22.壊れないもの
「とりあえず、風邪ひいたら困るから服は着替えて、親に連絡をいれたらいいよ。そしたら聞かせて欲しい。どうしてこんなことをしたのか」
「……ん」
涙が止まり、冷静になった私は着替えを済ませて石引君のいるリビングへと足を運んだ。
こうなった以上は話すほかないだろうと思うし、話せなかった今までをこの人にだけはぶつけてしまおうと思った。
もしそれで莉子にバレて関係が悪くなってもそれは私の責任だし、むしろそうなってしまった方がかえっていいのかもしれないとも。
「おまたせ…ごめんね服、ありがと」
「いいよ気にしないで、それでどうしてあんなこと」
声色に怒気はなく、本当に心配そうにしてくれている。
あんなことをしたのに何もなかったみたいに掛けてくれる気遣いが、少し面映ゆくて感情をくすぐられるような気がしてしまう。
吹っ切れてしまったせいか笑みまで零れてしまっていた。
「ははっ…!私ね、莉子のことが好きなの。友達としてじゃない。恋愛感情として莉子が好き」
笑っているのはこの空間で私だけだった。雨音と私の笑い声が部屋に響く。
石引君は目の前の机に視線を落としていた。
「おかしいでしょ。女が女を好きになるなんてさ。気持ち悪がられて当然みたいな」
「そんなことない。そんなことはないよ…。ごめん、気付かなくて…。今まで莉子との話されて辛い思いさせてたこともあったかもな…」
石引君は一つも笑うことなく、申し訳なさそうに受け止めているようだった。
「大丈夫、私も莉子には幸せになってもらいたいし、石引君はきっとできる人だって思ったから。これからもいろいろ話は聞かせてほしいんだ」
言葉を少し区切る。
涙がこぼれだしそうになるのを我慢して、飲み込んだ。
「私はそばにいられなくなっちゃうもん。……変なことしちゃってごめんね。なんか自暴自棄みたいになってたかもしれない」
「そばにいられないって、どういうこと。俺は言わないよ絶対。ばらしたりなんかしないし、ばらしたところで莉子が曽野さんを嫌うはずがない」
「私もそれは疑ってないよ。だけど、少しでもその可能性があることを無視はできないし、それに『そばにいられない』っていうのは友達としてってことじゃなくて、恋人としての時間とかあるでしょ二人の。そういう、私の知ることのできない莉子のことって話」
そういうと石引君は頭を掻いて急に照れ始めていた。
どうしていいかわからない空気になり始めた時、親から迎えの連絡が携帯を鳴らした。
石引君にお礼を伝えて、車に乗りこむ。
思っていた結末とは少し違うけど、自分の本当の気持ちを誰かに伝えられたことが思いのほか心を軽くしてくれたみたいで、気分はとてもスッキリとしていた。
なんかこれで学校生活とか友達関係とか終わっちゃったりしてもいいかもなって思っちゃうくらいには、今の天気とは真逆に心は晴れやかだった。
ポケットに入っているオパールを握ってみる。
濡れたスカートから石引君のズボンに着替えたからか、少し冷えていた宝石は熱を帯び始めていた。
帰ったらこの宝石は何か別の物に変えてみよう。
車に揺られながら1週間後に控えている文化祭のことなんかを少し考えていたが、準備も何もかも今はどうでもよくなっていて、石引君に服を返したらずる休みでもしてしまおうかと静かに笑った。




