俺にそんな趣味は無い
主人公君には首輪ショタだなんて性癖はありません、しかし作者にはある。つまりそういう事です。(謎)
「んー、別に良いじゃんかー、別に減るもんじゃねえし。」
「いや何か色々減りそうだから、SAN値とか。」
俺は嘆くべきなんだろうか、それとも怒るべき?でも矯正はもう手遅れそうだな……。
俺がいるのは自分の部屋、中学から高校に入学して心機一転頑張っているその最中、俺の心は困惑と混乱を極めている。
部屋の中で俺と向かい合うように座っている少年の手には首輪が握られ、小さなその両手で俺に向かって差し出してきているのだ。
さて、普通の人ならばどういう状況なのか幾つか推測できるだろう。
例えば、俺の家で何かペットを飼っていて、そのペットの為に首輪を買ってきてくれた、だとか。
他には、この少年が何か動物を拾ってきたが、彼の家では飼うことが出来ず引き取りを求めている、ちょっとこの状況からは無理があるけれど、そういう考え方も出来なくはない。
普通、首輪といえば現代の日本人ならペットを想像する、まあそれは間違っていないしとても正しいものだ、ただこの少年の願望と、俺に求められていることはどう考えても百人中九十九人が間違っていると答える。
「でも、折角買ってきたんだぞ……ペットショップで大きめの奴探してさ。」
「だからってお前それはなぁ……。」
「頼むよ、頼むから、オレにこの首輪を付けてくれ!」
改めて言われて突然の眩暈が俺の頭を襲う、その言葉の意味を理解したくない脳が拒絶反応を起こしたのだろうか。
いつからおかしくなってきたのだろう……いや、いつからという訳じゃないのかも、徐々に元から隠し持ってたその願望が花開いてしまっただけなのかもしれない。
俺は目の前の少年を見つめる。
顔を赤くして、若干の涙目でこちらに向かって懇願してくるこいつとは、かれこれ今年で七年目の付き合いになる、最初に出会ったのは俺がまだ9歳、こいつが4歳の頃だ。
父さんの仕事の事情で俺たち家族が引っ越してきて、その引っ越し先のお隣さんだったのがこの少年の家族、近くに住んでいる子供が俺とこいつしかいなかったって事で、5歳離れていたけれど一緒にいる時間は長かった、お互いに遊び相手だったと思う。
年の離れた兄弟のように二人で育って、これからもそれは続いていく……と思っていたはずなんだが。
いや、確かに前兆はあったのかもしれない。小さい子供は窮屈を嫌うはずなのに何故かよくチョーカーを身に付けていたり(主に首輪型のやつ)パジャマは何故か動物を模した造形のものだったり(主に犬や猫)、そして今回の事で確信した。こいつマゾだろ、と。
「えっとさ……なんで突然?」
「なんかオレさ、首に何か付けてると落ち着くんだよ、いやオレがおかしいって事は分かってるんだけど。
んでさ、チョーカーでも良かったんだけど、なんならライ兄ちゃんに首輪を付けて欲しいなって……。」
「そっか……。」
「うん……。」
お互いの間に奇妙で重苦しい沈黙が流れる、分からない、俺は一体どういう反応をすればいいんだろうかこれは。
というか俺も「そっか。」って反応したけど全然理解できないからな、なんなら首輪を付けて欲しいってどういう思考からそこへ行きついたのか小一時間問い続けたい。
こいつが勇気をもって俺に言ってきたというのは分かる、どんなに軽い口調でも、身体を縮こまらせ顔を赤くしながらこちらを見ているこの状況で、それが分からない奴はいないだろう、それに俺とこいつは長い付き合いだ。
なら……俺はそれに答えるべきなのか?いや、でもなぁ。
「いつから、こういう事をしたいって思ったの?」
「ほら、まだオレが2年生の時だっけ、一緒に買い物行ったじゃん。」
「うん、行ったね。……あー、もしかして……。」
随分と前の出来事だ、でもあの時の事はよく覚えている。
俺とこいつが初めて二人だけで買い物に出かけた出来事であり、ちょっと特殊な出来事があった事からも思い出の一つとして確と記憶に刻み込まれている。
「オレのお母さんさ、アクセサリー好きじゃん。」
「小母さん?まあ確かに、結構拘ってるよねー。」
「それでオレもあの時どんなもんなのか気になっててさ、一緒にアクセサリー見に行ったでしょ。」
「うん、行ったね……あぁ、あったわ首輪。」
ちゃんと持ち手まで付いてる首輪型のチョーカー、恐らくは持ち手が首から垂れ下がっているその様子がファッショナブル!とかそんな感じの商品なのだろうし、実際の首輪として使うなら頑丈さが足りなかったり色々と不便な点があったに違いない、見た目はともかくちゃんとしたアクセサリーなのだろう。
だがあの時の俺たちがそんな事を知る由もなく、しかしただのアクセサリーにも思えず好奇心からそれを手に取った。
恐らくはあの時からその気質が、マゾヒストの気が眠っていたのだろう、付ける事に立候補したのはこいつ、まだ8歳の幼年であった楓果だ。
「本当はあれ買いたかったのにさ、ライ兄ちゃん買ってくれなかった。」
「そりゃあ高かったし……あんなもの買って行ったら俺が怒られるよ、母さんたちがお互いを遠ざけて、フウと一緒に遊べなくなってたかも。それにアクセサリーショップで買ったものじゃないけど露店でお揃いのネックレス買ったでしょ、あれじゃ不満だった?」
「いや、別に不満じゃなかったし、今も付けてるけどさ……。」
そういうと、少し顎を上げて胸元にあったチェーンを引っ張り、緑色に塗られた石の嵌ったネックレスを見せてきた。
ちなみに俺も付けていて、俺のは黄色の石で同じデザインのお揃いだ。
「俺が首輪付けてた時、持ち手持ってくれたよね。」
「いや、まあ、何か気になって。」
「あの時から。」
「あの時からかぁ……。」
完全に俺のせいだろう。いや、完全にではないか、でも俺も責任の一端を担っているのは確か……いや、確かか?もう確かでいいや。
「だからさ、はい。」
そう言いながら期待と緊張の篭った微笑みでこちらに首輪を差し出してくる楓果、はぁ仕方がない、こんな目で見られたら俺には断り切れない。
自分で言うのもなんだが、俺はこいつをどうしても甘やかしてしまうのだ。
受け取った首輪は微妙に硬い材質で、こんなものを付けて本当に良いのだろうかと心配になる。
「えっと、苦しかったり痛かったりしたら言ってね。」
「大丈夫だって、ほら早く!」
嬉しそうな顔で顎を上げ、首元を近づけてくる楓果に、俺はため息を付きながら首輪の留め具を外し、うなじに手を回して押し当て、前側に引っ張って来る。
「ん……。」
悩ましげな声が聞こえた気がしたけど無視だ、顔の赤みが増しているのも気のせいだろう。
この状況を深く考えないように首輪を苦しくない程度に絞めようとするけれど、何故だか手が震えて力の操作がしにくい。
それでも何とか頑張って丁度良いくらいに絞める頃には、何故か俺の息は絶え絶えになっていた。
「あっははー、首輪だぁ。」
一方の楓果はだが酷く嬉しそうな様子である。赤い顔は緩み両手で首元を摩りながら、鼻歌でも歌いそうだ。
しかしふと我に返ると、大事なことを忘れてたとでも言うようにこちらを向き、首元から垂れ下がっている革のベルトのような持ち手を差し出す。
「はい、持って?」
「……。」
ここまでやってしまったならもうどうにでもなれ、そういう心境で、その持ち手を受け取り輪状になっている部分に手を通す。
それを確認した楓果は、先ほどまで緩んでいた表情を更に緩ませこちらに飛び掛かってきた。
「よっしゃー! ライ兄ちゃーん!」
「うおっと!?」
「ライ兄ちゃぁん……、何か違うな、んー……、ご主人様?」
「ブフッ!」
思わず俺は吹き出す。
ご主人様?突然何を言い出すんだこいつは!?
「えっと、フウ?そのご主人様ってのは……。」
「あ、そうだよね……流石に人間を飼うってのはちょっと嫌か……じゃあ、バウ?」
あ、可愛い……じゃない、そういう問題じゃない。
突然こちらを向いて、犬歯を見せながら笑顔で犬の鳴きまねをしてきた楓果にそう突っ込みたかったけれど、俺の身体は硬直していて口から洩れることは無かった。
「なんで目を逸らすのさ、こっち見てよー。」
「んん……。」
いや、眼も逸らしたくなるだろこんな状況。
それでも仕方なく、俺に引っ付いている楓果の姿を視界に収める。
「ふふん。」
「なんで誇らしげなの?」
嬉しそうに破顔しながらこちらを見てくる楓果は、幼馴染としての贔屓目なんて無くても十分すぎる程に整った容姿をしている。
身体も同年代と比べると小さめだけれど、日本の武道が好きとかいう特殊過ぎる趣味によってある程度身体は引き締まっているし、まだ子供であるから中世的で、カッコいいというよりカワイイの方が似合うその顔は将来さぞイケメンになるに違いない。
色素が薄い茶色の髪の毛はサラサラで、同じく茶色の瞳はキラキラと輝いている。
しかし、しかしだ。
顔を赤らめた子供のはずなのにどこか蕩けた様な表情に、首元にはしっかりと動物用の首輪、そこから延びる持ち手は俺の手の中に……。
あぁぁぁぁ!なんと背徳的な光景!なんかイケナイことをしている感がものすごい勢いで俺の精神をゴリゴリと削っていく。
というか楓果はあれか、マゾというよりペット願望と言った方が正しいのか。首輪を付けて持ち手を握って貰いながら犬の鳴きまねをするとかもうそうじゃないと考えられない。
「いや、あのさフウ、一階に母さん達もいるんだよ?」
「あ、そっか。流石に見られたらまずいよね。」
そういって楓果はいそいそと俺の身体から離れようとする……しかし、遅かった。
「来寅、楓果くん、お菓子持ってきた……わよ?!」
「「あ。」」
俺も楓果も足音に気が付いていなかった、突然開け放たれたドアから現れた母さんの目に映ったその光景は、さぞ大変なものだろう。
俺に圧し掛かるように抱き着いていたがそこから離れようとしている楓果は、まるで俺の下半身の方にズレていっているようにしか見えないし、顔を赤らめたその首には首輪、首輪の持ち手は俺の手の中。
事案。その一言に尽きる。
小学生を誑かす高校生、男同士であるから男女であった時よりかは罪が軽いだろうけれどそういう問題じゃないし、むしろ誑かした相手が男児であった方が周りからの眼は冷たくなるんじゃないだろうか。
「来寅……あんた……。」
「あ、いや待って母さん、勘違いしないで。」
「やっべ、見られた。」
母さんは訝し気な表情から一変、状況を理解したのかその表情を修羅のように変え、大きく息を吸い込んだ。
「何をしてい────」
怒鳴られることを察知し思わず目を瞑る、脳を震わせるような声が耳に響き、しかし途中でテレビの電源を消したかのようにパッとその音が消えた。
「……ん、んん!?」
思わず瞼を上げると、俺は楓果が突然あんな事を言い出した時以上の衝撃を受ける。
どこまで見ても真っ白い風景、どう考えても俺の頭がおかしくなったとしか思えない風景に、俺は後退りバランスを崩して尻から倒れた。
【うふふふふ。】
「だ、誰だ!?」
突如として何処からともなく聞こえた声に対して言い放った言葉だが、我ながらなんて陳腐な質問だろう。
そしてこの後実体が出てきたらビビッてもうこんな叫ぶように質問できない、そこまでがテンプレだ。
そんなどうでもいい事で頭が働いているのは、やはり俺が混乱している事の現れだろうか。
【誰だ、誰って言われてもなぁ。】
困ったように【誰、誰かぁ。】と繰り返す言葉からは相手の事が何一つ判断できない。
子供の様で大人の様で中性的なその声からはしかし確かな人間味が感じられる、ロボットやその類のものなのではないのだろう。
【んー、まあ私の事はどうでもいい。というかさぁ、君も大体どういう状況か気が付いているんじゃない?】
突如として問いかけられたその言葉に、俺は一瞬「わかんないよ!」と叫び返そうと思い、しかし一考する。
この非常識で非論理的で絶対にありえないであろう展開、最近よく見るように……というか読むようになったぞ。
いや、でもまさか、あれはフィクションの世界だけの代物のはず……いや、今日フィクションでも中々見ない、首輪を付けてくれと要求されるっていう珍事が起こったばかりなのだけど。
でもそれしか考えられない。
「異世界転生、それとも転移?」
【せいかーい!】
正解を伝えるその声は、とても軽快なものだった。
怪文書になりそうな小説をお読みくださりありがとうございました。しかし作者は真っ当に物語を展開していく所存であります。
気になってくださった方はブックマークを、気に入って頂けた方や期待して下さる方は下の☆☆☆☆☆から評価を頂けると、作者は頭を狂喜と狂気に染め上げながら続きを書く意欲を湧かせる事になると思います。
本格的に物語が指導するのは4話からです。異世界転生に理由なんていらねえ!という方は4話目からでも問題ないです。




