第21話 ヒロインは、どうしているかって?
エンディが隣国のトランドルへ旅立ってから、はや3週間が経ちましたー。
王家からの謝罪を受け、騒ぎが沈静化したと報告された我が男爵家は、やっと自分達の屋敷に帰って来れましたー。
公爵家での居心地は良かったけどね、自分の家でないって事だけで、あたしは疲れちゃったんだよねー。だから、家に帰ってこれたのは、最高だなーって思ったんだけど。
お母様がね、すっかり公爵家での生活に慣れちゃってさ、あの生活に戻れないのを残念がっているんだよね。そのせいで、お父様とケンカしてるんだよー、面倒だなー。はぁ。
お兄様は、公爵家の図書館で本が読み放題ってのがお気に入りだったから、工作家の図書館に行けなくなったのを残念がっていたけどねー。
お母様だって、あの頃の危険な状態が理解出来てなかった訳ではないんだけどさ、贅沢な生活を味わってしまったのに、その生活が終わってしまって悲しいなー、みたいな感じだと思うんだよねー。
だから、自分のわがままを言えるお父様に、八つ当たりをしているだけなんだと思う。
それをお父様も解っているけど、自分ではあんな贅沢な生活をさせてやれないって思う、男の甲斐性が邪魔をしてしまい、お母様とケンカになってるんだよねー。やんなっちゃうなー。
生きてりゃいいじゃんかー。
あたしはこの世界に生まれ変わった事に文句はないんだけど、生きていればいろんな事があるって知ってるからさ、お父様とお母様のケンカしているが馬鹿みたいだなーとか、仲良く出来ないのは勿体ないなーとか思う訳なんだー。
あたしもヒロインに生まれたけどさ、この世界で悪役令嬢に生まれたエンディの苦労を沢山聞いたし、過密スケジュールをこなしたり、ご令嬢達をまとめている姿とかを一番身近な立場で見ていたからさ、悪役令嬢に比べたら、ヒロインは楽だったし、大きな苦労もなくて、普通なんじゃないかなーとか思ったんだよねー。
最悪な結末を知っているだけにさ、悪夢も見るし、逃げようともがいて苦労していたのに比べたら、ヒロインの結末としては、悲惨なのは無かったから、気を抜いちゃってたのも本当だしなー。
あ、学園には、相変わらずに通ってるよ。貴族の子女としてはこの学園を卒業しなくちゃならないから。
学園を卒業してないとね、ご令息は嫁をもらえないし、ご令嬢は嫁のもらい手もないんだよー。ほんと、困っちゃうよー。出来婚でもないとさ、学園中退も許されないんだってー。
あれ以来、レオ王子とか側近候補達もさ、あたしの近くには寄って来ないから、安心安全なんだ。
そんな日々の中、エンディからだと思う手紙が来たんだよー。
『私の友人のオレン様へ
オレン様は元気にお過ごしでしょうか。学園は穏やかになったでしょうか。
私は元気に暮らしていますので、ご心配には及びません。
ドレスや小物を準備するのに追われていますが、ロンデリン国との違いもあまりなく、何とかなってい ます。
家名が変わったので、いつかどこかでオレン様と再会出来たらいいなと思っています。もちろん、オレ ン様以外の方にはお会いしたくないのだとの注意書きをしたくなる程。
二度とお会いしたくない方からの手紙が手元に届き、残念と無念さに腹が立って仕方がありませんでし た。好意の一片も無かった方からの手紙と言うのは、気持ち悪く、得体のしれないモノだと実感しまし た。寒気とおぞましさで、泣いてしまいたいと思いましたわ。
オレン様が好きになった方と婚約する未来の報告をされるのだろう事を想像し、その日が来ることを楽 しみにしています。
遠い空の向こうから友情を込めて。 貴女の友より』
ね?エンディらしい手紙でしょ?
この手紙の裏にはさ、日本語でびっしりと、書き込みがされてたんだー。便箋の模様のように色とりどりのインクを使って。
それも事細かにね。
レオ王子がストーカー並みに気持ち悪いって事と、誰とは言わないけど、誰かに包囲されないうちに、新たな婚約者をエンディが得る為、夜会デビューをトランドルでするって書いてあったんだー。エスコートは弟さんだってさー。
ふーん。エンディは隣国に行っても忙しいんだねー。隣国の事を学んで、商会の商品開発もあって、婚約者もみつけないとならなくて、忙しいんだー。
あたしからの返信の手紙は出せないんだー。エンディがどこにいるかを友人のあたしが教えないで済むようにしなくちゃならないから。
だから、呟く。
友人の貴女は、忙しいんだねー。今度こそ素敵な婚約者をみつけられるといいね。それと、幸せになれるといいね。
あたしはね、あの婚約破棄騒動の後から、気になる人が出来て、その人に恋をしているんだって思ってる。
その人と婚約出来るかは分からないけど、あたしの家よりも爵位が上の家の人でね、そこそこイケメンなんだー。
頑張ってみるから、隣国からあたしの恋を応援しててねー、って言い終えた。
あたしが前の人生で好きになった人と似た声で、優しいんだよー。うちよりも上だから、お金も持ってるみたいだしー、余計な無駄遣いをしなければ、暮らしていけそうなんだよー。って、内心でも呟いた。
恥ずかしいから、声に出して言えなかったんだもんー!




