第十六話
僕は時の旅人。
強制転移の日から8年が過ぎた。
あの時間軸の中で僕はまだ半年しかいなかった。
1年間の滞在で強制転移が起きるのが普通だが、わずか半年で起きたのはわけあった。
まず僕があの世界へと旅立つ間際に、時空の装置を司る場所で大きな事故が起きたらしい。
どうやらメグトキルの少女が近くを移動した際の衝撃の余波らしい。
僕がしばらく還れなかったのもその事があったかららしい。
事実、他の旅人仲間も同じ状態だったみたいだ。
それから半年間で装置は直ったらしいが、その時に時空間から強制的に外に出された旅人を戻すのに強制転移で戻すしか方法がなかったという。
その他の旅人達は皆、5年間のペナルティーを受け再び思い思いの場所へと旅をしていたのだった。
しかし、僕は8年経った今も動けないでいた。
ペナルティー期間の間はそれなりに仲の良い仲間から里美の事を聞いた。
彼女は強制転移のさらに8ヶ月後に亡くなったらしい。
僕は、里美の死に際にも立ち会えなかったのだ。
死が近づいていく感覚を彼女は一心に背負っていた。
一人で戦い続けた彼女の事を想うと胸が痛くなった。
「なぁ時時、そろそろお前も旅に出たら?」
「あぁ・・・気が向いたら」
「そう・・・・・・」
僕は時空間でも取り残されていた。
今の僕にはもう動く目的がない。
メグトキルの少女を捜すという当初の計画もどうでも良くなっていた。
「本当に僕は何も無かったんだな・・・」
いつも他人を避けて、深く関わろうともしなかった。
だから僕は本当の意味で他人の暖かさなんて知らなかった。
それをくれた女性、相原里美。
もう一度、彼女に会いたい。
思ったらいてもたってもいられずに僕は時空間を経て8年前のあの場所へと向かっていた。
8年前のあの場所。
僕が公園のベンチを寝床にしていた頃。
僕は遠目にその当時の自分と相原里美を見ていた。
こうやって他人目線で見るとこの時から里美の具合が悪かったのがわかる。
自分は浮かれていたのがよくわかった。
しばらく見ていると里美は8年前の僕から離れていく。
その光景を見ていると何故だか無性に腹がたった。
自分の意志とは関係なく僕は8年前の自分の前に立っていた。
「・・・このっ、馬鹿野郎がっ!!」
「な、何だよ?」
「お前がっ、お前が・・・うぅ・・・くそっ!!」
ただの八つ当たりだった。
その感情のはけ口を8年前の自分にぶつけたに過ぎない。
結局は自分の責任だ。
僕は自分の前から走って逃げた。
・・・・・・。
・・・。
再び、時空間に還り僕は考えていた。
本来の僕がいる、あの時から8年後の世界を。
8年経った今、あの世界はどうなっているのかを。
里美がいないあの世界を。
僕は本来、自分がいたその世界へ。
その時間軸へと旅だった。
何がしたいのかもわからない。
でもただ導かれるようにそこを目指していたのだった。
終