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チュートリアルは無いんですか?

はじめまして。隠元です。


「歪みの外側にいる俺は ~最適解から外れた存在~」を読んでいただきありがとうございます。


異世界転移(ローファンタジー)×能力バトル×成長群像劇です。

カクヨムでも投稿しています。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


 子供を助けて死ぬなんて、もっと主人公みたいな奴がやることだと思っていた。

 少なくとも、俺みたいな人間じゃない。


 ◇


 外に出るのは、久しぶりだった。雲1つない空は、まるで太陽の独壇場みたいだ。

 理由なんて特にない。ただ、なんとなく外に出ただけだ。

 天城旭はぼんやりと歩きながら、空を見上げていた。日差しが容赦なく降り注ぐ。


(……ミスったな)


 休日の駅前は思ったより騒がしかった。

 もう少し人が少ないと思っていた。

 家を出たことを少し後悔する。

 すれ違う人の声が妙に耳に残る。誰も自分なんて見ていない。

 そんなことは分かっている。

 分かっていても落ち着かなかった。気づけば歩く速度が落ちていた。


(もう帰るか)


 コンビニで飲み物だけ買って帰ろう。

 そう思った、その瞬間だった。


「――わっ」


 小さな声がした。

 反射的に振り向く。

 子供が車道へ飛び出していた。迫る車。ブレーキ音。距離は絶望的に足りない。どう考えても間に合わない。

 漫画なら主人公補正が入る。

 ゲームならイベントが始まる。

 だが現実は違う。


 (……やめておけ)


 頭の中で声がする。関わるな。余計なことするな。あの時だってそうだった。


(もういいだろ。間に合わない)


 そう思ったはずなのに。

 足が、勝手に動いていた。


「……っ」


 気づけば走っている。


(なんでだよ)


 分かっている。無理だ。それでも。


(またか)


 手を伸ばす。

 子供を突き飛ばした、その瞬間——世界が歪んだ。

 空気が揺れる。景色が滲む。熱の中にいるみたいに、輪郭が崩れる。


「……え」


 理解する前に衝撃が来た。視界が白に塗りつぶされる。音と感覚が消えていく。


(あーあ……また、やったな)


(結局また助けたな。どうせ何にもならないのに)


 碌な人生じゃなかった。

 その後悔を最後に、意識は途切れた。


 ◇


「……え」


 気づくと立っていた。

 地面の感触がある。風もある。呼吸もしている。


(……おかしい)


 ゆっくりと周囲を見る。

 木。土。森の中。


「……ここどこだよ……」


 記憶を辿る。

 車の衝撃。


(……いや)

(死んだよな、俺)


 そこだけは妙に確信がある。

 体に触れる。

 痛みはない。傷もない。


「……何だよこれ」


 夢にしてはリアルすぎる。

 周囲をもう一度見る。


(RPGの初期地点っぽいな)


 ここでモンスター出てきて戦闘開始みたいな?


(じゃあ……)


「……転生、とか?」


 口に出す。よくある話だ。死んで別の世界へ行くやつ。


(マジで?)


 よくあるネット小説の展開だ。一瞬だけ、胸が弾んだ。剣と魔法の世界、中世ヨーロッパ風の街並み、馬車が走るファンタジー。

 だが、森を抜けて街へ出た瞬間、その期待は綺麗に消え去った。


「……普通に日本じゃねぇか」


 コンクリートのビルが立ち並び、アスファルトの道路を車が走り、スーツ姿の人間がスマホを片手に歩いている。


(異世界じゃないのか? じゃあ、ここはどこだ?)


 答えは出ない。ただ一つだけ確かなことがある。


(……こんな所は知らない)


 見覚えがない。

 少し考えてから口を開く。


「……とりあえず家に向かうか」


 歩き出す。

 だが歩くたびに違和感が積み重なる。いつも歩いていた道と違う。建物も違う。

 何度も角を曲がるが、知っている景色には辿り着かない。


(こんなとこ、見たとこないぞ……)


 スマホで確認しよう。そう思った途端、気付いた。スマホは家で充電していた事に。少しの散歩だからスマホも必要ないだろうと油断していた。


「ちょっとの散歩でこんなことになるなんて思えるかよ。」


 独り言が自然と多くなる。不安がじわじわ広がる。もう一度、周りを見渡してみる。

 看板を見る。知らない名前。コンビニのロゴも微妙に違う。


(……なんだこれ)


 似ているのに違う。そのズレが気持ち悪い。


「なぁなぁ、昨日のアレやばかったんだろ」


「あー例のやつ?結構ヤバかったらしい。でもイグゼクターが来て止めたらしいぞ」


「マジか、ギリだったってこと?」


「らしいな。あれ超えてたら今頃俺らここにいねーよ」


「やっぱすげぇよな、あの人ら」


 通り過ぎていく会話。


「……イグゼクター?」


(何だそれ)


 言語は日本語だが、聞き馴染みのない言葉。違和感は募るばかり。


(なんかおかしい)


 街も人の会話も、全部少しだけズレている。


「……いや」


 首を振る。


「気のせい、じゃないよな」


 現状を整理するために、近くの公園へ向かう。ベンチに座る。公園には誰もいなかった。一人だけはやっぱり落ち着く。


(整理しろ)

(俺は死んだんだ)

(でも生きてる)

(ここは現代っぽい)

(でも俺の知ってる場所じゃない)


 ゲームやアニメでいっぱいの脳みその中を巡らせて結論を出す。


「……似てるだけか」


 空を見上げる。


「俺の知ってる世界に似てるだけで」


 息を吐く。


「……違う場所に転生ってことか」


 本当にそんなことが起こるのか。頭の中で「んな訳あるか」「いや現にここにいるだろ」と自分同士が口論を始める。

 

「教えてくれよ女神様……ステータスオープンとかないのかよ……」


 呟いてみても何も起こらない。顔が超絶イケメンになっている風でもない。

 これからどうすれば、と頭を抱えたその時だった。

 

 子供たちが公園へ入ってくる。

 数人の小学生。

 その中で、一人だけ空気が違った。


「貸せって言ってるだろ!」


 囲まれている少年。小学五、六年生くらいだ。

 いじめだ。見れば分かる。

 旭は視線を逸らしかけた。

 関わらない方がいい。

 そんなことは分かっている。分かっているのに。

 少年と目が合ってしまった。まっすぐな目だった。


「こんなとこ来てまで何考えてんだ、俺...」


 旭は小さく息を吐いて少年に近づいた。


 ◇


「裂け目反応を確認」


 眼鏡の青年が端末から顔を上げた。

 細身の体格に加え、どこか神経質そうな雰囲気を纏っている。


「北東方向。推定危険度Ⅱで植物型の怪花です」


「マジ?」


 金髪のギャルが嫌そうに眉を寄せる。


「課外演習で本物とか聞いてないんだけど」


 肩まで伸びた明るい髪をかき上げながら、めんどくさげに言う。


「ラッキーだな、貴重な経験だろ」


「いや、そーいう話じゃないし」


 ギャルは髪をかき上げた。


「普通に危ないじゃん」


 その時だった。

 前を歩いていた黒髪の少女が足を止める。

 人形のように整った顔だったが、その表情には感情らしいものが見えない。


「確認次第、報告を——」


 青年の言葉が終わる前に、少女は走り出していた。


「はぁ!?」


 ギャルが素っ頓狂な声を上げる。


「待って待って待って!もしかして行くカンジ!?」


 少女は振り返らない。


「反応があるなら向かう」


「いや聞けし!だから問題児って言われんの!」


 青年がため息をつく。


「あなたも問題児ではありませんか」


「私は違うし!ただめんどくさいだけだし」


「ならなんでイグゼクターを志望してるんですか」


「え?ケンカ売ってる?」


 後ろで男が欠伸をした。


「元気だなぁ」


「センセー!」


 ギャルが振り返る。


「止めてよアレ!また一人で行ったって!」


「んー?」


 男はポケットに手を突っ込んだまま空を見上げる。


「まぁアイツなら大丈夫だろ」


「よくないですよ!」


 青年も苦言を呈する。


「普通に怒られるやつだって!」


「なんとかなるって」


「もうこのクラス嫌です.....」


 ◇


「……おい、返してやれ」


 旭の声に、数人の子供が振り返る。


「返してやれって言ってるんだ」


 数秒の沈黙。


「……チッ、行こうぜ」


 物が投げ返される。

 子供たちはそのまま去っていった。


「……大丈夫?」


 旭が声を掛ける。


「う、うん……」


 少年は小さく頷いた。

 どうやら怪我はなさそうだった。

 旭は安堵した。

 少年は何かを迷うように視線を泳がせた後、小さく口を開いた。


「僕、蒼汰」


「ん?」


「名前」


 旭は一瞬だけ目を瞬かせる。


「ああ」


 そういうことか。


「蒼汰か」


 少年――蒼汰が頷く。


「助けてくれて、ありがとう」


 まっすぐな目だった。

 少し居心地が悪い。


「……旭」


「え?」


「俺の名前」


「あ――」


 蒼汰が少し笑う。


「ありがとう、旭さん」


 その時だった。

 風が止まる。


「……?」


 空気が妙に重い。顔を上げると、空にヒビが入っていた。ヒビが広がる。

 黒い傷跡みたいだった。

 ミシミシと嫌な音が響く。

 まるで空そのものが軋んでいるみたいに。

 蒼汰が息を呑む。

 旭は言葉を失った。

 こんなものは見たことがない。ヒビはさらに広がる。そしてパキン、とガラスが砕けるような音と同時に空が割れた。

 その向こうは何も見えなかった。旭は思わず息を止める。


「……っ」


 蒼汰が震える。

 次の瞬間、公園の真ん中へ何かが落ちた。


「……え?」


 旭は目を細めた。

 種だった。

 黒い種。

 旭は拍子抜けした。

 あれだけ大層な登場だったのに、大きさは握り拳ほどしかない。


「なんだよ」


 思わず呟く。


「ただの種じゃ――」


 ドクン。

 種が脈打った。

 旭の言葉が止まる。

 ドクン。

 もう一度。

 まるで生きているみたいに、種の表面が蠢く。

 流石に嫌な予感がした。土を弾き飛ばしながら、種が地面へ潜った。


「は?」


 地中へ消え、ドン、と地面が揺れる。

 地中から衝撃が伝わった。


 「旭さん!」


 蒼汰の悲鳴。

 遊歩道が割れ、ベンチが吹き飛ぶ。

 地面を突き破って爆発的に噴出したのは、無数の巨大なツルだった。

 それは街灯をへし折り、周囲を破壊しながら増殖し、その中心に巨大な黒い花を咲かせた。花弁の中央には、グロテスクな1つの巨大な目玉があり、それがゆっくりと俺たちを捉えた。


 背筋が冷えた。本能が全力で警鐘を鳴らす。逃げろ、と。

 だが。


「……裂け目……」


 後ろで蒼汰が震えている。

 足は動かなそうだった。

 怪花が脈打つ。

 ドクン。

 次の瞬間。

 ツルが伸びた。


「危なっ!」


 反射的に蒼汰を抱えて横飛びに避ける。

 直後、さっきまで俺たちがいた地面が爆音と共に粉砕された。当たれば確実に即死だ。

 怪花の目が再びこちらを向く。容赦のない、十数本のツルによる一斉攻撃。


 ――避けられない。


 そう確信した。だが。

 迫り来るツルは、なぜか俺たちの数センチ手前で、あり得ない軌道を描いて奇妙に『ズレた』。

 一本も当たらない。

 次の一斉掃射も、まるでそこに誰もいないかのように、俺たちの周囲を綺麗に避けて地面を穿っていく。

 怪花の目玉が、戸惑うように激しく揺れていた。


(どうなってんだ……? なんで当たらないんだ……?)


 ◇


「うわぁ……」


 ギャルが顔をしかめた。


「こっからでも見えんじゃん。アレがホントに危険度Ⅱ?」


「推定危険度Ⅱです」


 青年が端末を見ながら答える。


「推定?」


「推定です」


「じゃあ外れることもあるってこと?」


「あります。何せ最近できたものですからね」


「それ担当のアンタが言う?」


 ギャルが頭を抱える。


「めっちゃ強そーなんだけど、被害とか大丈夫なの?」


「現状、逃げ遅れた市民はいないとのことです」


 青年は端末を見て答える。


「ソレは信用してもいいの?」


「分かりません。現状ですので。」


「なにそれ。なーんも分かってないじゃん」


 言い争いをしながらも2人は先に現場へ向かった少女を追いかけていた。着いた現場の中心で怪花が暴れているのが見えた。


「うわ!デカすぎ!ていうか、あいつどこ?」


 ギャルが周囲を見回す。

 数秒後。


「……あ」


 見つけた。

 怪花のすぐ近くに少女が一人。


「やはり先にいましたね。予想通りです」


「予想してないで止めろし!」


「止まると思いますか?」


「思わない!」


 即答だった。

 青年も頷く。


「僕も思いません」


 後ろから欠伸が聞こえる。


「今日はやけに元気だな」


 振り返る。

 男はポケットに手を突っ込みながら歩いていた。

 三十代半ばほどだろうか。

 黒い短髪は少し乱れていて、着崩した制服もどこかだらしない。


「先生!」


「のんびりしてる場合じゃないって!」


「そうか?」


「そうだし!」


「まあ大丈夫だろ」


「何の根拠!?」


「勘」


「一番ダメなやつじゃん!」


 男は笑う。

 だが次の瞬間、男の目が鋭くなった。


「……ん?」


 公園の中央。

 怪花が2人の少年を狙っていた。

 十数本のツルの一斉攻撃。

 普通なら避けられない。

 だが1つも当たらない。

 まるで別の何かを攻撃しているみたいに。


「え?何アレ」


 ギャルが固まる。

 青年も端末から目を離した。


「おかしいですね」


「そうだよね?」


「軌道と結果が一致しません……」


 青年も自分の言っていることを不思議そうに思いながらも説明する。

 怪花が苛立つように暴れる。

 それでも、当たらない。

 男は無言でそれを見ていた。

 そして、小さく笑う。


「今日は外に出てよかった」


 その時だった。

 公園の奥で地面が脈打つ。

 土が盛り上がる。

 いくつもの竹が伸びた。

 信じられない速度で地面を突き破り、ツルを串刺しにしていく。


「やっと来た」


 ギャルが呟く。

 少女は怪花だけを見ていた。

 手の中の種を怪花に落とす。


「どいて」


 静かな声。

 だが有無を言わせない響きだった。

 旭は思わず振り向く。

 そこには、少女が宙を舞っていた。


「……ヤセウツボ」


 少女がそういうと怪花に撒いた種が急成長し、全身が赤い見た目の花が大量に咲いた。

 それと同時に怪花の動きが鈍った。


(ツタから栄養を吸っているのか?)


 旭は見た事もない光景に必死に理屈づけて考えた。今思考を止めたらマズい。そんな気さえした。

 少女は動きが鈍くなった怪花を見逃さず、手に持った鋭い竹を怪花の目に目掛けて刺した。

 怪花は弱点を攻撃され、のたうち回る。暴れたツタにも注意しながら旭は蒼汰を体全体で囲うように守った。しかし、1つのツタが旭の脇腹に当たる。


 (これは当たるのかよ!)


「ぐはぁっ……」


 不意に当たり、思わず囲いをやめそうになったが怪花の動きが止むまで決して崩れてなるものかの気持ちで耐え忍んだ。

 次第に怪花の動きが静かになる。

 黒い花弁が崩れる。あんなに脈打っていた巨大な花は力を失い、音を立てて地面へ沈んでいった。

 無数のツルも動かない。

 さっきまでの騒ぎが嘘みたいだった。


「終わった……?」


 旭が呟く。


「終わり」


 少女は旭の近くに来て短く答えた。

 竹を握ったまま怪花を見つめる。

 警戒しているのか。それとも確認しているのか。

 旭には分からない。


「旭さん」


 声がし、振り返ると蒼汰だった。

 少し顔色は悪いが、怪我はなさそうだった。


「大丈夫か?」


「うん」


 蒼汰は頷く。


「ありがとう」


 そう言って頭を下げた。


「2回も」


「2回?」


「いじめと怪物から……助けてくれた」


 旭は頭を掻いた。


「別に大したことしてないだろ」


 実際そう思っていた。

 怪花を倒したのはあの少女だ。

 自分は逃げ回っていただけに近い。

 だが、蒼汰は首を横に振った。


「したよ」


 その一言だけだった。

 旭は何も返せなかった。


 ◇


「いたいた」


 能天気な声が聞こえた。

 金髪のギャルだった。


「マジで無茶するじゃん」


 そう言いながら近づいてくる。


「一般人いるし、もうめちゃくちゃなんだけど」


「でも結果的に解決しましたね」


 眼鏡の青年が続く。


「だからなんとかなるって言ったじゃん」


 男が後ろで呟く。


「その理屈どうなんですかね」


「ねー」


 ギャルは不満そうだった。

 その後ろから男が3人に近づく。

 ポケットに手を突っ込んだままの、やる気のない雰囲気。

 だが、目だけは妙に鋭かった。


「怪我人は?」


「大丈夫」


 植物を操る少女が答える。


「そりゃ良かった」


 男は肩を竦めた。

 そして。

 旭を見た。

 無言。


「……何ですか」


「いや?」


 男は笑った。


「元気だなと思って」


「はあ」


 意味が分からない。


「普通ならもう少し取り乱すもんだぜ」


「これでも取り乱してるつもりだが?」


 旭は怪しげな男に言う。


「確かに多少は動揺してるように見えるかもな」


 男は笑いながら言う。

 だが視線は逸らさない。何かを探っているようだった。

 居心地が悪い。


「周りを見てみろ。」


 男に言われ旭は周りを見てみると、あることに気付いた。

 怪花のいた場所。砕けた遊具。抉れた地面。散乱したツル。

 惨状だった。

 なのに自分の周囲だけ妙に綺麗だった。

 襲われていた時にも感じた違和感。

 事が解決して再度認識する。

 ツルは何十本も飛んできた。

 避けた記憶もない。

 それなのに。

 蒼汰を庇った時以外、当たっていない。


「なんでだ……?」


 思わず口から漏れる。

 旭は怪花の残骸を見たまま答える。


「そう」


 少女の声。

 植物を操っていた少女だった。


「普通じゃない」


 旭は振り返る。


「……何が」


 少女は少しだけ旭を見る。


「あなた、能力者?」


「は?」


 意味が分からないが、少女はそれ以上説明しない。ただ旭を見る。


「それはあなたの能力じゃないの?」


 旭は言葉を失った。

 能力。そんなゲームみたいなもの、あるわけがない。

 そう否定したいのに、口が動かない。だって、自分でも説明がつかないのだから。あの絶望的な状況で、なぜ俺は無傷で生きているのか。


「……能力?」


 ぽつりと溢れたその言葉は、静まり返った公園の空気に溶けて消えた。

 死の淵から始まった、この奇妙な世界での生。

 己の身体に宿る違和感の正体を知る由もないまま、旭はただ、化け物の消え去った歪な空を見上げていた。

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