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19.乖離

亮平が大量の食べ物を抱えて戻ってきた姿が目に入り、意識がはっきりと現実に引き戻された。

それまでは恵とぼんやりと話をしていたが、内容はもう何も頭に入ってはいなかった。思っているよりも精神的にダメージを受けてしまっているらしい。


花火が見やすい場所に行くことも難しいという話になり、結局このまま花火を見ることとなった。

ごめんね、と言うと「どうせ上に打ちあがるんだからどこも変わんないでしょ」とりんご飴を頬張りながら恵が笑ってくれて心が少し軽くなるのを感じた。


けれど。

打ちあがる花火、満たされるお腹、時折交わす談笑も……

そのどれもが心を満たすのには十分すぎるはずなのに、一つとして胸を温めてはくれなかった。


花火大会が終わり、母親に迎えを頼んで帰宅する。

浴衣を解き、いつもの部屋着へと着替えた後、壊れたバレッタを机に乱雑に放り出し、ベッドへ倒れこんだ。

心身ともに疲れ切っていた私にとってベッドの柔らかさは抗えないもので、そのまま意識はすぐに眠りへと沈んでいった。


グループラインが止めどなく鳴り続けている音でぼんやりと目を覚ました翌日の朝

充電もしていなかった携帯を開くと大いに盛り上がっていて、一体何が発端だったのかログを遡ると

「付き合えることになりました。ありがと~」という莉子の投稿が目に入った。


もっと衝撃を受けてしまうかもと思ったが、感情に諦めがついているせいか納得する気持ちの方がはっきりとしている。


これで莉子も普通の女性としての幸せを謳歌することができる。

正しくて、綺麗な形になったのだ。


そういう気持ちの折り合いのようなものが、自然とできてしまっていた。


相手もあの石引君だ。

そうそうトラブルになったり、莉子を悲しませるようなことにはならないだろうと思う。

周りから人望も厚く、お互い真摯で綺麗な気持ちを持ち合っている。


羨ましいなと思いながらも、幸せになってほしいと願う気持ちがあることに、私はどこか安堵していた。


一文だけ「おめでとう」と投稿してから携帯に充電器を差し込み、部屋を出てリビングに降りた。

水を飲むために冷蔵庫を開き、コップに注いで飲み干し、体の芯がキリッと冷える感覚に気持ちよさを感じる。


同時に頭も冴えてきて、夏の大きなイベントは終わっちゃったな、と思ったその瞬間。

急に立ち眩みがして、その場にしゃがみ込んだ。


「っ、うぇ…」


吐き気が込み上げ、シンクに顔を埋める。


口から出て来たのは粘度を帯びた水のようなものだったが、嘔吐反射が呼吸を妨げるせいでずっと苦しくて、涙で目が潤んでしまっていた。


意図してない涙が心の軋む音を気づかせようとしているのかと思えてならなかったが、私"達"には必要のない邪魔な感情であることには変わりない。

せっかく幸せになった二人にとっても、親友として一緒にいたい私達にとっても、これはただの毒でしかない。


ぷつり、と何かが切れる。


世界の音が遠ざかっていく。


日の光を嫌って石の裏に潜む虫の気持ちが、今なら手に取るようにわかる。


どうか、私を白日の下に晒さないで。

どうか、日陰で密やかに暮らすことを許してください。


そして同時に


「どうして、こんなに苦しくならないといけないんだろ」


そんな言葉が濡れた唇から零れ落ちて、シンクに流れていった。



そのあとの夏休みはあっというまに過ぎ去った。

新学期が始まり、文化祭の準備が動き出す。

私は、体の中と外の温度がまるで違う魔法瓶のようで、

どんな夏の暑さもクラスメイトの熱気も、私の心を暖めることはなかった。


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