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楓果という薬毒

さっさとここら辺書き上げて本格的におにショ……いや、ショタおに?……を書きたい。


……何?おにショタが至高であり逆転は邪教?うるせえ!

「……つまり何、俺は巻き込まれたって事?」


【そーゆーこと♪】


 あれから俺は少し落ち着いて、何故俺が突然このような場所に連れてこられることになったのか確認した。

 

 この声だけの存在、性別は不明だけれど、仮に彼としておこう。彼が言うには、俺は元々異世界に行く予定じゃ無かったそうだ、本来行くのは楓果だけであり、俺は地球で楓果の存在を忘れてそのまま一生過ごす予定だったと。


 しかし楓果が俺の存在を望んだため、俺も一緒に行くことになったらしい。


 楓果の存在を忘れるなどと軽々しくいってくるこいつには腹が立ちはしたものの、もうその話は無しになっているそうだからわざわざ文句を言う事もあるまい、ただこいつが真偽はともかくとしてそのような事が可能であるという事だけは分かった。

 このような空間を作り出している以上信じざるを得ないじゃないか。


【楓果くんさ、幼馴染である君の眼から見てもかなり優秀な子だったよね。】


「うん、そうだね、フウは俺が同じ年齢の時よりもすごく優秀だよ。

 頭良いし特に運動は得意だ、通ってる道場でも師範代に褒められた!っていっつも俺に自慢して来てたから。」


【そうでしょ? でもね、優秀過ぎるのは問題なんだよ。】


 少し長くなるからね。と前置きすると、彼は説明を始めた。


【一つの世界には一人の絶対的上位者、私たちの間では観測者って呼ばれてる存在が必ず存在している。

 観測者は未来を覗き見過去を改変して、その世界の人類を長く保たせる事が使命であり、宿命であり、そして存在意義でもある。


 私も観測者の一人でね、今の地球に存在している人類を長く生存させようと色々と試行錯誤している身なんだ。


 そして今回、楓果くんは地球という世界の人類存続において害であるという結論が為された。】


「フウが……?じゃあ、フウがいたら人類に悪影響を与えるって事か?」


 優秀で仲の良い幼馴染を悪く言われて何とも思わない人はいない、俺は若干の憤りを覚えつつそう彼に質問する。

 あの優しい楓果が人の害になるなんてそんな事はありえない。


【あー怒らないで、ここで重要なのは人類の害じゃなくて人類存続の害っていう部分だね。

 人類という種族からすると、彼は間違いなく害じゃなくて薬だ、でもその結果、最終的に人類の寿命が縮む。


 少し話は逸れるけど、妖怪やら悪魔っていう存在の話は聞いたことがあるよね?】


「ああうん、あるね、ゲームとかで有名だし、特に日本だとよく題材として使われる。」


【あれね、実際に居たんだよ。】


 突然のカミングアウトに困惑する、妖怪やら悪魔がいた?いや例えいたとしてもそれと楓果の件にどう関係あるのかと。


【妖怪、悪魔、そういった超常の存在は世界の歪みによって(もたら)される存在だ。

 世界の歪みは人々の超常を信じる心によって現れ、そして人々がそれを信じなくなればなるほど安定していってしまう。

 

 そして歪みは、同時に人の抑止力としても働く。】


「過去形って事はじゃあ、地球にはもう歪みがないって事?それに、抑止力?」


【無いね、驚くほど歪みが無く安定した世界だ。恐らくは科学が発達した事が原因だと思う。

 超常ってのは則ち世界法則から逸脱する事を指す、ならその世界法則に乗っ取った現象を大前提にしている科学とは相性が凄まじく悪い、水と油というかもはやプラスとマイナスの関係だね。


 だからもう地球では、祈っても神の加護は得られないし体内に魔力なんてものは存在しない、例え存在しても世界法則が頑強すぎて太刀打ちできない。


 それと、抑止力の件だね。それを話す前に、あのまま楓果くんを地球に置いていたらどうなるか教えてあげよう。】


 そういうと、彼は語り出す。


【まず、楓果くんの戦闘に対するポテンシャルはずば抜けている、これは絶対に今の地球では扱いきれないほどのものだ。

 小さい身体で大きい相手をばったばったと薙ぎ倒し、やがて世界的に有名な格闘家になる。】


「格闘家……まあ、楓果ならなれそうかもしれない。前に外で練習してるところ見せてくれたけど、凄かったから。」


【やがて様々な格闘技、空手やボクシング、総合格闘技に至るまで世界を制した結果、彼を倒すために様々な試行錯誤が為されることになる。


 格闘技の人やら武術の有識者といった人たちがより強く技術を求めるようになって、その結果AI技術が発達し、人体の仕組みがより深く理解され、その過程でアンドロイドとかも産み出されて、それだけで一気に人類の持つ科学技術は発展していく。】


「それは良い事なんじゃないの?話に聞く限りはさ。」


【科学の発達っていうのは人類滅亡までのカウントダウンだ。

 人類はね、科学技術が進むにつれて人から外れていくんだよ。


 科学技術ってのは、つまり合理性を突き詰めるものだ、合理性を突き詰める途中には必ず効率という壁が現れる。

 効率を求めるなら、最初に人間に生身の肉体はいるか?アンドロイドで良いだろう、そもそも人の形でなくても良いじゃない、それなら必要なのは脳みそだけだ、そういう思考にたどり着く。

 その後、脳みそだって所詮は電気信号で再現できる、ならば脳みそはいらない、そういう思想に行きついて、残るのは人類が遺した人間を似せて作られた人間以上の機械、それは決して人ではない。


 だからこそ、超常の存在は抑止力になるんだ。

 異形や人ならざる存在への畏敬を思い出させ、完全に異業となる事への禁忌感を植え付ける、そうする事で何とか人類としての体を保てるだろう。

 定期的に文明破壊で技術を衰退させてくれるのもプラスだね、人を捨てる技術への到達を妨害してくれる。


 人類ってのはいくつかの解釈があるけれど、少なくとも私の観測する地球に対して私が定めた解釈では、人の形、生身の肉体、脳による思考、この内の少なくとも二つが存在しているのが人類っていう解釈をしている。

 だからこれから外れることを私は良しとしない、そしてそれを助長するような働きを成すであろう楓果くんは、最終的には人類存続の毒なんだよ。】


「……なら、何でわざわざその異世界に? 人類の毒になるなら、楓果の存在は邪魔なんじゃないの?」


 俺だってこんな事は考えたくないけれど、彼の言う事が本当だとすると楓果の存在は彼らからすれば邪魔ものでしかないだろう。

 わざわざ生かしておく価値は無い。


【いや、地球では必要ないってだけで、必要な世界もあるってだけの話。それにあそこまでのポテンシャル勿体ないし。】


「必要な世界?」


【端的に説明すれば、歪みの大きな世界、かな。

 過去に超常の存在が与えた影響が大きすぎて、どう頑張っても人類は超常の存在が忘れられなくなった、超常が当たり前になった世界。

 

 そういう世界において、戦える人類は常に不足している、一部豊かな暮らしを送れる国とか街もあるけれど、世界における陸の人類の居住可能地域は全体の2割にも満たない、他は全て超常の存在、歪みから生まれた化物である『魔物』の領域だ。


 そこなら楓果くんは必要でむしろ重宝されるだろうし、楓果くんからしてもかなり性に合ってる。】


「フウに合ってる……まあ確かに、動いてる時のフウはなんか生き生きしてる感じはしたけどさ。

 でも貴方の口ぶりから考えるに、もうその異世界に行ったら元の世界に戻ることは出来ないんだよね?」


【そりゃそうだ。戻すんだったらわざわざ別の世界に送る意味がないからね。】


「流石にそれは、フウも辛いんじゃないかな。まだ11歳だよ?」


 普通なら、家族と一緒に生活をして、たまに遊びに連れて行ってもらったり旅行に行ったり、家族との愛を育むようなそんな年齢だ。

 決して遠く離れたもう家族と会えないような地で、彼の言う『魔物』と戦いながら生活をするような年齢じゃない。


【ああ、それは大丈夫だよ。これを見て。】


 しかし彼はそんな俺の心配が、まるで的外れな事のように切り返す。

 俺の目の前に謎の黒くて四角い枠が突然現れた。


「これは?」


【科学技術の産物で表現するなら……テレビ?録画?まあそんな感じの奴。はい、さーいせい♪】


 黒い枠に光がともり、光は徐々に形を成して一人の小柄な人影を映し出した、徐々にそれは鮮明になっていき、俺が良く知る人物である事がすぐにわかる。


「フウ……?」


【そう、折角だから楓果くんが旅立つまでの様子を撮っておいたんだ。】


 画面越しの楓果が動き出し、音声も聞こえてきた。


『ライ兄ちゃんは悪くな……ん? どこここ。』


【やあどうも初めましてー。私は管理者って呼ばれてる存在なんだけど、今から君には別の世界に行って貰うよー。】


『え、あ、はぁ?』


 聞こえてきたのは楓果の困惑の声と、困惑するのも無理はないあまりにも直球過ぎる彼の声。

 いや、説明もなしに突然そんなこと言われても困惑するだけだろ、楓果はあんまりラノベとかアニメとかに熱中するタイプじゃなかったし、11歳でその趣味に目覚めるような性格でもなかった、どちらかといえばアウトドア派だ。


【あ、ここからは私の説明が続くだけだから、少し飛ばすね。】


 映像から音声が突然消えすごい勢いで加速する。

 眼に負えないほどの速度で映像が流れていたがしばらくすると映像が元の速さに戻った。


『じゃ、じゃあ、オレはその別の世界とやらで戦えば良いって事か?』


【そういう事。】


 状況をある程度把握したらしいが、その楓果の顔は不満げである、今のままだと彼の言う【それは大丈夫】な状況には到底思えない。

 

 不満げでどこか寂し気な楓果は口を開き、彼に質問する。


『じゃあさ、もうライ兄ちゃんとか、お父さんお母さんとは会えないって事……?』


【それも正解。】


『そっ、か……うぅ……。』


 彼の無情な答えに楓果の眼に少しの涙が浮かぶ、そして寂し気にその首元の緑石のネックレスと嵌ったままの首輪を手で摩った。

 俺の名前を真っ先に出してくれたことに何故だか胸の内が少し震えた気がした……いやまあ、普通に嬉しい、そういう状況じゃないだろうに。


 あれ、そういえばあの首輪の持ち手部分が無い。


 首輪を付けて発言の衝撃が強すぎて発見してしまったその違和感に、俺がそれを不思議そうに見ていると彼がその疑問を解消した。


【その首輪の持ち手なら、君の右手にあるじゃない。】


「え?」


 そう言われて右手を見ると確かにそこにはあの首輪の持ち手、しかし不思議なことにその持ち手と首輪を繋げていたはずのリードが異様に長く、そして何処か虚空に繋がっていた。


「どうなってんの……これ。」


【まあとりあえず、映像最後まで見ようか。】


 俺の困惑に合わせてくれたのか一時停止されていた映像が再生される。


【じゃあ、異世界に持っていくものを決めようか、良く聞くようなチート能力って程じゃないけど、大体のものを楓果くんの役に立つ形に改造して持ち越すことは出来るよ。

 なんでも言って?】


『なんでも、なんでも良いのか?』


 なんでもという言葉に楓果が目に光を取り戻す。


「じゃ、じゃあさ……例えばこの首輪は良い?」


【全く問題なし、じゃあ付けている間能力アップとかそんな感じにしようか……後は適当にオプションを付ける感じで。】


 恐る恐る首元の首輪を摩りながら質問する楓果の提案を、彼は快諾する。


「なら、このネックレスは?」


 今度は同じく首元から、肌着の下に隠していたネックレスを引っ張り出しそれを虚空に突きつける、というか管理者の彼はアバターとかそんな感じで良いから実態が欲しかった、話しずらいったらありゃしない。


【それも大丈夫、そうだね……矢除けとか、色的に風の加護、まあ色々考えておくよ。】


 それも彼は快諾した。

 すると、何か一大決心をするように楓果はその顔を真剣なものへの変え、さっきよりも少し小さな声で質問をする。


「だったら……えっと、ライ兄ちゃん……は?」


【え? 人物? ……あー、その要求はあんまり予想してなかったな……いや、まあ良いんだけど、それはそのまま承認する事は出来ない。】


『な、何をすれば良いんだ?』


【ただ一つ質問をするだけだよ。楓果くんはそれに答えるだけでいい、じゃあ、楓果くんに問うよ。


 楓果くんの要求するライ兄ちゃん、柊木(ひいらぎ) 来寅(らいん)が、例え地球にもう戻れないとしても、例えそれにより恨まれる可能性があったとしても彼を連れていきたいと思うかい?】


『……。』


 彼の質問に楓果は押し黙る、まあそれは無理からぬことだろう。


 自分の為に、相手のそれから歩むはずだった人生を捨てさせる、しかも相手の意思は問わない、そう言っているようなものだから。


 でもなぁ、幾らここで楓果の葛藤を見ていようが、もう結果は変わらないようなものなんだよなぁ。

 なにせ、今俺はここにいるんだから。


 顔を上げた楓果の表情には、決意と罪悪感、そして……なんだあれは、若干の狂気が感じられた。

 というかあの表情はオレ首発言の時にも混じっていたな。


『思う、俺はフウ兄ちゃんと一緒にいたい。』


【本当に良いの? 恨まれるかもしれないよ。】


『う、恨まれるのは嫌だけど……でも、それでも……。』


 そこで映像は止まり、モニターは役目を終えたかのように黒いポリゴンとなって消え去った。

 とりあえず、俺から言えることは一つだ。


「いや、あのさ……嬉しくはあるんだけど。」


【うんうん。】


「愛が、重い。」


Don't mind(気にするな)♪】


 無駄に発音が良いのが癪に障った。


「あれ? そういえばフウの両親については何か言ってなかったの?」


【言ってなかったね、求められてたのは君だけだよ。】


 愛が……重い……。

 お読みくださりありがとうございます、説明回&愛が重い(疑惑)回でした、どうしても理由とかそこら辺を適当にするのは個人的にあまり好きではないので、たまに説明会が入る可能性がありますがご了承ください。



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