている彼にとっては本末転倒も良い所だ。
「セイコ。お前、暫く魔法使うの禁止だ」
「なんでよ」
「俺は、敵もいない状態で破壊行為をするつもりはない」
「あ~、なるほど」
状況を察した聖子は、ん~~と唸った後、
「いい事を思いついた!」
と言った。彼女がこう言った時に、良い事だったことは一度もない。
「悪党を見つけに行きましょう!」
「何故そうなる?」
「だって、私魔法を制限するつもりないもの。だったら、メディが魔法を思う存分ぶち込める相手を探した方が得策でしょ?」
「……お前、俺より魔王に向いているぞ」
こうして、日本と言う異世界から召喚された聖女と、そんな彼女にペットと同じ名前を付けられてしまった魔王の異世界世直し旅は始まるのだった。
完
またもや思い付きで書きなぐってみました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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