25.オパールに変わる頃には(終幕)
日が沈んだ後の学校はいつもと違う雰囲気が漂っていて別の世界みたいだった。
帰る人たちとすれ違いながら、私だけが学校へと向かって歩く違和感も少し楽しんでいた。
上履きに履き替え、体育館へと足を運ぶ。
後夜祭はミスコンが丁度終わった頃合いで、これからベストカップルが始まろうとしていた。
生徒たちが壇上を見上げているので、その背中の間を縫うようにして進んでいく。
恵たちに会えれば合流したい気持ちもあるけれど、学校を休んでいる以上は接点を増やさない方がいい気もした。
壇上では数組のカップルたちが綺麗なドレスとタキシードで歩いている。
晴れやかな笑顔。
緊張した表情。
どれも、この日の思い出として、
鮮やかに残っていくのだろう。
「それでは4組目です!若竹さん、石引君です!どうぞー!」
快活で聞き取りやすい司会者の紹介が響く。
あの壇上にいる人たちよりも私の方が緊張しているんじゃないかと思うくらいには、鼓動が強く早く私の胸を打ち始めた。
壇上の裾から白のドレスが現れる。
会場から明るい歓声が沸き始め、視線を一斉に集まる。
そこにはウェディングドレスと見紛うほどに綺麗なドレスを身にまとった、この世の誰よりも輝いている莉子の姿があった。
頭にはティアラのようなものを被り、ドレスは白く、スカートはウェディングドレスにしては短く広がりも抑えめだが、莉子の明るく優しいそんな性格をより際立たせてくれるような装いだ。
壇上を歩く二人の姿はバージンロードを歩いている姿を想起させる。
莉子の髪に留められたオパールのバレッタが私の目を引いた。
白のドレスに良く似合っている。
「綺麗…」
自然と言葉が零れ、視界が滲む。
指先で、胸元のネックレスに触れた。
莉子がきょろきょろと不自然なくらいに視線を巡らせている
そして、私の方へ顔を向けた瞬間
ぱっと、花が開くみたいに笑って、大きく手を振ってきた。
私が大好きな莉子の、月下美人が突然咲き誇ったような可憐な笑顔。
私は思わず少しだけ笑って、小さく手を振り返した。
これは先生たちにバレたかもなと思ったけど、そんなこと気にならないくらい幸せな気持ちに満たされていて最高の時間だった。
ありがとう莉子
私を見つけてくれて。
これからも莉子とは親友として居続けよう。
もしかしたらいつか、この気持ちを話せるようになる日が来るのかもしれない。
けれど、期待もしてはないし、できればこの気持ちはずっと知られないままでいたいと思う。
ふと、アクセサリーを買ったお店の人の言葉を思い出した。
『そうですね。生きているうちでは想像できないですが、食事に使った指もマラソンで走った足も、500万年後の遠い未来では、生前どんな動物だったかなんて関係なく綺麗な宝石に生まれ変わっているかもしれないなんて素敵な話ですよね』
今はまだこの恋は、水たまりに浮かぶ油みたいな汚れて見える虹色かもしれない。
歪で、濁っていて、綺麗とは言えない光。
それでも。
いつかずっと遠い未来、それこそ500万年後くらいには、この恋も感情も、罪も後悔も涙だって、すべてがひとつの宝石として遊色効果で綺麗に輝いているのかもしれない。
来るはずがない未来とか、捨てられない心に、私が目を奪われてしまう物語は、
いつか私を美しく飾ってくれるアクセサリーに変わっていて欲しい。
手の中で静かに煌めくオパールに視線を落としてそう思うのだった。
「500万年を経て、貝殻も植物も動物だってオパールに変わることがある」
そんな素敵な話を聞いて、書きたくなりました。
人の気持ちも、涙も、物語も、500万年後くらいには綺麗な宝石になっているんでしょうかね




