第十話
ある晴れた夜の事だった。
僕は施設から逃れる為の計画をたて、そしてそれを実行に移した。
深夜の行動、まだ幼かった僕にとっては睡魔との戦いもあった。
施設からはすぐに抜ける事ができた。
だが、僕の計画は甘かった。
施設は抜け出せても僕には行く宛がない。
誰かの家に駆け込んでもすぐに連れ戻されるのが関の山だ。
「・・・が逃げたぞー!」
施設の人がもう気づいたのだろうか。
いや間違いない・・・あいつらが告げ口したんだ。
事実はどうかはわからないが、僕は他人のせいにする事によって自分自身の逃げ道を確保していたのだ。
「いたぞー!!」
施設の人がそこまで迫っていた。
僕は迷わずに走り出していた。
捕まったらそれまでだ。
僕は・・・逃げるんだ、逃げて逃げて逃げてっ・・・どこに行くのだろうか。
逃げてる時の記憶はほとんどない。
それだけ無我夢中で・・・靴も履かずに走っていたその足に痛みが走る。
見ると皮はむけ、爪も何枚かが割れる、あるいは剥がれていた。
どっと押し寄せる疲れと睡魔に僕は身を委ねていたのだ。
このまま目を瞑ればきっと楽になれる。
子供だった僕にでもわかった「死」という概念だった。
当然だがその程度で人は死なないかもしれない。
が、何も残ってなかった僕はその時死んでも良かったのだ。
そして僕の前に光が一瞬だが光った。
僕は重い瞼をがんばって上げて見た。
「死ぬのか、坊主?」
「・・・・・・」
死にたい、そう答えようとした僕の口は動いていなかった。
「そうか・・・だが坊主、ここで俺とお前が会ったのも何かの縁だ・・・お前ぇ、時の旅人になれ」
「・・・・・・」
時の旅人の意味はわからなかったが、僕は僕に生きる理由をくれたその人をしばらくの間、神様だと思っていたんだ。
僕はここから時の旅人になった。
時時という名もこの人がつけてくれたものだ。
僕にとっては生みの親よりも親として見ていた人だった。
「・・・・・・」
真剣な表情で僕の話を聞く、相原がそこにいた。
「悪い、つまんないし、長い話に付き合わせちゃったな」
「・・・いいえ」
「えっ・・・?」
「時時さんの事、少しでもわかったから嬉しいです・・・ごめんなさい、辛い話をさせてしまいましたね」
「いや・・・」
どうしてこんな話を相原にしてしまったのだろう。
今の今まで誰にも話した事がないのに。
どうも相原には自分の事を打ち明けてしまう。
彼女にはそんな魅力がった。
「時時さんが旅人になって良かったと思える事ってあったんですか?」
「良かった事か、自信を持って話せるものは特にないな、今でも他人に無関心なのは変わりがない」
「・・・そうですか」
少し重い空気になってしまっただろうか。
僕は重い空気を打開する為に・・・。
1、ベリーダンスッ、イィィィヤッホォォォォイ!
2、南無阿弥陀仏・・・
3、おもむろに自分の手を・・・
「・・・ゴクリ・・・」
僕はおもむろに自分の手を・・・。
彼女の胸に押しつけた。
むにゅ・・・。
「・・・へっ?」
「・・・マジか?」
「な・・・ななな、なにするんですかーー!!」
病人とは思えない程の平手打ちが飛んできた。
その一発はかつて見た「死」という概念を連想させるには十分な威力を持っていた。
し、しかし、意外と大きいな・・・。
スラっとしたパジャマを毎日のように見ているからてっきり「ペタッ!」タイプかと思ったのだが。
・・・しかし今回の選択肢にまともなものは一個も無かったな。
「すまん・・・本当にすまんと思っている」
「・・・・・・」
どうやら相当怒っているようだ。
「相原が怒っているのはわかるっ、だが一つだけ言わせてほしい!!」
「えっ・・・?」
「おっぱい!!」
言った瞬間に目の前が暗くなった。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
気がつくと公園のベンチに寝ていた。
両のほっぺにしびれるような痛みがある。
右手には・・・。
「・・・・・・」
僕はおもむろにその手を・・・。
「って、やめい!!」
この話は18禁ではないんだぞ!
もしも要望があるのなら18禁版を作っても良いかもしれんが。
・・・とりあえず明日にでも謝りに行こう。
さすがに今日の事はやりすぎた。
終