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探索。

「もう」と僕をねめつけながら彼女は口を尖らせた「しっかりしてよっ。ないじゃん、全然」

「う、うん、ごめん」

 その日はゲームコーナーを回る勝手がいつもと違っていた。

 そばに彼女がいたからだ。

 ゲームの販売コーナーの棚の前で、僕はきまって怒られた。

 ゲームショップをあちこち巡ったが、僕らを迎えたのは『売り切れ』のシールの貼られたパッケージばかりだった。ひとつひとつの店の販売員に訊いてみても、返答は同じだった。国民的な人気ゲームなので、もうすでにほとんどが売れてしまったのだ、という内容。そうして、残っているのも予約のキャンセル待ちだけという状況。

 結果的に僕がゲームを見つけられず、怒られることになってしまっている。……でも、よく考えると、今、彼女が怒っている理由って? ゲームがないのは僕のせいって思っているのか?

「まったくもう。からまれたきみを助けてるあいだ、全部売れちゃったんだよ」

「それはすみませんでした……」

 まあ、僕がいなかったらあなたここにたどりつけてないよな、という言葉を飲み込む。

 嬉しかったからだ。もちろんゲームが売り切れで見つからない現状についてじゃない。彼女との時間の中で少しずつ昔の遊んだ頃の記憶がよみがえってきていたからだ。

 ゲームが下手だった彼女。負けたらすぐにふてくされていたっけ。それでけっきょく一人用を僕がもくもくとすることになって、彼女は後ろで見ている形が多かった。今探しているゲームシリーズのナンバリングも、そんな感じでやったんだったな。僕の後ろで、ゲームの展開がありえないと、いちいち彼女はいろいろと驚いていた。

 その情景を思い出していく。

『はあっ? そんな貧弱な装備渡して、国でも勝てないヤツ相手に戦えって』『そうじゃないと、ゲームにならないからね』

『ちょっとっ、なんで、人の家勝手に入って、タンス開けて、なに物色してんのよ? ……あんた下着盗んじゃだめよっ』『ごめん、でもそういうゲームだから』

『あのさ……英雄って言われてた主人公の父親が、その格好ってどうなの? なんか序盤にいたやつの色違いなんだけど……』『ごめん、でもそういうゲームだから』

 そのとき、普段ゲームをしない人がプレイを見るとこんな反応になるのか、と僕には新鮮だった。

 そういう思い出が少しずつよみがえってきて、僕の心を埋めていった。

 そういえば、今なんで彼女はこんなに本気にゲームなんか探しているんだろう? 発売日に買いに来るって結構狙ってたタイトルだということだよな? もちろん、本体も持っているってことだし、僕の予想と違って、意外とまだヤってるのだろうか?

 尋ねようと彼女の姿を捜すと、彼女はもうお店の出口の付近にいた。

「ねえっ、さっさと次に行きましょう! どんどん売れていくのだから、ほら!」

「ああ、……うん!」

 この急いでいるときにわざわざ質問するほどのこともないか、ゲームが見つかってからでも訊いてみようと、思い直し、その声に応えて、僕は彼女の元に急いだ。次の店への道筋を頭の中に思い浮かべていく。



 時間はすでに日が落ちかかっている。夕日でオレンジ色に染められた秋葉原の交差点で僕らは二人並んで歩いていた。

 隣の彼女の右手には、さっき買ったばかりのゲームの袋が握られている。

 あきらめずに確認してみるものだな、と胸をなでおろしていた。在庫があるのか訊くことなんてなかった人見知りな僕にとって、はじめての体験だ。

 けっきょくゲームが見つかったのは、意外なところからだった。



「ごめん、ここでも売り切れみたいだ」

 数十分前、新作販売コーナーの棚の前で今日何度目かの言葉をまたも吐き出す。僕の胸をザワザワと居ても立っても居られない波が揺らしていた。この店でもないのは致命的だ。どうしよう。もうほとんど回りつくしてしまったぞ。

 ……あとは、穴場を狙うしかないか、と考えていたとき‐‐

「……ほんとにないのかな……」と隣の彼女は眉を寄せて疑わしそうに声を出す。

「……うん、ごめん」また怒られるのではないのかと警戒して、僕は先に謝る。

「ねえ、ちょっと訊いてみましょうよ」「……え?」

 僕の答えも聞かずに早足でコーナーから動き出す。連続で目的のものが見つからないのでさすがにじれているようだった。あきらめきれない気持ちはわかる。もちろん、僕も残念だ。しかし、売り切れなので仕方がない。なんとかあきらめさせようと彼女に追従した。

 そばを離れた彼女は、きょろきょろとしながらレジの方に向かって歩きだし、その途中でなにかを見つけ、そこで立ち止まった。

 ゲームのずらりと並んだ左右の高い棚を抜けて、後を追ってみると、そこはレジの横に設置されたカスタマーセンターだった。店員一人が配置されたカウンターの上に『質問コーナー』というプレートが傾きなく垂れ下がっている。

「あのすみません、ゲーム、奥の方にもないんですか?」

 そう彼女が尋ねると、店員は確認してくるとカウンターを離れて、隣に移動してレジの奥に引っ込む。

「えっとあの、どうみても、売り切れだったよね……?」

 追いついた僕は彼女と並んで横から説得しようとする。

「うん、でもさ」

 彼女はこちらに顔を向けて笑いながら言う。

「聞かないよりも、聞いてあきらめるほうが納得できるじゃん」

「……ああまあ」

「それに、困っている人からの言葉を聞くため彼らはいるのだから」

「そうだね……」

 僕はうなずく、けれど、腹の中はもやもやしている。確かに言う通りかもしれないけど、僕にとってその訊くことが苦痛なんだよな……。

 たぶん無理だろうな。売り切れだと表示されているものがあるわけない。働いている彼らに余計に使わせる労力が申し訳なかった。

 ほどなく店員がカウンターに戻ってきた。

「お待たせして失礼しました。申し訳ございません。やっぱりすでに売れてしまっているようです」

「ああ、そうですか……」

 彼女は後頭部をかきながら言う。でも、その隣で僕の気持ちに何かが引っかかる。

 いままでに僕はこの店で何本かの新作を買ったことがある。そのときの記憶が頭の中にしみだしていた。いまはレジの棚の奥にわざわざ在庫を取りにいっていた。でも、そこが僕の記憶とは違う。多くの客をさばくときに、いつもは持ってきた見本品から品物に変えるまでの効率化のため在庫は奥には置かない。僕のときには、レジのすぐ下の棚から取り出していたのに。同じ新作なのになんで今回だけは違うんだろう?

 いままでの僕はその些細なことを聴くべきかなんて考えもしなかっただろう。でも、胸のうちのもやもやと隣の彼女の納得のいっていない顔に、思い切りが身を満たす。聞いて納得しよう、と。

「え、あ、あの、ゲームいつもは棚から出してますよね、新作なら特に」

 今日だけの勇気を出した僕の確認で店員は、こいつ知ってるな、やるな、という印象のあるにやりとした笑みを浮かべる。なんだかあまりうれしくはない。

 常連だと思われたであろう僕は苦笑いを返した。

「ああ、はいそうですね、今回はちょっと違っておりまして」そういうと、店員はわざわざ証明のために隣のレジに移動して、そこで、いつもの棚の大きさに在庫数が合わないことを説明してくる。

「今回は期待の新作ということで、多くの本数をそろえておりまして、このような形をとらせていただいております」

 こちらを向きながら棚を開けて、形だけであろう確認をした店員の顔が驚愕に変わる。どうしたんだろう?

 そして、なにやら取り出したものをこちらに持ってきた。なんだろう?

「……申し訳ございません。手違いがあったようです、こちらでお間違いないでしょうか……?」

 店員が両手で握っていたものは、探していたRPGだった。


 彼女の手を力点にぶらぶらと揺れるゲーム屋の袋を見つめて、うれしさとともに情けなくも思う。

 これは彼女の粘りが生んだ結果だろうなと。

「……けっきょく、僕、役に立ってなかったよね」

 それを聞き、彼女はいやいや、と首を振る。

「ううん、きみすごいよやっぱ、きみのおかげで見つけられたよ」

 たぶん僕がいなければ、そもそもそこへはたどり着けないので見つかられはしなかった、という意味だろう。ほんっと方向音痴がすごいから。でも、それよりも、ピンポイントで売れ残りを疑える彼女の嗅覚のほうがすごいと思う。隠れた才能が発揮されたように感じた。

 まあそれだけ、必死に探していたってことだろうけど。

「執念勝ち、みたいなところあるよね」思った勝因をそのまま言葉にした。

「うん、大事なものは最後まであきらめずにってね」

 陽で染まったオレンジの笑みで同意してくれる。

「僕としてもほんとよかったよ。じゃあ、罰ゲームせずに済む?」

「え、ダメよ、見つけたの私よ?」わざとらしく声に驚きの色を付けて、僕に返してくる。それに「いやあの……さっき僕のおかげって……」と反抗する。

 いつの間にか、僕は彼女に居心地の良さを覚えはじめていた。

 この居心地の良さは、たぶんだけれど、自分と彼女の身のうちから同じような達成感が湧き出ていたからだろう。

 同じ想いになっているだろう。だから、共にいたいって思えるのかも。

『ぴろーぴろろりん』

 そのとき、メロディーが耳に届く。

 着信音のような響きだ。でも、僕の携帯ではない。

「ああ、ちょっとごめんなさい」

 彼女がスーツズボンのポケットから、あのときに見たスマホを取り出す。

 音はそこから広がっていた。彼女は画面も見ないで、そのまま通話に入る。

 少し離れたところで、なにやら親密に話している。僕は無性に誰からの電話なのか気になった。

 電話を終えた彼女に僕が尋ねる。聞いて納得しよう、と。

「えっと……彼氏、とか?」冗談ぽくなるように問いかける。

 その言葉が彼女に届いて、理解され、応えになってこっちに来るまで、体感時間は長かった。人がまわりにこんなにいるのにもかかわらず、まるで自分と彼女のふたりきりになってしまったかのように、あたりからはなにも聞こえなくなっていた。


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