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スカウト・ウィッチーズ SCOUT WITCHES  作者: 阿月 結希


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5/10

SCOUT.5 おんぼろビルから出直しのようです……

 「――一つ、お尋ねしても?」


 「言いたいことは予想着くが……ドウゾ」


 飯島《いいじま》 風理《ふうり》と葛鳥《くずどり》 信吾《しんご》。


 二人は小汚い路地をいくつか抜け、閑散とした通りに並んで立っている。


 その視線は、目の前の建物を見上げていた。


 「お化け屋敷も経営されてるんですか?」


 「ん? してないけど?」


 「じゃあ、どうして私をこんなところへ……?」


 黒ずみ、所々の窓が割れた三階建てのビル。


 窓際に立てかけられたマネキンの首と目が合う。


 サッ、と風理は反射的に目を逸らし、信吾を睨むように見上げる。


 「どうして、て……。ここが“こぼプロ”だからな」


 こぼれ星プロダクション。


 信吾が、半ば無理やり風理を働かせようと、連れてきた場所。


 「――帰ります」


 「ちょ、ちょちょ! 待ってくれって」


 「離してください! 私はこんなところに入ることはできません!」


 「話! 話だけでも!」


 「オフィスすらまともに持ってないプロダクションなんて、聞いたことありませんよ、この嘘つき!」


 「う、嘘つきって――」


 自分より遥かに小柄な風理に引き摺られながら、信吾はそれでも彼女の手に縋る。


 「なんだいなんだい。随分と威勢のいい声がきこえるじゃあ、ないか」


 声がした。


 ボロボロの廃ビルのような建物から、気だるげな女性の声が。


 「あっ、社長~! 聞いてくださいよ! この子がぁ」


 現れたのは、四十歳ほどの痩身の女性。


 髪の毛は肩よりも少し長い程度で下ろされているが、手入れされていないのかボサボサの印象。


 シンプルな赤のワンピースを身に着け、ワンポイントのネックレスが青く光る。


 「――社長さん?」


 「なんだい。落ちぶれた水商売人にでも見えるかい?」


 「い、いえ。決して――」


 風理は、社長と称された女性の、謎の威圧感に気圧される。


 「葛鳥ぃ。あんた、こんなところで若い……わけじゃないが、女をナンパたぁいい度胸だな」


 「ち、違いますよ社長! スカウト! この子は僕がスカウトしてきたんです!」


 ムッとする風理から手を放し、大仰に両手を突き出しながら、信吾は弁明する。


 「スカウトだぁ?」


 女性は、鋭い目つきで風理を頭の先から舐めるように観察する。


 「ふん。プリン、か」


 「私のこと、知ってるんですか!?」


 予想外の言葉に、思わず風理は反応してしまう。


 目を丸くする風理を尻目に、女性は咥えた煙草に火をつけた。


 紫煙を燻らせながら、どことも言わず視線を流している。


 「知ってるさ、当然。文字通り、一世を風靡した魔法少女様だ」


 自分には不釣り合いと思えるほど大それた形容に、風理はこそばゆくなる。


 「そして――」


 女性が吐き出した煙は、空を漂い、消えていく。


 「――年取って、追い出されて、今はその日暮らしのプー太郎、だろ?」


 グシャ、と胸が押しつぶされる感覚を風理は覚える。


 風理の右手が小刻みに震えた。


 俯いた顔を上げることができない。


 なぜ、この女性がそこまで知っているのかを考える余裕がない。


 それはあまりに……、信吾が擁護する声も、耳に入るが脳に届かない。


 ――それは、悔しさであり、惨めさ。


 「あんた。本当にこのままでいいのかい?」


 そんな風理の心に、なぜか女性の声だけは突き刺さった。


 風理は、赤く腫れた目を女性に向ける。


 「本当に、あんたは終わっちまうのかい?」


 「私が……終わる……」


 女性は、風理と目を合わせ小さく頷いた。


 「人間。走り続けな置いてかれ、皆から忘れられる。そうして、文字通り“人知れず”終わっていくもんさ」


 女性は、吸い終わった煙草を携帯灰皿へ押し込む。


 「変わるなら、今、じゃないかい?」


 女性は語気を強く、真っすぐな眼差しで風理を射抜く。


 「また走りだそうってんなら、この伏魔殿に飛び込みな。……終わっちまうのも止めはしないけどね」


 女性はそう言って、自分が伏魔殿と称したビルへと戻っていった。


 信吾が、チラリと風理を一瞥し、その後に続く。


 (私は、変わろうとしていただろうか……)


 風理の心に去来するのは、大手プロダクションをクビになってから、ここまでの生活。


 ――自分の名声が落ちていくのを悲観するだけ。


 ――過去の実績頼みで、「不採用」の山を積むだけ。


 (前向きに保ってたつもりのマインドも、前を向いて止まっていただけ――?)


 スクッと、風理は顔を上げる。


 小さなビルの屋上付近に薄ぼやけた看板が目に入った。


 こぼれ星プロダクション。


 ――いいじゃないか。こぼれ星。


 ――今の自分に、行く当てなんてない。


 ――ここから、自分のセカンドキャリアで成り上がってやろうじゃないか!


 風理は伏魔殿へ、続く階段の一段目に足をかけ、駆けあがった。


 軋む階段も、剥がれた壁紙も、明滅する蛍光灯も気にならない。


 風理は、振り向かない。


 あっという間に三階まで駆け上がると、唯一明かりが灯る部屋を見つけた。


 髪の毛を耳に掛けながら、風理は乱れた呼吸を整える。

 

 (ここからだ……。ここから……)

 

 「――よし!」


 ドアノブに、手を掛ける。


 「失礼します!」


 勢いよく開いたドアの先。


 正面の椅子に座る女性は、野心的な目で風理を見つめた――。

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― 新着の感想 ―
ここまでかー!! 非常に続きが気になります。座して待ちますので、ぜひ続きの方も頑張って投稿お願いします。 陰ながら創作活動応援させてもらいますね。
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