第7話 今までを思い出す6
不貞腐れても、私は公爵家ご令嬢で、今の立場はレオ王子の(仮)婚約者。
面倒だとか、早く帰りたいだとかの気持ちを表情に出さない様に気を付けながら、王子だけが代々、使用すると言う王城の王子専用の応接間で、レオ王子とお茶を飲んでいました。
レオ王子曰く、私との仮婚約契約が交わされて以降、陛下はお気に入りの側妃を一人だけ残して、後の4人を信用のおける臣下や騎士への第2夫人へ降嫁させて一掃したというのです。
水害で忙しかったんじゃなかったの?と言いそうになる言葉をギリギリで飲み込んで、レオ王子の話の続きを聞いてました。
レオ王子本人も、「側妃様の所へ通うのが当たり前だった陛下が変わられたのだ。」と驚きながら話してましたけど。
陛下がそれと同時に、王妃様へ毎日のように今までの事を謝罪しているのだとか。
それで今は、辛うじて陛下と王妃様の離縁は成立しないように周りも配慮しているからか、小康状態を保っているそうです。
側妃を簡単に娶って増やす陛下なんて、ざまあみろ!ってんだ!
王妃様は死にそうな目に何度も何度も遭っているのに、今まで一切、顧みずにいたんだから、その位の冷たい態度を王妃様がされても当たり前でしょうが!
陛下は、女性を!特に王妃様を馬鹿にし過ぎだわ!
1人だけ気に入った側妃を残している時点で、王妃様との仲を修復するのは無理でしょう。と私は冷静に思ったし、内心ではそう突っ込んでいたんだけど、王家についてはノーコメントでいたかったので、口にはしませんでしたわ。
私が呆れた表情を浮かべたままでいても、それに気付かずに話しているレオ王子のおしゃべりは続いていきました。
陛下と王妃様は、今現在、公式行事だけしか会わないと言う状態だそうで、レオ王子もリオン王子もどうしたらいいのか分からないと。
私は、母と父のどちらに付けばいいのだろうかと、私にとってはどうでもいい話をレオ王子がしてきていたけれど、私はお茶を飲んでから曖昧に微笑んで言いました。
「私だって王子様と変わらない年齢です。子供の私には分かりません。
王妃になる勉強を始めてから数か月ですし、殿下の方が私よりもとても知識がおありだと思うんですけれど。」
レオ王子との仮婚約者の私の間で、月に一度の交流と言う名の強制的に行われるお茶会で、王子自身から益にもならない、愚痴をただ聞かされているだけなので、内心では、ただただ、うんざりしていたんですけどねー。
そうそう、結局、前世の死んだ原因と乙女ゲームの事だけは私個人の記憶を思い出せはしたけれど、正確に、私は何歳でどこで死んだのかとか、前世のその他の個人的な事柄を詳しく思い出せなかったんですよ。それも、ふんわりとした感じでしか分からなかったんです。
前世の私にはどんな親兄弟や友人知人がいたのか、その人達がどんな容姿で性格だったのかも、ね。
寂しいっちゃ寂しいけれど、死んで生まれ変わってしまった今、それらを深く追究したいとは思わなかったのですわ。
だって、前世の私が死んだ時点で、全てを置いて転生しちゃったんだもの。
万が一、家族や友人を忘れずにいたか、思い出していたら、前世の家族や友人に会えないんだと知って、余計に寂しくなってしまったり、会えないのだと理解して、すごく悩んで悲しんだでしょうし、ね。
だから、私自身も、前世の個人的な事情とかは思い出せなくて良かったんだって思う事にしたのよ。
だけど、前世で覚えた知識や物事だけは思い出せたので、それらを活用出来るのだわとワクワクしたの。
それらは大いに今、見た目通りの年齢ではないって事がお母様に負担をかけずにいられるって分かって、助かっているの。年齢通りだったら、お母様を困らせるようなワガママ娘だったのでしょうと思うの。
これで万が一、公爵家から追い出されても、平民として生きていけるベースが私の中に出来たのだから。
そこで、丁度、レオ王子の愚痴と言う名の話も終わったようですわ。
王家のご夫婦の仲と言う聞きたくもなかった事の顛末を聞かされた後に、公爵家はどうだったのかと私に聞かれたので、答えてみましたの。
「父の話を母から詳しく聞いた弟は、あれから父と一言も口をきいていませんのよ。
勿論、ただの駒である私も、父と話す必要が今までなかったので一言も話していませんの。
私、母とは和解出来ましたし、弟とは元々、仲が良いのです。だから、それ以上を望んでは過度だと思いますし、それだけで良いと思いましたの。」
「そうか。それと、王家からの護衛と監視、専属執事を派遣したと陛下から聞いていたのだが、様子はどうだ?」
「朝から晩まで、勉強と実技で過ごしていますわ。週に1日のお休みがあるので、その日は、好きな事をして過ごしています。」
「私も王妃となる女性の苦労も知らず、安易に側妃を迎えられると思っていたのを詫びよう。
済まなかった。エンディス嬢の気も知らず、私は非常に軽率な発言であった。
済まない。
だが、王族として10歳になり、社交デビューしたので、ギラギラした目のご令嬢達に狙われる事が多くなって、うんざりしていたので、な。
ついつい陛下の話に乗ってしまったのだ。
私がエンディス嬢の立場であったらと想像してみたら、耐えられるのかどうかも分からなかった。
王になるという重責もキツイが、王族の傍流の方は騒いでいる筆頭を抑えつけていれば、王家には表立って反逆しない姿勢でいるのだ。
王や王子が暗殺をされる危険は、王妃や王子の婚約者であるエンディス嬢より少ないのだと気付いたのだ。」
待て!待て!今、何て言いましたの?レオ王子や陛下よりも王妃様や仮婚約者の私の方が殺されやすいって言いました?
相変わらず、酷い事を平気で言う男ですわね!
「そうですか。」
今は、子供のほざいた無知な戯言と聞き流しておいてやりますけれど、将来、何かあった折には、レオ王子個人へ倍返しで、仕返しをしてやりたいと思っておりますのよっ…!!ノートに忘れないようにしっかりと書いておかなくては!
だって、私、レオ王子の相手の当て馬役で、所為、悪役令嬢と呼ばれる者ですもの。
婚約破棄をされると分かっているんですから、精々、私の方が正当性があるのだと証明出来る証拠は、大切に、大切に、それこそ、肌身離さずぐらいに大事にしたいものですからねぇ。
陛下だって、将来、息子可愛さだけで、私がしていない無実の罪を無理やり着せようとする相手なんだって知ってますもの。
そんな事をされても大丈夫なようにと、最近、お母様と私で一緒になって、裏でこそこそ父上に見つからない様に準備し始めていますのよ。
うふふっ。
王家の選んだという私専属執事も、王妃様の息のかかった者で、私の味方なのですわ。
それも含めて、陛下もレオ王子も知らない時点で、私やお母様に弟までもが国外へ、お母様の生家のある隣国へ逃げる準備をしているのだと気付かれる心配がないのです。
この国の王子に婚約破棄、いいえ、婚約無効にされれば、私がこの国でその先で婚姻を結ぶのは難しいでしょう?上から数えた方が早いくらいの位置にいる公爵令嬢なんですもの。
ましてや、私がやってもいない罪を被せた者が、私に成り代わり、この国の王妃になれるはずもないし、王妃教育を今から受けている私と比べても、ヒロインは、身分も教養も足りないでしょうしね。
それに、冤罪を吹っかけてくるような王子、そう、そんなレオ王子が、のうのうと王太子になる可能性も潰えるでしょうし。ってか、この国の民自体がそんな不正を許さないでしょうね。
私だって、ゲスロインと言われる男爵令嬢のハニートラップに、簡単に引っ掛かるようなレオ王子と結婚するのは、御免こうむりたいですし!
いくら政略結婚でも、結婚前から愛人や側妃がいるのは、王妃になった私を大切にしないのだと全国民に言っているのと同じだし、契約を守る誠実さもない時点で、貴族の男としても最低な男なのですわ。
それに、レオ王子は、あの側妃を簡単に増やしていく陛下に似ているのですから、側妃がわんさか出来る未来が、誰よりも簡単に想像出来ますもの。
あ、あー、嫌だ!嫌だわ!ヒロインに熨斗を付けて、レオ王子を遠慮せずにお渡しするわ!
何なら、他にも色々と付けてあげましょう。
ヒロインの取り巻き予定の宰相の子息とか、将軍の家の子息とか、この国一番の子爵家の商人気質の子息とか。ゲスロインは遠慮せずに、みーんなまとめて受け取って欲しいわねー。
かの、ご子息と言うヒロインの取り巻き連中の婚約者にされる予定のご令嬢の縁談も潰して、彼女達を助け出さなくては!ね。これについても王妃様やお母様にご相談しなければならないわ。
王家が認めなければ、貴族の婚約は成立しないんですものね。婚約が成立しない様に、王妃様の方から根回しをして下さるわよね。
そして、そんな冤罪を許す王がいる国に未練なんてありませんもの。
母は隣国出身ですし、私も弟も、この国以外の言葉をこっそりと必死に学んでいるのですから。
父だけが陛下と沈んでいく船の中で、足掻けばいいわ。
王妃様も私達が国外へ出る時は一緒に出るのだと息巻いていらっしゃいましたわ。
あ!そうだわ!王子の取り巻きで、ヒロインの毒牙にかかる子息達の婚約者になる予定だった彼女達も、一緒に隣国へ連れて行けばいいのかしら?
父は、母と弟に逃げられても、いつもまとわりついている女性の中から新しい妻を選んで迎えて、子を新しく作ればいいだけなのだし、心配しないでいいってお母様が言っていたわ。
まとわりつく女性達にダラシなく鼻の下を伸ばしていて、不快だったのよとお母様が嘆いていたんだもの。父は、その中から女性を選べるんですから、より取り見取りよね。
陛下も一番若くて一番最後に迎えて贔屓にしている側妃様が生んだ、末の第三殿下である王子と過ごせばいいのだと、王妃様が嫌そうに吐き捨てるような言い方で言っていましからね。
あの身体の弱い、小さな王子を暫定的に陛下の後継ぎにすればいいのですわ
レオ王子と仮婚約者の私との間で、月に一度の交流と言う名の強制的に行われるお茶会が少しでも早く終わらないかと思っていましたので、お茶会が終わった後はすぐに帰りましたわ。
お茶会から帰ってすぐにでも、レオ王子の発言をノートに書いておきましたわよ。これも証拠となるだろうと、丁寧に記録していますの。
それと、最近、お母様から聞いた事も書き足してみました。
元々、お母様は隣国の侯爵家のご令嬢だったのだそうです。
上に兄である伯父様がいるのを知っていますわ。
従兄弟達を連れて、叔父様がポラディスが生まれたお祝いと今までの誕生日祝いを一杯抱えて、一昨年、私と弟の分を毎年、私達がいつ訪ねても渡せるように、たくさん用意していたのだと言って、公爵家に笑って訪ねていらしたの。
隣国のお爺様とお婆様のお手紙を添えた、山のようなプレゼントをポラディスと私の分を沢山、沢山、頂いたのですわ。
私、父上からは今まで何ももらえていなかったし、お母様からしかプレゼントを頂いた記憶しかなかったのですわ。だから、私個人としても、とっても嬉しかったので、伯父様の事を覚えていたのです。
仕事で隣国の国内をあちこち行き来していて忙しいと言っていた伯父様と、その子供である従兄弟達は、一昨年、初めて我が家に訪問して、私達と対面したのですけれど。
プレゼントの方が嬉しかったので、従兄弟達の事は忘れていましたの。
話が逸れてしまいましたわね。
お母様は隣国の侯爵令嬢だったそうです。(これを言うのは二度目だけど、話を戻す為には必要だから。)
けれど、先代の公爵当主と隣国の侯爵家当主が友人だったという関係で、国と国を結びつける政策の一環の一つとして、お母様と父に婚姻での結びつきを願う白羽の矢が立ったそうで、その縁で結ばれた政略結婚だったそうなんです。
お母様も父から一目ぼれをしたので、結婚してくださいとは言われたそうですが、父からは今まで一度も、好きだとか愛しているだとか言われた事が無かったのですって。
その上で、私が公爵家の駒扱いされた一件から、元々、少なかった夫婦としての情も消え失せたのだと話してくださいました。
お母様は正式に父と離縁したら、元々、結婚前から好きだった方に告白して、押しかけてでも後妻として娶ってもらうつもりだと言ってましたわ。
夫に自分への愛が一片もないのが分かって、かえって清々しているわと笑って言ってましたので、お母様は大丈夫でしょう。
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はっと気付くと、レオ王子が私の事を見ていました。
また1月が過ぎたので、王子様との月に一度のお茶会でしてよ。
慌てて、「どうしましたか?」と聞くと、「エンディス嬢の事を、婚約者となったご令嬢を見ていただけだよ。」と言うので、赤くなってしまいましたわ。ちょっと、不意打ちをしないでくださるかしら?ビックリしたわ!
「赤くなる顔は、素直で可愛いのだな。」なんて追加で言うから、余計に顔の赤みが増してしまったわ!どうしてくれるのよ!元に戻らないじゃないの!
お茶会を終えるまで、その日はレオ王子が何故かご機嫌でしたわね。変なの。




