「レッツ鑑定!」
※
装備品はそのままで着替えだけを置いて部屋を出ると、ソフィーと鏡花のふたりも準備は終わったみたいで部屋から出て来た。そのまま鍵をおじさんに渡し、宿を出る。
「さて、フェルポームに行きましょうか?」
「フェルポーム?」
聞きなれない単語だ。
「フェルポームってのは役場の名称よ、ほらアレ」
そう言ってソフィーが指したのは、来る時から気になっていた大きな円形の屋根を持つ建物だった。周りに工場の煙突みたいな物も見えるけど、四角い建物や三角の屋根ばかりの中では異彩を放っている。
「そして、あそこがふたりを連れて来たかった場所でもあるの」
詳細な職業鑑定が出来る場所か、プリートでは無職と言われたけど職業模倣と勝手に名づけた能力があったし、なにかしら分かればいいんだけど……
「ほらほら、行くわよ」
ソフィーが手招きをする。
街中を歩くとプリートとの違いを感じた、ここまで歩いてくる間でも思ってはいた事だけど向こうに比べるとこちらの方が道が広くて行きかう人も多い。それと店も活気があふれた商店街のようなものというよりは、ショーウィンドウを持つ店が多くオシャレな雰囲気があった。
「今から行くフェルポームの職業案内所はね。プリートの上位版……というか、その元になった施設なの。だからね、他の職業鑑定所じゃ出来ない『転職』 が出来るの」
転職なんて仕事が変われば自然となる事なんじゃ……なんて考えたけど、ここは日本じゃないんだからそういう事じゃないのか。
ならオレも……と淡い期待をしたけど、よく分からない『無職(転職不可)』 があるのを思い出して、軽い頭痛が……まあいいや、中に入ろう。
「ふたりは窓口に行って職業鑑定をして欲しいって聞いてみてね。私は上に行くから」
と、ソフィーは上を指した。
「あ、もしかしたらしばらくかかるかも知れないから鑑定が終わっても戻って来なかったら、先に宿に戻ってて」
彼女はオレ達に告げるとそそくさと階段の方へ走っていった。
「さてと、窓口に行ってみようか?」
「うん!」
鏡花の返事を見て、カウンターの方へと向かう。
「あの、どうかなされましたか?」
ふいに横手から声をかけられ、そちらの方を見た。
あれ?
「フェミリアさん? どうしてここに?」
服装こそ黒スーツから白い軍服のような物に変わっていたが間違いない。プリートの仕事案内所にいたはずの彼女がどうしてブジョニアに居るんだ?
「フェミリア? ああ、姉さんにあった事があるんですね」
「お姉さん?」
「はい、フェミリアは双子の姉です。申し遅れました、私の名はファインと言います。よろしくお願いしますね」
そう言うとニコッと笑って見せた。
フェミリアさんとは正反対の太陽のような笑顔を見せていたが、その美貌は姉妹どちらとも人目を惹くのには十分のようで、周囲の野郎共のニヤニヤとした視線を感じた。
ふいに横腹を突かれ、そちらの方に目をやると鏡花が頬を膨らませていた。なぜ?
「それで今日はどのようなご用でしょうか?」
「職業鑑定を受けたいんですが」
「はい。では、二番の窓口にお掛けになってお待ちください」
彼女が指さした方を見るとアクリル板で仕切られたカウンターには『2』 と大きく書かれている。オレと鏡花が椅子に座ると、ファインさんも同時に座った。
「それではこちらの方に右手を置いてください」
アクリル板の向こうから差し出されたのはコースターのような石の板。彼女がその板に両手をかざすと板の上に淡い青色の手形が浮き上がった。形に合わせるように手を乗せた。
淡い光が強く発光し、手のサイズに合わせて上下左右に行ったり来たりする。ファインさんはその様子を確認しつつ、白い四角い箱から出てくる紙を眺めている。
一分後、紙が切れる音がした。
「完了しました。では、説明させていただきますね」
出て来たA4程のサイズの紙を見せてくれた。そこにはこのトリズモの言語がびっしりと書かれていたが、なぜだか理解できる。
その項目をファインさんは指差しで説明し始めた。
「名前はオトギリシンゴさんですね、性別は女性。あ、転生者の方なんですね」
彼女の手は次の欄である『職業』 の所で、彼女の動きが止まった。
「無職(転職不可) ? これは……?」
こちらへと綺麗な顔で困惑した表情を向けてくるが、こっちこそ困るんですが。
「やっぱり見た事ないんですね」
「ええ、姉さんはこの事で何か言ってました?」
「見た事ないそうで困ってました」
今のあなたと同様に。
「それならば、これを説明できる人はこの世界上にはいないでしょう。姉さん以上に転生に関する知識を持つ人を私は知りませんから」
子供のような恰好をしてはいても人には理解できない事をしてみせる、神様は神様って事か。
「では気を取り直して、次の項目を」
身長や体重など、細々とした詳細まで載っていた。
「来歴は転生日のみですね。では、使えるスキルを見てみましょう」
彼女はさっと紙を裏返す、目に見えて空白が多い。ただ、その一番上の一行目だけに何かが書かれていた。
「これは……」
ファインさんが読み上げようとした途端、文字が崩れた。
「え!?」
まるで魚かなにかのようにウロウロと紙の上を泳いだ文字だったもの達は、再度一行目へと集まって別の文字を形成した。
「今のは一体!? こんなの見た事ありません!」
オレには誰がやったのか見当はついていた、間違いなく神様のシェダムだろう。こういうよく分からない事は、だいたい神様のせい。
「それで、なんと書いてあるんですか?」
オレは驚いて固まったままのファインさんを溶かす為に話を進めた。
「あ、え、えーと……職業模倣、ですね。見た事のないモノですが」
彼女はその見た事のないモノを受け入れていた、混乱しすぎて志向が追い付いていないのだろう。
そんなファインを見て、オレは逆に冷静になってる。
「効果は『触れた対象が最初に覚えたスキルをコピーし、無尽蔵に使えるようになる。ただし、使用時に必要な魔力等はそのままである』 と、言う事です」
必要な魔力はそのまま、それが急激な眠気を生む原因なのだろう。
一般的な魔力ってのがどの程度なのかは分からないけど、色んな人が憐れむ程度には酷いモノなんだろうと想像できる。
「色々と大変でしょうが、何か困ったことがあったら相談してくださいね?」
カウンターの奥から伸びた掌はオレの手を握った、彼女の目には憐憫が浮かんでいる。
「あ、ありがとうございます」
つくづく厄介な職業だな、無職は。
「では、そちらの方も」
と、鏡花を手招きする。
「お願いします」
オレは椅子ごと場所をずれ、鏡花に譲った。
「先程と同じように手を」
鏡花が手を載せた途端、さっきとは違う目も眩みそうな程の光が溢れ出した。
「まあ、これは凄いですね。珍しいご職業なんですね」
さっきの箱……プリンター的な物がオレの時より大きな音が響く。その魔法プリンターは先程よりも時間をかけて文字を出力した。
「では、確認させていただきますね。お名前はミヤジマキョウカさん、ですね?」
「はい」
「勇者様なんですね! 非常に珍しい職業ですね!」
その声には尊敬にも似た雰囲気があった。
「では、裏を」
ファインさんは紙を裏返すとそこにはオレのとは違い、びっしりと文字が書かれていた。
「さすが勇者様、覚えられるスキルが他の戦闘職と比べても多いですね」
リストの一番上には『勇者の加護』 と書かれた項目があり『勇者の装備を扱えるようになる』 と記されている。
普段は重くて持てなかった勇者の剣が扱えた事があるのはこれのおかげなんだなと思うと同時に、自分のスキルの意味も理解できた。一番最初ってのは、こういう事か。
「今ですとここまでのスキルが使えまして、次はこれですね」
『魔力アップ』 の後に指したのは『筋力アップ』
「説明は以上になりますが、なにか気になった点はありますか?」
気になった所。
自分の事だとほぼ全てなんだけどファインさんも知らないのだというのなら、聞きようもないな。
こちらを向く鏡花に頷く。
「大丈夫です」
彼女はオレに代わって答えた。
「では、この紙はこちらで保管させていただく事になっていますのでご了承ください。もし、なにかあったらいつでもお越しください」
満面の笑みでそう言ってくれた。
※
「シンゴ君、入ってもいい?」
鑑定を終えてしばらくは待ったのだけれど、ソフィーは戻っては来なかった。仕方なくオレと鏡花は街を散策して宿に戻り、仮眠をしていた所にノックの音が響いた。
「ちょっと待ってください」
横たえていた体を起こしてドアのカギを外し、扉を開ける。
「キョウカの部屋に来てくれる? ちょっと明日の事を相談していんだけど」
「分かりました」
オレは部屋から出て鍵をかけ、彼女の後に続いて鏡花の部屋へと入った。
「呼んで来たよ」
部屋に入るとソフィーはそう言って、ベットに座る鏡花の横へと腰をかけた。オレは机に備え付けられた椅子を引いて向き合うようにして座った。
「それでソフィーの仕事はどうなったの?」
オレの問いに、彼女は渋い顔をした。
「あんまり状況は良くないわね」
彼女は考え込むように腕を組むと、
「ふたりと別れた後に色々と情報を精査したんだけど、原因らしい原因は見つかられなかったの。ついでにエレキストーンの確認をさせてもらったんだけど門外漢だし、専門家の話だと問題ないって言ってるし。うーん……分からないわ」
そう言ってベットへと倒れこんだ。
「はぁ、困ったわ。なにか専用の計測機でも作ってみないといけないかもしれないわね……とはいえ、なんの数値を調べたらいいの? 魔力? でも、そんな何処にでもあるモノをどうやって選別するっていうの? それに時間だってそんなに猶予があるとは思えないし」
誰かに言ってる訳でもない大きな独り言をソフィーは話して、
「って事で!」
と、急に起き上がる。ビックリした鏡花が軽く跳ねた。
「私はしばらく別行動をしなきゃいけないから、ふたりにはコレをおすすめします」
言うのと同時に一枚のビラを見せてきた。
「なにこれ?」
椅子から身を乗り出した。
「えーと『戦闘職に転職したばかりの初心者さん歓迎! いきなり戦う前に寄ってて! ブジョニア名物、訓練場!!』 だって」
遠くて見えないオレの為に鏡花が読み上げてくれた。
「そ。ここに来るって決まった段階から、ふたりをここに連れてこようって決めてたんだ。この世界で生きるってのは弱肉強食だからね、戦うための力ってのが必要な時は必ず来るんだから」
この間みたいにね、と。
たしかにあのさすらい魔王の事を考えると確かにと思ったけど、
「魔王って、そんな頻繁に居るものなの?」
ソフィーは首を振る。
「魔王はそう滅多に居るわけじゃないわ。けど、魔王だけが問題じゃない。モンスター、それに……人もね」
その一瞬詰まった言葉に、彼女のナニかがあると分かった。
けど、触れてはいけないのも分かった。
「人と戦うの?」
鏡花の声が震えている気がした。
オレ自身もいざその時になってどう対応すればいいのか、それを……迷う。
「戦わなくていいのなら、無理して戦う必要なんてないよ」
ソフィーは鏡花を慰めるように優しく語った。
「ま、迫る刃から身を守るってのは戦わないにしても必要だからね。そのためにもココに行って特訓してくるのよ」
ビシッと人差し指を指すソフィー。
「まぁ、倒れても無理強いとかしなければ大怪我さえしないわよ。ここに居るのはあくまで調教というか、調整された場所でそういう風に作られているんだから」
「無理強いって?」
「倒せそうと思って焦って深追いしたり、飛び出してくるモンスターに慌てふためいてしまうとかね。これは経験で培っていく物だからどうしようもないけど、その経験も場数を踏む事でしか覚える事は出来ないけど。だからこその特訓よ」
特訓か、なんだか一昔前の漫画みたいだな。
「って事で、頑張ってみてね。私の方の調査はそう簡単には終わらないだろうから、ゆっくりと経験を積んでみてよ」




