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第十九話:カノーの町の戦い(一)

この第二章の最終決戦です。分量の関係で前編です。

 <カノー>の町に白の軍団が押し寄せた。


 敵の数はおよそ五千。


 それに対して兵站や各町・各要所の維持を考えると、どうしても俺は千五百しか集めることが出来なかった。緒戦の敗北が手痛く、また残りの白の軍団に警戒するとこの数が限界だった。


「領土が広すぎる弱点が出たな……信仰心の維持を考えるとどの町も見捨てるわけにはいかないし、自由に動かせる兵力はこれで精いっぱいだ。広い領土は部隊瞬間移動や魔法ジャミングとの相性が悪すぎるぜ……」


 アリアたちが押し寄せる<カノー>の町のすぐ近くに、俺とシズキ教僧兵たちは身を隠していた。


 アリアの檄の後すぐに、何らかのリア教の儀式を執り行ったのだろう。

 急激に濃度を増す魔法ジャミングの霧によって、<ツバメ>からの連絡は途絶え、アリアたちの攻め寄せるタイミングや別働隊の動きは読めなかった。それが無ければ各地の戦力を一気に抽出して大戦力で叩き潰していたんだけれどな。


「足りない兵は軍略で補うとしよう。リア教お得意の軍略、だが奴らの専売特許ってわけじゃあない」


 早めに待ち構えていた甲斐あって、アリアたちの動きは手に取るようにわかった。


 ここ<カノー>の町を決戦場に選んだ理由は幾つかある。


 まず一つ目は、俺がいる小高い丘に陣を張れば、岩陰からかなりの範囲を見渡すことが出来るという点。今述べたように、気づかれずにアリアの動向を探ることが出来る。情報戦と言う観点で圧勝できる。


 二つ目は、大きな岩や丘が広く点在しており、アリアの力攻めが緩和できるという点。完全な平地であのバカげた腕力とぶつかり合うのは正気の沙汰ではない。もうぶっちゃけ防壁に籠りたいくらいだが、あのアマは巨大建造物をぶっこわすくらいだから籠っても油断できない。


 三つ目は、すぐそばに崖が切り立っているおかげで強い風が常時吹き、あの霧を少しは晴らしてくれるという点。あの霧に引っかかると俺の<意志の力>が全てキャンセルアウトされてしまう。長くは持たないだろうけれど、少しでも霧は薄い方がいい。


 四つ目は、天然の崖を利用しているため町の縄張りが他よりもずっと強固だという点。町の右手には崖がせりあがっており、あれならば流石にアリアの腕力でも崩せるものではない。それに彼女らが攻め入る方向も限定できる。そして予想通り、アリアは俺の眼前へと兵を進めてくれた。


 そんな感じで用意したこちらの有利にアリアは気づかず、父の遺志だと勘違いして<カノー>に押し寄せている。


「やはり娘の方はちょっと脳筋っぽいな……さあ、アリア決着を付けよう」


 俺はアリアの到着を確認し、速やかに幾つかの下知を飛ばして陣を躍動させた。


――


 <カノー>に立てこもる防衛部隊五百人がアリアと白の軍団を押し返している。


 兵力比にして十倍に相当するが、天然の要害である<カノー>はなかなか崩れない。アリアもしばらくの間は前衛部隊の攻撃に任せていたが、防壁や崖の上から落とされる巨岩に苦戦している。


 生半可な攻めでは打ち破れないと判断したのだろう、アリアが陣頭に立ち町の防壁を殴り始めた。強大な魔力でブーストされた腕力が、岩で出来た防壁をガリガリと削っていく。……えぇ素手で削岩してるよ……こいつはオーガか何か?


「引くわあ……せっかく<意志の力>で補強しているのに、あれマジで一時間持たないんじゃね?」

「シユタ様。直属部隊の五百人、攻撃準備整っております」

「よろしい、では敵集団の最後尾目がけて突撃する。襲い掛かるまで声は上げるな。全員私に続け」


 アリアの桁違いの魔力容量にドン引きながら、俺は直接率いている配下の五百を機動させる。間合いを見計らって突撃方向を定め、敵部隊後方へ襲い掛かった。


「白の軍団は五千人もいるんだ! 厄介な敵大将アリアはその先頭に居る! この真後ろからならアリアの槍は届かない、今のうちに存分に殺せ!」


 俺は配下に檄を飛ばしながら<鷹の剣>を振るい、<意志の力>を発動する。完全に攻城戦モードだった白の軍団は、突然後方から襲い掛かってきた俺たちに対応できない。


 <鷹の剣>で増強されたクイックネスと技量を活かし、踊るように脚を捌きながら「パシパシパシッ」と一息で三人の頸動脈を切り飛ばす。

 発動した<意志の力>は<カワセミ>の大群を生み出し、敵軍を蹂躙し始めた。青と翠のきらめきが一陣通り過ぎるごとに、五十人単位で敵兵が崩れ落ちる。


 虚をつかれた白の軍団は満足に応戦できず、こちらの数を把握する間もなく後ずさりした。まずはここでこちらの実力を見せつけるのが肝心だ。鋭く、とにかく鋭く敵を切り裂く。百人は倒しただろうか。これで千五百対四千九百……まだまだ絶望的な戦力差だ。


 士気維持のためにも、その戦力分析を部下に察せられるわけにはいかない。とにかく表情を整えて、俺が目の前の敵を叩き潰していると、――


「シユタ! 今日こそ決着をつける!」


 ゴガン!


と爆音がなったかと思えば、俺の右肩にアリアの槍が直撃していた。


 おいおいおい、お前は最前線にいたはずだろ。なんでいきなりここに来るんだ……。瞬間移動魔法なんかじゃない単純な筋力、脚力で五千人をひとっ跳びしたアリアは、一気に俺の目の前へと飛び込んできたのだ。


 存分に奴の配下を嬲り殺してアリアを俺に引き付けるのが初手の目的だったが、あまりの急襲に思わず涙と小便がうずく。


 何とか俺の最上級防具<墨の衣>は瞬時に障壁を展開し一撃を防ぐが、何度も連打されると危うい。


「このっ、馬鹿力! ゴリラ女が!」

「はっ、遅い!」


 俺の剣筋を完全に見切ったアリアは、剣を弾くついでに槍を滑らせ攻撃に転じる。アリアの槍は一刺し一刺しが速く、鋭く、こちらが攻めかける隙が無い。まことに遺憾ながら、近接戦闘だとあっちが圧倒的に有利か。


 たまらず俺は”合図”の信号魔法を打ち上げ、<カノー>の町へタイミングを知らせた。


 町に向かって右手から大きな鬨の声が上がり、そして<カノー>の町から別働隊四百人が飛び出した。


 合計すれば少なくとも一万人、もしかしたら二万人は居るんじゃないかというくらいの大歓声。声だけじゃなく太鼓や鉦の音も大音量で鳴り響く。戦を多くこなしてきた白の軍団たちは、即座に自分たちが少数派だという事を思い知る。


 正面に堅牢な防壁、後方に手強い<救世主>シユタ、そして右手には一万ないし二万の軍勢。アリアは俺との鍔迫り合いに夢中になっているが、配下たちには大きな動揺が広がっている。


 アリアの副官二人(――そのうち一人はゼタと言ったか。この戦いで知ったがもう一人はロナと言うらしい)が必死に兵の動揺を抑えている。まだアリアがシユタを倒してしまえば、勝負は分からないと言って回っている。


 だが、俺の背後から<オロチ>が「ぞろり」と現れ、最後の逃げ道の左方向を塞ごうとすると白の軍団は恐慌状態に陥った。


 恐怖で我を忘れた彼らは、一人また一人と槍を落として左方へ逃げ始める。<オロチ>が道をふさぐ前に。どんなにアリアが強力な戦乙女でも、二万と<オロチ>に囲まれてしまったら自分たちは助からない。


 それでも逃げ出す人数は想定よりもずっと少ない。なるほど、リア教の信仰心もそこそこ育っているらしいな。


「ロナ、最前線の兵たちを纏めて! 町から別働隊が出てきている! 迎撃しなければ背中を良いように叩かれてしまうぞ! 私は逃散する兵の動揺を抑える!」

「分かった、ゼタ。だが、あの水の化け物はどうする?!」

「くっ……アリア様、アリア様! あの大蛇を押さえてください! あの存在力への対処はアリア様の破魔のお力でしか無理です!」


 後方からの<救世主>シユタの奇襲に加え、二万規模と思われる伏兵、町を出撃した別働隊、逃げ道をふさぎかける<オロチ>。ため込んでた策略を出し惜しみせず一気に注ぎ込む。


 一つ一つの事柄なら冷静に対処されたかもしれない。だが、それはターン制のシミュレーションゲームでの話だ。戦場ならば当然、積み上げた軍略は一呼吸で開放する。


 副官の必死な言葉で我に返ったアリアは<オロチ>を潰そうとするが、もう少しだけここに留めおく必要がある。もう少しこの五千人の逃散を促さなければ、この戦に勝てないのでな。


 それにしてもこの副官たちは結構気が回るらしい。事態の急展にやや混乱し始めているアリアを、丁寧にサポートしている様子だ。


 どうにも邪魔なので<ハト>を一羽ずつぶつけて気絶させておこう。


「うーん優秀な副官だ。でも、アリアと違って君たち個人は別に強くないからね。ほいっと」

「ぐっ……!」

「がはっ……! ありあさま、おにげくだ――……」


 ぽっぽーと戦場に似つかわしくない平和の象徴を、二人の副官ゼタとロナに直撃させる。


「ゼタ! ロナ! ……くっシユタ、貴様ぁ!」

「安心しなよ。二人とも結構美人だったし、殺していないから」

「何を……? 何を言っているんだ貴様は!」

「あとで教えてやるよ」


 二人がもんどり打って倒れたところを、<ハト>がその種に似つかわしくない運搬力でどこかに運んで行ってしまう。


 二人の指揮官を一瞬で失い、隊長であるアリア本人も俺の挑発で足止めされている。しかも多数の敵と防壁に四方があっというまに包囲されかけた白の軍団は、本格的に逃散を始めた。


 <オロチ>を敢えてゆっくり行動させることで逃げ道を一つだけ残す。もちろん、四方を包囲し切って必死の抵抗をされないように、だ。その左方の逃げ道に、リア教への信仰心が低い順に我先にと敵兵が殺到し始めた。


「指揮が無くなったぞ?! いきなり囲まれて、俺達はどう戦えばいいんだ!」

「も、もう駄目だ! 逃げ道はあっちしかない!」

「左だ、左に向かおう!」


 実は右の方に向かえば、女子供老人も混じった民間人しかいないから簡単に逃げられるんだけどね。彼らは崖の上で大声を上げているだけ、危険が迫れば自分から逃げ出す張り子の虎だ。打楽器や鉦については数を揃えるのにひと手間かけたが。


 そんなことはつゆとも知らず、白の軍団は一番危険じゃなさそうな左方向へと逃げ出す。


 ……そこには追撃の五百がいるとも知らずに。十字砲火の要領で弓陣を構え、小高い丘の上から恐慌状態の白の軍団を次々打ち倒していく。逃げたした五割ほどは何の抵抗も出来ずに倒れていく。


 そして、ついに白の軍団の数は二千を切った。当初の半数以下。踏みとどまっているという事は全員、リア教にとって信仰心が高い者、つまりかけがえのない人材たちである。


 そういう上澄みの人材が、丁寧にチリトリで集めたように残ってくれるのを待っていたのさ。


「撃て、<オロチ>!」


 そのチリトリで集めた一塊を<オロチ>の全力ブレスが直撃した。


 自身を慕う配下たちが細切れに粉砕されたのを見て、アリアの美しい瞳に涙が溜まり始めた。

普段と少し趣が違う集団戦ですが、分かりにくい所があれば教えてもらうと助かります。

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