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随行。

 あの路地を抜けだした僕らは駅前の人通りの多い空間にいた。休むためにベンチに腰掛けた僕と、すぐ右隣には彼女がいる。

 だいぶ落ち着いてきた僕は、これまでの彼女の行動を聴いた。

 僕と会えたのは偶然だったらしい。

 新作ゲームがほしくてやってきた秋葉原は、彼女にしてみれば、思ったよりも複雑な街なので迷ってしまったようだ。はじめての場所で土地勘がなくてスマホで売り場を確認して、歩いた先でなぜか路地裏にたどり着く。

 彼女ははじめてそのとき、路地の奥の方に僕も含んだ集団を見つける。

 ちょうどよかったと現在地を訊きたくて連中に少し近づいたところで、もちろん焦燥しきった僕の顔があった。危機感を覚えて状況を察した彼女は、警察に連絡がすぐつくように、スマホの通話のボタンを押さえながら警戒しつつ、あいつらから僕を救いだした。

 最後まで経緯を聴き終えた僕は感心する。

 やっぱり彼女はすごいな。もちろん気弱な僕なんかでは出来ないことだし、他の人でもあの集団相手では見てみぬふりをしていたかもしれない。本当によかった。此処に彼女が来てくれて。

 この救出劇は彼女だからこそだろうな。

 自分の行動を他の外的要因で曲げない芯の強さを再確認できた。見た目が垢抜けたからといって、中身は昔の彼女の印象とずれていなかった。しかし‐‐

 でも、なんだろう。なにか此処に来た理由だけはよくわからなかった。どうしてスマホの地図片手に確認しながらでこんなとこに来たんだ? 

 気になり遠慮がちに聞いてみる。

「あの……ゲーム屋を目指したのに、ここに着いたって?」

「そうだよっ」まるで常識だといわんばかりに彼女が言う。

「えっと……なんで?」ここらにはゲーム屋なんか……。

「わたしがそうだってのは知ってるじゃない、前から」そして最後はふくれ顔になっていた。

 前からだって……? 記憶を引っ張り出すため頭の中を探ろうとして、気づく。

 そう、方向音痴だった。すでに中学の頃から。

 何度も来た僕の家の場所すら覚えるのに、かなりの時間がかかっていたことを思い出す。

 そのときのままの彼女だったら、こうなってしまったのも無理はないような気がする。ろくに地図も見れずに道路を見当違いの方向に歩いてきたのだろう。どうやら、今でも、あのすさまじい方向音痴はあまり治っていないようだった。

 あと、どうして、今僕が怒られているのかについてはよくわからない。たぶんやつあたりなんじゃないだろうか。

 でも今は、そのおどろくほどの方向音痴に深く感謝した。そのおかげで彼女はあそこに現れることができたのだから。

「きみさ、昔のこととか結構忘れてるでしょ?」

 彼女はあきれも隠さず言ってくる。

「まあ、そうかもしれない」

 そうかもしれない、けれど、あきれられるのはちょっと心外だな。方向音痴のことを覚えていなかったのがショックなんだろうか? 

 そんな疑問を持ったこちらを彼女はしばし怪訝そうに見つめ、「うん、決めたわ」となぜか右肩に手を置いてくる。

「あのさ、わたしのほしいゲーム、きみもいっしょに探してほしいんだけど」

「……うん、もちろんいいよ。何か予定があるわけでもないし」

 とにかく僕としては恩人の彼女の何かの役に立ちたかった。もしもなにか予定があったのなら、キャンセルしていただろう。

 申し出に僕が即答すると、よし、と彼女は小さくガッツポーズした。よっぽどひとりでは見つけがたいゲームなのだろうか。

「それで、何のゲームなの? えっと、タイトルとか……」

 尋ねると、彼女はゲームのタイトルを口にした。

「ああ、それなら……」

 それは日本のゲームを代表するほどの有名な「RPG」だった。きまって序盤の敵のほとんどはスライムで、最後の敵がいくつか変身していく「あの」ゲームだ。

 そのゲームの最新シリーズがほしいらしい。

 それはそもそも、秋葉まで来なくても、その辺のショップで買うなり、予約するなりしたほうが確実に手に入るんだけどな。でも、こっち方面に疎そうな彼女はゲームが予約できることすら知らなそうなんだから、しょうがないか。

 理解して僕は約束する。

「わかった。いっしょに探そう。でも見つからなかったらごめんね、たぶんあるとは思うんだけど」

 それまでじっと僕の顔をうかがっていた彼女は、

「不安だなあ。じゃあ、見つかんなかったら罰ゲームね」と、よくわからないこと言い始める。

「ふえ……罰ゲーム?」と僕は当然首をすくめる。「 え……なにされるの。ていうか、いきなりなに?」

 なんで、そのRPGを見つけられなかったら、罪になるんだ? 疑問で頭がいっぱいになった。

「きみを本気にさせるためだよ。手を抜かずに一生懸命になれば、きみなら見つけてくれるはずって信じてるから」

 それにほら、と彼女は付け足す。

「むかし遊んた頃もこんな感じじゃなかった?」

「え、遊んだ頃? そ、そうだったけ?」こんな感じってなんだ?

「そうだよ。罰ゲームしたじゃん。きみだけに罰として……お菓子買いに行かせたり、協力プレイなのにわざと攻撃したり……」

 やや視線を上向きに彼女は、思い出すように顎に人差し指を当て、判例を列挙していく。

「僕だけに罰ゲームって……そんな遊びしたかな……」そもそも遊びっていうのか?

「協力プレイで、きみがダメだったときには無視したりね」

 あのときの僕はそんな罰を受けていたのか。結構愉しい思い出だったような気がしていたんだけど、残酷なことにその思い出は補正されたものだった。

 ていうか、やっぱりおかしい。何でゲームがないと僕が罰を受けるんだよ? 本気にさせるためって、探しても物理的にものが売り切れだとどうしようもないんだけど……。 

 それにそんな昔のことを、今になってどうして取り入れるんだ?

「今回の罰は、そうだなあ、」思いとは裏腹に、同じ姿勢のまま考えてた彼女は口を開いた。

 意地悪そうに細めた目をこっちに向けて、

「じゃあ久々の協力プレイなのだから、見つからなかったら、昔と同じくきみを無視しちゃおう。ゲームじゃなくて、今度は現実で見かけてもね」

 とんでもない罰を口にした。

「いや、その罰だけはだめだから! 僕が死んじゃうから、ほんと!」さらりと怖いことを言ってくる。それは冗談でもタチが悪い。

 一方の彼女はきょとんと眉を上げる。

「なに? 死んじゃうって」

「さっきまでナイフで刺されそうだったんだよ!」

 僕は先ほどのことを思い出してぞっとする。

「あそこで助けられていなかったら死んでたかもっ。また同じ目に逢って無視されたら……」

 懸命に訴えた。僕の場合、まじで再び絡まれないとも限らないから。

「そうだったんだ。うん、じゃあ、絶対にゲーム見つけてよ。助けられた命の恩知らずにはなりたくないでしょ?」

 笑顔になって訊いてくる。

 ……いや、まあ、それはそのとおりだが、もちろん助けてくれたのはありがたいし、たしかに、自分としてもお礼がしたいけど……。

「大丈夫。ゲーム見つけたら、絶対にまた助けてあげる」

 彼女は自信ありげに言ってくる。

「あの、……うん、がんばる」

 僕はうなずいた。罰ゲームは嫌だったけれど……。

 その懐かしく感じる得意げな顔に、なんだか文句をつけられなかった。


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