第十一章 同郷の士
驚愕の中、頭の中に様々な疑問と言葉が飛び交う。
「……え、何で知っているの?」
口から漏れた一言。
それは頭の中の疑問への求めであった。
「いや、まぁ近所でも武境鴉弥って言ったら有名人だったし」
曰く、近所でも有名な道場の娘。
曰く、文武両道の秀才。
曰く、容姿端麗で誰とでも分け隔てなく温厚篤実。
「友達と漫画やゲーム、ネットとかの話ばっかの俺でも耳にするぐらいだったからな」
登下校や休み時間で、自然と耳に入る周囲の噂や話題の頻度も高く自然と覚えてしまう程だった。
「そういえば、ファンクラブのメンバーがウチのクラスにも居たなー」
漫画やアニメでは、よく美男美女へのファンクラブがある。
有名な芸能人ならともかく、一般の一女学生に数十人が熱を上げる姿を見たのは初めてだった。
「……あの人たちか、止めてって言ったのに全く……」
本人は全く嬉しそうではなかったが。
「水面下で活動していたみたいだぞ。ああ、それと通り魔の件はその場に居たから」
簡単には忘れられない光景であった。
「え? ということは……」
「同じように首を掻っ切られて今ここに居るわけです」
まさか目の前で死んだ店員とこうして再開することになるとは考えもしなかったが。
「…………」
突如無言になる彼女。
そして悠兎から二歩、三歩と距離を取った。
「――?」
突然の行動に頭に疑問符を浮かべる悠兎を置いて彼女は動く。
両の羽を体の前に広げ、足を折り畳んで姿勢を低くする。
……あれ? 何か既視感を感じる?
そう悠兎が思うのと同時、彼女は頭を地面に叩きつけるかのように振り下ろした。
「申し訳ありませんでしたー!」
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「身内の不始末、許されることではありませんが、どうか、どうかボクの首で許してください!」
……突然の謝罪って困惑するもんなんだな。
先程の自分の行為が頭に浮かぶ。
謝罪を繰り返す彼女を何とか宥め賺し、事情を聞きだす。
するとぽつぽつと語り始めた。
「……実はあの通り魔は家の道場の関係者で、ボクの兄弟子に当たる人だったんだ」
「あの道場の?」
近所でも自衛隊や警察も、時折習いに来る実戦派として有名な道場だ。
そして鴉弥の実家でもある。
「ナイフ……短刀というより、小太刀術を修めていた人だよ」
「へぇ、じゃあアンタもその小太刀術を?」
「名前で良いよ。コンビニで見た感じは同い年ぐらいでしょ? それと、ボクは槍術だよ。海外のランスやパイクとは違うよ」
同年代の少女からの名前呼びの許可に悠兎は面食らってしまう。
「お、おう。じ、じゃあ俺のことも名前で良いから。それと槍って言われてもピンとこないな」
「うん、解ったよ悠兎。槍って一般人は鉾や薙刀とかと混同しやすいもんね。うーんとね、有名どころで天下三名槍の蜻蛉切みたいな形って言えば解るかな?」
「あ、うん知ってる知ってる。最近ゲームやラノベでよく見るから解る」
近頃放映されたアニメでも蜻蛉切の使い手が居たのを覚えていた。
「ってことは道場と小太刀術と槍術の二つを教えているんだな。道場って複数の武術を教えるもんだっけ?」
「普通は教えない、というより出来ないかな。体の使い方が全く違うから。でも家の道場はちょっと特殊で、トップの最高師範が祖父なんだけれども、超人なんだ」
「超人?」
「言葉の通りね。武器は暗器から長物まで何でも使いこなせる上に、最近は無手で他流派の剣術師範を叩き潰してたね」
「えっなにそれこわい」
それは本当に人間なのだろうか。
「だから家では何でも教えているんだ。っと、話が逸れちゃったね。とにかく兄弟子は免許皆伝も許された師範だったんだ……」
語る彼女の瞳は昔を映していた。
「小さい頃から面倒を見て貰った気さくで良い人だったんだよ。小太刀術を習ったのも自分を鍛える為だって言ってた。でも、ある日突然人が変わったように、対人の技を重点的に鍛え始めるようになったんだ」
「原因とか思いつかないのか?」
あの狂気の瞳は尋常ではなかった。
あれは人がして良い目ではない。
「自分でも馬鹿げていると思うけれども、一つだけ。実はおかしくなる前、家に小包が届いたんだ」
「小包ってことは中に何か?」
「ボクと悠兎を殺したあのナイフだよ」
「あのサバイバルナイフか。でも何でそんな物が?」
道場とはいえ一般家庭にそんなものを送りつけるのは異常ではないか。
「祖父の繋がりで色んな鍛冶師からたまに来るんだ。試作品や性能テストってことでね。いつもは本人や使いの人が持ってくるから変だと思ったんだけどね。その関連だと思っていたんだ」
「でも違ったのか」
「うん。祖父がそれを見たら途端に険しい顔をしてね。空の桐箱に入れて道場とは別の祖父が管理する蔵に保管したんだ。兄弟子がおかしくなり始めたのもそれから。そして――」
半ば確信に満ちた言葉だ。
「通り魔の最初の被害が出た日から兄弟子とナイフが行方不明になったんだ。祖父が蔵を確認した時、一緒に居たんだけれど、蔵の門が切り裂かれていたよ。……内側から綺麗な切り口でね」
「それは……」
「祖父は何も言わなかったけれど、あのナイフは妖刀や魔剣の一種なんじゃないかって思うんだ。そうじゃなかったらあの人があんなこと……」
どこか願うような声に悠兎は思い返す。
最期の意識を失う直前。
あの男はナイフに話しかけていなかったか?
「でも、原因が解った所で今は異世界で獣だしなー」
「うっそれは」
「ああ、いや謝らなくて良いから。そっちは俺より先に殺された被害者だろ? 許せないとは思うけれど、結果夢にまでみたファンタジー世界に来たわけだし。自分でもまだ整理できてない感じだから何とも言えないけどな」
夢ではあったが、今は獣の体でおまけに珍獣を狙っている人間も居るらしい状況。
嬉しくもあるが、理不尽への怒りもある。
「まず現状をなんとかしようぜ。――呼んでないお客さんも来たみたいだしな」
漂ってくる薬品の匂い、そして耳に届く厄介な独り言。
「今日も来たんだ。毎日毎日飽きないな全くもう」
うんざりした様子の鴉弥。
耳に届く独り言を聞けば気持ちは解る。
金のために狙われる動物の気持ちはこんな感じか。密猟ダメ。ゼッタイ。
「とりあえず、気付かれないよう迂回して……ってオイオイオイオイマジかよ!?」
厄介なことになった。
「どうしたの?」
「今すぐ此処から離れるぞ! 着いて来い!」
鴉弥を狙う狩人の反対方向に向かって駆ける。
彼女も悠兎の後ろに付くように翔け出す。
それに合わせて迫る足音が早まった。
「貴族から何かしらの魔法の道具を借りたらしい。捕捉されてる!」
本日2度目の命がけの鬼ごっこが始まった。




