第118話 芽吹いた桜、蛹を破った黒い蝶
4月中旬。
桜も満開に咲き誇り、新たな門出と新たな出会いを迎え入れる時期が訪れた。
今日はIGD学園卒業式&入学式。
今までの戦いの影響で卒業式は延期に延期を重ね、入学式と同時に行われるようになった。
「では卒業式及び入学式を行います。全校生徒、起立!」
司会進行役の生徒がマイクを握り、卒業式を進行していく。
IGD学園避難区画だったこの場所には卒業生の姿をみる新入生たちや、学年が上がった生徒たち、そして来賓の方々や生徒たちの保護者など様々な人が集まっており、その中には…。
椿と青葉もIGD学園の制服を着て、新二年生の席と新一年生の席に座っていた。
あの戦いが終わり、椿と青葉は萎羅と枯葉との縁を完全にぶった切り、今はIGD学園の寮で二人で暮らしている。
春斗が助けてきた子供たちと同じように彼女たちも被害者なのだ。
「何というか…椿がIGD学園の制服を着ているのが新鮮に見えるな…」
「そうかもしれませんね…私も制服を着たのも初めてですから…」
声を抑え、椿と会話する葵。
「とてもお似合いですわ…!」
「ありがとうございます…」
「…結局春斗はまだ来ないのでしょうか」
桐生椿の左の席を見る。
そこの席は空席となっていて誰も座っていない。
本来、その席は『九条春斗』の席なのだが、当の本人がまだ来ていない。
そもそも意識が戻ってきているのかどうかすら分からない。
「…帰ってくると信じよう」
「うん…きっと帰ってくるよ」
「…そうですね」
彼の事だ。
どうせしれっと帰ってくると信じている。
そう思う専用機持ちたち。それは教員たちや新しい学園になった生徒たちも同じ意見だった。
「では生徒会長のお話です。生徒会長桐ケ谷雪華さん、おねがいします」
「はい」
壇上に上がる雪華。
いつもつかみどころもない彼女は今日は流石にまじめだった。
「皆さんこんにちは、生徒会長の雪華です」
いつもの挨拶と卒業生に対する感謝の言葉や新入生を歓迎するような事を話し始める。
(お姉ちゃん…普段からもう少し真面目に…)
と若干心の中で不満を言っていたのは水津。
いつも妹である水津を場所問わずでかわいがる。しかも最近までずっと戦っていたので雪華から水津へのスキンシップの頻度はかなり上がっていた。
「…以上となります」
そんな雪華を見て居た来賓の中に一人…邪な考えをしている者がいた。
(吾郷は…死んだんだろうな…!?)
吾郷技研に嫉妬した別の技研の者。
入学式だろうが、卒業式だろうが関係なしに感情に身を任せて吾郷を殺すための兵器を送った。
(あとあの横にいたサングラスをかけたスーツの奴は一体何なんだ…?)
先程の状況を思い出す。
吾郷が来るところで待ち構えて兵器の説明をした後、起動させ攻撃を命じた。
(心配することではないか。ふふっ…これで我々足立技研の名が売れる…!)
「ご卒業、おめでとうございま」
と雪華が言い切ろうとした。
次の瞬間。
――バァン!!
「!」
集められた会場の扉が勢いよく開かれた。
そこには。
「いやぁ…ごめん、遅れちゃった」
額に少し汗を流し、申し訳なさそうに苦笑いしている吾郷技研の木手吾郷がそこにいた。
「すまん、少しマイクを借りる…おい吾郷、卒業式中だ」
「ご、ごめん…ちょっと色々あってね」
司会進行の生徒のマイクを借りて、御影が吾郷に対して注意する。
「色々だと?」
「…えっと、この場にいると思うけどさ。吾郷技研に嫉妬したのか何なのかわからないけど、自社の機械を使って私を殺そうとするのは流石に無粋じゃない?卒業式と入学式中だよ?」
「何?」
吾郷の言い放った事に反応し、会場が少しざわつく。
「しかもその機械を『世界最強の兵器』って自負してたけど…まさか、『居る』時に言うなんてすごいよ、尊敬しちゃう」
「?」
吾郷の言っていることに含みがあるということに気が付く御影。
「吾郷、さっきから何を…」
「ん?あぁ、足立技研…だっけ?本当に最悪なタイミングだったと思うよ。まさか自称世界最強の前にさ」
――英雄が居たんだからね。
と吾郷が言った瞬間。鉄の塊が吾郷の横を避けて飛んでいき、会場の壁に叩きつけられた。
「行けるかい?」
「――言われるまでもないです」
そうして吾郷の横からサングラスをかけ、スーツを着た男が現れた。
「…え?」
「世界最強…世界最強ねぇ?」
不敵な笑いをしながらスーツを着た男はサングラスを少しずらす。
隙間から男の顔は…双眸は黒く、左目は義眼で無謀で愚かで優しそうなことをしてきたような顔をしていた。
「自社の機械を紹介するために卒業式と入学式がある日にやるか?」
「うんうん、私も同じ意見。じゃあ…『九条君』やってくれる?」
「御意」
吾郷がその名を呼んだ瞬間、男はサングラスを外す。
外したサングラスを胸ポケットにしまい、ぶっ飛ばした鉄の塊を睨む。
「世界最強を証明したいなら、目の前にいる化け物くらい倒して見せろ」
不敵な笑顔は完全に真顔に切り替わり、両目から黄色い閃光が靡き始める。
その表情をみて鉄の塊…いやマシンは立ち上がり日本刀のようなブレードを構える。
「久々の戦いだ!手加減は…しねぇぞ!!」
左手に付けられた手袋を脱ぎ捨て、マシンに向かって地面を蹴り上げ接近する。
ゼロ距離まで接近した瞬間、右足のハイキック。
腕で防がれしまうが、上半身を捻りそのまま左足のかかと落としに派生する。
マシンの後頭部をとらえ、顔面を地面に叩き落とす。
「!!」
結晶化した左手でマシンの首を掴み、そのまま地面を引きずりながら壁にたたきつける。
せめてもの抵抗でブレードを春斗に振るが。
――ガッ!
「甘いな」
振ったブレードは左腕のスーツを少し切り裂いたが、結晶化した腕に綺麗に止められた。
「これで世界最強?聞いて…呆れるなッ!!」
受け止めたブレードを上に弾き、顔面を掴み膝蹴り。
体勢が崩れたと同時に背負い投げ。
すぐさまマシンは体勢を整え、春斗を見る。
「おぉ、どうやら…さっきまでの機械の大群たちに比べてもお前だけは別格だな」
少しニヤッと笑う春斗。
「吾郷さん」
「何かな?」
「AG…は流石に使えないので対AG用の刀を使っても?」
「うーん…本当は九条君の実力を見たかったけど本来は刀だもんね。いいよ、それと…」
「???」
「この場にいる全員に分からせてあげて、英雄は帰ってきたってことを」
「…英雄じゃありませんが」
春斗は英雄という点を否定し、右手を前に出す。
すると、何処からともなく飛んできた対AG用高周波刀『神去』が春斗の右手に収められる。
その鞘を左手で握り、柄に右手を添えて…赤い刀身を抜刀する。
「思えば…卒業式中だったな。さっさと終わらせて邪魔者と一緒に退散、とさせてもらおう」
刀を右手で握りしめ、双眸を黄色く染めた英雄は一歩一歩とマシンの方へと近づいていく。
…マシンが一瞬たじろぐが、直ぐに春斗に向かって走り出しブレードを振り下ろす。
しかし。
――キィィィィィンッ…!!
「…甘いって言ってんだよ」
振り下ろされることもなく、ブレードを握りしめていた手だけではなく腕諸共赤い刀身が切り裂いた。
「!!」
乖離した腕にマシンが反応するより先に次の異常が起きた。
上半身と下半身の反応がないことに。
やがてそれがなぜなのか理解する。
マシンの視界が真っ逆さまになり、地面にごとッと落ちた。
その一瞬で映った自身の身体。上半身と下半身が切り離され、首も一緒に切られてしまった。
「…ふぅ」
マシンのオイルが付いてしまった神去を血払いし、静かに納刀。
そして。
「テメェか…?」
「ひっ!?」
真顔のまま、右に視線をずらす。
そこには足立技研の責任者及びマシンを起動した本人が座っていた。
「吾郷さん、どうしますか?」
「うん、とりあえず捕まえて春斗君はさっさとここから撤退しよう」
「…何故俺だけ?」
「いや、君…忘れてない?」
「?」
「君は…今日、帰ってきたんだよ?卒業生や入学生の主役を奪ってどうするの?」
「いや…IGD学園に生存確認の書類を吾郷さんが送ったはずですよね」
「…」
「…」
体育館内が静寂に訪れる。
その静寂を破ったのは…。
「九条」
御影先生だった。
「御影先生お久しぶりです。あ、生存確認の書類は吾郷さんが」
「来てないぞ」
「…え?」
「悪いが…九条がここでマシンと戦うまで生死不明と判断されていた。それはこの場にいる小娘たちも同じ気持ちだ」
「…つまり?」
「吾郷は生存確認の書類をIGD学園に送っていないという事だ。何ならメッセージ等の報告も受け取っていない」
「…」
再び訪れる静寂。
その一瞬で春斗は足立技研の責任者を気絶させ、右腕で担ぐ。
「御影先生」
「なんだ」
「吾郷さんとお話したいので少々お借りしても?」
「あぁ、構わん。遠慮なく話して来い」
「ちょお!?御影ぇ!!」
「忘れたお前が悪い」
「では…吾郷さん、ちょっとお話ししましょうか」
春斗は笑いながら吾郷に一歩一歩と近づいていく。
だがその目には明らかに光が灯っていない。しかも、額には青筋が浮かんでいる。
「ごめん!!」
今の春斗に恐怖したのか謝りながら吾郷は外に逃げようとするが。
「逃がさん」
春斗の左腕から飛び出した鎖が一瞬のうちに吾郷に巻き付き、拘束される。
「…く、九条君」
「何でしょうか」
「黎蝶…だよね?使い方が上手くなったとおもうよ」
「それはどうも」
「だ、だからさ?今回は見逃して…?」
「…」
スン…と笑顔が消え、目のハイライトがない視線を吾郷に送る。
「はい…すみませんでした…でも忘れてたわけじゃなくて」
「…」
「そのね?九条君の白夜と戦闘スタイルとかが気になってさ。研究に研究を重ねてたら時間が過ぎてて…さ?」
と目が泳ぎまくり、冷や汗だらだらの吾郷を見て春斗の行動は
「御影先生、ジャッチを」
御影先生に判決をお願いすることにした。
御影の神聖な判断の元、判決は。
「極刑」
ギルティだった。
「御意」
「御影ぇぇぇぇぇぇ!!!!」
それが…吾郷の最後の言葉だった。
春斗は吾郷技研の責任者と足立技研の責任者を背負って会場から飛び出し、何処かへ行った。
「はぁ…こんな状態で再開しろというのかアイツは…」
嵐のように一瞬で暴れ、一瞬で過ぎ去った状況にため息をつき、考え込む御影。
「とにかく、卒業式と入学式を再開。私は九条の方に話を付けてくる」
と言い残しマイクを司会進行の生徒に預け、御影は春斗と吾郷の後を追うべく会場から出て行った。
そんな状況をみて司会進行の生徒はこう思った。
(御影先生…!このまま私に渡されても再開しずらいです…!!)
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




