20.雨水に沈殿する不純物
文化祭を3週間後に控えた私たちは準備に追われていた。
当日の日中は出店や演劇があり、一般公開が終われば後夜祭がある。
私たちのクラスは出店でたこ焼きを売ることになり、部屋の装飾に奔走していた。
後夜祭ではフォークダンス、ミスコン、ベストカップルの催し物が予定されている。
莉子達は周りからの推薦もあってベストカップルに出場するらしい。
私もクラスメイト達からミスコンへの出場を推薦されたが、衆目に晒されるのは好きではないので断ってしまった。
「なんで出ないのー!」
莉子にそう言われて何度も押されたけれど、
最後まで首を縦に振ることはなかった。
莉子達が付き合い始めてからも、いつもの友人同士で遊んだりもするし、そこまで大きな変化はないように思えた。石引君も節度ある関係を維持しているようで、ちょうど関わり合う時間が半分ずつのようになっていた。
きっと莉子がそうするように石引君と相談して決めたことなんだと思う。
私は毎日意味もなく、バレッタから外れたオパールをポケットに忍ばせて学校へ通っていた。
それがどうしようもなく未練がましい行為だと、分かっていながら。
およそ2週間が過ぎたころ、内装も少しずつ形になってきていて文化祭の訪れをひしひしと感じるようになっていた。
クラスごとの展示だけではなく廊下や校門なんかも少しずつ鮮やかに彩られ始めてきて、非日常がそこにあるだけで少し心が忙しなくなる感じだ。
生徒たちも浮足立つようになり、文化祭への期待が、空気そのものになって校内に行き渡り始めたような気がする。
私は学校の帰りに内装で使うポスターカラーを買うため、文房具屋へと足を運んでいた。
店を出る頃になると時刻は19時を回っており、あたりは一帯暗くなってしまっていた。
急いで帰らなきゃなと思って帰路に就いたその時に、突然大雨が降りだしてくる。
天気の急変を恨み、全身ずぶ濡れになりながら近くにあった喫茶店の軒下に避難することにした。
「最悪だよもう……」
豪雨の伴う夜はどうあっても歩いて帰る気にはなれなくて、少しぼーっと立ち尽くしていた。
すると、雨を踏む足音と共に遠くから学生服を着た男の人が走ってくるのが見えた。
同じく雨に打たれてかわいそうに…と考えていると、最近見慣れた身長のある体格のいい男子学生の姿だった。
「あれ!曽野さんじゃん!どうしたのこんなところで」
「や、石引君。突然の雨災難だったね」
石引君は同じく軒下に入り、軽快に声をかけてくる。
最近の自分の諦念に似た感情は莉子達が関係していることもあり、莉子の彼氏である石引君とは少し話をするのが気まずかった。
それに、彼氏として十分すぎるくらいに魅力のある人間で、性別の差をなくしても莉子の隣にいるべきはこの人なのではないかと思わずにはいられなくて
途端、どす黒い感情がじわりと染み出し始めてきてしまう。
この人が本当はどうしようもないクズだったなら。
そんな人を好きになるような、見る目も無い女を、私が好きになってしまったんだとしたら。
この恋を、もっと簡単に諦められる。
そんな気がした。
これは、幻滅にも近い何かを仮定で再現するような、妄想に過ぎないけどそうあって欲しいと願う最悪の未来で、訪れることはない自分にとって都合のいい"別の結末"。
現状を受け入れるために相手が堕ちていれば…
なんて考えてしまう私の方がよっぽどクズに違いない。
「すごいずぶ濡れじゃん…風邪引いちゃうから迎え来るまでうちに来なよ。この喫茶店の二階が俺んちだからさ」
本当に優しさで、気遣いでそう言ってくれたんだと思う。
でも、私は一度考えた最悪の仮定に少し歩み寄りを見せてしまったように見えて、そうした時には心は止まらなくて。
「ほんと?たすかるなぁ」
胸のタイに指をかけ、少し緩める。
口元を伝った雨粒一つを舌先で掬い、
静かに飲み込んだ。




