第十九話
8年前のあの時の病院。
思えばここがこの旅の発端だったか・・・いや公園のベンチか。
106号室・・・確かここが里美の病室だ。
「わかっているな、俺は会えないから、里香一人で行けるな?」
「うん・・・緊張します」
「緊張するな、この扉の向こうにいるのは・・・お前のママだぞ」
「・・・うん!」
「じゃあ、いくぞ?」
僕はその病室の扉をノックした。
「は~い?」
「あ、あのっ・・・!」
「誰ですか?」
里香は緊張でアガっているらしい。
「あ、あのの・・・は、入ります!」
「・・・えぇ!?」
里香は勢いよく入っていった。
ここから先は里美と里香の世界だ。
僕がこの先に立ち入るのは無粋ってもんだ。
しかし緊張しすぎで「あのの・・・」はないだろう。
僕はそんな我が子の可愛さがたまらなく愛おしく感じた。
・・・欲をいえば・・・、いややめておこう。
欲なんていっても良い事はない。
・・・がんばれよ、里香。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「あら、可愛いお客さんね」
どうしよう楽しみにしていたはずなのに。
今は緊張して何も言葉が出ない。
頭の中が真っ白になる。
いっぱい話したい事があったのに・・・。
私は悔しくて目をぎゅっと瞑った。
「おいで・・・」
「えっ・・・!?」
「ここにおいで・・・」
「・・・うん」
私はママに導かれるままに進んだ。
ママは私を抱きしめてくれた。
ママの優しい手は私の頭をなでなでしてくれた。
凄く気持ちが良かった。
「ママ・・・」
「やっぱり・・・」
「え?」
「あなたは里香ね」
「・・・どうしてわかったの!?」
ママはとても優しい顔をしていた。
「まだこの時代ではあなたは生まれていない・・・あなたが生まれるのはもうちょっと先の未来だから・・・でもママにはあなたがこのお腹の中の子、里香だってすぐわかったわ」
「どうしてっ!?」
「だって私はあなたのママだもの」
「っ・・・・・・!」
その言葉を聞いて私は泣いた。
だって、その言葉はそこに私のママがいるという事を実感させるには十分だったから。
ママは暖かくて・・・柔らかくて・・・良い匂いがして・・・。
「ままぁ・・・ままぁぁ・・・」
「里香・・・」
私は生まれてからずっとパパとママの事を知らなかった。
ママは写真ぐらいで顔を見た事はあった。
パパに関するものは何もなかったけど・・・。
私はママと数え切れないぐらいの8年間を喋った。
ママも教えてくれた、ママの願いを。
私は、ママから数え切れない事を教えてもらいました。
ママ・・・
「すー・・・ありがとう・・・すー・・・」
「里香・・・うふふ」
ママはずっと、寝ている私の頭を撫でていてくれた気がします。
いつまでもこうしていたい。
暖かく優しいママの元でずっとこうしていたい。
・・・でもママ。
私は行きます。
私は時の旅人だから。
飛べなかったママの意志を継いで、私は飛びます。
だけどママ・・・私の事を見守っていてください。
まだ私は弱いから・・・もうちょっとだけ私の支えになってください。
私はがんばります!
終