表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Obliviate  作者: USA
2/2

下:改編



タイムリープをしてからの生活はまさに夢のようだった。

妻との日常。妻と見る夕日。妻とのご飯。妻と過ごす夜。一度全て失われたと思ったものが取り戻されたのだ。灰色の世界が、色付けられていくような日々が流れるように過ぎていった。


そして僕は永遠を願った。それが故、僕は禁忌に手を伸ばし始めていた。絶対に犯してはならない禁忌に。


教授は僕がタイムリープすることになった時、こう言った。


「けだし、この世界は本のようなものだ。然るべき秩序、順序をもって進んでいかなければならない。故に、過去の事実に干渉して変化をもたらせば、それ以降の世界は連鎖的に変わる。そして全くの別の「本」になるのだ。最悪の場合、タイムパラドックスが起こり、「本」は何の秩序も持たない「文字の集まり」へと変貌することもあり得る。過去は変えてはならない。それを神に誓って守ってくれ。」


つまり過去の事実を変えること、すなわち過去改変、いや、「過去改編」は教授が僕に課した絶対的な禁忌なのだ。



「明日から出張行ってくるね」


妻の言葉に僕は凍りつく。頭が真っ白になり、せっかく色付けられた世界がまた色褪せそうのなるのを感じる。


妻は明日死ぬ。


十年前の記憶がフラッシュバックする。機体の半分が水に浸かったボーイング799。むくむくとした真っ黒な煙が魂を乗せて空高く昇っていく。

忽然として失われた日常。依然として回り続ける世界。


8/13。明日を最後にしてこの幸せな日常は終わる。


これでいいんだ。これで元の通りなんだ。これが運命なのだ。

妻の幸せそうな顔がもう一度見れただけで幸せだ。


そうやって自己欺瞞をして凌いでいた。

でもいざ自分が一回飛び込んだ悲しみの深淵にもう一度飛び込む勇気が僕にはなかった。


「エマ、出張はやめておいたほうがいいんじゃないのか」


僕は神に抗う一言を口にした。


「急にどうしたの?」


僕は手を握りしめる。汗がシャツを滲ませる。


「明日の出張はやめろ。行ったらお前は...」


瞼が熱くなるのを感じる。

僕は妻の顔を見るのが急に怖くなって俯いた。


「エマ...お前はもう...」


嗚咽が漏れる。僕はその先が言えなかった。怖気付いたのだ。

やり場のない怒りと絶望が僕の腹を苛む。


ふと僕は温もりを感じた。細い腕が僕の身体をきつく締める。妻は顔を僕の胸にうずめた。


その時、僕の冷え切った心が愛を思い出した。


僕は決意した。


世界を裏切ろう



僕は妻に出張に行かないでほしい、とだけ伝えた。理由を言うと、タイムパラドックスが起こる可能性が高くなる。

妻は落ち着いて受け入れ、出張は取り止めになった。



その夜、恐ろしいことをしてしまったという後悔と、してやったりというアンビバレントな感情が僕を襲った。急に不安になった。僕は隣で寝てるはずの妻がいないような気がした。


「エマ、いるか」


心許なく呼びかける。


「大丈夫。私はここにいるよ」


それを聞いて安心した僕の意識は次第に遠のいていった。






「エマ!」


僕は叫んで起き上がった。頭に強い衝撃が走る。ハイドル博士の頭に思いっきり頭突きしてしまったようだ。


「目を覚ましたかクリス!実験は失敗した。時空間転送がうまくいかなかったんだ」


額から血を流している博士はそう言う。


「..あれ...僕はどこにいて...何をしたんだ...?」


「意識が混濁しているようだな。しばらく休みたまえ」


おかしい。抱きしめられた感触、優しさ、温かさ、ひしひしと感じる。この正体はわからない。僕は頑張って思い出そうとするが、考えれば考えるほど記憶は遠ざかっていくようだった。


「きっといい夢でも見てたんだろうな」


僕はそう呟く。



僕は研究室で少し休憩してから帰ることにした。博士はまだ残って先の失敗の原因究明に努めるそうだ。


帰り道、シャッターが下ろされている店に目が止まった。そういえばここパン屋だったな、と思い出す。カレーパンがうまかったな。


次の瞬間、僕は家に向かって走り出した。


何か大事なことを忘れている。忘れてはならない何かを。

名状しがたい感情の波が押し寄せる。僕はペースを速めた。


1分も経たないうちに家に着いた。強い既視感デジャヴを覚える。


「ただいま」


そう言いながら思い切ってドアを開ける。


優しい笑顔が僕を迎えた。


「おかえり、あなた」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ